春日部駅からバスで約20分、車がせわしなく行き交う道路から脇道に入ってすぐ、「おづつみ園」という小さな看板と大きなログハウス、お茶畑が目に入ります。よく見ると、お茶畑の奥に人影がチラチラ動いているのがわかりました。
ここは、2022年9月に埼玉県春日部市で始まった環境再生型のコミュニティ農園「かすかべ農園」。かすかべ農園は、土壌を修復・改善しながら、自然環境や生態系の回復につなげることを目指す「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」の実験圃場としてはじまりました。
かなりの広さがあることはすぐにわかりましたが、どこからどこまでがかすかべ農園の敷地なのか、正直よくわかりません。遠くからパッと見ただけではその場所は単なる野原にしか見えず、野菜が一列にずらっと並ぶ一般的な畑とは、風景がまったく違っていたからです。
畑に入ってまた驚きました。目を凝らすと、野原のほうぼうに多種多様な野菜が実っているのです。藪の中にコロコロ散らばるミニトマト、あっちにもこっちにも点在するかぼちゃ、青々しているところには小松菜やほうれん草がわさわさと生え、その隙間には、わさび菜、セロリ、ルッコラ、にんじんなど、さまざまな野菜が見え隠れしています。
野菜は、脈絡なくあちこちに、しかもぎゅっと密集して生えていました。小松菜のかたまりだと思ってかき分けるとセロリが顔を出し、枯れ草しかないと思って歩いていたら、その中に巨大ナスが潜んでいます。
これはまさしく、宝探し!
なんと、約200種類もの野菜や果樹、有用植物を導入してきたのだそうです。
リジェネラティブ農業は、農地を耕さずに作物を育てる不耕起栽培や、被覆作物(土壌が風や雨水によって侵食されるのを防ぎ、地面を覆うように茂る性質の作物)の活用、化学肥料や農薬の削減といった手法が知られています。農地の土壌を健康的に保つだけでなく、土壌を修復・改善しながら自然環境や生態系の回復につなげることを目指す農業です。
ただ、いきなり「生態系の回復」なんて言われても、壮大すぎてどうすればいいのか想像もつきませんよね。でもじつは、小さな水たまりから地球全体まで、生態系にはさまざまなレベルのものがあり、ときとして一人ひとりは、それらの生態系の一員でもあるのです。だからこそ、かすかべ農園のような場は、見えづらい生態系の存在を実感し、自然とつながり直すためにも大切なのです。かすかべ農園の発起人・小林泰紘(こばやし・やすひろ)さんに、農園を案内していただきながら、リジェネラティブ農業の魅力について、詳しくお話を伺いました。
エコシステミック・カタリスト / リジェネラティブ・ファシリテーター
一般社団法人Ecological Memes 共同代表・発起人
人と自然の関係を問い直し、人が他の生命や地球環境とともに繁栄していく未来(リジェネレーション)に向けた探究・実践を行なう共異体 Ecological Memes 共同代表/発起人。インドやケニアなど世界28ヶ国を旅した後、社会的事業を仕掛ける起業家支援に従事。その後、個人の生きる感覚を起点とした事業創造や組織変革を幅広い業界で支援したのち、独立。現在は、主に循環・再生型社会の実現に向けたビジョン・ミッションづくり、事業コンセプト策定、リーダーシップ醸成などを支援・媒介するフリーランスのカタリスト・共創ファシリテーターとして活動。
座右の銘は行雲流水。趣味が高じて通訳案内士や漢方・薬膳の資格をもつ。菌とともに暮らす ぬか床共発酵コミュニティ主宰。馬と人とがともにある、クイーンズメドウ Studios企画ディレクター。株式会社BIOTOPE 共創パートナー。IDEAS FOR GOOD Business Design Lab アドバイザー。一般社団法人 EcologicalMemes 代表理事。『リジェネラティブ・リーダーシップ』を日本に伝え、実践・深化させるためのリーダーシッププログラムや翻訳活動も展開中。
https://lit.link/yasuhirokobayashi
生態系の多様性を高めていく方向に人が関わっていく
かすかべ農園は、この地域で明治から続く老舗のお茶屋「おづつみ園」さんの茶園の一角をお借りして運営しています。3反ほどの茶園を半分縮小するので、そこの土地を活用できないかというお話を知人経由でいただいたのがきっかけでした。そこで社長さんに、自然環境を劣化させ続けていくのではなく、回復・再生させていくようなこれからの食料生産のあり方や、人が生き物としての本来の喜びや活力を取り戻していけるような再生型コミュニティのお話をさせていただいたところ、共感していただき、1.5反ほどの土地をお借りできることになったんです。
ちょっと歩いてもらうだけでもいろいろなものがありますよ。小松菜や山東菜、こっちにはブロッコリー、ここにはほら、にんじんも。もちろん野菜だけじゃなく、下草もいっぱい生えてきます。
植物はたくさんのことを教えてくれます。例えばハコベなんかは、去年は生えてこなかったんです。手をつけられていない区画には、今でもヤブカラシやカナムグラが一面に繁茂していますが、僕らが手を入れ出した区画には、ハコベやホトケノザ、オオイヌノフグリ、コニシキソウといった子たちが生えてきて、土壌の状態を教えてくれます。シロザも、ここでは3m近く育って樹みたいになります。「生態系の多様性を高めていく方向に人が関わっていく」というのが農園の基本的な考え方です。
「生態系の多様性を高めていく方向に人が関わっていく」とは、どういうことでしょうか。
下草は、表土を覆って生命基盤となる表土構造をつくってくれます。生えてくれているだけでありがたい。ただ、何かひとつの種が繁茂しすぎて支配的になってしまうと生態系全体の多様性も下がってしまうので、選択的に手を入れることもあります。あとは、種や苗も、下草の生え変わるタイミングで多品種をミックスして導入します。そうすると、それらがマルチ(土壌表面を被覆すること)がわりになって特定の下草だけが繁茂することを防いでくれます。
収穫や間引きも、同様に生態系への介入になります。例えば大きくなった白菜やレタスなどを収穫するときに根っこは抜かないのですが、地上部にスペースが生まれて、日の当たり方や雨が降ったときの水の流れ方、風の抜け方などが大きく変わります。そうすると周囲の植物たちがそれに呼応する形で、フィードバックが必ず返ってくるんです。これを「自己組織化」といいます。
間引きでできたスペースにひゅーんと伸びてくる小松菜がいたり、これまで発芽していなかった種が突然芽を出したり。畑にやってくる虫たちも変わります。下草を刈るだけでも、小動物や虫たちのが隠れるところがなくなるので、生き物の動きががらっと変わってしまいます。
自然の巡り、自然の営みの知恵に委ねる形で、僕らは「だったらこうしてみようかな」というふうに関わっていく。常に自然とダンスしてるというか、お互いに対話しながら動き続けている感じがありますね。
人が関わることで、生態系には必ず影響が及びます。しかし、かつての里山がそうであったように、関わり方次第で良い影響を与えることも可能なのです。助け合い支え合う生命としての協働のあり方が、リジェラティブ農業では求められています。
どのように循環型社会にシフトしていくか
小林さんは、さまざまな仕事や活動をしている現代版百姓のような人。フリーランスとして、企業や自治体の循環型・再生型社会に向けたビジョン・ミッションづくり、事業コンセプト策定、リーダーシップ醸成の支援なども行なっています。そして、もともと農業の経験はありませんでした。
農に携わるきっかけとなったのは、ありとあらゆる活動の根底に流れる、大きなテーマに気づいたことでした。
世界の潮流を見るのが、職業病みたいなものなんです。そうしたら、世界ではいろいろなことが起こっているけれども、その根底に通底する大きなテーマが見えてきた。それは、人や企業の活動が、社会や自然環境といかに関係を再構築し、支配や搾取という方向ではなく、再生や循環という方向にシフトしていけるか、ということでした。
そうしたテーマを探求するために小林さんが立ち上げたのが「一般社団法人Ecological Memes(エコロジカルミーム)」。領域横断的に人と自然との関係性をさまざまな視点から問い直し、人がほかの生命や地球環境とともに繁栄するリジェネラティブな未来に向けて探究・実践する(共同体ならぬ)共異体です。この活動を通じて、リジェネラティブな生き方や暮らし方に関心をもち、最初はプランター、次に自宅近くの耕作放棄地、そしてかすかべ農園と実践を続けてきました。
動物たちが植物の種をくっつけて移動したり、鳥たちが糞を落としたりしながらみんなで森を育んでいるように、人もただ生きていることそのものが、生態系の中でお役目を果たしていくような生き方ができるはず。そういう生き方を模索している中で環境や生態系の再生を指向するリジェラティブな農法と出会いました。
単一の作物に最適化して育てるモノカルチャー(農業の一形態で、単一品種の作物を栽培すること)や慣行農法のやり方は、複雑な生態系を前にできるだけシンプルに人が管理するための発明だったと思うんです。そのおかげで今、多くの人が何不自由なく食物を得ることができている。農に関われば関わるほど、農家さんのすごさが身に染みます。
ただ、表土構造を壊し続け、農薬や肥料を大量に投入し続ける従来のやり方だと、やればやるほど環境負荷がかかって土壌も劣化します。そして、それが地球規模で生態系の危機を引き起こし、ぼくら人間も含めた生命の基盤そのものを危うくしてしまっている。あらゆる生き物は生きるために環境改変をしながら生きています。それならば、むしろ人が生きるために関わることで、生態系や土壌を回復させていくような実践を通じて、未来につないでいきたいと思いました。
「協生農法」に出会う
こうした活動に取り組む上で小林さんが特に影響を受けたのが、日本発祥の「協生農法(シネコカルチャー)」でした。「不耕起、無施肥、無農薬、種と苗以外一切持ち込まない」といった原則のもと、自然界や植物の特性をいかして生態系を構築・制御し、有用植物を生産していく農法技術です。三重県伊勢市にある「桜自然塾」の大塚隆(おおつか・たかし)さんが生み出し、「ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、SONY CSL)」の舩橋真俊(ふなばし・まさとし)さんが科学的定式化と検証を経て、実践研究を進めています。
例えばかすかべ農園では果樹を植え、その周辺に7科以上の種や苗を導入し、「混生密生」で野菜を育てています。一般的な畑の常識で考えると、いろいろな種を混ぜて栽培するというのはありえないし、密生していたら野菜が大きく育たないのではと心配になってしまいます。しかし農園の様子を見るかぎり、混生密生でもすくすく成長していて、なんら問題はないようです。なぜかすかべ農園では、これほど植物が元気なのでしょうか。
むしろ“混生密生で育てているから”ということを、やっていると強く実感します。まず、下草たちも含めて植物が表土を覆ってくれていることがとても重要です。耕して表土が剥き出しになれば風による土壌侵食や乾燥が進みますし、直接雨に打たれた地面はあっという間に締まり、かちこちに固くなります。だからまた耕さなきゃならなくなる、という負の循環になります。
ですが、森でもまちでも自然界の様子を観察していると、植物たちは必ず密生し、大地を覆うように働きますよね。豊かな森では大小さまざまな草木が雨を受けとめ、柔らかに地面を濡らしていく。そして土中には根を張り、集まってくる菌類や微生物、土中の生物たちとの協働で保水性の豊かな土壌構造をつくってくれます。
かすかべ農園は、西は元荒川、東は古利根川に挟まれた慈恩寺台地と呼ばれる場所に位置しているのですが、このあたりは利根川によって供給された大量の砂が、卓越風によって運ばれ形成された河畔砂丘が多くあります。もともと水捌けがよい反面、雨が降らなければ一気に乾燥し、冬場の強烈な季節風でどんどん風土侵食が起こっているような状態で、保水力の高い表土構造の回復が鍵になることは最初からわかっていました。
もうひとつは、多様な植生を混生させていることですね。生態系を回復させるためには同じ種ばかりを育てるのではなく、いろいろな種があったほうがいい。そうすると、いろいろな虫や動物、鳥たちが来るようになるし、植物と微生物には固有の関係があるので、植物の種類が多ければ多いほど、それに合った微生物や菌が寄ってきます。そうして関係の多様性が高まっていくと、より柔軟で適応性の高い生態系になっていきます。例えば、何かの虫が大量発生して全部食べられちゃうとか、全部病気になっちゃうといったことが起こりづらくなる。モノカルチャーやスギ・ヒノキだけの人工林など、近現代文明は、そうした自然界の知恵とは真逆の方向に進んできていますよね。
そして、不耕起栽培なので表土構造が壊されていない影響は大きいと思います。実際、先日SONY CSLの方がかすかべ農園の土壌調査にきて、「BIOTREX(バイオトレックス)」という土壌微生物の多様性・活性度を図る指標を測定してくださったのですが、隣接する慣行栽培の畑、あるいは園内の手付かずで放置していた区画と比べて、僕らがやっているエリアは数値がとても高かったんです。
日本でも、リジェネラティブ農業や環境再生、ネイチャーポジティブ(自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること)などの言葉が広がってきていますが、耳心地がいいだけに、実際の影響や効果の検証がされていないことも多いのです。自然界からのフィードバックを可視化・測定していくことは継続していきたいなと思っています。
「最初からこんなふうにうまく野菜が育ったのですか」と尋ねると「育ちましたね」ときっぱり。じつは小林さん自身、最初は半信半疑でやってみたのだそうです。
僕も最初は、これで野菜が育つなんて思わなかったです。耕さないし、肥料もあげないし、灌水(水やり)もほとんどしない。それでも野菜が育つっていうけど本当かな、みたいな。でもやってみて驚きました。
植物は自ら育つ力をもっている。だから、そのための環境条件を整える。表土を壊さないというのもそうです。「自己組織化」といって、植物は自分でその環境に最適化して、必要な資源を調達しようとする能力があるのですが、肥料や水を与え続けていけばその能力は当然衰えます。逆に、ときに厳しい野生的な環境に置かれると、植物本来の姿が見られるというか、野生のスイッチが入っていく。かすかべ農園の野菜は濃くてワイルドな味がする、食べると元気になると言われるんですが、工業的な発想で管理されたものではなく、自然界の生命力溢れた野菜や果樹をいただくことで、きっと人も本来の生命力を取り戻していくんだなって。
ただ、かすかべ農園はまだ始まったばかりで生態系回復への移行段階です。そこに辿り着くまで、少なくとも5〜10年は必要だと考えています。その間、生命の陸上進出以後、自然界が何億年もの時間をかけて構築してきた大地の仕組みを僕らが邪魔しないこと。具体的には、耕したり、有機物を土壌に入れたりしない、つまり表土構造を壊さないこと。同時に生態系の一部として、人も食物を得るために、(人にとっての)有用植物を積極的に導入し、収量や収穫効率の向上を目指します。
生態系は農園の中だけでは閉じられない
現在、かすかべ農園では月に2回オープン活動日を設けており、その日は誰でも農園を訪れることができます。コミュニティ農園にしたのは、地域の人たちの居場所になるコモンズ的な場にしたかったから。そして、地域に開かれていくことが、生態系の多様性を高める上でも重要だと思ったからです。
地域に開かれているというのはすごく大事なところだなと思っていて。活動日には本当にいろいろな方たちがいらっしゃいます。ご近所の方ももちろん、都心部や神奈川、茨城、なかには新潟から車を飛ばして見にきてくださった方もいます。「畑や土に触れてみたくて」「なんとなく近所で気になって」「地域の方とおしゃべりしたくて」とか、理由もそれぞれ。環境再生や生物多様性に興味のある企業さんや行政の方がきたり、政府系銀行のみなさんが視察や意見交換にいらっしゃったこともあります。そうなると、普段は出会わないような人たちが、この農園で出会い、つながっていく。
あと、生態系にアプローチしていくと、結局この場所だけの話では閉じられないんですよ。あそこに木があって、すぐ裏には森がある。僕らが農園をやり始めてからは、森の中から雉(きじ)のつがいがよくやってくるようになったし、虫や鳥たちもあっという間にやってくるようになりました。水も流れてくるし、先日は渡り鳥のサシバが農園の上を旋回していました。要は、いろいろなものがつながり合っているので、ここだけの話ではないわけですよね。土地に線引きをしているのは人間くらいで、生態学的にはエコロジカルネットワークと言われたりしますけど、ここが生態系の拠点のひとつになっていくことで、ほかの生き物の生息地ともつながっていくわけです。逆に言えば、この農地だけがよければいいという話にはならない。
人のつながりについても同じです。ここでできた野菜を地域のお店で使ってもらうのも、農園を始めるときに近所の農家さんにご挨拶に行って「こういう新しいチャレンジをします」と説明して一定の理解を得てから始めたのも、地域とつながって、循環し続けていくことが大切だからです。
いつ食糧危機になってもおかしくない時代に、何かあったらここで野菜をもらえるとか、いざとなったらここで野菜を育てられるとか、そういうコモン的な場、みんなの場所としての農園があることが、大げさな言い方かもしれないですけど、地域のセーフティネットになっていくと思うんですね。歩いて行けるところにこういう場所があって、つながりがある。野菜のつくり方もここに行けばなんとなくわかるし、何かあったらここに来れば大丈夫みたいな。
いろいろなものが絶えず循環していることで、人も地域も元気になっていくと思うんです。
やっているうちに生きる喜びをどんどん思い出していく
農園にこられた方に「何を植えていいですか」と聞かれたら「好きなものを植えてください」とお伝えしています。一人ひとりがこの畑や植物に起こっていることをじっくりと観察して、何かを感じ取って「ここに手を入れるとよさそうだな」と思い、介入する。そんなふうに関わってもらうと、結果として農園の場全体の多様性が増していく。一人ひとりの個性や感性が、多様性の一部になっていくわけです。
例えば、間引きの仕方もお伝えするんですけど、やっぱり個性が出るんですよね。みんなが同じやり方をしては均一化に向かってしまうけど、何を感じどう関わるかは人それぞれなので、その人が手を入れた畝は、その個性を一部に宿した生態系になってゆくんです。
小林さんがかすかべ農園を始めて実感しているのは、生態系の回復に関わり、生命力あふれる場で自然界の一員として過ごすことで、人も癒され、元気になるということ。オープン活動日に来られる方の中には悩みやストレスを抱えている人もいますが、誰もがとても元気になって帰っていくのだそうです。
オープン活動日は一応「作業する日」なんですけど、作業の強制はしていないんです。自己紹介もしません。一緒に作業しながら「ところでお名前なんでしたっけ?」みたいになっています(笑)。自由に過ごしてもらっているので、ぼーっと草原で寝転んでる人もいれば、近所の人たちとお喋りしている人もいるし、ウッドデッキで休憩している人たちもいる。柿の木から柿をとって食べている人もいます。そうやって、それぞれが好きなように過ごしているうちに、みんな、不思議と元気になっていく。
僕は「リジェネレーション」というのは、自然生態系の回復であり、再生であると同時に僕ら自身の回復であり、癒しであり、再生でもあると思っていて。大地からの恵みをいただいて僕らの身体や生命力は養われているのだから当たり前なんですけどね。それは栄養とか成分の話だけでなくて、目に見えない微生物や菌も含めて健全な大地や生命の連環の中で、生命力そのものが涵養されていく仕組み。そういう世界の一員として生きていると思い出すことは、人が本来もっている生きる喜びとか楽しさにつながっているのではないかと思います。
僕が翻訳出版を進めている『リジェネラティブ・リーダーシップ』の共著者、ローラ(Laura Storm)が“持続可能な社会を本当の意味で実現していくためには、そこに関わるリーダー自身がその内なる生命と調和していなければならない”ということを言っているんです。リジェネレーションは、外側だけでも内側だけでもない、その「あいだ」をつないでいくような活動なのだと思います。実際、こういう活動をやっていると楽しくて仕方がない。生きる喜びが内からどんどん溢れ出していくんですね。
リジェネラティブな農や暮らしは、環境の再生だけではなく、人という生命の再生の可能性も秘めている。ここで地域に開かれたコミュニティとして農園をやり始めて、そう強く感じるようになりました。今の時代に大地を再生する使命は、一部の人たちだけのものではなく、一人ひとりが生き方や暮らしを育み、目の前の大地と深く関わり、そうした生き物としての喜びを取り戻していくことでしか実現し得ないと思うんです。この農園が誰かにとってその入り口を開く場所になったら嬉しいですね。
「本当にこれで野菜が育つの?」と思う人ほど、まずは実際に農園に足を運んでみてください。まったく畑らしくない畑と、そこでいきいきと育っている野菜に驚くはずです。それだけではありません。農園で過ごす、なんともいえない居心地のよい時間もぜひ体験を。今年は、これまでの野菜購入だけでなく、もう少しライトに農園を応援したり、この農園で「マイ畝」をもって野菜を育てられる「かすかべ農園会員制度」も始まるそう。詳しくは農園のインスタグラム(https://instagram.com/kasukabe_noen)をぜひチェックしてみてください。
もちろんプランターで、庭で、畑で、自らチャレンジしてみるのもあり。小林さんもインスピレーションを受けた「協生農法」のマニュアルはオンラインで無料配布されているのでそちらを参考にするのもオススメです。
生態系の豊かさが、自分自身の心身の豊かさにも結びついていると実感できれば、多くの人の生き方やあり方が変わっていくことになるでしょう。「地球環境をよくするためにやらなければならない」ではなく、「こちらのほうが自然で楽しくて心地よいから」という理由で次の行動を選択する未来がくれば、世界もまた、より良い方向に変わっていくのではないでしょうか。
(撮影:イワイ コオイチ)
(編集:増村江利子・村崎恭子)
– INFORMATION –
環境再生を学ぶスクール「リジェネラティブデザインカレッジ」が始まります!
自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す方法を学ぶ5ヶ月間のプログラム。(募集締切:3月10日)
こちらの記事でお話を伺った、一般社団法人Ecological Memes(エコロジカルミーム)の小林泰紘さんは「リーダーシップ×Regeneration」の講師として登壇予定です!
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