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コロナ禍でも、心と体が健やかに育つ場所を。茨城県石岡市で子どもの遊び場を展開する「やさと あおぞら」に感じる“制約を外す”ということの価値

長引くコロナ禍。大きく変わった社会の中で、子どもが心も体も健やかに育つために私たち大人ができることは何でしょうか。

ここ数年は、家や学校以外で子ども同士が触れ合う機会が減り、2児の母である私自身も子どもの過ごす時間や育つ環境を見つめ直すことが増えました。

ありのままでいるってどういうこと?
子どもの生きる力を育むために、大切なことは?

これらの問いに対するヒントを探るため、私は茨城県石岡市の旧八郷町で活動する「やさと あおぞら」を訪ねました。2014年に森のようちえんとして始まって以来、活動の形を変えながら、子どもを中心に据えた外遊びの場づくりを続けています。

「やさと あおぞら」を立ち上げた一人であり、代表を務める藤田陽子さんに、この活動に込めた思いを聞きました。

フィールドが丸ごと遊び場。心のままに遊び、楽しむ。

JR常磐線石岡駅から、市街地を通り抜けて東筑波山の麓へ車を走らせること30分。山の奥へと続く細い坂道を登って行くと、「やさと あおぞら」のフィールドにたどり着きます。

山々を見渡せる見晴らしの良い場所には、セルフビルドで建てた小屋やツリーハウスの土台になる竹デッキ、鶏小屋、奥には竹林が広がっています。

右側の竹でできた屋根のある小さな建物は、子どものお家。手前にいる羊を刈った毛では、フェルトボールづくりや糸紡ぎ体験も

木のトンネルを抜けた先には、竹林と雑木林が広がります

「やさと あおぞら」の主な活動は、未就学児のための親子活動を中心とした野外活動「森のあそび場」と、自然環境と暮らしのつながりを体験する全年齢型の環境教育活動「森のまなびや」の2つ。

モットーは、思いのままに遊び、楽しむこと。子どもの手にかかれば、このフィールドにあるものはすべてが遊びの道具になります。走り回ったり、虫を捕まえたり、焚き火をしたり。一日いても、興味が尽きることはありません。

フィールドにとどまらず、散歩や沢遊びをしたり、ときには地域の他の拠点を訪れることもあるそうです。

「森のあそび場」で思い思いに土を掘ってみる子どもたち

「森のまなびや」の「ピックアップチャレンジ」は、遊び心を取り入れたゴミ拾い。点数を競うゲーム式のゴミ拾いは、ゴミごとの分解年数で、獲得できる点数が違うそう

思いのままに遊ぶ場でありながら、何もしたくない時には、何もせずにボーッと過ごすことも選択肢のひとつ。それぞれの心の声に合わせて、ありのままでいられる場所です。

地元の方々の手で復活させた茶畑を訪れたことも。開墾した地域の方々は、平均年齢77.7歳なのだとか

今を一緒に過ごす。子どものときめきを、喜び合う。

藤田陽子(ふじた・ようこ)
やさと あおぞら♪代表。環境活動家。保育士。
夫と中学生と小学生の娘の4人家族。犬・猫・鶏・羊・イモリと共に山の中腹で、牛舎跡を住居に建て替えながら暮らしている。幼い頃から、自然と動物が好きで、作ることが好き。新卒で勤めた乗馬クラブで、共に田舎暮らしを求める夫と出会い結婚。
2013年 石岡市八郷地区に家族4人で移住
2014年 仲間と共に「やさと森のようちえん~あおぞら♪」立ち上げ
2016年 代表引継ぎ
2019年 環境活動開始
2020年 環境教育活動「森のまなびや」スタート
2021年 「やさと あおぞら♪」に改名

「やさと あおぞら」が立ち上がったのは、2014年。藤田陽子さんが元教員の友人の想いに共鳴して、当時は未就学児を対象とした「森のようちえん」として二人で一緒に立ち上げました。

藤田さんは、茨城県内の乗馬クラブで働いた後、2013年に家族で八郷に移住してきました。その頃から、住居をセルフリノベーションし、鶏や羊を飼い、庭にはさまざまな果樹を植えるなど、必要なものは自分たちでつくりながら暮らしてきた藤田さん。望む子育ての場も「ないならつくってしまおう」という思いがあったのだとか。

藤田さん 家でも物でも、ほしいものや必要なものはつくれば良いという思いが、まず先にあるんです。ここでの暮らしをスタートしたのは長女が5歳、次女が1歳の時ですが、自然の中でのびのびと子育てできる場所がほしくて、思いを共にする仲間と森のようちえんを立ち上げました。

いつか小・中学生や高校生はもちろん、地域のおじちゃんやおばあちゃんも気軽に立ち寄れるような、「みんなのおうち」みたいな場所に育てていけるといいなという思いもありました。子どもの成長を喜んだり見守ったりしながら、安心して楽しく子育てをしたかったんです。

“森のようちえん”として保育活動が始まった頃の看板。子どもたちと制作したそう

ふたりのお母さんの思いから、“森のようちえん”として始まった「やさと あおぞら」。幼児が親子で過ごす活動から始まり、一時は預かり保育も行うなど、少しずつ活動の幅を広げていきます。

活動中の藤田さんは、子どもにとっての「仲間」だと言います。

藤田さん ここでの私は、教育者ではなくて「仲間」なんです。子どもと同じ目線で面白がったり、一緒に発見したりすることを、楽しんでいます。

子どもがどんなことに心を奪われて、ときめいているのか。そばにいる大人に隙間や余裕があって、子どもと一緒に感じられることって、すごく大事だと思うんです。家にいるとなかなかできないけど、こういう場所に来てみると、子どもの発見に気が付く余裕ができるし、一緒に喜ぶこともできるから。

アウトドアやキャンプをする人たちが増えているけど、同じものを同じように楽しむような、大人もその場を心から楽しんでいて、その傍に子どもの育ちがあるのはすごく良いなと思いますね。

今を楽しむこと、大人と子どもが一緒に過ごし共有することは、「やさと あおぞら」での活動の大きな軸になっています。そのために、安全を大事にしながらも、制約はできるだけ設けないようにしていると言います。

藤田さん 例えば、子どもって静かにしなさいと言われることが良くありますよね。以前、活動中に盛り上がってきて子どもたちが叫び出したことがあるんですけど、外だったし、叫んでも大丈夫な場所だから、私も乗っかって一緒に大きな声を出してみたんです。

湧き上がる衝動のままに出てきた「叫ぶ」って行動を一緒になってやってみると、そこには妙に仲間意識というか、連帯感みたいなものがあったりして。こうしてみんなが自分を解放している時、本当に良い表情をしています。

制約を外してみることで、子どもたちからは色々な感情が出てきますね。

リスクを遠ざけることだけではない。子どもが育つ環境を守るためにできること。

転機が訪れたのは、立ち上げから5年が経った頃。感染力の強い新型コロナウイルスが広がり、子どもたちも制約のある生活を送らざるを得なくなりました。

藤田さん 幼児に限らず、子どもは本来、触れ合いながらもみくちゃになって育つものですよね。触れ合うことで、人やもの、場所に対する愛着が育ち、人との関わりや距離感を学んでいく時期なのに、物理的に人との距離を取らなければいけない。さらにマスクをして、相手の表情も分かりにくい。

その不自然な環境が、子どもの心の成長にどんな影響を及ぼすのかを考えたら、この状況を放っておくことはできなかった。コロナ禍でも、「やさと あおぞら」は子どもの心と体が健やかに育つ場所にしたかったんです。

と話す藤田さん。この思いを新たにした、ある出来事が起こります。それは感染が広がり始めた初期。ウイルスに対する情報が少なく不安な気持ちを抱きながらも場を開くことの必要性を感じ、手探りで活動をしていました。参加者とも話し合い、大人だけマスクをすることにしていたそう。

藤田さん ある4歳の男の子が遊びに来てくれたんです。その子のお兄ちゃんお姉ちゃんも「やさと あおぞら♪」のおなじみのメンバーで、それこそ生まれる前からここで遊んできた、良く知っている子。

マスクをした私たちと一緒に過ごしていたところ、その子がとても不安そうで、心が閉じていると感じたんです。声をかけても、反応がいつもと違う。これはだめだと思ってマスクを外してみたら、いつもの調子に戻ったということがあって。

顔が見えて表情が伝わるって、やっぱり大事なことだと感じました。触れ合いながら愛着を持って育つこの時期に、感染のリスクを遠ざけることだけが子どもを守ることにつながるとは限らないと思ったんです。

地域の祭りが減ったこの夏。お母さんたちの思いから、参加者の理解と協力を得て夏祭りを実現。「クルミすくい」では思った以上にクルミがすくえたようです

藤田さんの周りでは小学校が辛いという子が増え、子どもが集う場ではこれまで大事だとされてきた子ども同士の触れ合いや、お母さん同士のコミュニケーションを取る機会が軒並み減り始めていきました。

どうあるべきか。リスクを遠ざけることで起きてしまったさまざまな問題を感じ始めた藤田さんは、「やさと あおぞら」のあり方を見直します。

藤田さん 感染リスクを考慮した今の社会の形を否定はしません。でも子どもには、一人ひとりに合った環境で育つ権利がありますよね。

しなければいけないことではなく、したいことに集中できる。自然の中で深呼吸をしながら、のびのびと過ごせる。「やさと あおぞら」は、すべての子どものためにそんな場所でありたいと思ったんです。

子どもの居場所を運営する人であれば誰もが一度は悩んだ感染リスク。
「やさと あおぞら」ではリスクをどう捉え、どのように活動を続けていたのでしょうか。

藤田さん 試しにオンライン茶話会も行ったのですが、外で過ごすことが好きな人たちがほとんどなので、今いち盛り上がらなくて(笑) コロナ初期の頃は、フィールドに遊びに来てくれた初対面のお母さん同士が話し込んだりと、お母さんたちの“話したい気持ち”をすごく感じましたし、この場をリアルで開く必要性も実感しました。

そこで私たちは、屋外であること、少人数であることなどから、大人も子どももマスクは必須にしないことにして、消毒用のアルコールも常備しないことにしました。参加者の判断でマスクを着用したり消毒をしたりする方もいるし、そこはお互いの考えを尊重し合おうと伝えています。体調が悪い時には、当日でも遠慮なく欠席してもらうこともお願いしましたね。SNSでこの考えを流したので、理解してくれた方が参加してくれたのだと思います。

コロナ禍でも、子どもが子どもらしく健全に育つ場所を守るために。2021年1月には小・中学生や高校生といったすべての子どもが来られるように、団体の名称から「森のようちえん」を外しました。

これに先駆けて立ち上げていた、子どもも大人も共に体験を楽しむことから学ぶ「森のまなびや」も、体験の機会が著しく減ったコロナ禍においては、子どもの育ちにとって大切な時間になっていると藤田さんは言います。

藤田さん 「やさと あおぞら」で大切にしていることのベースは、これまでと変わらないんです。五感で感じたことから学び、能動的に発見を楽しんでほしい。感じたことを言葉にして伝え、違いを面白がってほしい。それは幼児に限らず、すべての子どもにとってこれからの時代を生きる力になると思うから。

自然の中での体験や時間の積み重ねが、心を支え、生きる力を育んでくれると信じています。

原点にあった「みんなのおうち」に込める思いは、子どもだけではなく、お母さんや大人へも向けられています。

藤田さん 私たちの中にも社会にも、もう少しゆるさがあっていいと思うんですよね。例えば、出かけようとしたら子どもが物をひっくり返しちゃって間に合わないとか、急に熱を出して行けなくなったりとか。そうやって「行けなくてごめんなさい」となっても、「いいよ、いいよ。ここは大丈夫なところだから」と言える場所でありたいですね。

「やさと あおぞら」には、気軽に立ち寄れる“ゆるさ”もあります。あえて月額会費制のような形は取らず、参加したい時に申し込んで参加費を払うハードルの低い仕組みをつくっています。現在は月に約5日の日中をメインにした活動ですが、運営する難しさも抱えているようです。

藤田さん 帰属する場所ではないから、集客面など続けていく大変さは日々感じています。でも、「ここがあって良かった」「ここが心の拠り所になっている」と言ってくれる人もいて。必要とされている限り、この場を続けていきたいですね。

ゆるくつながりながら、心の支えになれる場所を目指して。子どもを中心に置いた「やさと あおぞら」は、地域に根ざした活動へと広がっています。

環境の問題と自分たちとのつながりに気づくきっかけとしたい「森のまなびや」では、生きていく環境にも目を向けて、時には社会問題について取り上げることも。憲法改正が現実味を帯びてきたタイミングでは、憲法を知るための学びの会「番外編 憲法って何だろう?」を開催しました

多様な人との関わりを、子どもの育ちの中に持ちたい

活動開始から8年。現在は少しずつ、中学生や大学生、大人の参加者も増えているようです。

藤田さん ここには、来るたびに誰かしら違う人がいます。距離感もそれぞれ違っていて、関係性が固定されていないんです。こうした環境で一緒に遊ぶことで、関係性ができて仲良くなることもあれば、ならないこともある。年齢層の幅や距離感の違う人との多様な関わり方が、子どもの育ちの中に自然にあるといいなと思っています。

ここでは学校や学童、習い事のように教える・教えられるといった関係ではなく、大人も子どもも、ひとりの人。人と人として関わることを大切にしています。

今後に込めた思いを聞くと、藤田さんはこう話してくれました。

藤田さん 枠をもっと外して、カテゴリーや境界のないところにしていきたいです。子どもに好意的な人であれば誰でも立ち寄れて、子どもを中心に置いてゆるくつながり合いながら、少しずつ違う関係性の中で、いつも何かしら面白いことが起こっているような場所を目指しています。

ワクワクする楽しい体験をすると、その過程で、意識や目の前の景色が変わったりすることがあると思うんです。そこでどんな選択をするかは一人ひとり違うけど、そのための種を蒔き続けていきたいですね。

「一人ひとり違う選択」ができるということ、それはありのままの自分でいられるということにつながります。

藤田さん 学校で何かを学ぶ時、基本的には「正解」があって、そこから外れるのが嫌だから自由に言葉を出しにくいし間違うことを恐れてしまいがち。「どうしたい?」「どう感じてる?」に対する答えが、「わからない」で返ってきたりする。「こうした方が楽しめる」「私はこうしたい」を表現できることを大切にしたい。その方が、新しいことを見つけられると思うんです。

「やさと あおぞら」は、一人ひとりの「こうしたい」「こうありたい」という心から湧き出る気持ちを、丸ごと受け止めてくれる場所なのだと感じました。

藤田さんのお話から感じたのは、「こうしたい」「こうありたい」の気持ちに素直になったり目の前のことに夢中になることは、制約の多い今こそ必要なんだなということです。

「やさと あおぞら」での時間は、子どもの記憶に残らないかもしれないし、目に見える形の力が身に付くのかどうかも分かりません。でも、自然の中で生き生きと遊ぶ子どもの姿を見ると、この体験がどこかで子どもの心を支え、健やかに育つ糧になってくれるのではないかと思うのです。私は、ひとりの母親として、制約を外した先にあるありのままの時間が、子どもの健やかな未来を育んでくれるのだと、信じたいです。

ちょっとピンときたら、「やさと あおぞら」を訪れてみませんか。子どものありのままの気持ちを、丸ごと受け止めてもらえるはずです。もちろん、あなた自身の気持ちも。

(編集:池田美砂子)

– INFORMATION –

やさと あおぞらのイベント情報

● 10/29(土) 茶畑de遊ぼう♪~みんなで茶の実摘み
● 11/3日(祝・木) 親子ゴミ拾い大作戦 ピックアップチャレンジ♪

「やさと あおぞら」の活動要予定はこちらからご覧いただけます。