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これからは、弱虫が地域をつくる? エーゼロが岡山県西粟倉村と北海道厚真町で「ローカルライフラボ」研究員を募集する理由

「いま、ローカルが面白い!」——こんな言葉を耳にしたことはありませんか?
この数年で、地方に移住する人や地方で新しいことを始める人が増え、ローカルが注目を集めています。

でも、メディアに取り上げられる地方創生事例の主人公たちは、ずば抜けた熱意や行動力、経歴の高さを持つ“スーパースター”が多いもの。地域での取り組みに関心はありつつも、「限られた人にしかできないんじゃないか」と逡巡している人は少なくないのではないかと思います。

僕たちがいま求めているのは、まさにそう悩んでいる人なんです。

こう話すのは、エーゼロ株式会社代表の牧大介さん。岡山県西粟倉村・北海道厚真町の2自治体で「ローカルベンチャースクール」を開催し、地域で起業する人を育成・サポートしてきました。そんなエーゼロですが、今年から従来のローカルベンチャースクールに加えて、「ローカルライフラボ」という、起業だけを目的としない新しいプログラムを始めることに。

背景には、これまでの「起業家」を集めて地域をつくる手法だけでは限界が見えてきた、という所感があるといいます。

まだ仮説だけど、これからは弱虫こそが地域をつくるんじゃないかと思っているんです。弱虫というのは、やりたいことがあるけれど迷っている人、次のステージに行くことは決めたけど、次の一手がわからない人。人生を真剣に考えているから、挑戦しようとするから悩む。臆病になる。そんな人です。

そういう人が移住して地域の可能性を見つけていく。ゆったりした時間の中で自分の可能性を見出していく。その結果、起業する人は起業するし、しない人にも、大事な役割がある。そんな関係性の中から本当の豊かな地域が生まれるのではないか?

この「弱虫仮説」 を確かめるべく、今回のキックオフ対談を含め合計5本の連載を行います。

今回は、エーゼロ株式会社代表取締役の牧大介さん、ローカルベンチャースクールのメンターでTeam♡KATSUYAの勝屋久さんと祐子さん、そしてgreenz.jp編集長の鈴木菜央が、本当に弱虫が地域をつくるのか? 大いに語り合いました。

左端から勝屋久さん、勝屋祐子さん、牧大介さん、鈴木菜央

「定住しなくていいんです」から「ちゃんと稼ごう」まで

菜央 まずは、ローカルベンチャースクールのそもそもから聞いてもいいですか?

牧さん 西粟倉で、5年前ぐらいから、地域おこし協力隊(※地域外の人材を一定期間受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、定住・定着を図る制度。受け入れ自治体には総務省から隊員の活動費や報酬が交付される。任期は1〜3年)を使って、村に移住して起業する人を応援しようということを始めたのが最初です。

「ローカルベンチャースクール(以下、スクール)」という名前で僕たちが引き受けるようになったのは2年前からですね。西粟倉でさらに起業や創業を支援していこうという流れの中で、役場から僕らのところに話がきたんです。

菜央 スクールの大枠を教えてください。

牧さん 参加希望者に事業プランや志望動機を提示してもらい、一次選考に通過した方にはメンターチームを結成します。彼らと一緒に事業プランをブラッシュアップし、最終選考に通り採択された方には、翌年4月から移住・起業・始業していただく。都市部から移住された方は地域おこし協力隊制度が適用され、活動費が支給されることになります。ざっくりいうとこういう流れですね。

1回目の2015年は本当になんでもいいというか、「定住しなくていいんです」というキャッチコピーで、「好きなことをして、定着しなくてもいいよ」、という開き直った募集の仕方をしました。

2回目の2016年は、売り上げの規模も重視していこうということになって、キャッチコピーは「ちゃんと稼ごう」。背景には村の出生率を増やしたいという希望もあって、「5-10人ぐらいの雇用を生み出せるような起業家がひとりでもふたりでも生み出せればいいんじゃないか」と考えたんです。

「定住しなくていいんです」から「ちゃんと稼ごう」へと、かなり思い切って反対側に舵を切ってみました(笑)

チャレンジができる地域へ

菜央 これまでどんな人たちが選考を通過して支援事業者として採択されたんですか?

勝屋さん 2016年だと「いちご」の渡部さんは面白かったね。彼女は本当にいちごが大好きな人で、京都で洋菓子屋さんをやっているんだけど、西粟倉でお菓子の製造拠点の拡大といちごの生産をしたいと提案をしてきたんですよ。事業計画はあまりできあがっていなかったけど、伝えてくれるイメージにリアリティがあって。きっと彼女なら実現できると思わせてくれる、ぶっとんだ起業家の代表ですね。

牧さん 渡部さんが来てくれたことで、人の採用が進むこともありましたね。彼女が「西粟倉で新しく事業を始めるために人を探している」と言っていたら、ちょうどスクール参加者の知り合いに、西粟倉に帰ってきたいというパティシエがいて。面接してそのまますぐ採用になりましたね。

勝屋さん そんな風に偶然の出会いが起きたことが他にもあります。林業の村として頑張ってきた西粟倉が、次のステージに進むためにこれまでの仕組みを変えなければいけないという状況の中、役場の職員が「村の林業を支えていく新しい会社をつくってほしい」というテーマを出していたんです。そこに興味を持って、東京の大企業で働く中井くんと田畑くんという二人の男の子たちがやってきてくれたんですよ。

牧さん 僕も「林業で起業というテーマはマニアックすぎて、さすがに関心を持ってくれる人はみつからないでしょう」と言ってたんですけど、経営ができて林業に興味がある、ちょうどぴったりな人たちが来てくれました。

勝屋さん 僕はメンターとして毎年関わっているんですが、エーゼロの社員の方たちも役場の方たちもどんどんエネルギーがあがってきていて。地域の外から人が加わることで、新しいつながりが生まれて、地域の生態系が豊かになってきている感じです。特別な人が特別なことをやっているコミュニティじゃなくて、全体にそのムードが広がってきていますね。

牧さん だんだん「チャレンジしてもいいのかな」みたいな気運は高まってきてますね。以前は「どうせ商売縮小していくから人を採用してもしんどいだけ」という林業の会社も多かったんですが、今エーゼロに来る相談は「採用したいから人を探してほしい」という依頼が多くて。そうした流れの中で、2回目のスクールには村内で生まれ育った人からの応募もあって嬉しかったですね。

「周りに理解されなくても、自分がやりたいと思うことはやってもいいんだ」という空気が、もともと西粟倉に住んでいる人たちにも波及してきているようです。

逃げてきた人こそが本来の自分になるチャンスをつかむ

菜央 今年からはローカルライフラボが始まると聞いています。それもそうした地域の空気の中で?

牧さん そうですね。そうやって地域の会社が採用にも積極的になってきていると同時に、現実的に社員が高齢化しているのもあって、仕事はあるのに人が足りない状況になりつつあるんです。そうした中で、今年はただ「起業するぞ」とか「稼ぐぞ」というよりは、西粟倉の会社に就職してくれるような人も含めて、村に来てもらうような流れをつくっていかないといけないなという。

また、時代も変わってきていますね。強いエネルギーを持った「ザ・起業家」みたいな人だけじゃなくていいというか。誰かひとりのパワーより、ひとりひとりの可能性を積み重ねていくことの方が大事になってきているように感じているんです。

起業も含めて、自分でなにかやってみたいなっていう人がまず地域に行ってみる。自分自身に眠っている可能性と、地域に眠っている可能性の掛け算でなにかできることがあるだろうかと見つけ出していく。

そういうことができるようなことが、仕組みとしてあった方がいいなということで、今年はローカルライフラボ(以下、ラボ)とスクールという二段構えで取り組むことにしました。

菜央 ラボはどんな枠組みなんですか?

牧さん 大きな枠組みとしては地域おこし協力隊制度が適用されます。応募したら面接を経て、地域おこし協力隊の枠を使って研究生という立場で採用されます。

本人が決めたテーマに沿って研究するという形で、エーゼロのスタッフが研究生になった人たちの相談役としてサポートをしていきます。

例えば林業や木材関係のことでなにかやりたい研究生だったら、僕らが間に入ってどこか村内の木材加工の工房で体験させてもらうとか。その辺の研究を進めていくプロセスというのは、我々と研究生で相談しながら決めていきます。

広々とした風景ひろがる厚真町。参加者がとことん研究に取り組める環境も魅力のひとつ

菜央 研究生に求められるアウトプットはあるのかな?

牧さん 本人の身の振り方を明確にしてもらう、ということですかね。地域おこし協力隊としての期間は最大3年間あるんですけど、研究生としては原則1年なので、最初の1年の間に起業するのか、就職するのか、第三の道はあるのか考えてもらう。3年間いろいろ自分の役割を地域の中で見つけ出すために試行錯誤してもいいんだけど、研究生という身分は最初の1年だけですね。(注:厚真町は研究生期間が最大3年間)

菜央 じゃあ本当にじっくり考えられるね。

牧さん たぶん今会社勤めをしている人は、一回リセットして持ってる荷物を全部おろして、そのうえでなにをしたいんだろうって考えることが必要で。大半の時間をとられる仕事や人間関係のしがらみのなかで、本当にやりたいことを探してチャレンジすることはどうしても片手間では難しいと思うんです。そういう意味では、研究生というのは、一旦リセットすることが許される場所ですね。

勝屋さん 僕も25年間IBMという会社に勤めていて、48歳のときにリストラになったんです。離婚もして、お金も一切なくなって、全てを失って本当にリセットされた状態になって。そこからいろんな人と出会ったり、自分は本当になにがやりたいのかもがき苦しんで、1年ぐらいかけてやりたいことがイメージ化されてきたんですよ。そういう経験があるので、猶予期間ってすごく良いと思います!

会社員で働いている今の状況はなにか違うなと感じているんだけど、「いきなり起業しろ」と言われても何がやりたいのかわからない。そんな人たちって結構いるんじゃないかと思っていて。そういう人たちには希望になるよね。

牧さん 起業家として採択されるとなると、自分の言葉で何をやりたいのか説明していかないといけません。でも、逃げるということが許容されるべきだと思っていて。西粟倉に、厚真に、自分の弱さを認めて、今苦しい思いをしていることも認めて、一旦リセットして逃げるっていうことがあっていい。

何かあって逃げてきた人が、もう一度元気に輝いていく。勇気を振り絞って逃げることができた人こそ、その人が本来の自分になっていくチャンスをつかむので。そういう意味で積極的に逃げる先として考えてほしいんです。一回リセットして、ゼロになって、そこから自分は何をしたらいいんだろう、ということを研究するのが研究生だと思っていて。

菜央 イメージ湧いてきた。いいですね!

牧さん 全国各地で、地域で起業家を集めることがレッドオーシャン化しているというのもあって。そういう意味では地域にとっても、これからは起業家っぽい人をつかまえて呼んでくるより、逃げてくる人たちと一緒にやることにこそ可能性があると思っています。みんなでその人の可能性を探して育てていく、みたいなことができる。そういう意味で、人を育てる力のある地域が面白い地域になっていくんじゃないかな。

その結果としていろんな課題が解決されていく、というのが地域の未来をつくるプロセスになっていくと思います。

弱さを認めることは、誰かの可能性を引き出すこと

菜央 思い出したのが、神奈川県の旧・藤野町(現・相模原市緑区)のことです。藤野町エリアでは、参加者が500人もいる地域通貨「よろづ屋」がかなり盛り上がっているんですね。その参加者のひとりが、10年近く閉店していた飲食店を購入したけれども、設備を入れ替えたり修繕するお金がなかった。そこで、地域通貨の仲間に「みんな手伝ってくれない?」って投げ掛けたんです。そしたら、みんなが才能を持ち寄って手伝ってくれて。試食会を開いたり、資金を集めて修繕費用にあてたり、掃除を手伝ったり、開店までのプロセスにいろんな人が携わってくれたそうです。

彼は藤野に移住して、仲間と出会い、その仲間たちの可能性と出会い、物件が出てきたときに仲間がいればなんとかなるかもと思って、仲間たちと共にお店をオープンできた。その結果、初日から地域に愛される存在になった。人がもの、技術、知恵、手間を持ち寄ることで、一気に可能性が開けた。豊かになったんです。その人はコミュニティに散々世話になっているものだから、お店もまた、ものすごくコミュニティに貢献を返すわけですよね。そういう人間関係ってほんとにすばらしい。そうしたコミュニティがまた次に挑戦する人たちを育てていく、その循環が藤野で起きていると思うんです。

牧さん 今聞いていて思ったのは、本人の「こうしたいんだ」という思いがしっかりしているほど、周りは応援したくなるのかなと。「地域のために」じゃなくて、「自分自身が生きたいように生きていく」とか、「自分なりの生き方や暮らし方を実現していく」ということを起点にして、周りの人にお世話になりながら進んでいく。そういう姿勢がとても大事なんじゃないかなと思いました。

勝屋さん 菜央さんは、彼はどうして周りから愛される存在になったと思う? ラボにエントリーする人が参考にできるような部分ってあるかな。

菜央 彼のことを直接よく知っているわけではないんですが、僕が想像するに弱さを認めたことではないかな。「僕にはお金がない」とか、「ここまではできるけどここからはできない」とか。弱さって強さなんですよね。なぜなら他の人がそこに参加する余地が生まれるから。だから、「できない」っていうのは、他の人の可能性を引き出すっていうことなんですね。

牧さん 仲間や関係ができていく先に、ビジネスや商品が生まれていくんですよね。いきなり移住と同時に事業の明確な計画を出せというよりは、関係を溜めていく、仲間をつくっていくプロセスが大事だなというのは今の菜央さんの話で思いましたね。

勝屋さんと祐子さんはいろんな起業家さんを見てると思うんですけど、新しいチャレンジを始める前段階にはどんなことがあると思いますか?ラボの1年の過ごし方っていうのは、就職になるのか起業になるのかわからないけど、その人なりの生き方みたいなものをみつけていく時間だとしたときに、どういう時間の過ごし方だったらいいんだろうと考えていて。

勝屋さん 起業する人は、社会がどうだとかよりも、自分自身の純粋な欲求を大事にして、事業のイメージをつくっているような気がしますね。

祐子さん 私は素直に人からものを聞いたり、自分のやり方を変えたりする柔軟さが新しいことにチャレンジするときには必要だと思っていて。そのためにはやっぱり自分の弱さを認める強さが大事かなと思いますね。

挑戦する人を育てる地域のあり方

菜央 僕は、ひとりひとりの行動を考えるっていうよりも、行動を起こすことが誘発される場をつくることに可能性があるんじゃないかと感じていて。

例えばイギリスのトットネスというまちでは、市民活動がたくさん立ち上がっていて、地域内で経済を回すために起業を支援するような仕組みもある。さらに起業家同士がコラボレーションをして、また面白い動きができている。

そんな感じで生態系の中に起業家がいて、起業家の1歩手前、2歩手前、3歩手前の人がいて、先輩を見ながら、横を見ながら、手助けしてくれる人たちのつながりを作りながら、いつも誰かの才能と自分の才能を掛け算したらどうなるか考える、ラボではそんな日々を過ごすのがいいんじゃないかな。

牧さん 研究生がどんな人でどう成長していくのかというのはひとつの軸としてあるけれど、研究生がいろんな人と関わる中で、何かが誘発されるような地域を場としてどう育てていくかっていうことの方がより大事かもしれないですね。

(対談ここまで)

話を聞いているうちに、「自分の才能と地域の資源をかけあわせたら何ができるのだろう」と私自身思いをはせて、わくわくせずにはいられませんでした。

「今の生活は何かが違うけれどどうしたらいいのかわからない」、「新しいことを始めたいけれど、最初の一歩の踏み出し方に迷っている」ーそうした状態の人こそ、ローカルライフラボではウェルカムだといいます。何か特別なことができる人よりも人が関わる余白を持つ人の方が、地域の人や場所がつながる触媒のような存在となり、新しいコミュニティを育むことができるのかもしれません。

次回からは、西粟倉村と厚真町で、実際に地域に飛び込んだ人のその後を追います。彼らの歩みには、地域で自分らしく働く・暮らすヒントがありそう。たとえばみなさんだったらどんな過ごし方ができそうか、そんなことを考えながら彼らの足取りをたどってみませんか?

(写真:荒川慎一)

– INFORMATION –

ローカルライフラボ説明会@札幌
7月21日(金)18:00〜21:30 ゲスト:greenz.jp 鈴木菜央
詳しくはこちらまで(http://guruguru.jp/atsuma/lvs/lvs_lll_kickoff.html

ローカルライフラボ説明会@東京
7月26日(水)19:00〜22:00 ゲスト:greenz.jp 小野裕之、エーゼロ牧大介さん
詳しくはこちらまで(http://guruguru.jp/nishihour/lvs/locallifelabo_kickoff.html

・エーゼロとは
http://a-zero.co.jp/