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私たちは毎日タネを食べている。映画『たねと私の旅』が教えてくれた、行動を起こす理由

世界中の人々の暮らしを強制的に変えた、新型コロナウイルスと、感染防止のための行動自粛。

様々な価値観が飛び交うなかで聞こえてきたことは「外食できないから料理をするようになった」「レシピをよく調べるようになった」など、食に関する意識や行動の変化です。

小麦粉やイースト菌、ベーキングパウダーが売り切れたことが報道されていましたが、「初めてパンを焼いてみた」「家庭菜園をはじめた」と、食べものを「つくる」楽しみを覚えた人も多いのではないでしょうか。

今日は、母親の手づくりの食で育ち、食べることが大好きなひとりの女性が撮った映画をご紹介しましょう。2017年にカナダで制作されたドキュメンタリー『たねと私の旅』です。

監督は、ナレーションを通してこう語りかけます。

My mom always used to say that the great recipe doesn’t start in kitchen, it’s starts outside with seeds in the ground.(母はよく、おいしい料理はキッチンで生まれるんじゃないわ、土の中で、タネから始まっているのよ、と言ってました)

食事をしながら、口に運んだお野菜が元は「タネ」だった、と意識したことはあるでしょうか?
また、お米や大豆やトウモロコシなどは「タネそのもの」であり、わりと頻繁に食べる食材である一方、畑や田んぼで過ごした経験や身近にそうした環境がない限り、普段の食卓で「タネ」を意識することは、あまり簡単なことではありません。

この映画を制作した、カナダ・オンタリオ出身のオーブ・ジルー監督は、家庭菜園を楽しむ母親から「野菜はタネから育ち、またタネをつくる」という循環を教わりながら育ちました。そのため、タネを操作する「遺伝子組み換え食品」に対して様々な疑問を覚えるようになったのです。

疑問に答えてくれそうな誰かと話そう、とカメラを回し続けたことで誕生したこの映画は、監督自身が感じた疑問や不安感を中心に進みます。とても素朴でシンプルな問いなだけに、気持ちも重ねながら観る人も多いことでしょう。

私たちはタネを食べている。©たんぽぽフィルムズ

遺伝子組み換え食品については過去にもたくさんのドキュメンタリー映画がつくられ、greenz.jpでもこれまでに度々ご紹介してきました。もしかしたら、遺伝子組み換え食品を巡る業界の複雑さに苦手意識をもったり、知らなかった世界に言葉を失って、眉間にシワを寄せた経験がある方もいるかもしれません。

でもこの映画では、前途した通りオーブ監督の素朴な「なぜ?」を軸にして、アニメーションなども多用しながらわかりやすく進みます。さらに、随所で監督がつくる素晴らしい手料理にも目が奪われます。資料を読んだり考えごとをする合間に、丁寧につくって食べる彼女の手料理は、小麦粉と水と卵で麺からパスタをつくったり、お母さんが教えてくれた伝統料理を再現したりと、細部に彼女の「食」に対する愛が現れているのです。

リズミカルに料理をするオーブ監督。日本限定の作品パンフレットは、タネに関する情報と共に、劇中のお料理のレシピも紹介されていて、学びもおいしさも得られる充実の1冊です。 ©たんぽぽフィルムズ

監督がまだ幼かった頃の美しい家庭菜園や、家族団らんの様子など、思い出の映像もたくさん使われていて、遺伝子組み換え食品の映画を観ながら、眉間にシワどころか、溢れる愛に口元がゆるんで胸がいっぱいになったのは初めてのことでした。

本作は、新型コロナウィルス感染防止の自粛期間に限りオンライン配信をしていましたが、通常は「自主上映会」用の映画作品です。どこかの映画館で公開されるのではなく、誰かが自発的にこの映画をみんなで観ようとアクションすることで、他の人にも映画を観る機会ができるのです。

上映会の開催内容については現在、自粛要請に伴って変更の可能性もあるため、ご興味ある方は配給元である「たんぽぽフィルムズ」へ直接お問い合わせされてみてください。

食はみんなの毎日のこと。
どんな食生活が理想なのか、自分の望む食のあり方はどんなものなのか。この映画を見る前と後で自分自身に問いてみるなど、変化のきっかけとなりますように。

映画『たねと私の旅』
監督:オーブ・ジルー
配給・宣伝:たんぽぽフィルムズ
原題:MODIFIED
2017年/カナダ・米国・フランス
英語・仏語/87分/カラー
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