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コミュニティが人を幸せにする。「OSIRO」のサービス開発から見えてきた、人と人がつながる大事な要素。

人はどうしたら幸せになるのか?
この問いに答えを見つけた人がいます。

心理学者のロバート・ウォールディンガーがTEDスピーチで、ある研究結果を発表しました。75年にわたって約700人を追跡調査し、何が私たちを健康で幸せにするのかを調べた結果です。

それは、愛情のあるよい人間関係があること。よいコミュニティに属していると、人は幸福を感じるのです。逆にコミュニティとのつながりが少ないと、健康に悪影響が出たり、寿命も短くなりやすいとか。

では、どうしたらコミュニティといいつながりをつくれるのでしょうか。

そこで今回はコミュニティプラットフォームを提供する「OSIRO(オシロ)」代表の杉山博一さんにお話を伺いました。

オンラインでコミュニティを運営?
実際に会わなくても、コミュニティは活性化するのだろうか?

取材前はそんな疑問を抱いていましたが、すべてクリアになり、それどころか人生の豊かさにまでつながるお話を聞くことができました。

まずは「OSIRO」とはどんなサービスなのか、そこから紹介していきたいと思います。

杉山博一(すぎやま・ひろかず)
オシロ株式会社 代表取締役社長
1973年東京生まれ。元アーティスト&デザイナー。世界一周、アーティスト活動を経て、2006年日本初の金融サービスを2人で創業。その後ニュージーランドと東京の二拠点居住を経験した後、日本をアーティストが食べていける国にするために「OSIRO」を開発。2017年オシロ株式会社として法人化。

アーティストにお金とエールを送るサービス

「OSIRO」とは、月額制のファンコミュニティをつくることのできるサービスです。大きくわけてグループ、チャット、ブログ、イベントの機能があります。

たとえば、漫画『宇宙兄弟』の作者・小山宙哉さんの「コヤチュー部オンライン部室」は、「宇宙兄弟が好きすぎて夢中になっている人が集まって、宇宙兄弟“で”トコトン遊んだり、宇宙兄弟のさらなる楽しみ方を考えたり、試したりする場所」。

入会すると、メンバー限定で見られるコンテンツやイベントを楽しむことで宇宙兄弟をより深く、より楽しめることはもちろん、全国の宇宙兄弟が大好きな仲間と出会え、大好きな人同士で部活動のような交流ができるのも特徴です。

「コヤチュー部オンライン部室」のコンテンツ。

もともと、「OSIRO」はアーティストを応援するツールとしてはじまりました。

日本とニュージーランドを行き来しながら暮らしていたときがあるのですが、そのときに日本を外から客観的に見て、このまま日本は生き残っていけるのか? と考えたんです。

たとえばヨーロッパは経済大国から一歩卒業して、クリエイティブ産業に注力し、芸術文化大国にシフトしている。日本もそうしないと生き残っていけないと思いました。

一方、日本では芸大、美大を卒業してアート活動をしているアーティストはたくさんいますが、それだけで食べていくことができず、30歳を機にやめる人が多いそう。

日本も芸術文化大国を目指すべきなのに、アーティストの卵が諦めてしまうのは大きな損失です。そこでアーティストたちが続けていく仕組みをつくらないといけないと考えました。

自身も20代のときに絵を描いたりアート活動をしていたという杉山さん。

アーティストが続けていくには、お金よりもエールが大事だと痛感していました。お金はなにかバイトをすればまかなえるけど、応援がないと続けていけないんです。孤独だし、不安もいっぱいだし、このままやっていていいのかなって悩むこともあるので。そんなときに、親身に寄り添ってくれる、応援団のような存在が必要でした。

こうして、毎月、アーティストにお金とエールを送る仕組みとして「OSIRO」を考案。

アーティストは食べていければ続けられる、続けられればいつか芽が出る、芽が出れば100年後も残る作品ができるかもしれない。そう信じています。

「OSIRO」のオフィスにはアート作品がたくさん飾られていました。左の女性の木彫作品も、現役の芸大生が制作したものを杉山さんが購入したそう。

コミュニケーションを高質化することで、人と人は仲良くなる

アーティストのためにはじまった「OSIRO」ですが、ファンどうしがつながるコミュニティの場にもなっています。

「Slack」というチャットツールはビジネスコミュニケーションを効率化するサービスなので、無駄を省いたUIになっていますよね。

僕らの場合は、コミュニケーションを効率化というより「高質化」したいと思っています。質を上げたいんです。アーティストとファンをつなぐサービスだけど、ファンとファンが仲良くなるために何ができるかも考えて開発しています。

たとえば「吹き出し機能」。チャットのようなテキストメッセージを、6種類から選んで吹き出しに文字を入れ、感情を表すことができます。

これってすごい無駄だし、なくてもいいけど、コミュニケーションが豊かになって楽しいんです。効率化に寄せていたら出てこないアイデアですよね。

吹き出し機能の例。テキストよりも感情的に伝わりますね。

新しく入った人には「バディ機能」が味方になります。

コミュニティって、古いメンバーと新しいメンバーが交わることがすごく難しいですよね。学校を転校した経験がある人はわかると思うのですが、転入するときってクラスのみんなは仲いいけど自分だけアウェーで、緊張しますよね。僕も経験あるのですが。

でも先生が「山田さん、転入生にいろいろ教えてあげて」と指名してくれたら、山田さんを中心に友達が増えていく。それが「バディ」だと思っていて。「バディ機能」は新しく入ってきた人がバディに1ヶ月間、なんでも聞けるという仕組みです。

また、「盛り上がり通知」もユニークです。

知らないあいだに学校の廊下で友達が盛り上がっていたことってあるじゃないですか。知っていたら僕も輪に入りたかった! っていう。そこで、チャットが盛り上がっているアルゴリズムを開発して、通知されるシステムをつくりました。クリックするとすぐその場に飛べるようになっているんです。

「OSIRO」には、こうした「おせっかいのぎりぎり」の仕組みが散りばめられています。そして人と人が仲良くなるためのコミュニケーションをシステムにどう落とし込めるかを日々考えているそう。

社員は半分がエンジニア、半分がコミュニティプロデューサーという職種で、実際にコミュニティを運営したりサポートしたりと、現場で得た経験を活かしてサービスを開発しています。

さらに、ユーザー側からも「こういう機能があったらいいよね」と「OSIRO」に提案すると新しい機能が実装されることもあるというのだから驚きです。

Facebookに「ここ変えてよ」と言っても変わらないけど、「OSIRO」はユーザーと一緒につくっていくことを大事にしています。

立ち上げるときも運営者とともにコミュニティ設計をしたり、準備期間から伴走してくれるので、それぞれの目的に合ったコミュニティをつくることができるようです。

人と人が仲良くなるために

杉山さんは「OSIRO」をつくっていくうえで、人と人はどうしたら仲良くなるのか? という問いと常に向き合っています。

そのひとつに、興味・関心などの「共通項」が重要だといいます。

自分の好きな食べ物とか好きな音楽とか様々な興味・関心を入力できるのですが、それが可視化されていて、メンバーと共通項が何個あるかわかるんです。人間って共通項があると言われたほうが相手に関心を持つようになるし、共通項が3つあると人は仲良くなれるそうです。

この機能が威力を発揮するのは、イベントに参加するとき。イベントに誰が来るのかなって見たときに、参加者のなかに共通項が10個もある人がいたら「この人に声をかけてみよう」と思うじゃないですか。誰とも話さないままイベントが終わったら去っていく、ということは多々起きていると思うんだけど、それが防げます。

こうした痒いところに手が届くさまざまなサポートは、杉山さんの実体験が影響しているようでした。

僕はいじめられっ子で、友達がいなかったんですよ。アート活動しているときも孤独だったし。じつは、1回も会社に就職したことがないんです。満員電車に乗って、毎日同じ時間に通勤するのなんてできないと思っていたから。

それなら絵を描いて暮らしたいと思って、絵を描いていたけど、食べていけないからフリーランスでデザインの仕事をしていました。そのときは家でずっと誰とも話さないで仕事していて。だから孤独の時間が長かったですね。32歳で会社をつくるまで、ほとんど孤独でした。

なので根本的に「孤独」はよくないと思っていたけど、実際に1日にタバコを15本吸うくらいの害があるらしいです。いま、ヨーロッパなどでは「孤独」が課題になっているそうですよ。

2018年、イギリスでは「孤独担当大臣」を設置するなど、ヨーロッパを中心に孤独問題が表面化しており、どうやって解消するかが大きな課題となっています。

僕らは別に「OSIRO」で孤独を解消しようと思っていなかったけど、僕の孤独の体験が活かされているみたいです。

全社員の名刺の表は、名字が「御城(おしろ)」に。「社員は家族という想いを体現しています。本当にみんなで改名したかったけど、さすがに社員に止められました(笑)」(杉山さん)

安心・安全なつながりが経済を生む

日々進化している「OSIRO」ですが、経済圏も備わってきました。
オンライン上でのアクションに応じてポイントが貯まる「ポイント機能」です。

スタンプでリアクションしたりブログを書いたりするとポイントが貯まる仕組みで、スタンプで「ありがとう」って伝えるだけでも貯まります。

たとえばグリーンズが「OSIRO」を使っているとして、このイベントは「1000グリーンズ」を持っている人しか参加できないと設定します。すると、グリーンズの有料コミュニティに入っているだけでも熱量が高いのに、さらに「1000グリーンズ」を持っているって、相当好きってことだよね。相当好きな人たちがイベントで出会うと、仲良くなれるんです。

そういうふうにイベントにも使えるし、あとはスキルとかモノをポイントで交換することも可能です。実際に、ヨガを教えている人にポイントを使ってヨガ指導をお願いした人もいました。

なるべくポイントをあげることを簡単にしたいという思いから、絵文字リアクションのなかに入れ、スタンプと同じ感覚でポイントを送ることができます。

じつは「OSIRO」をつくる前に、「I HAV.(アイ・ハヴ)」というサービスをつくっていた杉山さん。

そのときお金をショートカットする世界がつくれればいいと真面目に思っていて、お金を介在しないで人と人がコミュニケーションできるサービスをつくりました。たとえばイラストレーターがイラストを描いたら、食べ物や着るものと代える、というような。でも「ギブする人なんていない」って非難されて、サービスが回らなかったんです。

当時「I HAV.」でやろうとしていたことがいま「OSIRO」でできているのはうれしいですね。

「I HAV.」がうまくいかなかった理由は、「安心・安全が担保できていなかったから」と振り返ります。では、安心・安全を確保するには、何が必要なのでしょうか。

金額の大小に関わらず、有料っていうハードルは一役買っています。あと信頼できる人がいることも大きいですね。「OSIRO」を使ってくださっている「SUSONO」でいうと、佐々木俊尚さんと松浦弥太郎さんが旗振り役で、まったく知らない人だと不安だけど、二人の知名度には信頼を感じますよね。

「SUSONO」は佐々木俊尚さんと松浦弥太郎さんに加えて「灯台もと暮らし」と「箱庭」のメディアが運営。

現在「OSIRO」を利用しているのはアーティストだけでなくコンテンツホルダーも多いそう。特に雑誌は親和性が高いとのこと。

雑誌って細分化されているから偏愛している人が読んでいるけど、これまで読者がつながることはほとんどなかった。たとえば「ベストカー」という車の雑誌の読者が「OSIRO」を利用したコミュニティでは、車が大好きな人同士仲良くなっています。

確かに、近くで自分と同じ趣味を持つ人がなかなか見つけられなくても、いまはインターネットを介してつながることができる時代。広く浅くの無料SNSではない、狭く深い有料型の「OSIRO」を利用したコミュニティに参加すれば、同志と出会うことができそうです。

コミュニティによって幸福度が上がる

もともとやろうとしていたことは、日本を芸術文化大国にするために、アーティストをエンパワーメントする仕組みをつくること。つまりコミュニティはあくまで手段である、と杉山さんは強調します。

コミュニティをつくるのが目的ではありません。コミュニティをつくって活性化された状態が価値共創の場になり、そこで初めてオーナーがやりたいことが達成されます。

モノって必要な分だけつくればいいのに、本も雑誌も読む人以上につくって、あまったら捨てているんですよ。食べ物もそうですよね。でも会員が千人いて、千人のためだけに雑誌を刷る、というように無駄がなくなったらいいなと思います。あと受注生産もできます。自分が商品開発に携わったものだと、購入したいという人が出てきます。

コミュニティって、ものすごいパワーがあるし可能性を秘めているので、アーティストやクリエイティブ産業をエンパワーするために役立てばいいなと思っていて。先にもあったように孤独問題も解決するし、職業も年齢も関係ない自分の「好き」でつながるコミュニティが増えれば、日本人の幸福度も上がると信じています。なにより、人と人が仲良くなったほうが、人生はより豊かになりますしね。

「毎日会社に行くのが楽しくて仕方ない!」と語ってくれた杉山さん。インタビューは、「コミュニティの教室」を運営する佐藤大智(右)と長田涼(左)とともに伺いました。

アーティストが活動を継続できるために、という思いからはじまった「OSIRO」ですが、ファンとファンをつなぎ、熱いコミュニティに育っています。

もっと杉山さんのお話を聞きたい人や、コミュニティ運営について学びたい人は、来年1月からはじまる「コミュニティの教室」に参加してみませんか? 杉山さんも講師に迎え、コミュニティについて深めていくゼミです。みんなの人生がより楽しくなる、そんなコミュニティがここから生まれていくことを願っています。

– INFORMATION –

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2018年からスタートした、コミュニティを学び合う場「コミュニティの教室」。
WEBマガジン「greenz.jp」としても”ど真ん中”と言えるテーマが、この”コミュニティ”です。今、あらゆる方面で広がっている”コミュニティ”というキーワード。そのコミュニティで活躍する実践者と共に学び、本質を探求するのが「コミュニティの教室」となります。
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