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命とともにある暮らしをベースに原体験を積み重ね、子どもたちが“もう一本の根”を張る1年間。石巻市雄勝町・モリウミアスに漁村留学中の子ども・家族・スタッフが語る、自立と余白と生きる力

[sponsored by 公益社団法人MORIUMIUS]

私の娘は、現在小学4年生。今年4月から1年間親元を離れて、小中学生の仲間と共同生活を送る「漁村留学」に参加しています。

暮らしの拠点は、宮城県石巻市雄勝町に佇む子どもの複合体験施設「MORIUMIUS(モリウミアス)」。薪割りをして釜戸でご飯を炊き、薪ボイラーでお風呂を炊き、21羽の鶏(2023年11月現在)と1匹の豚の世話をし、洗濯も掃除も自分たちで行います。平日は石巻市立雄勝小学校に通学し、週末には地域の草刈りや漁業のお手伝いへ。小中学校合わせて全校生徒数31人、人口約1,000人の小さなまちで、毎日の暮らしを積み重ねています。

私がこの話をすると、周りの方々からは大抵こんな反応が返ってきます。

「娘さん、すごく自立してるね!」
「うちの子どもにはできないなー」
「私たち家族にはできない決断だよ」

とにかく「すごい」という言葉をたくさん受け取るのですが、私自身はそのことに戸惑いと違和感を覚えます。確かに10歳の子どもが親元を離れて暮らすのは「すごい」ことに思えるのかもしれません。自分たちで自然と共生する暮らしを手づくりするなんて、しかもそれを学校の勉強と両立するなんて、果てしなく「大変」なことのように思えます。

でも留学開始から約7ヶ月経った娘の目はとてもイキイキと輝いて見えます。いつ電話で話しても「楽しい」という言葉が返ってきますし、娘以外の子も含めた漁村留学生たちは、この「大変そう」な暮らしを満喫している様子です。

「不便だなとも思うけど、楽しい。できたときに達成感を感じるから」
「面倒臭いけど、実際は楽しい」
「難しいことが面白いから、難しいことをもっとやってみたい」

漁村留学生たちが発するこれらの言葉に、私はハッとしました。子どもたちは、大人から見た「すごい」や「大変そう」とは違う角度から「楽しい」という感覚を得ているようです。

今回はこの漁村留学について、留学中の子どもたち、保護者のみなさん、スタッフのみなさんにもお話を聞きながら、日々暮らしを積み重ねることの価値やその中における子どもの成長について深掘りしていきたいと思います。

漁村留学の1年間は、子どもにとって、親にとって、一体どんな時間なのでしょうか?

命とともに、まちとともに、暮らしをつくる。モリウミアス漁村留学

「漁村留学」は、2022年4月よりスタートした小中学生向け(小学4年生〜中学3年生対象)の1年間に渡る山村留学プログラムです。

主催するのは、宮城県石巻市雄勝町で子どもの複合体験施設を営むMORIUMIUS (モリウミアス)。2011年3月、東日本大震災によってまちの約8割を失った雄勝町の高台に佇む廃校をボランティア約5,000人もの手でリノベーションし、2015年7月にオープン。都市部の子どもたちが週末や夏休みを利用して雄大な自然との共生の中で循環する暮らしを営む宿泊滞在型プログラムを実施しており、年間1,500人もの人が訪れる場所です。

築93年の廃校をリノベーションしたモリウミアス

漁村留学の構想が浮かび上がったのは、今から5年ほど前。モリウミアスが好きで常連となった子どもたちから「もっと長く暮らしたい」という声も上がるようになり、短期プログラムでは根付きにくい自然と共生する暮らしを1年間をかけて体験する場をつくれないか、それが子どもにとって大きな価値になるのではないかという想いがスタッフの中に沸き起こりました。

一方で、震災から時間が経過し、人口減少と少子高齢化が続く雄勝町の現状に対し、「教育を通じてまちづくりに貢献できないか」という想いもありました。各地への視察や内部での議論を積み重ね、日本財団「渚の交番プロジェクト」の拠点としての助成によって漁村留学生のための寮の建設も実現。2022年度より「漁村留学」をスタートしました。

まずは少人数から留学生の募集を開始したところ、初年度は中学生3人、2年目となった今年は小学生2人と中学生1人が留学生として参加しており、今この瞬間も、親元を離れて共同生活を営んでいます。

漁村留学生とモリウミアスのスタッフのみなさん

「できた!」という手応えとともにある暮らしの中で

そんな漁村留学に参加している川村きわさん(神奈川県横浜市出身・中学2年生)、森村さきさん(東京都目黒区出身・小学5年生)、私の娘である池田こなつさん(神奈川県茅ヶ崎市出身・小学4年生)に、それぞれの声を聞かせてもらいました。

中学2年生のきわさんは、初年度より漁村留学生となり、今年2年目を迎えています。もともとモリウミアスの夏のプログラム(6泊7日の「Live in MORIUMIUS」)の常連で、留学を知ったときも「楽しそう」と思ったそうです。

留学生の川村きわさん

きわさん モリウミアスでは、普段あまりしない料理ができるし、海が近いのも良いなって。その楽しさが留学でも続くかなって思って。中学に入るタイミングで留学して、一回何もない状況からやってみたいという気持ちもありました。

「何もない状況から」という思い、そして自然環境に心惹かれたのは、小学5年生で留学1年目のさきさんも同じでした。

さきさん 習い事をいっぱいやっていたから、その環境から一回抜け出して自由になりたいなって。自然がいっぱいあるのもいいなって思いました。

森と海に囲まれた雄勝町の雄大な自然環境も、漁村留学の大きな魅力のひとつ

でもきわさんは、いざ留学生活を始めてみると、思った通りとはいかなかったのだとか。

きわさん リブイン(6泊7日「Live in MORIUMIUS」)は楽しいことばかりだったけど、留学は暮らしていくために自分の身の回りのことは最低限やらなくちゃいけないので、思ったより大変で。3人のうち1人が休んだら回らない感じで、休憩時間も少なくて…。

漁村留学ならではの自然と共生する暮らしを自分たちの手でつくる日々に、最初は辛いと感じた時期もありましたが、それがやがて楽しみに変わっていったときわさんは語ります。それはなぜなのでしょうか。

きわさん 不便だなって思うけど、楽しいなって。薪割りとかも絶対あっち(地元)じゃできないし、できたときに達成感を感じるから。

この感覚は、さきさんや、小学4年生のこなつさんも同じように感じています。

さきさん 羽釜とかを洗うのは面倒臭いと思うけど、実際は楽しい。おこげができるし。おこげが大好き(笑)

こなつさん 難しいことが面白いなって思うから、難しいことをもっとやってみたいと思う。「できた!」ってときが面白い。

留学生の池田こなつさん

「できた!」という手応えのある体験を日々積み重ねている3人が共通して思いを寄せているのは、いつも一緒に暮らしている鶏やひよこの存在です。自分たちの暮らしから出た残飯や野菜クズなどの餌を与え、鶏小屋の掃除をして、産みたての卵をいただく日々の中で、たくさんのことを感じ取っているようです。

さきさん ひよこが孵化したときは嬉しかったけど、一羽死んじゃったり、チャボが狐に襲われちゃったときはショックだった。でも死んじゃったひよこも、その子なりに長生きしたのかなって。

留学生の森村さきさん

その思いはこなつさんも同じで、「今度はチャボを孵化させることにチャレンジしたい」と嬉しそうに語ります。さらに、鶏の良さを多くの人に知ってもらいたいという気持ちも芽生え、「マイプロジェクト」として、鶏のことを調べてノートにまとめ始めています。

こなつさん 鶏は人間の残り物を食べてくれて、卵を産んでくれて、草も食べてくれるし、いいところがいっぱい。かわいいし、大好き。だから雄勝の人とかモリウミアスに来た子たちにもいいところを知ってもらいたいなって思う。留学から帰っても、家で鶏を飼いたいな。

孵化器で孵化したひよこたちも漁村留学棟で一緒に暮らしています

モリウミアスを暮らしの拠点として、平日は地元の小中学校に通い、週末は地域の人々の漁業や草刈りを手伝い、ときには地元の方々のご自宅に「お茶っこ」や「民泊」でお世話になるなど、地域に根付いた暮らしも漁村留学プログラムの大きな特徴です。きわさんが1年の留学修了後に継続を決めたのは、学校が楽しいという理由も大きかったそうです。

きわさん 普通の学校では先輩や後輩と関わる機会が少ないけど、こっちでは先輩も同じ目線で話してくれるし、小学生とも話せて楽しいなって。

こなつさんも、雄勝小中学校の少人数の良さを実感している様子。

こなつさん 小学生も中学生もみんなの名前を知ってて、先生もみんな優しいし、学校は楽しいよ。運動会の障害物競走で1位になれたり、劇で主役ができたのも嬉しかった。

石巻市立雄勝小学校・中学校が合同で行う運動会。全員でソーラン節を踊りました

一方で雄勝のまちについてはどんな感覚を抱いているのでしょうか。いつもお世話になっている地域の方の自宅に民泊させてもらったときの体験を、さきさんはこう語ります。

さきさん すごく楽しくて、美味しいご飯を出してくれて。帆立のフライが美味しくて、それまで食べられなかった帆立が食べられるようになったの! みんな家族みたいに接してくれて、東京でもご近所さんはいたけど、雄勝みたいに道で会ったときに「さきちゃん!」って名前を呼んでくれるようなことはあまりなかったから、いいなって思う。

家族のように接してくれる地域の方の自宅に民泊させていただく機会も

そんなさきさん、雄勝の人々のことを思い、マイプロジェクトを考えました。

さきさん 浜とか海にタバコとかがポイ捨てしてあって、漁師さんが悲しんでいると思うから、「ポイ捨てを無くそう」っていうポスターをつくって配ったりしたいなって。

きわさんも、地域の人がよく家で写真を飾っている様子を見て、雄勝の自然のものを使ったフォトフレームをつくってお世話になった人たちにプレゼントしようと考えています。さらに、留学後も雄勝とつながりたいと考えているそう。

きわさん 留学が終わっても、多分また来たいと感じるだろうなと思います。モリウミアスが今やってる葡萄畑(モリウミアスファームのこと。詳しくはこちら)がうまくいくのかな、大丈夫かなって思いますし、雄勝がこれからどんな感じで発展していくのか気になります。地域の人にもまた会いたいなって。

留学生活は、あと4ヶ月ほど。命とともに、まちとともに、3人の暮らしは続いていきます。

「自立とは、依存先を増やすことなのかもしれない」

ここからはそんな留学生を見守る保護者のみなさんにお話を聞いていきます。私自身も保護者の立場ですが、みなさんはどのように漁村留学への参加を決断し、今どんな心境でいるのでしょうか。

きわさんの母・川村直子さん、さきさんの母・森村茉文さん、こなつさんの父・池田一彦さん(筆者の夫)に話を聞きました。

川村さん 娘はリブイン(6泊7日の「Live in MORIUMIUS」)に何度か参加していて、「モリウミアスに住みたいくらい好きだ」って言っていたんですよね。だから留学はぴったりだなって。本人は最初は躊躇していましたが、現地説明会などに参加して決断しました。

こなつさんも同様に、モリウミアスのプログラムの常連でした。

池田さん うちの娘も小学1年生からずっと常連だったので、本人が「行きたい」と言い出したのも、自然の流れではありました。親としてもモリウミアスの環境やスタッフの方々を信頼していたのでそういう意味での不安はありませんでしたが、1週間のプログラムとは違って毎日の暮らしになるのはしんどいんじゃないかという気持ちはちょっとありましたね。

プログラムと同様、留学中も多様な自然体験の中にある毎日。雄勝湾で釣りやSUPにもチャレンジしています

一方、さきさんは、2人とは少し違う背景で留学に参加しました。

森村さん うちは、小さい頃から娘に中学受験をさせようと難関高対策をガチガチにやっていたんです。でも去年海士町(島根県隠岐郡)に行った時、島留学というプログラムがあることを知って。競争の中にいるよりも、こういう場所で心の中の原体験を持たせてあげたいなって思ったんです。本人も島留学に乗り気だったんですが、それは親子で行く留学で、私たちは仕事の都合で難しくて。他の留学先を探したときに、モリウミアスを見つけたんですね。

それでも、娘も私たちも受験勉強を続けるかどうか迷っていましたが、家族で話したときに娘が「本当にやりたいことはわからないけど、私はただ遊びたい」って涙を流しながら言ってくれたので、親子で決断しました。周りもみんな塾に行って受験するような環境の中にいたのに、よく正直に言ってくれたなって。

保護者の森村茉文さん

それぞれの家族での決断を経て、3人の子どもたちはモリウミアスで出会い、共同生活がスタート。保護者は4月の入寮時、5月のゴールデンウィーク、10月の小中学校の文化祭、3月の修了式にそれぞれ2泊3日〜3泊4日でモリウミアスに滞在し、子どもたちは夏と冬の長期休みに帰省。それ以外は親子別々の暮らしを送ることになりました。

生まれてからずっと一緒に暮らしてきた子どもと離れ、みなさんそれぞれに寂しい気持ちを抱きながらも、気づきがあると語ります。

川村さん 1年目の最初の頃、娘がホームシックになった時期があったんです。私も寂しい気持ちもあり、「もしかしたら『子どもを立派に見せたい』っていう私のエゴで行かせちゃったかな、本当にこれでよかったのかな」って葛藤していたこともありました。でも、手紙や電話のやりとりを続けて、2学期に入った頃から学校の友達とも留学生同士もグッと仲良くなって、結局2年目も延長することにしたんですよね。

今は、娘のことを誇りに思っています。離れてみて、やっぱり娘のことが大切だという気持ちになりましたし、私が家事や仕事をしているからこそ暮らしが成り立っているということに娘が早い段階で気づけたのはよかったと思います。葛藤があってこその実りという感じですね。

保護者の川村直子さん

森村さん 私は親子というものの捉え方が変わりました。中学受験も含めて、自分ができなかったことを娘に投影しちゃうようなところがあったり、選択肢を増やしたいっていう気持ちで押し付けてしまっていたりして、当時は「ありのままのあなたで素晴らしいね」って言ってあげられなくなっていたと思います。

それが、離れたことで冷静になって、娘に考える時間も与えずに「何がしたいの?」って言っちゃってなかったかな、考えている最中だってこと自体も受け止めてあげられていなかったんじゃないかなって気づいて。だからこの4月から別々に暮らせたことは、娘の成長にとってももちろんですが、私にとって大切な時間でした。ありのままの娘を認めたり抱きしめたりできるようになったと思います。

森村さん同様、離れたことによる価値は、川村さんも強く感じていると言います。

川村さん 子どもはいずれ親とは違う自分の人生を生きていくので、私は徐々に手放していきたかったんです。私も娘に依存していましたし、依存し合う関係をこのまま続けていったら、お互いがお互いを苦しめていくんじゃないかなって思っていて。

そこに漁村留学っていうものがあって、それを選び取って、早い段階で徐々に手放していける機会を得たのはすごくよかったです。なんでも踏み出してみるものだなって。躊躇するよりも突き進んだ方がいい、失敗したり傷ついたりするかもしれないけど、きっとそれも経験だからと娘にも伝えていますね。

漁村留学の暮らしは、日々チャレンジして失敗できる環境の中にあります

一方で池田さんは、「自立」について思うところがあると言います。

池田さん 娘について、よく「自立しているね」って言われるんです。そんな中で思い出したのが「自立というのは依存先を増やすことだ」という熊谷晋一郎さん(医師・東京大学先端科学技術研究センター准教授)の言葉です。

自分を振り返ってみてもそうですが、人間は絶対一人じゃ生きていけませんよね。娘はスタッフやきわちゃん、さきちゃんとの関わりの中で、モリウミアスが新しい依存先になったんだろうな、そういう意味では自立したんだろうなって思えるようになりました。家とは別の依存先を持てたというのは、子どもが生きていく上で大きいと思うんですよね。これから先、何かあった時に居場所になるだろうなって。

保護者の池田一彦さん

でも一方で、「なかなかこんな依存先には出会えない」と池田さんは続けます。

池田さん 居場所という意味では、モリウミアスは寝食をともにして、それぞれに役割があるのも大きいと思います。家では親がお願いして子どもはお手伝いをするという関係性ですが、ここでは自分たちが生きていくためにご飯をつくる。自分が誰かの役に立っているという貢献感は、そこを居場所と感じられるための重要な要素なんだろうと思います。

モリウミアスが親元を離れた子どもたちにとっての新しい依存先、居場所となっていると語る保護者のみなさん。実際に子どもたちの成長も感じ取っているという3人に、改めて、漁村留学で暮らしを積み重ねることの価値について語っていただきました。

川村さん 漁村留学してから、勉強でも生活でも、自分で選び取る力が強くなったし、早くなったように思います。私は勉強しなさいって言ったことがないのですが、自分で必要だと思うから勉強をするという姿が見られるようになりました。それは、スマホから離れて、友達関係もリセットされて、命と向き合ったり、日々いろいろと考える環境だからだと思います。ここで暮らせたらどこでも暮らしていけるのかなと。

森村さん ここでの暮らしは、忙しいけど余白がありますよね。ご飯を炊いている時間や、薪をくべながら、「あのとき、お友達の気持ちはどうだったのかな」とか「将来こういうことやりたいな」とか考える。都会はその余白をゲームやスマホ、習い事で穴埋めできちゃうんですよね。でもここでは暮らし以外はなくて、自然との共生の暮らしというベースの中で自分で考える余白がある。それがいいなって思います。

池田さん 知識とか受験を重視する教育の対局として非認知能力やアントレプレナーシップを育む教育もありますが、僕は、どちらもスキルとして教えようとしているところに違和感があります。それよりも、自分で考えて自分でやるという土台があることの方がずっと重要な気がしていますが、モリウミアスにはそれがあるんですよね。

今日のご飯を考えるとか、みんなと折り合いをつけて生きていくとか、自分で考えなくちゃいけない場面がいっぱいある。それを1年間積み重ねて、これからを生きていく土台が育まれていくのかなって。命の大切さとか自然と共生する暮らしも知識として学ぶこともできますが、自分で体験するのとは全然違うんですよね。

森村さん そうですね、ここでの体験は何にも変え難い、子どもにとっての生きる力の源みたいになるような気がしています。

正解がない中で答えを見つけ出そうともがき考える日々が、生きる力になっていく

ここまで子どもたち、そして保護者のみなさんの言葉を受け取ってきましたが、最後にモリウミアスで漁村留学を担当するスタッフのみなさんにもお話を聞いていきます。漁村留学立ち上げの発起人である安田健司さんは、漁村留学スタートからの約1年半をこう振り返ります。

安田さん まちの人々や学校関係の方は本当に歓迎してくださっていて、留学生たちをまちの一員として家族のようにあたたかく見守ってくださっています。学校で留学生がお手本になるシーンがあったり、雄勝の子どもたちにも刺激になっているようです。

一方で初年度の留学生は「暮らしをつくるだけで大変だった」と安田さんは振り返ります。中学生ということもあって平日は部活が終わって6時過ぎに帰宅。それからご飯とお風呂の準備をして、土曜日も午前中は任意参加ながら部活の練習。「みんなギリギリでがんばってくれていた」と語ります。

安田さん そんな日々の中でホームシックになる子もいましたが、留学生たちはみんなそれぞれに踏ん張り、2学期には結束力も高まり、暮らしを楽しめるようになっていったんです。自分たちにとっても初めての取り組みで、最初は子どもたちに委ねすぎた部分もあり、その負担感から暮らしのあり方について留学生同士で責め合うシーンもありました。でも、2学期の途中からお互いのいいところ、苦手なことを受け容れていかしあう関係が育まれ、暮らしを楽しめるようになっていたように思います。

今年度の小学生2人も含めて、本当にすごいなと日々感じています。愚痴を漏らすことはほとんどないんですよ。「無理しないでやれない時には助けを求めてね」と伝えているんですが、そうすることもなくて。

スタッフの安田健司さん(左)と小川珠穂さん(右)

なぜそんなに子どもたちは頑張れるのでしょうか。その答えは子どもたちの言葉からも受け取れましたが、「やらなきゃいけないことだから、やると決めたらどうやるのかを工夫して考えるのが楽しいっていう感覚になっているのだと思う」と安田さん。一方、2023年度から漁村留学担当スタッフとなった小川珠穂さんは、こう語ります。

小川さん やらなきゃいけない環境に置かれたら人は逞しくなっていくんだなって。アドバイスはもらえるけど、正解を教えてもらえるわけではないから、その中で自分たちで答えを見つけ出そうともがく。その姿がたくましいな、これが生きる力だなって思うんですよ。学校のテストみたいに結果が点数になって出てくるわけじゃないけど、暮らしの中で身に付く力って本当に生きていく力になるんだなって。

漁村留学では、暮らしに欠かせない作業として薪割りも日常の中にあります

安田さんも続けます。

安田さん 1人では生きられない環境の中で仲間と支え合い、人と動物、自然に抱かれて過ごす1年は、間違いなく彼らにとってこれからを生きる糧になっていくと思います。

今いる環境でずっと育っていくのもいいと思いますが、1本の根だけでは倒れてしまうかもしれない。深く広く根を伸ばした植物がたくましく育つように、子どもたちにも多様な環境で根を張り伸ばしてもらいたい。この土地で得られる生きる糧は、きっと大きくて太い“もう一本の根”になり、その子にしか育めない実を結ぶ助けになるはずです。

漁村留学は子どもたちにとってのもう一つのふるさとであり、いつでも帰って来られる居場所でありたいという想いでやっていますし、そういう原体験が積み重なる場所だと思います。だから小中学生の間に一度はこっちでチャレンジして、生きる糧を得て帰ってくれるといいなって。

自分はできると信じて留学を選んだ子どもたち、子どもを信じて送り出した保護者のみなさん、子どもたちに寄り添い日々ともに生きるスタッフのみなさん、そして家族のように可愛がってくれる雄勝町の人々。それぞれの想いと行動の積み重ねが、子どもたちの根っこに栄養分を送り続けています。

親元から離れて、正解のない中でもがき、自ら考える原体験を積み重ねた1年間を経て、3月の修了式にはどんな表情を見せてくれるのでしょうか。

壁をつくらなければ、子どもたちはどこまでも行けるのかもしれない

記事の最後に、1年半、漁村留学で体感から学んだ川村きわさんの弁論大会でのスピーチ全文を紹介します。私にとっては何よりも漁村留学での暮らしの積み重ねを物語っていると感じる言葉の数々。みなさんは何を感じるでしょう。

「いただきます」

私は昨年度から漁村留学生として、親元を離れて雄勝で生活しています。同じ漁村留学生やスタッフと一緒に自立した生活を送っています。そんな中、1年前の6月に新しい仲間が増えました。それは3羽のにわとりです。

初めて3羽のにわとりを見た時、その中の1羽に目がとまりました。白とうすい茶色が混ざった羽、黄色い足、顔まわりのフサフサした毛。私は一目でこのにわとりを気に入り名付け親となることが決まりました。色々と迷いましたが、ひのきという名前にしました。名前の由来はひのきという木の色に似ていたからです。ひのきたちが来てから少したったある日、エサやりの時間になりました。いつも通りエサをやった後、たまには違うものを食べさせてあげようという話になり葉っぱを取りに行きました。取った葉っぱを嬉しそうに食べていた姿は今でも忘れられません。

月日は流れ、今年の4月みんなで話し合った結果3羽をしめて(※)、食べることになりました。ひのきをしめるのは名付け親の私です。自分にできるだろうかとしめる決意がしっかりと固まらないまま、当日を迎えました。約1年間共に暮らしてきた他のにわとりたちがしめられているところを見届けた後、いよいよひのきをしめるときがやってきました。包丁を手に取った時、手がふるえていました。気持ちを落ち着かせるため深呼吸をした後、首をねらって包丁を入れました。その後ひのきは静かに息を引き取りました。3羽がいなくなってしまった実感がないまま、3羽の肉を使って調理が始まりました。その日のメニューはてりやきチキンでした。「いただきます」。スーパーなどで売っている肉とは違い少し硬めの肉でしたが、おいしかったです。もし何も言われず食べていたら気づかないと思うほどでした。

私たち人間は生きるために動物や植物の命を奪っています。それは私たちが生きていく上で仕方がないことではあると思います。しかし、それが当たり前だと思うことは違うのではないでしょうか。普段何気なく言っているいただきますには食材への感謝が込められていると思います。私たち人間が生きていくために動物や植物、たくさんのものに命をいただいています。毎回命に感謝しながら食事をするというのは難しいことだと思います。実際に私も毎回できているのかと聞かれたら自信を持ってはいとは言えません。でもたまにであっても意識をすることに意味があると思います。食事前にこの話を思い出してもらえるのなら嬉しく思います。

最後に、最近また仲間が増えました。今回は鵜化機を使って3羽が卵からかえりました。そのひよこたちの中には、ひのきの遺伝子を受けついでいる可能性の高いひよこが1羽いました。その証拠に、白とうすい茶色が混ざった羽、黄色い足という点が共通しています。新たに生まれたひよこを寿命まで生かすのか命をいただくのかは分かりません。しかし、どのような動物、植物にしても大切に育てていくということには変わりはありません。命の重さは皆等しいのです。だからこそ私は、今日も明日もこれからもこの言葉に感謝の気持ちを込めていきたいです。いただきます。

(※)モリウミアスでは、ボス以外の雄鶏をしめるというモリウミアスの方針のもとに子どもたちと話し合いを行い、しめてから食べるまでの過程にどう関わるかも子どもたちそれぞれの判断に委ねています。

2024年の春、3人は卒業し、モリウミアスは新たな漁村留学生を迎えます。

安田さん もし漁村留学への参加を検討してくださる方がいるのなら、お子さんの可能性を信じてみてほしいです。壁をつくらなければ、もしかしたら子どもたちはどこまでもいけるかもしれない。

自分たちが気づかないところで、子どもたちは日々何かを感じ変化していっている。子どもたちそれぞれの歩みを親御さんとともに分かち合いたいと思っています。

実際僕たちは日々、子どもたちの姿に感動しているので。

雄勝の人々も雄大な自然も、モリウミアスのスタッフも鶏も豚も、この地で新たな根っこを張る子どもたちを、今か今かと待っています。

(編集:増村江利子)
(撮影:山田真優美)

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