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私たちがほしいのは、懐かしくて開かれた未来。ラダックの女性が作った工芸品で、地域の「しあわせの経済」と 伝統を守るショップをオープンしたい!

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。

インド北部ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈の間、ジャンム・カシミール州東部に位置するラダック地方は、インドで最も高い高山地帯の一つで、3000~7000メートルに位置します。気候は冷涼乾燥で、6月から9月が夏で春と秋が極度に短く、7~8カ月間は氷に閉ざされます。

ラダックの人々は、過酷な自然環境の中でチベット仏教の信仰を基盤に、持続可能な暮らしを実践しながら暮らしてきました。山の峰々に写る雲の影、澄んだ空気、降るような星空、畑から聞こえてくる人々の歌声。長い年月をかけラダックで育まれてきた文化は「懐かしい未来」と賞され、現代人が忘れてきた、懐かしいけれど、新しいもう一つの可能性の未来として世界中の人々を魅了してきました。

ラダックが抱える問題

自然と共存し、持続可能な暮らしを営んできたラダックの人々は、1974年にインド政府の政策による観光客の受け入れが始まったことにより、急速な近代化に直面します。貨幣価値を基盤としない、自然とコミュニティのバランスの中で発展してきた暮らしに、観光により「お金」という価値観が組み込まれ、現在では生活になくてはならないものになっています。

現代社会を生きる私たちには、お金がない社会を想像すること自体が難しいですが、この「お金」という価値観は、社会全体の優先順位に大きな影響を与えています。環境との共存、過酷な環境下で生き抜くためのコミュニティの結束に価値を置いた伝統的なラダックの社会から、個人とお金を中心とした社会へ。コミュニティを個人へと分断し、環境のキャパシティを超えたものを追求する社会への変化がラダックでも徐々に起きています。

観光産業が急速に発展し、近代的な経済システムが及ぼす社会や環境への影響に無自覚なまま、人々はそのシステムに晒され、伝統と近代化のバランスをとるような政策が行われていないのが現状です。

さらに、グローバル化により現代的な価値観が持ち込まれ、若い世代の地域コミュニティに対する態度や、精神的安定性にも大きな影響を与えています。このような価値観の急速な大変動は、社会に大きな影響を及ぼし、ラダック地域はまさに、グローバル化が急激に進行する現代社会の縮図といえます。

 

短期的利益を求める経済

70年代から進められた観光地化により、現在ラダックの中心地には何百ものお店が存在し、2017年には国内外からおよそ28万人もの観光客がラダックを訪れました。この数は、ラダックの人口とほぼ同数です。

観光客が多く訪れるメインマーケットには、多くの土産屋が並んでいますが、その中でラダックで作られたものを扱うお店はわずか4つしかありません。「I ♡ LADAKH」のプリントが施されたTシャツや、ビニールで包装されたお菓子などは工場のないラダックで製造することは不可能で、その多くは遠方から運ばれてきます。

よって、多くの観光客がこのようなお土産を購入しても地元の人々の収入には繋がらず、観光と地域経済が共存しているとは言い難い状態にあります。そして現在の観光産業は、ラダック特有の生活形態や伝統文化を軽視する形で進んでいると言わざるを得ません。

近代化の中のラダックの女性

古くからラダックの婚姻制度はとても柔軟(一夫一妻、一夫多妻、違う宗教間での通婚)で、伝統的には一妻多夫制が一般的でした。ラダックでは、女性の社会的地位が高く、多くの文化人類学者の研究対象となってきました。ラダックの女性は、家庭のみならず社会全体の中心的役割を担っており、尊敬される対象となってきました。

しかし、観光産業の発展により、労働対価に「お金」という価値観が持ち込まれることで、外でお金を稼ぐ「男性」と、労働対価のない、家の中の仕事をする「女性」といったような、西洋的なジェンダーによる役割分担が見られるようになりました。

こうした近代化による影響から、女性が担ってきた編み物や織物といった、現金収入に直接つながらない伝統手工業が評価されなくなりつつあります。それと同時に、ラダック全体の社会構造が大きく変わり、女性の社会的地位が脅かされつつあります。

ラダックのために、そして現代を生きる人々のために

スカルマ・ギュルメットさんは、日本在住のラダック出身者です。彼は、伝統文化やコミュニティが色濃く残るラダックに生まれ、育ちました。

セーブザチルドレンのプロジェクトで活動をし、ハワイ大学に一時在学。その後来日しましたが、日々懸命に働きお給料をもらい、豊かな生活をする日本の人々を見ているうちに、一つの疑問が浮かびました。「一生懸命仕事をし、生活は豊かなのに、人々が満足そうではないのはなぜだろう…」。そこで、「日本の人々に違う生き方を見てもらう機会を提供したい」と始めたのが、ラダックでのスタディーツアーでした。

スカルマ氏は、「そこで、僕が生まれ育ったラダックと日本の関係を結ぶ交流機関をつくることによって、スローライフ体験やホームステイ体験などができるようにして、違う生き方を見せてあげるオプションを提供したかった」と話します。現在も、エコツリズムによる農村の人々にも収入が入るように今でも努力し続けていますが、この活動は、ラダック地域の人々と日本をつなぎ、地域の人々を助ける活動に発展していきます。

そしてこの度、スカルマ氏が主催する特定非営利活動法人 ジュレー・ラダックは、ラダックの女性のための団体、Women’s Alliance of Ladakh(WAL)と協力し、女性のエンパワメントと、地域経済の促進を促すショップの開店を目指します。この試みは、グローバリゼーションと共存しながらも、人・地域・自然のつながりを再生させる、もう一つの可能な経済。ローカリゼーションが生む「しあわせの経済」への取り組みです。

プロジェクトが目指すラダックの未来
地域に根ざした経済活動―長期的バランスを見据えた経済へ―

このプロジェクトは、100%メイド・イン・ラダックのお土産を増やすことで、今までの短期的利益を求める視点に立った観光経済を見直し、ラダックの地域に根ざした経済活動を促進する仕組み作りを目的としています。

女性のエンパワーメント―開かれた近代化の在り方へ―

このプロジェクトは、観光で女性たちの伝統的な手仕事に「価値」を与え、女性が社会に貢献しながらも無理なく現金収入を得られる機会作りを目的としています。ラダック・コミュニティの中心的役割を担ってきた女性たちのエンパワーメントは、経済的な自立を実現しながら伝統文化を守り、ラダック本来のコミュニティのつながりの強い社会を残すことに繋がります。

さらに、ラダックが本来持つ社会構造をもう一つの未来として、グローバル化と孤立することなく、バランスを取りながら多様な未来の可能性として提示することが最終目的となります。世界の片隅の小さな一歩が、多様な未来への懸け橋となるのです。

このプロジェクトは、現地のWomen’s Alliance of Ladakh(WAL)という組織との共同作業です。WALはラダックの女性たちの力を社会に活かそうと、スウェーデンの言語学者であり、ラダックに関する、学術的にも評価の高い著書『懐かしい未来』の著者であるヘレナ・ノーバーグ=ホッジによって設立された、ラダックの女性のための団体です。ラダックのお母さんたちが主体となり、ラダックの伝統的な文化の継承や社会教育を行っています。

日々の暮らしに根づいた、伝統的な知恵や文化は、暮らしの中心を担うお母さんたちによって継承されます。女性の力が強いラダックの社会では彼女らの発言は大きな力を持ち、実際にWALは、15年以上前にラダックのすべてのお店でのビニール袋の廃止を実現しました。

現在、プロジェクト始動のための資金を、クラウドファンディングサイトGoodMorningにて行っております。ページ公開から3日で支援総額の40%を達成し、現在100%達成を目指し奮闘しております。

一緒にこのプロジェクトを前進させ、「しあわせの経済」への小さな一歩を踏み出しませんか?ご支援は、以下より賜っております。
https://camp-fire.jp/projects/view/135465?fbclid=IwAR1CYt5nj1K6EXgzfkvBB4Jb1pIXZntsB1xUnH_ItMV-4U1ZxtZA3jgSv2I

(Text: NPO法人ジュレー・ラダック 猶井咲喜、玉岡善美)