ラ・ロシェル(観光案内書 PDF 6MB)は大西洋に面した静かな街で、フランス人には人気の観光スポット。車などの環境公害を抑えるための実験都市としてヨーロッパで最初に選ばれ、環境にやさしい町づくりを実践している。ストックホルム、ミラノなどを始め、ヨーロッパ7都市で移動や物資の流通に電気自動車を使用するインフラ整備を実験的に模索する「ELCIDIS」プロジェクトに参加しています。人口13万5千人のこの街は、このプロジェクトの一環として電気自動車を日常的に使用。最初に電気自動車がこの街に登場したのは1986年で、現在では235台の電気自動車が導入されて、町中を走りまわっています。環境の改善だけでなく、渋滞解消にも一役買っていて一石二鳥。
この街では1997年9月9日に初めて実施された「ノーカーデー」のおかげで、人々の意識も向上。ローラースケート、自転車、スケートボード、そして徒歩……それらをつなぐ公共機関の乗り物は電気によるシャトルバスや乗り合いタクシー。街の人は出来る限り街の乗り物を利用して自動車を使わず快適に生活し、自転車やローラーブレードなどでの通勤もよく目にします。けれども、自転車通勤や徒歩通勤を可能にするのは、街の道路整備など環境基盤の取り組みが大きく影響しています。自転車専用道路の建設、トラムの建設なども現在進行中。
- 電気消防車の試作品
- 燃料電池と電気自動車の利点を組み合わせたタクシー
さらに面白いのは、電気自動車を気軽に借りられるという点。駅、大学、コミュニティーセンター、スポーツセンター、ショッピングエリアなど7つのステーションから24時間いつでも車を借り出せます。借りるには予約が必要で、料金は月々の契約でいくらの料金を支払うか、使用した分だけ支払うかを前もって決めておきます。使用したい人はステーションに行って、緑のランプがついている充電済みの車を探し、特殊なカードを差し込むだけ。カードはパスワードで動作し、使用し終わった後もパスワードを使ってドアをロックします。車はどのステーションに返してもよいため、公共機関から公共機関の移動にも最適。電池は平均80kmごとに充電が必要ですが、電池の性能が向上しているので、街で乗るぐらいなら、平均2〜3日に1度の充電で充分なようです。街のあちこちには充電ポイントがあり、家での充電も可能。100km分の充電には2ユーロ(約300円)しかかかりません。
で、この街以外のフランス国内ではどうかというと、正直私の住む街では電気自動車には頻繁にお目にかかったことはありません。しかし、フランスの電気自動車への取り組みは古くからあったようで、浸透こそしなかったものの、使用されていない電気自動車専用充電ステーションが私の街周辺にもあり、その断片をうかがわせます。
ラ・ロシェルの取り組みを見ていると、街のアプローチ次第で電気自動車の導入はそんなに難しくないように感じます。2005年にはフランス郵便局も電気自動車を採用、パリとボルドーで大活躍しているようです。電気自動車の先駆者PSAプジョー・シトロエン社では、燃料電池と電気自動車の利点を組み合わせた新種のタクシーを開発。アイドリング状態が多いタクシーが電気になれば、効果も高いと思われます。燃料電池の性能も向上し、それに伴いコストもだんだんと安くなってきています。さらに最近の取り組みでは特殊なインフラを必要としない電気自動車を開発する傾向にあります。PSAプジョー・シトロエン社の電気消防車「ファイヤーカー」の試作品も完成、2010年から2020年にかけて普及させる展望とのことです。そんなエコなタクシーや消防車が世界中で走るようになるのももうすぐかもしれません。
写真提供:
www.hycar.de
http://www.hycar.de/cars/peugeot-taxi.htm
car design news
http://archive.cardesignnews.com/
autoshows/2002/paris/preview/peugeot-h20/index.html
ライタープロフィール
宮戸かおり(みやどかおり)フランス、ビアリッツ在住
翻訳通訳業、フリーライター。翻訳書には『トロールと奇跡の指輪』(Erik Arpi原作)、MMORPGダークエイジ・オブキャメロット、iTunes Music Storeなど。その他日本語媒体でも執筆中。www.kaorimyatt.com