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150年後の世界に、私たちは何を遺すのか。“変革”のDNAをもつ薩摩から「熱狂」を生み出す『薩摩会議』のこれまでとこれから

日本本土の最南端・鹿児島では、あらゆる垣根を超えて、多様な人が全国・全世界から集い、これからの地球社会のあり方を問い、共に未来を創造する場として『薩摩会議』が2022年から毎年開催されています。

それは単なるフォーラムではなく、全国津々浦々で活躍している実践者同士が深い繋がりをつくり、次々と新しいプロジェクトが生まれる場にもなっているのです。

今年は離島を含めた鹿児島県内10地域におけるフィールドワーク(選択制)を新たなコンテンツとして加え、9月21~23日の3日間に渡る第3回目の開催が決まりました。

薩摩会議の発端や、ここまでの熱狂が生まれている理由などについて『NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF』(以下:SELF)共同代表3人のうち野崎恭平(のざき・きょうへい)さんと古川理沙(ふるかわ・りさ)さんにお話を聞きました。


(画像提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか」

SELFは2017年に任意団体として設立され、2020年にNPO法人化。鹿児島をベースに年齢・性別・職業・組織などあらゆる垣根を超えたラーニングコミュニティとして活動してきました。明治維新150周年という節目を前にお祭りモードだった鹿児島の中で、監事である坂口修一郎氏が放った一言がSELFにとって今に繋がる大きなテーマとなったのです。

「明治維新から150年経とうとしている(※)が、当時の彼らが生きていたらとっくに制度疲労を起こしている(自分たちが創った)今の社会システムをもう一度壊すのではないか?」

古川さん 今の社会システムの多くは明治維新前後につくられたものです。150年前につくられた仕組みが今にこれだけ残っているならば、私たちの起こす変革が150年後の未来に何かしらの影響を及ぼすのだろうと思っています。個々の組織の短期的な利益ではなく、集合地として社会システムの不可逆的な変容(Transformation)について考え、行動するのが薩摩会議です。

野崎さん 今、世界全体は大きな変革期にあります。これからの150年。つまり5世代先の私たちの子孫が生きる地球そして鹿児島を思う時、いま動かなければ手遅れになってしまうかもしれない。まさにその分岐点に私たちは生きています。

社会システムだけでなく、私たち人類が地球や自然環境とどう共生していけるのかが問われている時代でもある今、屋久島や奄美大島、桜島など大自然を有するここ鹿児島だからこそ向き合える問いがあると僕らは考えています。

そこで「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか?」をSELFの大きな問いとして掲げることにしたんです。

(※)2018年で明治維新150周年を迎えた。

NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF 代表理事 野崎恭平さん(写真左)、古川理沙さん(写真右)

2019年に開催した合宿時の様子(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

「薩摩会議を大義名分に、時代の変革を」

大きな問いを掲げ、150年先の未来を見据えて活動するSELFが一つの挑戦として取り組んでいるのが『薩摩会議』です。鹿児島を舞台にフォーラムを開催するにあたり、なぜ敢えて「薩摩」をネーミングに使用したのか。その理由について尋ねました。

野崎さん 実はSELFはSATSUMA EMERGING LEADERSHIP FORUMの略で、私たちは元々「薩摩」という言葉を使わせていただいています。それは、SELFの立ち上げの悶々としている時期にご相談したある方に、「薩摩」という言葉が持つ時代的な意味について、歴史と共に教えていただいたことがあって。僕たちは薩摩は物理的なエリアを指すのではなく「変革のDNA」だと解釈しているんですが、今まさに150年ぶりの大変革期だからこそ、明治維新150年の節目からスタートしたこの取り組みには、「鹿児島」ではなく「薩摩」という言葉をあえて使おうと決めました。

一方で、薩摩という言葉はかつての「薩摩藩」を想起させるワードであり、歴史的な背景から見る人によって様々な意味を持つ言葉なので、使い方には気をつけなければなりません。

ただ、薩摩会議がこれだけ求心力を持ち、全国各地からあれだけ多くの時代の転換点に何かを変えたいと思っている人たちが集うようになったのは、まちがいなく「薩摩」という言葉が持っている何かが起因しているのだろうと感じています。

第1回目の開催に向けて動き出すSELFクルー。どんな場にするのか、どんな登壇者に声をかけるのか、どんな未来にしていきたいのか。そして、それらをどんな想いで決めていったのか。古川さんはこのように振り返ります。

古川さん どこの地域でもあるようなカンファレンスになってしまっては意味がない。そう思い、全てのセッションにおいてSELFクルーがスピーカーの一人として起点となるような形式にしました。それぞれのクルーが、これから起こしたい未来をできるだけ大きく、早く引き寄せるために「この人が仲間に加わってくれると嬉しい」「この人となら自分たちの想像の遥か先にある景色を一緒につくっていけるかもしれない」という方に登壇をお願いしました。

第1回薩摩会議企画合宿(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

第1回薩摩会議企画合宿(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

そして、2022年4月に『薩摩会議2022』がついに開催。「Transformation=不可逆的な変容」を全体のテーマに、3日間で文明・森林・スタートアップ・地域経済・観光・消費・コミュニティなどの16のセッションにて、登壇者と参加者が垣根を越え対話が繰り広げられました。その中のひとつ「教育×Transformation」を例に第1回の開催の手応えについて教えてくれました。

野崎さん ゲストでいらしていたシヅクリプロジェクトの八木さんがセッションの中で紹介して下さったのが、先行して静岡で展開されていた「学校×地域企業」の新たな探究学習のモデルでした。

参加者として登壇者の話を聴いていたある中学校の校長先生(当時)が居ても立っても居られなくなった様子で、そのまま10分間程熱弁されたんです。「私が鹿児島の教員人生においてやりたかったのは、こういうことなんだ!」って。それに感化されたある企業の社長さんが「僕らがやらないで誰がやるんだ!」と声を上げてくださり『かごたん』(※2)というプロジェクトが始まりました。1年目は中学校1校(260名)と企業4社が、2年目である今年は中学校5校(約800名)と企業12社、そして3年目となる今年は中学校8校(約1400人)企業15社となるプロジェクトまで発展しました。

他にも、現役の市長を交えてそのまちの未来を具体的に考えるセッションや、鹿児島のエリア開発に具体的な提案を行うためのセッションなども開かれ、着実に変化を起こしつつあります。

(※2)学校と企業が本気でタッグを組み、生徒・先生・企業人が「学び」を軸に垣根を越えてつながり、それぞれが未知への探究と未来を切りひらく挑戦に一歩踏み出すプロジェクト。

2023かごたんの様子 (写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

約半年間のプログラムで企業と中高生が協働し、地域をより良くしていくための企画を立案し、最後は伴走企業に立案する流れとなっている(かごたん かごしま探求プロジェクトWebサイトより)

薩摩会議2023 「地域企業×Transformation」セッション 写真左から2人目が日置市長の永山氏、3人目が日置市内に本社を移転した小平株式会社社長小平氏(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

「リアルな「熱」が生み出すもの」

薩摩会議の特徴の一つとして「余白」を挙げる古川さん。例えば、休憩時間は余裕を持って設定することでその場にいる人同士が交流できたり、セッション後も参加者全員を交えての「作戦会議」の時間があったりと、単なる「登壇者と参加者」の枠を越えた関係が生まれるといいます。毎年、登壇者・参加者・事務局を含めた夜の懇親会も必ずセッティングしているのだとか。単なる名刺交換で終わらない、友人のような関係が生まれるのも薩摩会議の魅力の一つだそうです。

薩摩会議2023懇親会の様子(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

古川さん 昨年までは同じ時間帯にセッションが2つ。今年は3つ並行して行われるんですが、薩摩会議はアーカイブを残さないので、どのセッションに参加するかみなさんギリギリまで悩まれます。そんな中で、たまたま連続して同じセッションを選んだ人と自然と会話が生まれたり、ホールに設けられた鹿児島の様々な事業者さんが出店するブースで商品を手に取りながらワイワイと会話が弾んだりするようです。また、登壇者の多くが自分の担当する時間帯だけ参加するのではなく3日間とも参加し、セッションが終われば残り時間は聴く側に回り、積極的に参加者との交流を深めています。懇親会ではお酒を飲みながら楽しく語り、お互いのことを知れるので友人のような関係で次のアクションに繋がるのも面白い特徴です。

鹿児島の各地のこだわりの商品を、作り手と会話しながらお買い物できるのも薩摩会議の醍醐味の一つ (写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

薩摩会議2023のパンフレット。古川さん自ら編集長を務め、パンフレットの中には1日ごとに参加者に問いを投げかけるページがあり、思考の整理ができるような仕掛けが施されている

各セッションの設計を担当しているのは野崎さん。数多くのセッションがある中で、その場にいる誰もがテーマに沿って普段より視座を高めに、かつ、視野を広く見る起点となるような場になることを意識しているといいます。打ち合わせは入念に。でも、当日起こるであろう化学反応のための余白は残す。そうすることで誰もが楽しめるセッションとなり、予想もしない展開へ繋がる。そんな醍醐味のある場づくりを設計する意図について聞きました。

野崎さん 登壇者からすると普段、なかなか同じ場に登壇しないような人たちを敢えて掛け合わせています。過去2回ともセッションの数は15を超えていますが、DAY1(1日目)を念頭に、会場にいるみなさんには具体と抽象を何度も行き来できるようにセッティングしているんです。今年もですが、「●●×Transformation」が一本筋として通るようにしています。だからこそ、普段とは違う時間軸や空間軸で物事を見ることができます。そして、その感覚は日常生活にも役立つと思います。

薩摩会議2023にて行われたセッションのテーマの一部(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

薩摩会議2023にて行われたセッションのテーマの一部(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

ここ数年、オンライン配信が普及し、アーカイブを残すイベントは数多く見られるようになってきました。しかし、薩摩会議では「アーカイブは残さない」と決め、1回目からリアルタイムにこだわり開催しています。

古川さん 言葉って生モノだと思うんです。 誰と話すか、どんな人が聞いているかという場の空気感によって話す内容はずいぶん変わってきます。その空気感と切り離した状態で映像だけ見ても、話し手が本当に伝えたかったことやその場で起こったことは伝わらない可能性が高いと思っています。

生モノであるはずの言葉が、アーカイブという形でずっとWEB上に残るというのも、話し手としてはあまり気持ちのいいものではありません。いつまでも残ってしまう、どこの誰が見るかわからない、どこを切り取られるかわからないという前提では、話し手によってはうまくまとまった当たり障りのない表現をあえて選んでしまうかもしれません。

それは聞き手側にも言えることで、いつでもまた聞けると思うと、ポケットのスマホが気になったり、他のことを考えたりしてしまうものです。それではライブの面白さが半減してしまうのでは?と私たちは思ったのです。

野崎さん オンラインイベントが普及し、どこでもイベントに参加できて話も聞けるようになってきました。薩摩会議を開催するにあたりクルーで話していたのが「どこでもできることはやめよう」「熱の伝播を大事にしよう」でした。「何を話したのか」もですが、その場で生まれる熱量を共にすることにより仲間の輪が広がっていくことのほうが大事だと思います。

薩摩会議2023 登壇者参加者の垣根を超えた作戦会議の時間(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

「“いざ”という時に結束できる仲間たちと、鹿児島を舞台にするからこそ提供できる価値」

SELFとして活動を始めて7年。さまざまな業界の垣根を超えた経営者や研究者たちからなるSELFの設立も、鹿児島県内外問わず多くの人を巻き込んで開催している薩摩会議も、野崎さんともう一人の共同代表である須部さんの存在があったからこそだと古川さんは話します。

古川さん 恭平の良い意味での”厚かましさ”と、須部の“丁寧さ”があるからこそ、みんな巻き込まれていくんだと思います。話を聞いて「そんなこと実現できるだろうか?」と思うことも多々あります。でも、実際、彼らの言ったことはどれも実現してきています。もちろん、関わるみんなが全力を尽くすからこそというのもありますが、その根底には「恭平の言ったことは実現する」とみんなが信じているというのがあるからじゃないかと思います。

野崎さん 薩摩会議の事務局メンバーは、普段、経営者として会社全体を動かす役割の人ばかりです。そんな人たちが受付をしたり、予算の計算をしたりと裏方に回って場を支えてくれているんです。他にも鹿児島に根付くデザイナーやカメラマン、ライターなど多くのプロフェッショナルにもサポートしてもらっています。SELFのクルーと話すのは「いざという時にだけみんなで集まろう」ということ。実は僕たちが薩摩会議以外でクルー全員で集まるのは合宿の時くらいなんです。普段それぞれの地域で頑張っているみんなが一堂に会するからこそ特別だし、価値あるものになっていくと思うのです。

薩摩会議2023 受付の様子(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

今年、2024年9月に開催される薩摩会議は22セッション行い、登壇者は70人を超える。その多くがSELFの合宿などで寝食を共にした人たちなのだとか。さらに2日目に予定されているフィールドワークは、なんと離島を含んだ10地域に分かれて行うそうです。そこには過去2回開催した上での野崎さんなりのこだわりがあったといいます。

野崎さん 過去2回とも鹿児島を舞台に開催しているのに会場内だけで全てを完結させてしまっていたんです。せっかく鹿児島まで来てもらっているのにそれはもったいないと感じましたし、実際多くの参加者からもそんなお声をいただいていました。「薩摩会議でしかできないことは何なのか?」とこの1年考えた結果、各地域を舞台にして、その地域が今向き合おうとしている課題をテーマにしようと考えたんです。この案を出した時、最初は理沙さんたちからはクレイジーだと反対されました(笑)。でも、県内の各地域のクルーもですし、全国の仲間たちとも数年かけて積み上げてきた信頼関係があるSELFだからこそできることだと思いました。

2022年に開催したSELF奄美大島合宿の様子(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

2023年に開催したSELF屋久島合宿の様子(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

最後に今年の薩摩会議に懸ける意気込みを聞くと、二人はこう話してくれました。

古川さん この1年、いろんな場所で薩摩会議のことで声をかけてもらえる機会も増えて、私たちが意図した以上に各方面からご評価いただいているんだなとありがたく感じています。今年のテーマは「混沌(こんとん)」です。何かが生まれる直前の兆しをこの3日間で掴んでいただけると思います。

野崎さん 今年も僕たちにとって大きなチャレンジとなります。薩摩会議をきっかけにどんな未来が生まれていくのか、ワクワクとドキドキが同時にある感覚です。「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか」という問いは年々重みが増していくように感じます。時代の分岐点になるであろうこの場にぜひご参加ください。

薩摩会議2023終了後の集合写真(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)

それぞれの地域で文化を育む実践者たちが一堂に会し、その文化同士が出会うことで新たな創造が生まれる『薩摩会議』は、一種の壮大な作戦会議のように思えます。3日間通して抽象と具体を行き来しながら、鹿児島でしか得られない価値を体感でき、全国の実践者と深い関係性ができる時間は150年先の未来に繋がる足がかりになると思います。9月21~23日は薩摩の地へ足を運び、時代の分岐点に立ち会ってみてはいかがでしょうか?

– INFORMATION –

【薩摩会議2024 Webサイト】
https://satsuma-kaigi.jp

【チケット購入サイト】
https://satsuma-kaigi2024.peatix.com/view

【企業協賛について】
50万円
・3分間のピッチ機会のご提供
・当日パンフレットへの社名、ロゴ掲載
・3日間通し参加チケット 最大3名までご招待
※ご希望により『薩摩会議2024』の運営スタッフとして参画できます。

30万円
・当日パンフレットへの社名、ロゴ掲載
・3日間通し参加チケット 最大2名までご招待
※ご希望により『薩摩会議2024』の運営スタッフとして参画できます。

10万円
・当日パンフレットへの社名、ロゴ掲載
・3日間通し参加チケット 最大1名までご招待
※ご希望により『薩摩会議2024』の運営スタッフとして参画できます。

申し込みフォームはこちら
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScUusSY-0j3i5neM3lkpCw6bMlioUbRV3mwgYA6KVF8tGweEw/viewform

(撮影:脇中楓)
(編集:増村江利子)