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「地域に子どもを産める場所がなくなる」。岐路に立った4自治体が運営資金を補助して誕生した和歌山県有田市の「ファミール産院ありだ」を起点に考える“自走する地域”のあり方

本記事は積水ハウスグループの従業員と会社の共同寄付制度「積水ハウス マッチングプログラム」によって制作しています。

「自分のまちで子どもを産みたい」。

こんな一見あたり前の願いが、叶わない人が増えています。

人口減少が加速する日本社会において、指摘されている「消滅可能性自治体(※)」の存在。出産の中心となる20〜39歳の女性が2020年から2050年の30年間で半減すると予想される自治体を指す言葉ですが、これがなんと全国約40%の自治体に及ぶと言われています。

(※)民間の有識者グループ「人口戦略会議」により、2024年4月に発表。744の自治体が消滅可能性自治体とされた。

子どもを産む女性の数が減少すれば、当然のごとく産院や産婦人科の数も減っていきます。そして、新しい命が誕生する場所のないまちになってしまう……。

今回は、そんな状況に追い込まれながらも近隣自治体や民間企業と手を取り、「こどもが産まれるまち」であり続けようと奮闘している和歌山県有田市の物語をお届けします。

和歌山県の中部に位置する、海と川と山に囲まれ「有田みかん」の産地として知られる人口2万5千人のコンパクトなまち。ここもやはり人口減少が進み、消滅可能性が指摘されている自治体のひとつです。有田市で進行中の物語を深掘りすることで見えてきた、これからのまちづくりのキーワードとは?

人口減少と働き方改革の渦の中で

有田市と言えば「有田みかん」の産地。山の斜面には見渡す限りみかん畑が広がる

山本さん もともと有田エリア(有田市、有田郡湯浅町、広川町、有田川町)は年間400人ほどの子どもが産まれていました。でも2021年12月頃、このエリアに唯一残っていた民間の産院がお産の受け入れを休止するという情報が入ってきたんです。

そう語るのは、有田市役所経営企画課の山本芳規(やまもと・よしき)課長。「子どもを産める場所がいつかなくなる」という危機感を覚えた有田市職員のみなさんがまず考えたのが、有田市立病院産婦人科でのお産の受け入れ再開でした。有田市立病院では医師の退職により2019年12月以降お産の受け入れを停止していましたが、再開を見据えて医師の募集を始めたのです。

しかし、過疎高齢化が進む有田市への赴任は医師にとってハードルが高いのか、医師探しは困難を極めました。そんな中、唯一手をあげてくれたのが島根県出身の平野開士(ひらの・はるひと)さんです。有田市の状況を知り使命感を抱いたという平野さんの着任により、2022年2月からは有田市立病院にてお産の受け入れを再開することができました。

平安時代中期に起り、その後中世に盛んになった熊野参詣。そのゆきかえりの道である熊野古道は、有田市内も通っている

しかしそこに立ちはだかったのが、労働基準法に基づく医師の働き方改革です。2024年4月以降、勤務医の時間外労働は年間960時間に制限されることが決まり、その他条件を照らし合わせると、有田市立病院産婦人科の規模で分娩を継続するためには最低5人の産婦人科医が必要になってしまったのです。

「1人の医師を探すのにも苦労したのに、5人なんて到底無理」と判断した山本さんは、民間の産院の誘致を市長に提案しました。働き方改革の対象となるのは勤務医であり、開業医は対象外。民間の産院であれば、経営者兼医師ひとりが在籍すれば分娩の継続は可能(※)となるのです。

(※)実際には一人の勤務医で365日のお産を担うのは当然ながら難しく、地域の産婦人科医と連携を取り、随時サポートに入ってもらうといった体制を取ることによりお産を継続することができています。

さっそく山本さんは、医療法人探し、そして物件・土地探しに向けて動き始めました。

さまざまな方法を模索した結果、有田市の廃校や使われなくなった公共施設の利活用を相談していた積水ハウス株式会社と連携を取ることに。

積水ハウスの担当者から「プロジェクト成功のためには運営資金の不足分1.5億円の補助が必要」という助言を受け、当時の有田市長・望月良男(もちづき・よしお)さんは、すぐに行動しました。有田市で開業資金の一部を負担するとともに、運営資金に関しては有田エリア3つの自治体(有田郡湯浅町、広川町、有田川町)の首長に共同での補助を呼びかけ、内諾を得ることができました。

山本さん 望月市長に相談したら、その場で各自治体の首長に電話されていました。そのくらいの勢いで進めたんです。

もともと有田市や湯浅町、広川町は平成の市町村合併のタイミングで単独の道を選びました。それでも医療は「医療圏」という考え方があって、圏域で考えることが多いんですね。だからこそ、他の自治体も同じ方向を向いて合意できたんだと思います。

有田市役所経営企画課の山本芳規さん

医療施設の開業資金だけではなく、運営資金まで補助する事例は、全国的にも珍しいこと。それでも迅速な合意が実現できた背景には、やはり各自治体共通の危機感と市民のニーズがありました。

山本さん 有田エリアの自治体もみんな、それだけ産院が欲しかったんです。「自分のまちでお産ができない」「里帰り出産がしたい」という市民の声も届いていましたからね。

協議の結果、年間の運営資金のうち不足する見込み額1.5億円を公的な補助とすることに決定し、そのうち1/2にあたる7,500万円を有田市が、残りの7,500万円を3つの自治体がそれぞれ分担して10年間補助することで合意しました。

10年という期限付きとはいえ、状況を見直しつつ11年目以降も永続的に補助していく見込みとのことで、当面の経済的サポートは保障された状態で産院を開業できる環境をまずは整えることができました。

「有田で産声を絶やしてはならない」
偶然と想いが積み重なった開院までの道

異例の4自治体の合意により経済的環境を整え、ここからはいよいよ医療法人探しのステージへ。近隣市町村や関西の医療関係者へのアプローチが難航する中、積水ハウスグループのネットワークで出会ったのが千葉県を本拠地とする「ファミール産院グループ」でした。

もともと「地域のお産環境を維持する」という理念を持つファミールグループ。代表・杉本雅樹(すぎもと・まさき)さんを含めた視察団が有田市を訪れ、有田市長との面会で「有田で産声を絶やしてはならない」という想いに共感し、縁もゆかりもない有田市での産院開院に合意したのです。

一方、法人探しと同時並行で進めていたのが物件や土地探しです。ここでも官民一体となって「絶対に成就させる」と奔走し、候補地として国道沿いの立地条件のいい土地を案内しました。しかしファミールグループ代表の杉本さんはそこにピンと来なかったとのこと。

山本さん 杉本代表は「確かにいい立地だというのはわかるけど、普通すぎる。今後の広がりが期待できない」とおっしゃいました。その時私が思い出したのが、半年後に閉園が決定した保育園でした。住宅地の中にある園にお連れすると、壁に描かれたゾウとキリンを目にした途端、「これだ!」と気に入ってくださったんです。

閉園となる予定の保育園の壁に描かれていた動物たちは、リノベーション後もそのままにいかされている

こうして法人も物件も決まり、あとは開業医としてお産を担う医師さえ決まれば開院できる状態になりました。満を辞して市立病院でお産を担当している平野医師に「市立病院の勤務医ではなく、新しくつくる産院の開業医になりませんか?」と問いかけたところ、悩んだ末に応じてくれたと言います。

山本さん 平野先生はとにかく田舎での分娩に使命感を抱いて来てくれていたんです。このまま有田市立病院で勤務医でいても働き方改革によってお産はできなくなることもあり、「やっぱりお産がしたい」という意志で決断してくださいました。

平野先生にしてもファミールグループにしても、たまたまそういう想いを持つ医師や医療法人に出会うことができました。偶然のストーリが重なったからこそ、開院できたんだと思います。

地域のみなさんと歩むという覚悟とともに

こうして体制が整い、後は開院に向けて一直線。旧園舎から通院棟へのリノベーションに加え、分娩・入院棟の新築工事が始まり、スタッフ募集や周辺環境の整備など、急ピッチでプロジェクトが進行していきました。

一方、地域のみなさんもこのプロジェクトを歓迎の眼差しで見ていました。保育園がなくなるという情報に寂しさを感じていたところに、すぐに産院が建つことになったという喜びも大きかったと想像できます。

保育園名が刻まれたプレートは、今もなおファミール産院の入口に存在しています

開業の半年前に開催された上棟式には市長も駆けつけ、この地の文化でもある餅まきを実施。多くの市民が集い、大いに盛り上がったのは言うまでもありません。

ファミール産院上棟式の様子(提供:ファミール産院ありだ)

そして迎えた開業の日。翌日には平野医師が市立病院で担当していた妊婦さんのお産が早速実現し、新たな命の誕生に、地域は歓びに包まれました。

「ファミール産院ありだ」の内装のデザインコンセプトは「花束をママになるあなたに」。至る所に散りばめられた花をモチーフにした装飾が、妊婦さんを癒してくれている

このプロジェクトが順調に歩みを進められている要因の一つは、やはり地域の方々と丁寧な対話を続けたことでしょう。

例えば駐車場の設置に関しては、土地の持ち主と交渉し、ファミール産院の前に広がるもともと田んぼだった広大な敷地を確保しました。12床の産院にしては広い駐車場を望んだ背景には、ファミール産院に「地域の人々を招いたイベントをやっていきたい」という思いがありました。今後は餅つきなどに活用していく意向だと言います。

また、隣接している公民館とは「どちらの利用者がどちらの駐車場を使ってもいい」という合意のもと、融通を効かせあって運営しています。さらにファミール産院主催のヨガ教室や妊婦向けバレエ教室を公民館で開催するなど、連携が次々に実現しています。

山本さん さまざまな連携の中で日頃から地域のみなさんに親しんでいただき、この圏域の子どもの半分はファミール産院ありだで産まれることを目指していきたいです。現在は年間400人ほどの新生児が産まれているので、その半分の200人が目標です。開業から5ヶ月経った現在、お産の数は47ですのでまだまだではありますが、着実に目標に近づいていると感じています。

継続的支援へのニーズの中で

こうして地域でお産ができなくなる状況を、官民一体となって乗り越えた有田エリア。

しかし、産める場所ができても、決して楽観視はできません。子どもを産みたい・育てたいと思えるまちにするためには、産院だけではなく、産まれた子どもたちが通う保育所や遊び場の整備、経済的なサポートなど、安心して子育てできる環境づくりは欠かせない要素と言えるでしょう。

その状況を見越して、有田市は既に動いています。

2021年度より、結婚から出産、子育てまでをトータルでサポートする「有田市二人の未来応援パッケージ Marry You」の提供をスタートしました。結婚した夫婦に住居費や引越し費用の補助をすることから始まり、妊娠中や産後のママが市内でさまざまなサービスを受けられる「有田市スマイルチケット」の交付、出産祝金、高校卒業までの医療費や病児保育費用の免除、奨学金の返還サポートなど、若者や子育て世代の移住、定住を手厚く支える制度です。

有田市での結婚から出産、子育てまでをトータルでサポートする「有田市二人の未来応援パッケージ Marry You

この制度の効果に関して聞くと、「有田市を選んでいただくためには、現状の支援策に加えてその後の就労支援まで提供する必要性を感じている」と山本さん。やはりここでも「その後」が課題となるようです。

継続的支援のニーズはある。それでも人口減少は続き、税収も減少していく。永続的なサポートが財政的に現実的かどうかも見えない状況……。全国各地で、同様の悩みを抱えている自治体は多いのではないかと想像します。

地域が豊かに継続していくための方法論を探る旅路は、永遠に続いていくように思えます。

「自走」をめぐる対話の場を

ここで私たちgreenz.jpが提示したいキーワードが「自走」です。

公的なサポートやサービスが持続できない状況に陥っても、地域が豊かに「自走」していくにはどうしたらいいのだろう?

まだ誰も正解がわからないこの問いを掲げ、2024年9月中旬、私たちは有田市を訪問しました。

山と海に囲まれた有田市の中でも、町全体が隠れ家のようになっている矢櫃(やびつ)エリア

ご一緒したのは、積水ハウスで地方創生プロジェクトの数々を担う佐藤哲(さとう・さとし)さん、東京都墨田区で地域のまち工場から出る廃材を活かして子どもたちの豊かな遊び場をつくる「あそび大学」の關真由美(せき・まゆみ)さん、中山勇魚(なかやま・いさな)さん。グリーンズからは共同代表の植原正太郎、ライターの池田美砂子が参加しました。

1日目はファミール産院ありだに隣接している公民館にて、2日目は子育て支援や介護サービスの拠点となっている公共施設にて、2日間にわたり有田市役所の職員をはじめとする地域のみなさんと対話の場を持ちました。

それぞれの地域で生きる私たちは、こうしてご縁をいただき有田市に集合し、それぞれに「自走」に関する話題を提供しました。

■子どもの自走と子育ての自走「あそび大学」(東京都墨田区)

たとえば、「あそび大学」を運営するNPO法人あそび研究会は、「自分で考え判断する力を身につけ、自走できるようになるためには、子どもの頃のあそびを通して育まれる思考力や判断力がとても大切」という思いから、地域のまち工場から出る廃材を活かしたユニークな遊び場づくりを展開しています。

あそび大学」の關真由美さん(右)、中山勇魚さん(左)

かつて放課後は、子どもたちにとって自由にあふれ、大人の目を気にせずに活動できる時間でした。でも今の子どもたちは学校、学童、塾、習い事など常に大人と生活している子が多く、子どもの成長にとって貴重な自分たちの意志で何かを試す機会が減少しています。そこに「自走」の概念を持ち込んだのが、あそび大学のユニークさです。

子どもの育ちにおける「自走」は、一見地域の自走とは無関係のように思います。でも座談会では「このような廃材遊びは子どもが勝手に遊ぶためワンオペも乗り切れた」という關さんの子育てにおける自走エピソードも飛び出しました。地域でどうしても出てしまう廃材を「すみだから(墨田区の宝)」と捉えて有効活用するところも、無理なく遊び場づくりを自走させていくための大きなヒントとなり得るでしょう。

座談会では廃材「すみだから」を手にしながら語り合いました

■自走する場を育む「Cの辺り」(神奈川県茅ヶ崎市)

一方、グリーンズライターである私・池田美砂子からは、神奈川県茅ヶ崎市の自宅近くで運営している「Cの辺り」というコミュニティスペースの運営についてお話ししました。

経営は私と夫の二人で担いスタッフを雇っていませんが、会員さんたちが自主的に「お店番」をしてくれることで、場が回り続けています。また、立ち上げ時に内装を手伝ってくれた方やロゴをデザインしてくれた方にはお金ではなくCの辺りの永久会員権を贈り、永続的な関係性を育んでいます。

グリーンズライター・池田美砂子

これらCの辺りの仕組みづくりの根底にあるのが「関係資本主義」という考え方。「経済的な豊かさよりも人間関係の豊かさの方が人の幸せにつながるのではないか?」という仮説のもと、さまざまな社会実験をおこなっています。

立ち上げから3年の月日が流れた今思うことは、スタッフや運営に携わるみなさんにお金を払うと関係性まで精算されてしまいまうように思いますが、「お店番」として場を生かして自己表現してもらったり、得意なことを差し出す代わりに永久会員になってもらったりすることで、関わるみなさんに場に対するオーナーシップが育ち、場も豊かさを増していくということ。そんな経済に依存しすぎない「自走」の場を地域のみなさまとともに育んでいるのです。

■土地管理における自走のかたち「湯の山グリーンクラブ」(愛媛県松山市)

積水ハウス・佐藤さんからは、愛媛県松山市にある1192区画からなる「グリーンヒルズ湯の山団地」の事例が紹介されました。

開発者である積水ハウスが自ら管理を行っていた区画周辺の土地。あるとき住民に菜園として貸し出したところ、愛好家によって「湯の山グリーンクラブ」が結成され、畑や田んぼ、植栽の手入れなどが行われるようになったとのこと。それまで開発者がコストをかけて担っていた管理を住民に委ねることにより、管理費削減以上の良い循環が生まれていると言います。

積水ハウス株式会社経営戦略本部地方創生戦略部・佐藤哲さん

「自走」をめぐる旅へ

グリーンズの植原はこれらの事例紹介を受けて「これからはこれまでお金を払って得られたものを自分たちでつくっていく必要がある」と語り、「公」と「私」の間にある「共」の大切さに言及しました。

植原 今、世の中の仕組みはおおよそ「公」と「私」に分かれていて、「私」が税金を払って公共サービスというリターンを受け取るという仕組みになっています。交通も水道もごみ収集も、今の社会の土台はこうやってつくられているわけです。

この構造は経済が右肩上がりで人口が増加しているときは問題ありませんが、人口減少に転じるとサービスを提供できなくなる事態がどんどん顕在化していき、「公」と「私」を分けた状態ではなかなか解決が難しくなっていきます。

そうなった時の一つの解決策として「公」と「私」の間にある「共(コモンズ)」を育てていくということがあると思います。おそらく1970年代頃までは、お米を育てるための水路や里山を自分たちで整備するなど、地域社会に必要なものを自分たちで管理して利用するということをやり続けてきました。それを現代社会に合う形で仕組み化していくことが大事だと思います。

グリーンズ共同代表・植原正太郎

「あそび大学」のように民間団体が自分たちのニーズからはじめ、地域の資源を活かしながら新たな価値をつくっていくこと、また、「Cの辺り」のようにお金に頼らず地域の人がお互いを生かしあいながら人間関係を育んでいく場所も「共」の事例と言えるでしょう。

植原 自治体に丸投げするのではなくて、自分自身も関わりながら共の部分を育てていくことで、地域が豊かに続いていくのではないでしょうか。

植原の言葉に、会場のみなさんも大きく頷く様子が伺えました。

子どものあそびと成長、場の運営、土地管理……。実にさまざまな側面からの「自走」の事例を受けたディスカッションでは、有田市役所職員のみなさんも交えて、活発な意見交換がおこなわれました。現在有田市で行っている取り組みの話や有田市の地域資源である豊かな自然の生かし方、そして使われなくなった公共施設の使い道まで、立場を超えて多岐にわたる対話が交わされたのです。

インプットからアウトプットまで、熱量高く長時間に渡った場の締めくくりには、有田市役所の方々からこのような感想も受け取りました。

網谷さん(有田市役所 市民福祉部福祉課長) 今日この場で何かがどうにかなるというわけではないですが、こういうことの積み重ねが新しい何かにつながっていくのかなと思いますので、今後もみなさんの力を借りながら事業を進めていけたらと思います。

有田市役所 市民福祉部福祉課長・網谷彰洋さん

山本さん 専門家とともに専門的な施設をつくることも大事ですが、そこにさまざまな分野の人が加わることで、さらに期待していなかったことが起こるのかなということがわかりました。行政が全てを担うのではなく、住民のみなさんと民間の方々の力をお借りするのが重要かなと。

さらに、このまちのニーズにあったものにしていくのが大事だと改めて思いました。このまちは海も川も山もあり、ほどよく田舎で顔が見える関係性があり、いいところがたくさんありますので、移住先、定住先としての選択肢になり得るまちだと思います。私もこのまちが好きなので、このまちのいいところを実感しながら取り組んでいけたらと思います。

地域愛にあふれ、いつも笑顔で豊かな地域づくりに奔走する山本さん

「市民のニーズから始める」こと、「まちのいいところを実感しながら」ということ。とても前向きな山本さんのあり方が、2日間に渡った対話の意味を表していると感じました。

網谷さんのおっしゃるように、すぐに何かの結果が得られるわけではなくとも、さまざまな地域でさまざまな取り組みをしている人たちと出会い、言葉を交わすことが刺激となり、ひょっとしたらその後職員のみなさんが自ら動き出すきっかけになるかもしれません。長い目で見ると、こうした対話の時間こそが地域の「自走」へとつながっていくのではないかと感じます。

この記事から始まる連載「自走する地域をつくる」では、

地域が豊かに「自走」していくにはどうしたらいいのだろう?

という問いを掲げて探求を続けていきます。

この問いも、やはりすぐに答えが出るものではないでしょう。永遠に答えなんて見つからないのかもしれません。でも、それぞれの地域で「自走」をキーワードに活動する人々と出会い対話を重ねる中で、私たち自身も学び探求を続けていきます。その繰り返しからひょっとしたらいつか、一筋の光のようなものが見えてくるかもしれません。そんな期待をこめて、「自走」をめぐる旅へ出かけようと思います。

今回駆け足で紹介した「あそび大学」「Cの辺り」「グリーンヒルズ湯の山団地」に関しても、この連載にてより深く詳しく取材して参りますのでどうぞお楽しみに!

豊かな地域づくりへの旅路を、一緒に楽しみましょう。

(撮影: 寺内尉士)
(編集:増村江利子)