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人口8,000人のまちが「ローカル起業」で世界の注目の的に。お金だけじゃない、マッサージも空き部屋も投資になるリコノミープロジェクトとはなにか? ジェイ・トンプトさんに聞いた

トランジションタウン、エコビレッジ、こんなキーワードを聞くと何を思い浮かべますか?

想像ですが、「畑を耕して自給自足」「電気はないんじゃない?」「ちょっと変わった人たちが集まるところなのかも、、」なんて声も聞こえてくるのかもしれませんね。

トランジションタウンとは、2006年、石油ピークや気候変動、経済的不安定からの回復を目的に、イギリスのトットネスという小さなまちから始まった草の根活動のこと。地域コミュニティをつくり、大きな資本主義経済に頼り過ぎず、そのまちに暮らす人たちがお互いを生かしあいながら、仕事や暮らしをつくっていく。誰でも地域活動を気軽に始められる仕組みが特徴で、トットネスでは、芸術、地産地消、エネルギーなどをテーマにした、約25のグループが活発に活動しています。

イギリス南部にある小さなまち、トットネス

そして、今、そのトットネスでは、市民主導による経済のトランジションが動きはじめています。まちに暮らす人が投資家、起業家となり、まちに新しいビジネスを生み出し応援するという「Reconomy Project(リコノミープロジェクト)」です。

去る11月に来日し、国分寺カフェスローにて開催されたgreen drinks Tokyoをはじめとして、各地でスピーチをしたジェイ・トンプトさんに、お話を伺いました。

ぼくは凄腕のミスターインキュベーターなんだよ。

そうクールに笑うジェイさんが取り組むクールなリコノミープロジェクトとは? ジェイさんがこれまで歩んできた道と共にこれからの暮らし方、生き方を感じてみてください。

Jay Tompt(ジェイ・トンプト)
環境ビジネス活動家。ライター。経済学修士号をモンテレイ国際研究所で取得。またサン・ホセ州立大学で哲学を修学。これまでコンサルタント業を始めとする多様な地域ビジネス、リ・エコノミー・プロジェクト、トランジションタウン・トットネスなどに関わる。最近は起業と地域経済の実行に関する理論的アプローチの構築に取り組んでいる。イギリス・トットネスで活動するも地元カルフォルニアが大好きという一面も。

お金だけじゃない、
マッサージも空き部屋も投資になるリコノミープロジェクト

はじめに、トットネスで実践されているリコノミープロジェクトはどんなものなのかお伝えしましょう。

リコノミープロジェクトは2012年、ローカル経済を盛り上げたい何人かの熱心な市民によってはじまりました。主な活動としては「ローカル起業フォーラム」「リコノミーセンター」「トットネス・ローカル経済計画」がありますが、ほかにも多様なプロジェクトが動いていて、リコノミープロジェクトは、それらの集合体です。

例えば、1926年に閉鎖してしまった地元のビール醸造所をまちの人の出資で復活。地域の経済と農業の支援をミッションに地元デヴォン州の原料をつかったクラフトビールの醸造所へと生まれ変わりました。また、ただの出資で終わるのではなく、つくり手とまちの人をつなぐことも大事にしています。出資者にはビールの10%割引と専用ミニサーバーが渡され、毎月醸造所にビールを受け取りに行く仕組みに。醸造所のメンバーと顔を合わせることでコミュニケーションが生まれ、次のなにかにつながることを大事にしています。

トットネスのニュー・ライオン醸造所(New Lion Brewery)のホームページ。8000人のまちで400人近い人の出資があるのだとか。

いまある大きな経済システムを変えるのではなく、自分たちで新たにつくることを決め、ローカルにコミットしたビジネスを生み出すリコノミープロジェクト。その中でも最もユニークな取り組みが、年に一度、様々な人が自分のビジネスプランを投資家にプレゼンするというローカル起業フォーラム(Local Entrepreneur Forum)です。

トットネスでは、この「ローカル起業フォーラム」を通じてこれまでに27の事業が登壇し、その多くが今なお継続しています。さらに20人の雇用を生み出し、売上は2億2,500万円にのぼるそう。人口8,000人というトットネスで大きな資本主義経済に頼りすぎず、さらにローカルビジネスを広げ、実現、強化しています。

日本でも、起業家が短い時間でプレゼンしていく、いわゆる「スタートアップピッチイベント」は多数行われていますが、「ローカル起業フォーラム」のスタイルは少し違います。

たとえば、プレゼン項目は以下の通り。

1. そのビジネスを通じて解決したい問題は何か
2. 解決策は何か
3. あなたの価値
4. 求めている、お金/お金以外の投資
5. 投資を得られた後に次のレベルに進むプラン

通常のピッチイベントと違うのは、出場者が全員地域に根ざしたビジネスをやろうとしていること、ビジネス支援の形が、お金だけではないところ、そして投資をするのは、投資家だけではなく、まちの一般の人々、というところにあります。

ローカル起業フォーラムの会場でローカルビジネスを提案する人、ビジネスに投資する人は、なにかのプロフェッショナルでも、まちの有名人でもありません。両者は、まちを自分たちの暮らしを良くしたいと手をあげる住人であるということ。そして、そのアイデア、ビジネスを理想論で終わらせず、ある意味、ビジネスが成功するようにサポートする体制があるということ。そこがリコノミープロジェクトが最高にクールだといえる点です。

ローカル起業フォーラムの様子。誰でも起業家であり、投資家です。

さらに投資するのはお金以外でもOKという発想もクールです。

ある年では、一般の参加者に「あなた方は投資家です。お金だけじゃなく、あらゆるサポートを投資してください」と呼びかけ、740人の「投資家」から1,500万円の投資がその場で集まったそう。さらにそのうち、お金ではないサポートを金額に換算すると500万円だったというから驚きです。

その他にも、先輩起業家がこれから起業する人へアドバイスをする機会を定期的に設けたり、New Economics (新しい経済学)の学び舎でもあるシューマッハカレッジ、近隣の大学や自治体と連携をとり、様々なジャンルの専門家をゲスト招く会を開いたり。まちと起業家、住人、アーティスト、あらゆるひととビジネスがつながりながら、「経済が悪ではなく、この世界の生態系の一部にあることを念頭にした経済をつくる。」 そんな未来の経済活動を実践しているそれがリコノミープロジェクトです。

最年長の起業家が最年少の起業家へアドバイス(?)している風景も。

世界にとってポジティブなビジネスを応援する

現在もトットネスで地域ビジネスのインキュベーションや様々なトランジションアクションを続けているジェイさんですが、どのようにして、今に至ったのでしょうか?

アメリカで生まれ、カルフォルニアが大好き、そんなジェイさんがイギリスのトットネスでトランジションに関わった背景を伺ってみると意外な答えが返ってきました。

大学で経済を学んだのですが、あまりしっくりこなくて。なので哲学を専攻することにしたんです。ビジネスなんて絶対やらないと思ってた。

でも、人生は不思議なもので、結婚して、レストランをやろうかという話になって。そこでビジネスは嫌いなはずなんだけど、国際ビジネススクールに通って学ぶことにしたんですね。すると今度は、弟がシリコンバレーでコンピューターグラフィックの会社を起業するというので手伝うことに。しばらく働いた後、自分の会社を起業しました。

カルフォルニアのサンノゼを拠点に様々なビジネスのはじまりを育成するインキュベーターとして仕事をはじめたというジェイさん。

もともと哲学に興味があったので、起業家精神を学んだりもしていて。インキュベーション的な仕事をするようになったんです。当時は、インターネットバブル期。

テクノロジーこそが世界を変えて、民主化して、知識、疑似体験、学びが簡単になるみたいな理想があったんだけど。でも、そこに大きな資金が参入してきて、ただ単にお金もうけの道具になっちゃって。だんだん、なにか違うぞと。

そんな時起こったのが、1999年シアトルの世界貿易機関(WTO)閣僚会議開会式で起きた反グローバリズムによる大きなデモだったそう。

それが目覚めだった。僕は今やってることをやってていいんだろうかって。世界は間違った方向にいっている。企業が力を持ちすぎていて、民主化は起こっていない。もうやめたい!なんでビジネスを勉強したんだ!

そもそもなんで真の意味で役立つことをもっと学ばなかったんだってね(笑)

自分のビジネスのあり方を今一度考えなおしたというジェイさん。ちょうど娘さんの誕生も気持ちの変化につながっていったと言います。

彼女がこれから生きる世界に対して、もっとポジティブなことをしようと思ったんです。

まずは環境系に携わる仕事にシフトしました。コープ生協のようなナチュラルなものを扱う企業の立ち上げを手伝ったり、バイオプラスティック素材で梱包するようなコンサルタントをしたり。でも、環境系のモデムがわかっていくにつれ、これはビジネスとして長らえないことに気づいた。気候変動とか、空気汚染とかあり、大きな企業の影響力が増えて状況はどんどん悪化する。一方でグリーンコンシューマー・ムーブメントがあったけどそれだけじゃ世の中は変わらないことは明らか。もっと現実的なシステムで変えていく必要があると僕は思ったんです。

ムーブメントではなく、より現実的に世界に対してポジティブなことをおこす。そんなジェイさんは引き寄せられるようにトットネスへとつながっていきます。

妻がイギリス人だったことと、妻の父の介護もあってイギリスにはいつか移住することになってたんです。僕はカルフォルニアが大好きなんだけど(笑)

するとある日、新聞を読んでいたらアイダホのあるまちでトランジションタウンが立ち上がったと。そのルーツはイギリスのトットネスだって。まち全体が変革してるなんて、なんてクールなんだ! 引っ越すならそこだって思ったんです。

先にトットネスを視察にいった奥さんからの、「ちょっとサイケデリックなパーマカルチャーの音楽フェスに行ってきた。81年物のバイオディーゼルのメルセデスベンツとかとってもクールだったよ」という、うきうきした電話は今も忘れられないとジェイさんは笑います。

トットネスに行く前にカルフォルニアのスターホークでパーマカルチャーのコースを学びました。そのつながりでトットネス郊外のパーマカルチャーコミュニティを訪ねて、自分からトランジションタウン手伝えるよってつながっていったんです。ちょうど、トットネスでも地域経済をより豊かにすべく、ローカル企業の立ち上げの仕組みつくりがはじまっていた時。ぼくはインキュベーションの経験が豊富だったし、そこからどんどん関わるようになっていったんだよね。

自分のしごとに真の価値を見出すこと

2012年からトットネスでリコノミープロジェクトを手がけ、確実に実績を積み上げてきたジェイさん。決して、平坦な道のりではなかったといいますが、なにがジェイさんを突き動かしているのでしょうか。

これはビジネスをインキュベーションしていた時から思ってることなんだけど。グッドアイデアなんてものはいっぱいあって、それ自体に1円の価値もない。それをいかに現実社会にもってきて実行するかが大事。

そこには運、タイミングも必要だけど、それがうまくまわる生態系、システムを育てるってことが大事なんだよね。やっぱりこういう活動をしてると理想論で終わってしまう人も多い。僕はそれはいやで。ちゃんと機能するもの、ちゃんと変化をもたらす活動でないといやだし、それは自分の強みというか個性だと思ってる。

さらにもうひとつ、突き動かすものがあるそう。

シンプルに娘に対して良いことをするという使命感かな。あと、喜びの根源としては自分の知識や経験を若い人に分かち合って、彼らがわくわくしはじめたり、目覚めたりする瞬間、僕の心は高まるよ。なにより、自分のしていること仕事に価値があると信じてる。

カフェスローにて登壇するジェイさん。

それにね、今、世の中は究極的な危機、人類だけじゃなくて他の生物も危機に瀕してるよね。まさに日本だけじゃなくて世界がシフトしなくてはいけない。世代問わずに、社会全体を構成している人たちは生き方をシフトしなくてはいけない。

僕たちはある意味、たまたまこの危機の時代に生きている。

映画の『ロード・オブ・ザ・リング』で指輪を渡される場面なんだよ。「指輪いらないよー!」って言っても受け取らざる得ない場面。この場面に生まれついたんだからすなわち危機に立ち向かうという使命は渡されてるんだって思っている。強い焦燥感にもかられるけど、そこは楽しみながらしっかり実現していくだけなんだ。

join us!!

世界に対してポジティブなアクションを確実に実現し、その生態系の中で、人が人として生かされ、サポートされあいながら、暮らしをまちをつくる。

トットネス発リコノミープロジェクトを手がけるジェイさんの言葉の端々には、「ふわふわした理想論はいらない、実現していく。」そんな力強い学びが溢れていました。

最後に、今、モヤモヤしている人、ふわふわしたくない、なにかアクションしたいけどどうすればいいかわからない、そんな人にジェイさんからメッセージを頂きました。

「喜び」、「楽しみ」はキーワードだと思ってる。

仕事の不満、鬱、人生生きてても楽しくないって思ってる人に言えることがあるとすると、この世界の危機を感じてる人に関わってみて欲しい。世界にはすでに次世代へ続くための新しい暮らし、生き方、ビジネスがたくさんあるから。すでにたち起こっている変化の流れを見つけて、つながるといい。

あなたはそこに加わることで大事な一役を担うことができる。楽しんで!

異常気象、環境破壊、争い、貧困。あらゆる課題を前にひとりひとりではもうどうしようもない、時間もない。そんなことも語ってくれたジェイさん。ですが、リコノミープロジェクトやトットネスの様子、ジェイさんを取り巻く様々なアクションをしているひとや事例の数々。それは超クールで、うきうきしてくるようなビジネスや暮らし、まちの風景でした。

わたしたちは「この時代に指輪を渡された勇者」なのでしょうか。ジェイさんの答えはきっと「Yes!」です。

モヤモヤしてる場合でも、会社の愚痴をいっている場合でもないのかもしれません。

まずは周りを見渡して、つながってみることからはじめませんか? 楽しんで!

(撮影:Takuya Ogino)