日に日に暑くなり、熱中症に注意が必要な季節がやってきました。水分補給のために、マイボトルを持ち歩いているという人も多いのではないでしょうか。
でも、全部飲み切ってしまったら? 街中や商業施設などに給水スポットがあれば便利なうえ、プラスチックごみの大きな原因のひとつであるペットボトル飲料を買うのを避けられます。
水道水を飲むことで使い捨て容器の使用を減らし、環境負荷の低減のために活動してきた「水Do!ネットワーク」が、マイボトルをもっと持ちたくなるような取り組みをスタートさせました。生活の身近なところから今すぐ始められる、環境のための第一歩がここにはあります。
ペットボトル飲料に潜む環境負荷
10年前に国際環境NGO、「FoE JAPAN」が立ち上げた「水Do!キャンペーン」は、2014年より賛同団体で構成する「水Do!ネットワーク」が中心となって、活動を大きく展開しています。
特に力を入れているのは、水道水を飲むことで環境負荷を低減すること。
なぜ水道水を飲むことが、環境によいのでしょう? なぜなら、水道水は身近な水資源のひとつであり、水道水に関心を持ち、利用することは、地域の水はもちろんその先にある海の環境を意識することにつながるからです。
また、ペットボトル入りのミネラルウォーターではなく水道水を飲むことそのものが、環境負荷を低減させます。なぜなら、ペットボトル入りのミネラルウォーターは、容器の製造、飲料の輸送、冷蔵販売、そしてリサイクルにいたるまでの過程でたくさんの資源とエネルギーを使い、二酸化炭素を排出するからです。
さらに最近は、プラスチックによる海の汚染の問題が非常に話題になっているので、プラスチック製の使い捨て容器の使用を減らすべきと考えている人は多いでしょう。
ペットボトル入りのミネラルウォーターを飲むと、水道水をマイボトルに入れて飲む場合と比べて、国産でも約30倍近く、輸入のものであれば約50倍の二酸化炭素を排出することになります。気候変動が問題となっている今、無視できない数字です。また、マイボトルに水道水を入れて持ち歩くことで、海のプラスチック汚染や気候変動といった、地球が直面する大きな環境問題へ取り組むこともできるわけです。
「水Do!キャンペーン」では、国や自治体の公的な会議で使い捨て容器入りの飲料を提供しないように働きかけたり、イベント会場に給水コーナーを設置することを進めたりしてきました。さらに給水スポットを増やすことで、より多くの人が使い捨て容器入りの飲料を買わずにすみ、さまざまな人が共に水を飲むことで新たなコミュニケーションが生まれることをめざしています。
Refill Japanがめざすこと
そんな「水Do!ネットワーク」は、5月から「給水スポット」を増やし、利用を広げる活動のプラットフォーム「Refill Japan」をスタートさせ、5月29日には、日比谷図書文化館スタジオプラスにて、キックオフイベントをおこないました。
街中の水飲み場、給水機やマイボトルに無料で水を入れてくれるお店など、給水スポットを増やす活動は、海外でも広がっています。ニューヨークでは、毎年夏になると、水道局の給水ワゴンが街のあちこちに出動し、市民や観光客の喉を潤しています。パリ市内には、1,200か所以上の水飲み場が設置され、中には炭酸水が出るものも。
イギリスのブリストル市で、街中のカフェなど多くの場所で給水できるようにする「Refill」キャンペーンが始まると、さらにイギリスの多くの都市に広がり、現在ではイギリス国内に2万もの給水スポットが設置されているそうです。
「Refill Japan」が提案する給水スポットは、誰でも無料で利用できること、水道水が飲めることが大原則です。給水スポットのスタイルは、多様なかたちを想定しており、いわゆる水飲み場、冷水機、ボトル給水機などのインフラだけでなく、マイボトルに無料で水を入れてくれるカフェなどのお店を増やすことも推進します。
新たに給水インフラを設置するにはコストも時間もかかりますが、カフェなどの既存のインフラを活用することでより簡単に給水スポットを増やせます。
お茶を飲むためにカフェに入れば無料で水は出て来ますが、お店を利用しない人が、マイボトルに給水するというのは、少しハードルが高く感じられるかもしれません。けれども、既に実践している地域があります。
イベントに登壇し、香川県でのユニークな事例を紹介してくれたのは、「NPO法人アーキペラゴ」の森田桂治さんです。森田さんは、瀬戸内海でのビーチクリーンアップで大量のペットボトルが見つかったことから、ペットボトル飲料を買わないといった新たなライフスタイルの実践をめざすことにしました。
そこで思いついたのが、讃岐うどんの本場、香川ならではの取り組みです。市内にはたくさんのセルフ形式のうどん屋があり、県外の人が想像する以上に地元の人たちはうどん屋に頻繁に足を運ぶそうです
セルフ形式なので、水やお茶などをセルフで汲める設備もあります。これを解放し、給水スポットとして活用するようにしたのです。現在給水スポットは45ヶ所に増え、そのうち4割がうどん屋で、カフェなどほかのお店や施設も給水スポットになっています。
セルフ形式のうどん屋がたくさんあるという、地域ならではの特色を上手く活用したアイデアですが、ほかの地域でも応用できることがありそうです。
「Refill Japan」では、給水スポットを増やすとともに、給水スポットをスマートフォンで検索できるマップを制作します(7月末公開予定)。これがあれば、目の前の自動販売機やコンビニエンスストアを利用する前に、近くの給水スポットを探すことができ、環境問題に取り組むだけでなく、節約にもつながるかもしれません。
水道水を飲む習慣を広げるために
さらに、既存のインフラを活用するだけでなく、新たに給水器を設置することにも取り組んでいきます。
イベントでは、日本初となる水道直結式の仮設給水器がお披露目されました。シンプルながら、直接飲むことも、マイボトルなどに給水することもできるデザインのこの給水器は、水道管さえあれば容易に設置できるそうです。人が多く集まる機会に仮設の給水スポットとして活用すれば、夏の屋外イベントなどで大活躍することが想像できました。
6月1、2日に代々木公園でおこなわれたエコライフフェアで実際に使用してみたところ、300人を超える人たちが利用したそうです。
これからは街中で短期間設置して実証実験をおこなうとともに、常設インフラへとつなげていきたいと考えているそう。実際に給水スポットがあることの利便性を実感する人が増えれば、「Refill Japan」の活動に協力する人はもっと増えていくことでしょう。
さらに、自治体や商業施設などにも働きかけ、常設の給水スポットの導入を進めていきます。既にサンフランシスコでは、すべての新設ビルに給水インフラの設置が義務づけられています。日本ではまだ給水スポットを目にする機会は少ないかもしれませんが、取り組みが始まっている地域もあります。
奈良県生駒市の上下水道部総務課の吉本直樹さんは、「生駒のおいしい水プロジェクト」をイベントで紹介してくれました。市内に協力店舗をつのり、給水スポットを増やすだけでなく、6ヶ所の公共施設に給水器を設置、Google Mapを活用して、給水スポットの位置がわかるようにもしています。
各種イベントで利き水の体験をするなど、水道水の利用促進を進める背景には、環境への配慮だけでなく、水道事業を取り巻く全国的な課題があります。
人口減少により、給水収益の減少が見込まれる今、経営状況が悪化すれば、将来的に水道料金の値上げを引き起こしかねません。水道水の利用を促進できる給水スポットを増やす取り組みは、市民サービスを安定して提供するためにも、自治体にとって大きな意味のある取り組みではないでしょうか。
地域にあるお店を活用したり、水道管さえあれば設置できる給水器を活用したり、商業施設が給水スポットを設置するなど、さまざまなアイデア次第で、自動販売機やコンビニエンスストアがこれだけたくさんある日本でも、ペットボトル飲料ではなく水道水を飲む習慣が広げられる可能性がおおいにありそうです。
マイボトルで水道水を飲もう!
水道水の安全性に関する質問がイベント参加者から出たように、不安に感じている人もいるかもしれません。けれども、「Refill Japan」に応援メッセージを寄せた、水ジャーナリストの橋本淳司さんは、水道水の品質検査基準の厳しさを説明し、水道水が安全であることを教えてくれました。
日本は、安全で安心な水道水が安価で手に入る国です。一人ひとりが生活に密着している“水”について意識し、積極的に利用することで、環境負荷を大幅に減らすことができます。
「Refill Japan」は、2021年度末までに、都心部や繁華街、観光地の給水スポットを5000か所以上登録する目標を掲げています。さらに参加地域を募り、給水スポットをつくるためのワークショップを開催したり、マニュアルを提供したりしていくのだそう。
「Refill Japan」の活動が実を結ぶかは、どれだけ多くの人が利用するかにかかっています。気候変動やプラスチックごみによる海の汚染など、私たちの便利な暮らしによって発生している環境問題は悪化の一途をたどり、先送りは許されない状況です。今すぐできることのひとつとして、この夏はマイボトルに水道水を入れて、出かけてみませんか?
(撮影: 秋山まどか)