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ナオミ・クラインが斬る。気候危機を止めるための提案が凝縮された『地球が燃えている』レビュー

二酸化炭素による地球温暖化が国際的な話題になりはじめたのは、1980年代後半のこと。30年以上の間にたくさんの専門家や有識者が声を上げたのも事実ですが、残念ながら2021年の今、世界各地の異常気象などに見られる気候危機へと進んでしまいました。

現代を代表する論客のひとりとして、これまでも社会の構造的な問題を鋭く指摘してきたカナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン(Naomi Klein)は、気候変動も「複雑に絡み合いながら限界点に達した社会課題のひとつ」だと位置付けて、今こそ大きな仕組みを抜本的に変える時だと伝えています。

2020年秋に発売された『地球が燃えている 気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』(大月書店)の内容をご紹介しましょう。

本書では、それぞれの社会課題が関係し合っている以上、気候変動だけを切り離して解決できるわけではないとして、いくつもの事例で説明しています。

問題の根底にあるのは、自然界や人々をただの資源かのように扱う考え方や、自然に対する人間の支配欲といった貪欲な思考だ、と指摘。例えば、自分とは違う人種、または、違う地域に住んでいることを理由に「自分たちとは違う」と切り離す「他者化」の問題性を強調的に取り上げていました。

確かに他者化の論理を当てはめると、海のそばに住んでない自分に海洋汚染は関係ない、とか、アジア人だから黒人差別は関係ない、または、性暴力は自己責任だ、といったような認識や意識さえも説明がつきます。ナオミ・クラインは、重要なのは問題を切り離さず、物事をホリスティック(全体的、総合的に)に見るフレームワークだとして、他者化などの意識を変えられる施策を具体的に挙げてもいます。

本書でも鋭い言葉がたくさんあるのですが、ひとつ、「個人ができることだけをしていても気候変動は止まらない」とはっきり言い切っている意図をぜひ感じてほしいです。

greenz.jp読者の多くもエコバッグやマイボトルなど、できることを一生懸命している方は多いので、一見すると心が痛い指摘でもありますが、ナオミ・クラインはこれまでも同様のことを言及しており、「一人ひとりの意識や行動もとても大切だ」という大前提もしっかり明言しているのでご安心ください。ただ気候危機を止めるためには、もう個人だけの成果では間に合わず、もっと大規模に組織化されたグローバルな運動、強い表現では「革命」を起こさなければいけない、と説いているのでした。

副題にもなっている「グリーン・ニューディール政策」がアメリカや欧州の先進国で勢いをつけていますが、その内容と進捗を知ると、2030年度までに温室効果ガスを46%削減(2013年度比)すると掲げた日本も、早く大きな舵取りをしなければいけないことがわかります。

でもどうすればいいの? と思いながらページを進めると、その鍵は、地域経済や、小さくも確実に循環するエネルギーシフト、そしてコミュニティの力といった、ローカリゼーションが出てきました。この辺りを読んでいると、あくまでも実行する主人公はやはり民衆であり、それを、わたしたち自身が常に意識することが問われているように感じました。

ほしい未来の姿を明確に意思表示し、現状の危機を引き起こした根本的な価値観と向き合う時がきている。本書の原題「On Fire」とは、地球の気温上昇と、話題性が高まることの意味を掛けて、世界各地の民による方向転換を鼓舞しているのでしょう。それぞれが静かに、しかし確実に、明るい火を灯していきたいですね。

『地球が燃えている 気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』
大月書店(2020/11/16)
ナオミ・クライン 著
中野真紀子 訳
関房江 訳

(協力: 幸せ経済社会研究所、東急エージェンシー SDGsプランニング・ユニット POZI)

この記事は、東急エージェンシーのSDGsプランニング・ユニット POZIのホームページで展開している「幸せ経済社会研究所 読書会レポート」から参考に構成しています。