現在、日本全国で人口減少に伴う様々な社会問題が叫ばれています。石川県加賀市では日本全国や海外の大学生が担い手となりプロジェクトを実施する「PLUA KAGA」というワークショップを実施。地域に関わる「実践人口」を増やす取り組みを2016年から行ってきました。
関係人口から実践人口へ!地域に通う人を増やすことに加え、地域のより良い未来を作る実践者を増やしていく。そのような構想の元、PLUS KAGAは2016年に始動しました。PLUS KAGAの1年目に大学生として参加した著者から見たこの取り組みの魅力をご紹介するとともに、少子高齢化や人口減少が進む今、このモデルを日本全国に展開する重要性についても触れています。
加賀市で開催!PLUS KAGAとは何か?5年間の歩み
PLUS KAGAは石川県加賀市を舞台として行われる、大学生向けのまちづくりワークショップです。加賀市は金沢市から電車で30分ほどの場所にあり、石川県南西部に位置する人口6万人の地域。大学が無く学校の統廃合が進み若者不足が深刻になる一方で、高齢化が進んでいます。
一方で山中漆器や九谷焼などの伝統工芸をはじめとしたモノづくりが盛んであったり、山中・山代・片山津など開湯1300年の加賀温泉郷があり観光地としても知られていたりと、暮らしの魅力もたくさんあります。
PLUS KAGAではこの地域の魅力を再発見するべく、日本全国や海外の大学生を集め、数日〜1週間の日程で何度もまちづくりワークショップを実施してきました。5年間で54人が参加。このワークショップが元になり、合計30プロジェクトが立ち上がりました(プロジェクト紹介はこちら)。PLUS KAGAのワークショップの様子はYoutubeの動画をご覧ください。
大学生が実践する!立ち上がったプロジェクトの数々
PLUS KAGAに参加する大学生はまず滞在期間中に、地元の人のガイドのもとフィールドワークを通じて加賀市の魅力や課題を知ります。そして、自分が学んでいる分野や関心ごとに向き合いながら、「自分だったらこういう形で地域に関われそう」とプロジェクトアイデアを考案。最終的に地域の方々に向けたプレゼンテーションを実施し、プロジェクトが始動するという流れです。
ポイントは参加者がグループになるのではなく、一人一人が自分の強みを生かし、個人プロジェクトを作ること。個人が主体となり一歩踏み出せるのは、地域の方々のおかげです。PLUA KAGAは地域と参加者を繋ぐことで、大学生の自己実現と地域の課題解決の両方を実現できます。
それでは過去の参加者のプロジェクト例として、2人のプロジェクトを紹介させていただきます。
①よみがえれ柴山潟プロジェクト
3期生 九州大学 石本大歩さん(だいちゃん)
大学院で建築を学ぶ石本さんは、加賀市片山津温泉エリアにある柴山潟のゴミ問題に着目しました。柴山潟は美しい観光資源であるとともに貴重な水資源であり、潟の水は最終的に日本海へと流れ出します。「加賀の魅力を守るためにも、ゴミ問題に取り組みたい」という想いでプロジェクトを始めたようです。
まずはゴミの流れを可視化することで、柴山潟流域の生活が柴山潟のゴミ問題に繋がっていることを、体験的に子ども達に学んでもらう教育的取り組みを実施。ゴミに見立てた漁業用のウキを川に流し、自身も一緒に桃太郎の格好をして流されるという試みを行いました。また可視化されたデータをもとにゴミを減らす掃除方法の考案も行い、ゴミ問題の解消を目指しているそうです。
②「ないきっちん」加賀市における海外移住者の居場所づくり
4期生 芝浦工業大学 上野山波粋さん(ないき)
加賀市の外国人人口が年々増加している一方で、地域住民と希薄な関係になってしまっている現状に着目した上野山さん。国籍関係なく、加賀市に生活するすべての人々が加賀住民として過ごすことができる場を作りたい!という想いでプロジェクトを始めました。
加賀市の地域の飲食店や料理を作れる場所で、海外移住者と地域住民が一緒にご飯を食べる会「ないきっちん」を開催。海外移住者の利用に理解のある店を「ないきっちん加盟店」とし発信していくという構想もあるようです。
「私たちは外国人と共に暮らすということを今考えなければならないと思います。そして、加賀の皆さんは初めて会った時からすごく温かい人たちばかりでした。海外移住者の方にも加賀の人の温かさを知ってほしい」という言葉が印象的でした。
これらの大学生が実施するプロジェクトは、地域の公益財団法人あくるめの助成金の支援対象になることもあります。また、地域の企業が募集するアルバイトと組み合わせて滞在する、自らのプロジェクトを実施することで収益が生まれるなど、様々な資金モデルも生まれています。
「関係人口」から地方でアクションを起こす「実践人口」がもたらす未来
これまでは関係人口という言葉が注目されてきました。一方でただ単に関係人口として地域に通うだけでなく、よそ者が地域の課題を考え、主体的に関わり、まちの問題を自分ごととして受け止めるのが実践人口です。大学生がまちに入り込み「実践人口」になるというモデルが全国に広がることで地域資源が活用されて新しい未来の価値を産んでいくと考えています。
大学生なので就職したら継続されないプロジェクトもあります。しかし、一度人間関係ができれば、何かしらの形で地域と関わり続けるという大学生も多いです。仕事として加賀市に通ったり、休日にまちのイベントに出かけたり、PLUS KAGAの事務局に入ったりと個人個人のペースで実践が行われています。
2022年のテーマは「総有するまち」
今年のPLUS KAGAのテーマは「総有するまち」です。総有とは、人が生きていくために必要な物事を誰か個人が所有するのではなく、そのまちで生きる人々が共に所有し使用する考え方のこと。つまり、共有は所有者がいる一方で、総有は所有者が共同体なのです。人口減少とともに所有者がいなくなった家・店・土地・畑・山などが増えつづける中、まちにおける所有のあり方について考えます。
8月22日から9月10日までの3週間の日程で行い、ゲストレクチャー、フィールドワーク、プロジェクト実践と濃密な日程が組まれました。過去最長期間のワークショップ期間です。これまでPLUS KAGAに関わってくれた地域の人も運営に関わってくれています。
PLUS KAGAはこれからも大学生と地域を繫げながら、人口減少社会に新たな価値を生み出していきます。PLUS KAGAに興味を持っていただいた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ先|pluskaga@gmail.com
(Text:稲村行真)