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見えなくされてきた存在を写す。映画『ふたりのまま』に見る、幸福追求の現在地

「自分とは違う価値観の人もいる」 そんな当たり前のことが、なぜこんなにも通じないのだろう。「ご自愛」や「セルフケア」など、個を大切にする言葉が増えている一方で、異なる意見や属性を認めない社会の空気は、正直とても奇妙だと感じています。

9月20日(土)より劇場公開となるドキュメンタリー映画『ふたりのまま』には、日本で暮らす4組のカップルが登場します。

家族や友人たちに支えられながら、生まれたばかりの赤ちゃんを育てるカップル。
パートナーの子どもと仲良くなれるよう努力し、ステップファミリーを目指すカップル。
長いあいだ不妊治療に臨み、体力的にも経済的にも、試練の度に対話を重ねるカップル。
海外の精子提供機関によって授かり、育てた娘がまもなく成人を迎えるカップル。

誰もが、自分や身近な人と重ねられるであろう、ごく当たり前の日常生活やそれぞれの感情が映し出されています。しかしその背景には、彼らが抱える大きな葛藤と理不尽さが立ちはだかってもいました。


映画『ふたりのまま』予告。2025年9月20日から新宿K’s cinema他にて劇場。

2025年2月、国会に提出された「特定生殖補助医療法案」。性と生殖に関する健康と権利は、リプロダクティブ・ライツと呼ばれ、海外でも議論が続くテーマです。今回の法案では、精子や卵子の提供を受けて生まれた人の「出自を知る権利」が検討された反面、医療機関で行われてきた生殖補助に制限が設けられました。精子や卵子の提供を「法律上の夫婦に限る」としたのです。

国会審議は一旦見送られたものの、奇しくも排外主義という悲しいキーワードが飛び交った2025年だけに、誰かの権利が踏みにじられることには身構えてしまいます。本作の長村さと子監督は、生殖補助医療法のロビイングを続けながら、「親になる権利」について考え続けてきた一人です。

長村監督  子どもを授かることは本来、私たち一人ひとりに、幸福の追求として憲法で守られている人生の選択のはず。それなのに子どもの倫理観に悪影響を及ぼすとか、親子関係が不安定になると言われてしまうんです。

「親になる」という同じ選択肢なのに、選べる人と、選ばせてもらえない人がいる。一体、誰の都合なのか。

映画を通して4組それぞれの考えに触れ、社会のかたちを考える新しい入り口に立ったように思いました。どんな社会を次世代に手渡したいのか。属性や性自認を問わず、私たち一人ひとりが向き合う問いだと思います。

『ふたりのまま』
公式サイト https://kodomap.org/futarinomama/
2025年9月20日より劇場公開(劇場情報はこちら
2025年製作/88分/日本
監督:長村さと子
トップ画像:©一般社団法人こどまっぷ