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任せっぱなしでは解決できないプラスチック問題。容器包装を扱う企業の約束に、私たちはどう向き合うべきか

“The era of global warming has ended, the era of global boiling has arrived.”
(地球温暖化の時代が終わり、地球が沸騰する時代へ突入してしまった)

この発言は、国連事務総長であるアントニオ・グテーレス氏によるものです。人類史上最も高い気温を記録した2023年7月を振り返り、「もはや躊躇や言い訳は許されない、即刻アクションせよ」と、危機感をもって各国のリーダーたちへ迫った会見での一部です。この直後、世界中の報道で「地球沸騰」というキーワードが繰り返されました。

気候変動にも関係がある! プラスチック問題

地球温暖化は、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが地球を覆うことが原因とされています。温室効果ガスを発生させる最大の原因は、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)を燃やすこと。人間が経済活動のために化石燃料を燃やすと、二酸化炭素と亜酸化窒素が大気中に放出されてしまうのです。

石油から生成されるプラスチックも同じです。新しくプラスチックをつくる際に二酸化炭素が発生するだけでなく、ごみとして燃やされることで有害物質とともに二酸化炭素が排出されます。また、ポイ捨てなどで自然に流出した場合、分解されずに半永久的に残ることで環境に悪影響を及ぼします。

企業に呼びかけたWWFジャパン
「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」

2022年春に施行された新しい法律、通称「プラ新法」では、個人の努力ではどうしようもない商品の容器包装に関するプラスチックの削減について、メーカーや流通など、企業の努力が前提とされています。

こちらの記事でも、個人が少しずつプラスチック使用量を減らすと共に、容器包装が欠かせない企業にもどうにかがんばってほしい、という消費者の思いを紹介しました。

記事にもある通り、企業に呼びかけたのは環境保護団体のWWFジャパンです。2022年2月、プラスチックの削減とともにサーキュラー・エコノミー(循環型経済)が実現することを目標にした「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」を発足。同時に、容器包装を扱う企業に、取り組みへの理解と参画を呼びかけたのでした。

参画企業はいずれも、2025年までに下記5つの行動指針に賛同すると共に、各社の目標(コミットメント)も発表。それにより「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」は、企業自ら主体的にプラスチックの諸問題に向けて取り組むプラットフォームになりました。

1. 問題のあるもの、および、必ずしも必要のないものの使用を取り止める。さらに環境負荷低減に向けて削減目標を設定した上で取り組む。代替素材への切り替えの際はその持続可能性を十分考慮する。
2. 可能な限り、リユース(他の素材のリユースを含む)へと切り替える。
3. 可能な限り、リユース、リサイクル可能なデザインとする。
4. リサイクル素材の意欲的な使用目標を設定する。
5. リユース、リサイクル率を向上させるためにステークホルダーと協力する。


各企業が掲げるコミットメントは、WWFのキャンペーンサイトに掲載されている

発足から1年半が経過し、参画企業は大手12社となりました(2023年8月現在)。今回の記事では、各社が掲げた2025年までのコミットメントと、専門家の意見や諸外国の事例を交えたディスカッションの場として、2023年6月に開催されたイベント「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいへの約束」の内容を振り返りながら、プラスチック削減を巡る現状をご紹介します。

目標はあくまでも「野心的」に

WWFジャパンによる本取り組みで実感できることは、とにもかくにも「企業の存在感」でした。企業と消費者はよく相対する関係に描かれがちですが、決してそうではなく、基盤にあるのは相互関係です。消費者が購入したり利用したりするから企業は製品やサービスを届けることができ、企業が製品やサービスを届けるから消費者は必要なものを手に入れたり利用したりできる。また規模の大きな企業がサステナブルなビジネスのあり方に注力していくことは、多方面に大きな影響力をもたらす。そんな基本的な企業の存在意義を思う日になりました。

イベント冒頭では、WWFジャパン、サーキュラーエコノミー・マネージャーの三沢行弘さんから、大きな期待も伝えられました。

WWFジャパンのサーキュラーエコノミー・マネージャー 兼 プラスチック政策マネージャー、三沢行弘さん

三沢さん 日本ではまだ、環境保全に関する包括的な企業目標や、透明性ある情報開示はそれほど進んでいません。だからこそ「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」では、期限を決めた野心的な目標設定と、それを公開していること自体が、多くの国内企業に向けた推進力になると考えています。

この日、イベント中に何度も上がったキーワードは「野心的」でした。目標期限である2025年までに、各社は一体どこまで目標を達成できるのか。チャレンジの難易度を言い表す際に、さまざまな立場の方が使っていたこのキーワードの意図を、三沢さんはこう説明します。

三沢さん もしも2025年までに達成できない場合、なぜ達成できなかったのか、そして今後どう対処するのか、といった説明こそが評価されるべきです。今から確実に達成できる目標を掲げるのではなく、少しストレッチして、野心的に取り組んでほしい。もしかしたら状況によって、途中で目標を変えることだってあるかもしれません。肝心なことは、各社が透明性高く、コミットメントを発表してくれたことと、それを参考にする人々がいるということです。

発表! 12社それぞれの、
プラスチック問題に向けたコミットメント

参画企業はどのくらい野心的なのでしょうか。そこで、12社のコミットメントを一気にご紹介します。(下記は一部抜粋です。全文を読む場合はこちらから。)

あなたが普段、買っている飲み物や食べ物、あるいはお気に入りの生活用品をつくる企業は含まれていますか? 気になる企業はどんな目標を掲げているでしょうか?

【サントリーホールディングス株式会社】
2023年に使用する国内のペットボトル重量のうち50%以上をリサイクル素材あるいは植物由来素材にする。(2022年の実績は46%)

【日本コカ・コーラ株式会社】
2030年までに国内の全てのペットボトルを100%リサイクル素材、または植物由来素材に切り替える。(2022年第一四半期時点で50%超)

【キリンホールディングス株式会社】
2027年までに国内のペットボトルにおける再生ペット樹脂使用比率を50%とする。

【ネスレ日本株式会社】
2025年までに、バージンプラスチックの総使用量を3分の1削減する。(2022年までの削減割合は10.5%)

【株式会社ニッスイ】
2030年までに全アイテム、容器包装プラスチック使用量を30%削減する。

【株式会社資生堂】
2025年までに100%サステナブルな容器を実現する。

【ライオン株式会社】
2030年までにバージンプラスチック使用比率を、全プラスチック使用量の70%以下にする。

【ユニ・チャーム株式会社】
2025年までに商品パッケージに使用するプラスチックを50%削減する。(基準年は2019年で、2022年は12.3%削減)

【日本航空株式会社】
2025年度までに客室・ラウンジで提供する使い捨て用品に関して、新規石油由来全廃する。(2022年度の削減実績は45%)

【Uber Eats Japan株式会社】
2025年までに全ての注文の80%において、使い捨てプラスチックの容器包装をリサイクル素材、堆肥化可能な素材、リユース素材に転換する。

【江崎グリコ株式会社】
2024年末までに容器包装・使い捨てプラスチックの25%削減(対2017年度比)、および2050年までに100%リサイクル素材へ切り替える。

【ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社】
2025年までに全世界で非再生プラスチックの使用量を50%削減する。(2022年末実績17%削減)

当日は江崎グリコとユニリーバ・ジャパンの担当者から、各社の取り組みを具体的に紹介する時間も。昨今の資材高騰を含め、プラスチック削減によるコスト高をどう工夫するか、事業戦略の中でいかに実現していくか等、現実的な悩みも共有されました。写真は江崎グリコのCRS環境部会長兼グルーブ調達部長、森田裕之さん

先進的な海外事例を知る。
日本にはまだない「PACT」とは

WWFは環境保護団体として世界100カ国以上で活動し、先進的な事例も多いため、イベント当日は海外のWWFも議論に参加。イギリスのエレン・マッカーサー財団が発端となって始動したPlastic ACTion(PACT,パクト)の活動について、アメリカとインドのWWFから紹介されました。

PACTとは、各地で進む循環型経済の実現を目指した活動のことです。各地のWWFがオーガナイズし、グローバルを含む大企業、小売業、行政機関、研究者などの専門家たちが関わっています。企業に科学的なデータや事例を提供することで、企業は安心して判断を下すことができたり、各社で同じ目標と期限を共有し、それぞれができることを話し合ったりすることができるといったメリットを紹介。また、競合他社との対立を考えなくてもいいように企業同士をグループにして、みんなで確実な成果に向けて進めるような枠組みをつくるなど、全体的な協力体制の設計についても具体的に紹介されました。

2020年に60以上の参画団体と一緒に始まったアメリカにおけるPACTの事例

NGOとして多数の企業を取りまとめながら進める政府への要請などを事例紹介されたインドのPACT

立場の異なるステークホルダーが集まり、同じ目標に向かって進んでいるアメリカとインドの話を聞きながら、日本でも同様の取り組みが盛り上がっていくことを願わずにはいられませんでした。

社会から承認される企業たれ
企業と協力しあえる市民たれ

イベント後半では、プラスチック汚染を含めて研究する公共経済の専門家として、同志社大学経済学部准教授の原田禎夫准先生からのお話がありました。

原田先生 各社個別の目標と共に、産業界共通の目標を設定して、事例を共有しあうようなコミュニケーションが大事だと思います。

普段は競合関係にあっても、花王とライオンが協働してつめかえパックのリサイクル素材を制作したことや、JALとANAが一緒にSAF(持続可能な航空燃料)の普及に取り組んだことなど、自社の宣伝にとどまらない協力と変革が非常に大切なのです。

「プラスチック問題はまだ新しい社会課題でもあるので、政府、企業、市民の協働が欠かせない」と、同志社大学の原田 禎夫准教授

原田先生のお話の中に出てきた社会的営業免許という考え方も、プラスチック問題の解決を議論する時に欠かせない考え方でした。

社会的営業免許とは、社会に貢献する企業が市民や政府から認められ、継続的に営業できる認証のこと。といっても、法的免許や許可証があるわけではなく、あくまでも市民の声やメディアなどを通して存在意義を認められている状態のことを指す言葉です。

わたしたち消費者は、企業に対して社会的営業免許を付与できるひとつの立場であり、だからこそ企業だけに任せっぱなしにしないこと。努力を続ける企業をサポートする必要もあることを痛感しました。

政府に願う、
企業や消費者の変化を促す法律や政策

最後のディスカッションでは、環境NGOであるWWFジャパン、参画企業、専門家、そして政府というステークホルダーが登壇。消費者と一緒に、多様な立場が協働する重要性について議論がされました。

原田先生 飲料メーカーがこんなに努力しているペットボトルだって、ファミリーレストランのドリンクコーナーみたいに直接マイボトルで買える自販機があったらいいな、と思うじゃないですか。でも現状だとドリンクディスペンサーを設置するためには飲食店免許が必要になるんです。

今日もたくさんの企業が必死に努力していることが共有されましたが、努力してCO2削減した企業がばかを見るような社会では良くありません。結果にもとづく認証や報酬があること、逆に、環境破壊に加担している企業にはペナルティが発生するような処置が必要でしょう。時代にあった法律や制度ができてほしいです。

企業の立場を代表してユニリーバ・ジャパン(左から2人目)、江崎グリコ(中央)、専門家として原田先生(右)、政府の立場から環境省の水谷努さん(右から2人目)が壇上へ。ファシリテーターはWWFジャパンの三沢さん(左)でした

三沢さん(WWFジャパン) プラスチック問題は非常に困難ではありますが、我々も日本に合ったプラットフォームを考えていきたいと思います。企業の皆さんが主導して社会や政府を巻き込んでもらい、プラスチック問題の解決を図って、社会的営業免許を受けて活動を継続してほしいです。

三沢さんによる締めの言葉にあった通り、それぞれの立場でやるべきことがあり、それらは絶妙に同じ目的に向かってつながっているのでした。

企業は、環境分野でも政府にはたらきかけること。消費者にも環境情報を発信し、教育の場などに落とし込むこと。政府は、企業努力を適切に評価して、政策にいかすこと。メディアは、環境問題の重要性をもっともっと発信すること。消費者は、生活のあらゆるシーンで環境意識を高めながら暮らし、企業にその声を届けること。

このループを加速度的に進めることができれば、容器包装におけるプラスチックを減らすことができそうです。ステークホルダーのひとりとして、あなたの立場で行動できることはどんなことがあるでしょうか?

(写真提供:WWFジャパン)
(編集:丸原孝紀)