農地に注がれる太陽光を、「発電」と「光合成」で分かち合うソーラーシェアリング。気候変動による酷暑が深刻になるなか、農地の上に設置された太陽光パネルが作物を守る役割をすることでも注目されている農業です。ソーラーシェアリングに取り組む生産者数は増加傾向にあり、2017年から2022年の5年間で3倍以上に増えているとのこと。
9月6日から劇場公開となるドキュメンタリー映画『陽なたのファーマーズ フクシマと希望』には、福島県二本松市の「二本松営農ソーラー・Sunshine」をはじめ、隣接する川俣町でソーラーシェアリングを営む生産者たちが登場します。
「二本松営農ソーラー・Sunshine」の農地は、約6ヘクタール(東京ドームの1.2倍)。発電設備容量は3,900キロワットで、市内約2万世帯の5%に電力を供給しています。代表の近藤 恵(こんどう・けい)さんは、農作物も電気もつくって販売するビジネスモデルを「新しい時代の兼業農家」と表現していました。
本作のメインキャストである近藤さんは、なぜソーラーシェアリングを始めたのか。背景には2011年3月に起きた、福島第一原発事故がありました。
2025年9月6日よりポレポレ東中野ほか劇場公開『陽なたのファーマーズ フクシマと希望』予告編
二本松市は、福島第一原発から北西へ約70キロの距離にあります。しかし事故発生時の風向きによって、市内全域が放射性物質の影響を受けました。農作物からはセシウムなどが検出され、基準値を超えた作物は焼却処分されることに。有機農家だった近藤さんは「これじゃやっていけない」と、農業から離れざるをえませんでした。
エネルギーのあり方と農業復帰の可能性を探り続けた近藤さんは、ソーラーシェアリングに活路を見出し、電力と農作物をつくる兼業農家として、2021年から再び生産者の道を歩みはじめます。

小麦畑でインタビューに答える近藤さん(@小原浩靖)
小原浩靖(おばら・ひろやす)監督は、前作『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』(2022年)でも原発事故の影響と、ソーラーシェアリングの可能性を伝えていました。本作では、原発事故から13年が経ち、その間も丁寧に放射線量を計測しながら、安心できる農作物をつくる努力を続けてきた近藤さんたちを描いています。
近藤さんは「Sunshine」の屋号にふさわしく、生き生きとインタビューに応える笑顔が印象的です。長きにわたる葛藤の深さを想像すると、作物の安全性について語る真摯な言葉が一層胸を打ちました。新しい農業と、悩みながらも決断をし、生き方を選択する人々に希望を感じた本作。原発事故やエネルギー問題に対して「難しそう」と思ってしまう方にもお勧めしたい映画です。
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『陽なたのファーマーズ フクシマと希望』
公式サイト https://hinata-movie.com/
2025年9月6日より劇場公開
2025年製作/98分/日本
監督・脚本・企画:小原浩靖
トップ画像:©小原浩靖