想像ですが、今この記事を読んでくださっているgreenz.jp読者の方はおそらく、環境問題への関心が高いことでしょう。
きっと、アマゾンの森林伐採も、アフリカの干ばつも、南極の氷が減っていることだって、どこかで見聞きしたら気になりますよね。「何かできることはないかなぁ」と思う一方で、自分がもっているものを小さく感じたこともあるかもしれません。わかります、私もあります。
しかしそんな気持ちを吹き飛ばすくらい力強く、でも同時に、ものすごく柔らかいものに守られているような温かさでハッとさせられる1冊に出会いました。
2019年の秋に出版された『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』。
植物観察家の鈴木純さんが、まちの中で見かける植物たちを観察し、それぞれの特徴を紹介してくれています。
(トップ写真に並ぶクッキーは、鈴木さんの奥様・千尋さんによる「アトリエこと」の焼き菓子。鈴木さんの監修により、本書の写真とそっくりの、おいしいクッキーでした)
植物の観察というと、図鑑のような本をイメージするでしょうか。
本書は、たしかに図鑑のようにズームアップされた写真が多いものの、随所に漫画の吹き出しのような鈴木さんの声が記されています。そこには、まるで同じ地球で生きている友だちを紹介するような、鈴木さんのあたたかい目線が感じられるのです。
おはずかしながら、本書で紹介されている30〜40種類ほどの植物はどれも私にとって、どこかで見たことある気もするけど、どこだったかも思い出せず、名前も知らないものばかりでした。しかし、ページを進めながら植物の名前や特徴や性質に触れていくと、それぞれに個性的なストーリーがあることを知りました。
私が知らなかっただけで、彼らはこうしてしっかり根を生やして地球で生き続けてきたのか……と、やや熱い気持ちも覚えます。
ちょっと個人的なことなのですが、つい最近、自宅の周りに、特徴的な葉っぱとあざかやなピンク色の花が咲き始めました。「あれ。こんなお花、今までも咲いたっけ?」と気になったので、もしかしたら載ってるかな、と改めて本書を開いてみました。
すると、ありました! 名前は「ムシトリナデシコ」、咲くのは初夏で、茎に特徴があることがわかりました。不思議なことに、さっきまでの初対面から少し、距離が縮まった関係性になれたような気がしてきます。
「雑草という名の草はない」と聞いたことがありますが、本当にその通り。名前を知るって、精神的な余裕をもたらす大切なプロセスなのですね。
鈴木さんは、本書のコラムでこんな思いも吐露されていました。
人は月まで行けるようになったが、地球の中のことはまだほとんど知らないという。同じように、ネットで世界中のことをすぐに知ることが出来るようになったが、私はいまだに庭に生きる草や虫たちのすべてを知っているわけではない。外に向かっていく無限があれば、内に向かっていく無限もあるのだと気が付くこと、自然と触れ合う時間を過ごしていると、大事なことに気が付くきっかけをもらうことが多くある。
まさにこのくだりにこそ、ハッと気づきを受けたのです。
地球の裏側の出来事もリアルタイムに得られる時代ですが、私たちの身体は、暮らしている地域に属していて、どんなに遠くまで思いを飛ばそうとも、肉体の存在場所はひとつ。鈴木さんの言葉に、玄関から一歩出ればまだまだ未知の世界が広がっていることを実感しました。
小さくて、ものも言わぬ存在だけど、目には映るし確実にそこにある足元の世界を、もっとたくさん知りたい。知ることで得られるつながりを、増やしていこうと思います。