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NPO・民間・行政の枠を超え、地域の課題を解決するビジネスモデルをつくる「渋谷をつなげる30人」とは? 発起人のフューチャーズセッションズ野村恭彦さんと渋谷副区長の澤田伸さんに聞いた。

日本のトレンドを常に発信するまち、渋谷。

その渋谷で、今、企業、NPO法人、行政、さまざまな立場の人たちが参加するまちづくりプロジェクト「渋谷をつなげる30人」が進んでいます。

2017年度第1期に参加したのは、NTT都市開発、東急不動産、マイクロソフト、ビームス、CAMPFIRE、ETICやサービスグラントなど、“何かを巻き起こせそう”な渋谷区に本社を置く企業やNPO法人、行政30名の若手ホープたち。

もしも、このメンバーが自分たちの所属する会社や団体の枠を超え、保育園不足や高齢者が孤立化しないまちづくりなど、社会課題を解決するビジネスモデルを本気で考えたらどうなるでしょうか? 

発起人の「Future Sessions」代表の野村恭彦さんと、そのアイデアにすぐ反応し、行政として参加することを即決した渋谷区副区長の澤田伸さんに、渋谷をつなぐ30人とは? これからの渋谷が目指していくまちづくりについて、じっくりお話をお伺いしました。

対談のサポート役は、自身もプロジェクトに参加している、おなじみのグリーンズ事業統括プロデューサー小野裕之が担当しました。

アイデアを出すだけでなく、形にして渋谷で実行する

渋谷に関わりのある企業から約20人、行政、NPO法人、市民から約10人が参加している。©Ayako Hiragi / nD inc.

まずは、「渋谷をつなげる30人」とは何か、簡単にご紹介します。

これは、企業・NPO法人・行政と、それぞれまったく異なる立場の30人が集まって、渋谷ならではのクリエイティブなアイデアで地域や社会の課題を解決していくために連携し、1期につき約半年かけて企画を立案・実行する、まちづくりプロジェクトです。

期間は半年と短いですが、そのなかで何度も何度も話し合う機会があり、社会を良くするためにどうすればよいか、具体的なアイデアを話し合っていきます。

このプロジェクトがすごいのは、最終的には、その場で生まれたアイデアを企業の役員や区長に提案し、形にしていくこと。もしもトップが「おもしろいじゃん」「やってもいいよ」となったら、実行できるのです!

その実績のひとつとして、1期の終了後、参加企業のひとつ「ボッシュ」の「cafe 1886 at Bosch」で、月に1度ほど「新しい渋谷のつながりの仕掛けづくり」をテーマに「green drinks Shibuya」を開くことができるようになりました。

また、9月には次の100年につながる新しい価値の創造に取り組むための施設「100BANCH」に、“地域の仲間とチームで働く” =ロコワーキングの拠点づくりに向けて、「Shibuya loco-working Center」が3ヶ月限定でオープンし、着実に成果を上げています。10月からは2期目も始まり、社会を変える新しいプロジェクトが生まれそうな予感です。

それでは、前置きが長くなりましたが、3人の鼎談をお届けします。

30人のプレイヤーがつながり
10年後には、仲間を含めて3,000人へ

野村恭彦(のむら・たかひこ)
株式会社フューチャーセッションズ代表取締役社長。金沢工業大学教授(K.I.T.虎ノ門大学院)、国際大学GLOCOM 主幹研究員博士。博士(工学)。慶應義塾大学修了後、富士ゼロックス株式会社入社。同社の「ドキュメントからナレッジへ」の事業変革ビジョンづくりを経て、2000年に新規ナレッジサービス事業KDIを立ち上げ。2012年6月、株式会社フューチャーセッションズを創設。著書に『イノベーション・ファシリテーター』、『裏方ほどおいしい仕事はない』『フューチャーセンターをつくろう』(ともにプレジデント社)など。

澤田伸(さわだ・しん)
1959年大阪市生まれ。1984年立教大学経済学部卒業後、飲料メーカーのマーケティング部門を経て、1992年より広告会社にて流通、情報通信、テーマパーク、キャラクターライセンス、金融クライアント等を担当し、マーケティング・コミュニケーション全域のアカウントプランニング業務に数多く携わる。その後、2008年外資系アセットマネジメント企業において事業再生部門のマーケティングディレクター、2012年共通ポイントサービス企業のマーケティングサービス事業部門の執行責任者を経て、2015年10月より渋谷区副区長に就任。

小野 まずは、「渋谷をつなげる30人」をつくろうと思った理由からお話しいただいてもよいですか。

野村さん 話せば長くなるのですが、僕はもともと、企業・NPO法人・行政のセクターを超えて、社会を良くしていきたいと思って、自分の会社を立ち上げたんですね。

最初は企業をクライアントに、NPO法人の方にセッションに入ってもらって、社会最適なイノベーションを起こしていこうというプロジェクトを多数実施したのですが、革新的なアイデアは出ても、それを企業の都合で実行できないことが、本当に多かったのです。社会的な問題を大きく解決するには、行政と組まなければいけないな、と思っていたのです。

そんな思いを持っていた頃に、企業もNPOも知り抜く、現在の渋谷区長である長谷部健さんが就任された。さらに、2015年には、民間から澤田さんが入ってこられた。

澤田さんは、課題解決を積極的に企業にやってもらおうという動きを始められていて、これは、自分がやりたいことそのままだな、と思いました。じゃあ、渋谷のなかでいろんな企業に声をかけて、社会起業家が企業と何か始められたら、めちゃくちゃおもしろいんじゃないかと思って、澤田さんに相談したら、すぐに「やろうよ」と言っていただいたんです。

澤田さん いちばん最初に「渋谷をつなげる30人」の話を野村さんからお話をいただいたとき、行政がどういう状況だったかというと、「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という、渋谷のこれからの20年について基本構想をつくっている、真っ只中だったんですね。渋谷らしい“多様性”を大切にした基本構想ができあがり、その多様性を担保する30人のプレイヤーが必要になったんです。

このプロジェクトを10年間続けていくと、30人のプレイヤーがつながり、将来は300人になる。そして、その300人の人たちが、10人仲間をつくったら、3,000人になる。その人たちが中心になれば、22万5000人の区民に対するサービスと未来のシナリオづくりを多様に進めていけるんじゃないか。つまり、人財育成計画を民間企業やNPOと一緒にできるかもしれない、とひらめいたんです!

野村さん 官民共同で、地域や社会課題を解決するビジネスモデルをつくることができたら、すごくおもしろいですよね。

たとえば、今までだったら、新しい施設をつくらないといけなかったのが、企業が持っている遊休不動産を利用して、みんなが集まれる場に変える。企業もボランティアではなくて、市民ニーズにあったことをやれば、事業として成り立つ。そういった発想転換をする動きは日本中、世界中に広がっていくのではないでしょうか。

これからは右肩下がりの時代にも関わらず、企業はどうしても、どうすれば右肩上がりになるのか、ということばかり考えるんですよね。

100億円規模のビジネスを立てろ、とか。そもそも“問い”が間違っていると思うのです。そうすると、おもしろいことをやってみるよりは、量的なものを考えてしまいます。

新しいことをはじめようとすると、マーケットデータがないので、ビジネスプランがつくれない。でも、行政やNPO法人との協働であれば、投資も少ない。そこで、僕らは企業に、CSR(=Corporate Social Responsibility)でできなかったことが、行政と組めば、社会的な責任を本業で解決するCSV(=Creating Shared Value)として実現できますよという形で、1社1社丁寧に話を進めていきました。

澤田さん 渋谷区では、民間企業の持つ技術やノウハウを活かし、公民連携・協働により地域社会の課題解決を目指す「シブヤ・ソーシャル・アクションパートナー協定」を進めています。僕からも、そのパートナーである民間企業に参画のお話をしたら、非常に賛同いただけました。

小野 僕は1期生として参加させていただいたのですが、渋谷区役所からもおふたり参加されていましたよね?

澤田さん そうですね。ひとりはやっぱり基本構想に携わっている人。渋谷区の基本構想をベースにしながらの議論になっていったので、これをつくった側の知識を持っている人間が参画する必要がありました。もうひとりは、まちづくりにも連携していく話なので、土木部門の担当者ですね。

最初は、実は大丈夫かな? と思っていたんです。

だって、民間の人やNPOの人たちと話したことが1度もなかったから。行政は、民間企業と話す、1対1の関係がちょっと苦手なんです。何かを民間に依頼する時に、どれくらい費用がかかるのか判定基準も持っていないし、これが何千万円です、と言われた時に分解して、説明することもできない。

みんな頭はすごくいい。けれども、これまで教育を受けていない。それで、私のような民間にいた人間が入ったので、民との対話力を上げようとしている。そんななか、このプロジェクトが始まり、参加してもらったら、このふたりが劇的に変わってくれました。

野村さん たしかに、おふたりは大活躍でしたね。そして2期目には、基本構想に携わる別の担当者の今井さん、建築課の山崎さんが参加しています。

今井さんには、2期目の最初に20分間、基本構想の中身をプレゼンしてもらったら、すごく分かりやすかった。そのあと、みんなで、今話し合っているアイデアをこの基本構想で整理したい、と提案されて。そのなかで、基本構想につなげていくのではなくて、自分たちがやりたいことが、基本構想につながっていくんだという確認したいという声が上がったり、すごくいい形でつながっていきました。

もうひとりの山崎さんについても、渋谷区内の公共施設や公開空地のことは自分が全部知っている。だから、公共施設のなかで、どういったものが活用できるのか、すべてリストアップできる、とおっしゃって。さっそく民間の人と組んで、こんなことならできる、という遊休不動産を社会的用途に活用する、新しいビジネスモデルを提案していたり、すごく力強いですね。

渋谷が一番前を走る。失敗したっていい
チャレンジしているからカッコイイまちへ

澤田さん 実は、民間の方もNPOの方も、それから、われわれ行政も区民の方も、見ている未来の方向は同じなんですよ。

ひとつは、今日よりも明日が良くなった方がいい。当たり前ですよね。それから、民間企業はその殆どが経営ビジョンを持っていらっしゃいますが、今日よりも、1円でも多く儲けたい、と掲げている企業はいないと思います。

やっぱり、地域や社会に貢献できる、暮らしの豊かさを提供できるなど、実は行政と同じ方向感のことを掲げている。だったら、見ている同じ景色を実現するために、一緒にやった方が、もっと早いでしょう。企業も行政も、今やっていることの延長線上に、未来がないことは、全員わかっているんです。

野村さん でも、何をやっていいのかが、わからないんですよね。

澤田さん そう。だから、外側にヒントを求めていますよね。そういう動きは、ここ数年で加速的に進んでいて、今後もさらに進むと思いますよ。行政も、変化をつくり出す側に回らなければいけませんよね。

野村さん 行政がつくり出す変化というと、今まで、まちづくりといえば、地方のまちが頑張っている。そんな印象が強かったですよね。けれど、渋谷はローカルを大事にするんだ、と地方創生をやるような勢いでまちづくりを始めた。それは、本当に画期的な変化だと思うんですよね。

澤田さん 日本は企業も行政も「ファーストランナーになりたい」といいながらも、先例がないとなかなか動かない。でも、ファーストランナーであることは、すごく重要なんです。風あたりは強いですが、そういうところで行政が走り出している、ということが、私は渋谷区のシビックプライドの源泉になると思うんです。

だから、渋谷というまちが一番前を走る。失敗を恐れず、チャレンジしているからかっこいい。そんなまちになるべきだと思います。

渋谷はまさにスクランブル交差点のように、多様な考え方が交差することが魅力的な街なんです。ソーシャルイノベーションを起こす素地はできているし、あとは実行して、ショーケースにたくさん提示するだけ。

時には、うまくいかないことも、あるかもしれません。しかし、それを恐れて躊躇することよりもこそ実行することこそが重要です。リスクを取りいく、というのことはネガティブなことではなく、常に変革のリーダーシップを発揮するということだと思います。

小野 リスクなきチャレンジなんて、チャレンジじゃない!

澤田さん そうなんです。小さな投資は、小さな結果にしかつながらないんです。仕組みそのものを変えないと。将来課題を先延ばしにしているだけです。そのことに、みんな気がついている。あとはアクションするだけ。でも、いきなりアクションしてください、と言われても、できないから、まさにこういう対話の場づくりはすごく重要だと思います。

小野 最後に、渋谷をつなげる30人を中心とした、企業、行政、NPO横断型の官民連携が、どんな変化をもたらしていきそうですか?

野村さん 僕は市民ファシリテーターを育てて、市民協働のまちをつくる、ということをすごくやりたいんですね。市民がやりたいことを考え、それを企業が一緒になって、今度は官民協働によって、その市民のつくりたい未来を実現する。行政はルール改正によって、それらを促し、支えることができます。今までは、政策をトップが出して、行政が実施する、市民はそのサービスを受ける、という形でした。未来が見えている時代は、これでよかったと思うんですよね。

でも、未来が見えないから、みんなで一緒に考える。みんなで一丸となって、地域をつくっていくことが可能になった時に、本当に社会は変わる。僕は、渋谷ならそれができるんじゃないかな、とすごく期待しています!

澤田さん まさに、野村さんがおっしゃったとおり。これは私のポリシーですが、公共施設やサービスに関して、すべてを官が担う時代は終わっている。行政は参画していくけれども、資金のすべてを行政側が担うのではない、多様な資金モデルを積極的に生み出していきたい。今後はその仕組みを考えていきたいと思っています。

東京オリンピックを終えたら、日本はすべての局面において、すごく難しい舵取りになりますよね。渋谷は真っ先に新しいこれからのまちづくりを宣言できるような、なれるだろうし、ならなきゃいけないだろうな、と思います。

(対談ここまで)

渋谷の魅力は、なんと言っても、90年代には日本をアッと驚かせた“ガングロ”や“ヤマンバ”などを受け入れてきたような多様性にあるのではないでしょうか。

「渋谷だからね」。そのひと言で、なんの違和感もなく、いろいろなモノゴトを受け入れてもらえる。こんなまちは、日本各地を探しても、なかなかありません。

渋谷が新しいことにチャレンジし続け、人のエネルギーであふれ、元気でいると、日本全体が元気になると思いませんか? 「渋谷をつなげる30人」をベースに、社会課題を解決するビジネスモデルを発信し、これからも時代の最先端を走り続けてほしいですね!

(撮影: 松永光希)

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