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食べ物とエネルギーを同時に自給する!「ソーラーシェアリング」実践者「千葉エコ・エネルギー」馬上丈司さんが伝える、日本の危機を乗り越えるカギ

食とエネルギーを輸入に頼るわたしたちの暮らしは、とてももろい土台の上に築かれているーー新型コロナのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻を契機とした、世界的な食とエネルギーの高騰などを受けて、その実態が明らかになりました。

生きるのに欠かせない食とエネルギーをどうまかなうのか?

解決策のひとつが、今回のテーマである「ソーラーシェアリング」です。

ソーラーシェアリングとは「営農型太陽光発電」とも呼ばれ、作物を栽培する農地の上に太陽光発電を設置し、太陽の光を農業と発電の両方に活用(=シェア)する事業です。一般的な農地をつぶして太陽光を設置する売電目的の事業とは異なり、あくまで農業を持続可能にするための取り組みと言えます。

千葉エコ・エネルギー が2018年から実践するソーラーシェアリングの畑「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」

わたしたちが訪れたのは、千葉県にある「千葉エコ・エネルギー株式会社」の農園(千葉市緑区)です。同社代表の馬上丈司さんは、日本でソーラーシェアリングの取り組みが本格的に始まった当初から、各地の事業にコンサルとしても携わってきました。馬上さんは言います。

ソーラーシェアリングは、単に農地の上で発電するだけではありません。低い食料自給率やエネルギー自給率など、サステナブルとは言えない日本社会が抱えるさまざまな課題を解決するポテンシャルがあります。

今回は、エネルギーの取材を続けてきたジャーナリストの高橋真樹が、馬上さんからソーラーシェアリングのもつ大きな可能性や課題、そしてこの10年で見えてきた変化などについて伺いました。

馬上丈司(まがみ・たけし)
千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟代表理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程修了。博士(公共学)。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外においてソーラーシェアリングの実践と普及に取り組んでいる。

パネルの下でも野菜は育つ? 

まずはソーラーシェアリングとは何かを知るために、実践している畑を案内してもらいました。2018年に栽培が始まった「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」です。ここだけで、およそ1ヘクタールの広さがあります。

畑の上にパネルを並べたら、その下で作物がきちんと育つのか疑問に思う人がいるかもしれません。でも実際に畑を歩くと、青々と葉っぱが繁り、さまざまな野菜が成長している姿を見ることができます。

わたしたちが訪れた2022年7月後半は、ナスやカボチャ、サトイモにショウガなどの野菜がびっしりと育ち、ナスは収穫の真っ最中でした。

パネルの下で育ったナス

ここで農業を始めて5年目ですが、いろんな野菜をひととおりつくっています。

パネル同士の隙間は東西にも空けていて、夏も冬もどの場所にも均等に日が差すようになっています。そうすれば、パネルの下でも季節を問わず栽培できるんです。むしろ最近は夏の日差しが強すぎて、パネルの下の作物の方がよく育つこともあるんですよ。

実際、パネル下の里芋の葉は、パネルのないところで育った里芋の葉よりも元気に伸びていました。また、ナスも強い直射日光を浴びすぎると皮が厚くなり、品質も悪くなってしまいます。でもパネルの下で栽培すると、皮がそこまで厚くなることはないようです。

今年の6月には各地で気温40℃を超えるような猛暑日が続きましたが、これだけ気候変動が悪化すると、むしろパネルによって日差しをある程度さえぎった方が、作物を育てやすい環境になってきているようです。

パネルの下に植えられた里芋の葉。元気いっぱいに育っている

パネルのない場所に植えられた里芋の葉。日焼けしすぎて少し元気がない

パネルの影響といえば、うちの葉物野菜は他の農家さんよりだいたい1〜2週間くらい収穫の時期が遅れます。市場からなくなった頃にうちだけ出荷できるので、ビジネスとしてはメリットになっています。

あと大きいのは、農作業がすごく楽になることです。夏場はパネルがないと暑くて日が出ている時間はとても作業ができませんが、パネルの下は日陰なので、風さえ吹けば涼しく過ごせます。

良いこと尽くめのように聞こえますが、素人目にはパネルの支柱が作業の邪魔にならないか気になります。でも、むしろ支柱があることで育てる作物のバリエーションが増えることもあるそうです。

もちろん多少の慣れは必要ですが、トラクターが余裕を持って入れる幅と高さに設定しているので問題ありません。むしろこの支柱を利用して、何ができるかはアイデア次第です。ぶどう棚や果樹栽培もできるんですよ。

農業は同じ品種でも、年によって、出来が違ってきます。さまざまな要素が影響する中で、パネルがあるかないかという違いは作物の育ちにそれほど大きな影響はないように感じています。

支柱の間にはトラクターも悠々入る

この畑の支柱の高さは4メートル。農業機械が入るのはもちろん、人が立っても視線がさえぎられることはありません。

馬上さんはさらに、支柱に丸みをつけるなど、いびつな印象にならないよう工夫したそう。均等に並んだパネルの隙間から、作物に陽光が差し込む姿は、美しささえ感じます。光は時間の変化と共に移動し、周囲の環境に溶け込んでいきます。

ソーラーシェアリングは「農地の景観を損ねる」と言われるのですが、実際見ていただいた方には、それほど違和感がないと言っていただけます。

個人的には、壊れたまま放置されているビニールハウスなどの方がよほど景観を損ねているように思います。今後は農業用ハウスのように、農村の風景の一部になっていくのではないでしょうか。

災害時の電力供給も

畑の周囲には、強風で倒れたままになっている木々を目にしました。2019年10月に、千葉県に大きな被害を与えた台風19号の爪痕です。

当時はこの地域でも倒木が電柱をなぎ倒し、最大で8日間もの停電が続きました。それでも、千葉エコ・エネルギーのソーラーシェアリングには、いっさい被害がありませんでした。そのような災害時には、設備に蓄電池をつけていれば、非常用電源としても機能します。つまり、ソーラーシェアリングが各地に増えることは、災害対策という面でも有意義です。

至る所に2019年の台風で倒れた木が残る

畑の見学の最後に、農園を訪れる子どもたちの話をしてくれました。千葉エコ・エネルギーは、農園に子どもたちを呼び、ジャガイモやサツマイモの収穫を体験する機会を設けています。馬上さんは、子どもの頃から、農業とエネルギーをつくっている風景を、当たり前のものとして触れてもらうことが大事だと言います。

普通の太陽光発電所って、設置したあとは飽きるんですよ。いつ来ても同じ風景なので、何度も足を運んでまで見たくはなりません。しかし、ここは毎日見ても作物の成長度が違うし、光の当たり方も異なるので楽しいんです。

こういう場所に子どもたちが関心を持ってくれたら、農業に関わることが将来の選択肢のひとつになっていくかもしれません。本当はここだけじゃなくて、どの市町村にもソーラーシェアリングがあって、どこでも体験ができるのがいいんですけどね。

大学生から小さな子どもたちまで、さまざまな人が訪れるこの農園ならではのきっかけづくりが始まっています。ここからは、馬上さんが考えるソーラーシェアリングの展望や課題について伺いました。

農業を化石燃料から解放する

馬上さんは、かつて千葉大学で環境・エネルギー分野の研究をしていました。しかし2011年の東日本大震災をきっかけに、「これからは研究だけでなく事業を実践して新しい現実をつくりたい」と考え、翌2012年に千葉エコ・エネルギー株式会社を設立します。馬上さんは当時28歳で、大学発のベンチャー企業としても話題となりました。

現在は、16人いる社員の半分以上を20代、30代の若手が占めています。ソーラーシェアリングを実施している農地は、今回見学した農地を含めて、現在およそ4ヘクタールに広がっています。これは、東京ドーム1個分とほぼ同じ広さです。

千葉エコ・エネルギーはこれまで、小水力発電やバイオマス発電、洋上風力発電など、数々の再生可能エネルギー事業のコンサルタントもしてきました。それでも、事業の中心はソーラーシェアリングです。

数ある再エネ事業の中で、馬上さんが特にソーラーシェアリングに注目している理由は、エネルギー問題を超えたところにありました。

ソーラーシェアリングの畑は、時間によって太陽の当たり方が変化する

ぼくの大学での専門は、エネルギー問題と食糧問題です。ご存知の通り、日本はエネルギーも食料も自給率が極めて低い。それが現在の危機につながっています。

それを何とかしたいと考えていたときに、農地をつぶして太陽光を設置するのではなく、農業を続けながらエネルギーも生み出せるソーラーシェアリングのアイデアを知り、「これはすごい!」と直感しました。

現在、ソーラーシェアリングでつくられた電気のほとんどは、政府の定めたFIT(再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度)により売電されています。この売電価格は、設備ごとに認定され、基本的には年を追うに従い切り下げられていきます。しかし馬上さんは、ソーラーシェアリングには電気の売電価格を超える価値があると語ります。

ソーラーシェアリングは、単に売電して安く電気を供給するという話ではありません。現在の農業は、化石燃料によるエネルギーがなければ回らない、環境負荷のとても高い産業です。

また、食料自給率が40%程度(カロリーベース)あると言われていますが、海外からのエネルギー供給が途絶えれば、トラクターも、流通も動かせません。エネルギーがなければ、自給率ゼロに近づいてしまうわけです。そんな不安定な状態を、ソーラーシェアリングは根底から変える力があります。

畑の間を移動するために使う小型EV。ここで充電することができる

馬上さんは「農業を化石燃料から解放する」と宣言しています。

農地で生まれた電気でハウス栽培のエネルギーをまかなったり、EVトラクターを動かしたりすることができるようになる。そうした転換ができれば、農業そのものを持続可能にすることができるんです!

都市部の食料とエネルギーをまかなう

農地で太陽光というと、北海道のような広い土地でやった方が効率が良いのではないかと考えるかもしれません。しかし馬上さんは、むしろ電力の需要がある都市部との親和性が高いと考えています。実際、現在ソーラーシェアリング設備が最も多いのは静岡県で、2位が千葉県、そこに群馬や埼玉などが続いています。

馬上さんが注目しているのは、東京を中心とした大都市圏の近くに、意外と多くの農地が存在することです。そうした農地では、収益性の低さや農家の高齢化などから、土地を手放し開発業者に委ねて宅地にされてしまったり、農地をつぶして太陽光発電を設置したりする例が増えています。ソーラーシェアリングであれば、都市近郊の農地を減らさずに、食料を生産しつつエネルギーもつくることができます。

エネルギーが足りない状況なので、消費量が多い都市近郊でやった方が効率的です。東京23区にも生産緑地がありますし、埼玉や神奈川、千葉も含めれば、一都三県で22万ヘクタールの農地がある。つまり日本の農地の5%が、東京周辺にあるんです。

そこにソーラーシェアリングを広めれば、農地を保全できるし、世界有数の大都市圏の持続可能性をエネルギーと食料の両面から高めることになります。脱炭素も含め、社会課題の解決に複合的に対応する仕組みを築けるはずです。

大学の研究者から農業とエネルギー事業の実践者となった馬上丈司さん

都市部での太陽光発電といえば、屋根につけるだけというイメージがあります。しかし、屋根を活用した上で、農地でも電力を生産できれば、首都圏でまとまったエネルギーを供給できるようになるのです。

また、余った電力は売電するのではなく、電気自動車や蓄電池などに貯めておけるようになれば、夕方以降にも電気を使うことができます。それにより、電力逼迫を和らげたり、社会全体の再エネ比率を高めたりすることも可能です。ソーラーシェアリングを計算に入れれば、都市部でもまだまだ可能性は広がるようです。

農業を次世代に引き継ぐ

次に伺ったのは、ソーラーシェアリングと地域の関わりについてです。畑にいきなりこのような工作物ができて、周囲の方たちの反応はどのようなものだったのでしょうか?

ソーラーシェアリングは単に地面に太陽光パネルを並べて発電事業をやるのと違い、農業をやるので、地域との関わりは外せません。もちろん最初は「何だこれ?」という感じでしたよ(笑)

千葉県全体ではすでにいくつもあったのですが、地元のみなさんが目にするところにはなかったので。ただ、農業も自分たちでやりますという部分をプラスに見ていただいて、受け入れてもらいました。

パネルの間隔や種類、栽培時期をずらして収穫の違いを検証している畑。右側に黒豆、左側に落花生を育てている

すでに農業の実績も5年目に入り、千葉エコ・エネルギーには、「うちの土地も使ってほしい」という依頼が相次いでいます。すでにこの集落だけでも、借りた畑の面積は3ヘクタールに広がっています。

それだけ農業の担い手がいないということでもあります。農家さんたちは高齢だし、後継者もいないので、自分自身でソーラーシェアリングを新たに始めようという方はいません。

でもそこにわたしたちのチャンスがあります。

いままでは農業をやりたいという若者が、土地を借りることができませんでした。でもこういう事業があるならと、貸してもらえるようになったんです。

「ソーラーシェアリングなら良い」わけではない

ベンチャーを立ち上げて10年。そして、ソーラーシェアリングというスタイルが農林水産省で正式に制度化されるようになってからも9年が経ちました。その環境の変化を見てきた馬上さんは、このように評価しています。

当初は農家の収入が増えるから、これを活用して農業を続けてほしいという位置付けでした。一方で作物の栽培にどれくらい影響があるかわからなかったので、継続するための条件が厳しいという側面もありました。農業との両立については、実績を重ねたことで十分に可能であることがわかってきました。

また、2020年には国が脱炭素の目標を掲げたことで、国全体で再エネを増やさなければならなくなりました。スピード感をもって導入できるのは、太陽光発電です。農地は大都市の近くにもあるので、都市部の脱炭素化への貢献という意味での注目もされるようになってきています。

一方で、持続可能性の視点からは、危うい変化も起きています。2020年度にはFIT制度が一部改正され、小規模の太陽光発電設備(出力50キロワット以下)については、一定程度の自家消費をしないと買い取りが認められないことになりました。しかし、ソーラーシェアリングについては条件付きで自家消費の義務化を除外されています。これにより、本来は、ソーラーシェアリングの促進策として導入された制度改正が、お金目当てで参入する事業者が増えることにもつながっているのです。

収穫まっさかりのナス。丸々と育っている

ソーラーシェアリングを始める事業者の中には、農業はできるだけ手を抜いて、発電でどれだけ収益をあげられるかを考えている人も少なくありません。背景には、ソーラーシェアリング下の農業収入に比べ、エネルギー事業による収益性が大きすぎるというギャップが存在しています。

より大きいお金が動く方に人々の意識が誘導されてしまうのは仕方ない面もありますが、どうやって地域のためになる事業を増やしていけるか、という部分は課題のひとつです。

太陽光発電設備にも、地域社会に貢献するものと害悪になるものがあるように、ソーラーシェアリングであっても、地域社会で有益な存在にするためには、事業者の志や仕組みづくりにカギがあるようです。

地域に貢献する再エネを増やすには?

ここまで伺ってきたソーラーシェアリングのもつ可能性をまとめると、次のようになります。

・都市圏の食料自給率やエネルギー自給率を向上させる
・農家の高齢化、後継者不足を解消して、農地の保全につなげる
・エネルギー多消費産業である農業を持続可能にする
・災害時の地域のエネルギー安全保障につながる
・農業の気候変動対策になる
・国全体の脱炭素に貢献する

馬上さんとソーラーシェアリングの畑

いずれも、いまの日本社会で早急に必要とされている項目です。国、自治体、企業、金融機関は、こうしたポテンシャルを生かせるように、ソーラーシェアリング の拡大策を加速させる必要があるはずですが、現実にはそうなっていません。

どうしたらソーラーシェアリングを含め、地域に貢献できる再エネ事業を広めることができるのでしょうか? 馬上さんは、最大の問題は国のビジョンがはっきりしないことだと言います。

この10年、日本の再エネは増えましたが、大きな要因はFITの経済性でした。国は、将来的に産業としてどう育成していくのか、というビジョンがまるでありません。FIT価格が下がれば企業が市場から撤退して停滞してしまう状態でいいのでしょうか?

いま電力需給が逼迫し、エネルギー安全保障が危うくなっています。しかしそれは、以前からエネルギー自給率の低さのリスクを訴えてきた馬上さんにとっては、いずれ必ず来るだろうと考えていたことが前倒しになった、という程度の認識で、驚きはありません。

国や自治体は、人々の生活を守るためにも、いまこそ太陽光発電を増やすことを最優先にすべきです。批判的なことを言う人もいますが、家庭の屋根でも電気を作れる太陽光発電は、究極の節電対策と言えます。

太陽光ならキロワットアワー10円台で電気ができるのに、わざわざ海外から燃料を買って40円で売買するなんて無駄ですよね? その意味で、東京都が太陽光発電を義務化しようとしていることは、正しいと思います。

太陽光発電や風力発電は、日本のたいていの地域で事業化することができます。そのため、自治体や地域の有力企業、地銀などが果たす役割も大きくなります。しかし、多くの地域ではまだ再エネ事業の地域への貢献が十分に評価されておらず、積極的な投資が行われていません。馬上さんは、再エネ事業ならではのメリットをもっと地域のキーマンが認識することが大事と言います。

荒廃農地を整地し、白いシートを貼って太陽光を裏面でも発電しやすいように工夫。ここの土は痩せてしまっていて、10年間は野菜を育てられないが、鉢植えでイチジクやブルーベリーなどの果樹を栽培している

千葉の田舎でも、工業団地が来たり、アウトレットモールができたりした地域の人は、雇用先ができたとか、観光客が来るという理由で、両手を上げて喜びます。でもそういう外から大きなものがやってくるスタイルは、地域に主導権があるわけではないし、どこの地域でも同じようにできるわけではありません。

再エネならどこでもできるし、奪い合わないというメリットがあります。そして地域の人がつくり出すことができる。ソーラーシェアリングを含めて、もっとそういう事業を地域主導でやっていけば、地域が豊かになるという意義を広めていきたいと思います。

日本の地域振興は、どうしても外部の大きな力に頼りがちで、地域の人たち自身で何かをするという経験が乏しいのかもしれません。しかし馬上さんは、日本のエネルギー事業の草創期の話に触れ、現代でも不可能ではないと言います。

今から100年ほど前の大正時代、日本の電気事業の黎明期には、800社以上の電力会社が全国に乱立していました。そのほとんどが地元資本です。公営が150くらいで、あとは民間の人がお金を出し合って水力発電や火力発電をつくり、地域の電灯をつけたり、工場を動かしたりしました。

当時の新聞記事からは、「明かりが灯ってこれで夜も仕事ができる! 豊かな暮らしができる!」とすごい熱気が伝わってきます。いまの地域の再エネ事業にはその熱気や夢が感じられません。でもかつてできたことなので、決してできないことではありません。子どもたちの未来という時間軸で考えて、大人たちが腹をくくって投資をするのは、今だと思っています。

馬上丈司さん(左)と著者の高橋真樹

今回、馬上さんたちのソーラーシェアリングの実践とその先の展望を見聞きして最も感じたことは、まだ日本社会には希望が残されていることでした。現在、日本はさまざまな面で厳しい局面にさらされています。だからこそ、未来を切り拓くための新しい取り組みに、思い切って投資する必要があります。

しかも、まだこの世にはない新しいテクノロジーに投資するわけではありません。農地の上で太陽光発電をするという、いわばローテクの組み合わせです。

一見すると地味なこの取り組みは、だからこそ誰にでも真似ができ、容易に広げることができるというメリットがあり、その先にはとてつもない可能性を秘めています。目先のお金のために農地をつぶして開発するのではなく、数十年後の社会を見据えて持続可能な社会のためにソーラーシェアリングを実践する企業や地域が、少しでも増やしていく必要があるように思いました。

(撮影:赤坂久美)
(編集:福井尚子)

化石燃料に頼る側面がある農業を、持続可能な生産スタイルへと展開する一手にソーラーシェアリングがあるというのは、多角的にそれぞれの問題を長く深く研究されてきた馬上さんがたどり着いた一つの答え。私たちも大きな気付きをもらいました。

また、たくさんの電気を消費する首都圏において電気をつくることは出来ないのか。
その一つの好事例がこのソーラーシェアリングであるとも馬上さんのお話から感じました。

地域で一緒に生活をして、電気と作物をつくる。馬上さんの言葉には、実践者だからこその説得力があります。

ソーラーパネルの設置による発電は、今や最も気軽に事業者や一般消費者が取り入れられる仕組みです。
今回取材したソーラーシェアリングをはじめとしてさまざまな応用的活用方法が普及し、無理な開発なく拡大していくスタイルは今後更に増えていくと考えられます。

そこで次回は、急速に普及しているソーラーパネルの廃棄問題やそのリサイクルについて取り上げます。
いわゆる「2040年太陽光パネル大量廃棄問題」についても、一緒に考えていきましょう。

(Text: 生団連)

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