「もし選べるのなら、クリーンなエネルギーを使って暮らしたいなあ」。
とくに、福島第一原発で事故が起きてから、そんなふうに考える人が増えています。でも、多くの人は、ため息をつきながら考えこんでもいます。「でも、どうしたらいいんだろう?」。
やりたいことがあって、そのやり方がわからないときには、すでに実践している人に会いに行くのがいちばん。そこで、greenz.jpは、「再エネやってみたい人」と「再エネをやっちゃった人」が、お酒を飲みながら話せる場「green power drinks」を全国5カ所でひらくことにしました。
2回目の開催は大阪。ゆるさとテンションの高さが共存する空気のなか、関西らしく地に足のついたエネルギーの話が展開しました。
ゲストに来ていただいたのは、岡山県・西粟倉でバイオマス事業に取り組む村楽エナジー株式会社の井筒耕平さん、兵庫県・宝塚市で市民発電所をつくった非営利型株式会社宝塚すみれ発電の井上保子さん、そして自然エネルギーを取り入れた家庭をいとなむ“塩屋の主婦”の澤井まりさん。
「再エネ」といっても、捉え方や取り入れ方も三者三様です。たとえば、井上保子さんならこんなかんじ。
井上さん 「再生可能エネルギー」とか「renewable energy」て言葉が難しいから、特別なことをしなきゃいけないと思ってはると思うけど、特別なことは何もないんです。雪が降って寒い日でもね、ちょっとお日さまが背中に当たったら、なんとなくポカポカするでしょう? 太陽や水や火、身近にあるもののことなんですよ。
いかがですか? こんなふうに言われると、「再エネ」という言葉がちょっとほぐれる気がしませんか。みなさんも、手元に温かい飲みもの(あるいはアルコール)を用意して、この記事を楽しんでいただければ幸いです!
ところで“再エネ”ってなんですか?
まずはじめに、greenz.jpの小野裕之が登壇。みんなで「再エネって何?」をおさらいしました。
再生可能エネルギーとは、「ずっと使える」「地球が温暖化しない」「自然のエネルギー」のこと。太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱など自然界に存在する熱、バイオマスなどを指します。
地球温暖化の原因は「人間の影響の可能性が極めて高い(95%)*」とされており、今すぐにも温室効果ガス排出量を減らすことは喫緊の課題になっています。
*環境省配布『IPCC第5次評価報告書の概要 – 第1次作業部会(自然科学的根拠)』(2014年12月改定)より
また、原油生産量もピークを超え、化石燃料は枯渇しはじめています。2014年の日本のエネルギー輸入額は輸入総額の約3分の1(約28兆円)*にものぼり、国内資本流出の一大要因。さらには、世界のエネルギー需要が高まるなか、化石燃料の確保が難しくなれば、国内のエネルギー供給が不安定になる可能性もあります。
*外務省配布『日本のエネルギー外交』(2016年3月)より
つまり、再エネはこれらの課題を解決する手段として期待されているというわけです。
たとえば、2012年に本格的にスタートした固定価格買取制度(FIT)は、再エネの普及拡大を進めるためにはじまった制度です。これにより、日本の太陽光発電の年間導入量は、2015年までの3年間で約6倍(累積設備容量3300万kW以上)に急成長。2015年度には、日本の発電量のうち再エネが占める割合はおおよそ14.5%と40万人の雇用を生み出しました。
greenz.jpでも、再エネ推進のために、4年前から経済産業省資源エネルギー庁 GREEN POWERプロジェクトの一環として「わたしたちエネルギー」という特集ページをつくり、200本以上の記事を届けてきました。
小野 「みんながするべき」ではなく、「選びやすくなったし、選ぶことが楽しい」というスタンスで、「ライフスタイルをシンプルでミニマムにしよう」「つくれるものは自分でつくろう」と活動している方々に取材しています。
今回のゲストのみなさんも、「するべき」ではなく「やりたい」と再エネを選び、自分たちの手で「つくれるものをつくる」ことを楽しんでいる人たち。ひとりずつ、お話を伺っていきましょう。
エネルギーは地域をつくる“手段”(村楽エナジー・井筒耕平さん)
村楽エナジー株式会社は、岡山県・西粟倉村のローカルベンチャー。代表取締役の井筒耕平さんは、隣の美作市で地域おこし協力隊を経験した後、バイオマスエネルギーに取り組むために西粟倉村に移り住み、村楽エナジーを立ち上げました。
井筒さんは、地域を客観的に見渡したうえで、その循環のなかにエネルギー事業を位置づけています。
井筒さん 西粟倉村は林業のまち。人口は2010年で1520人、2015年で1472人。ただ、子どもは増えています。エネルギーの話なのに、なぜ地域や人口の話をするかというと、エネルギーは地域をつくる手段だと思うからです。
村楽エナジーでは「バイオマス事業をする」こと自体を目的にしているわけではありません。あくまでも、エネルギーづくりは地域をつくる“手段”なのです。
西粟倉には、この7年間で村楽エナジーをふくめ20社ものローカルベンチャーが立ち上がっています。社長も社員も20〜40代の子育て世代ですから、ベンチャーが増えると子どももまた増えるのです。20社のなかには、林業とは関係のない「油」や「日本酒」の会社もあります。一方で、移住者による起業に刺激されて、地元の人たちが新しい会社を創業する動きもあるそう。
井筒さん 地域づくりにおいては「課題解決を先にやらない」ことが大事だと思っています。みんなが好きなことを勝手にしていて、「あ、ここにこんな課題があったね」「ついでにやっちゃいましょうか」みたいな、そのくらいのノリでやらないとしんどいですよ。
村楽エナジーの事業領域は、観光・宿泊事業、バイオマス事業、企画・ディレクション事業の三本柱。観光・宿泊事業では村の人と外から来る人が顔を合わせる場となるようなゲストハウスの運営をしています。
バイオマス事業で販売するのは「熱」。西粟倉村にある、間伐されたC材(低質材)を薪として燃やした熱を、村内の薪ボイラー、日帰り温泉施設や宿泊施設で使用。C材の活用で林業を支援し、村の燃料費を削減することで村外への資金流出を抑えることにも一役買っています。
そして、企画・ディレクション事業では、実業を営んでいる立場を活かして、自治体や地域のコンサルティングを行っています。井筒さんが、西粟倉で学んだことは「ハードに目を向けると同時にソフトを開発すること」だと言います。
井筒さん 地域って、すぐに「この廃校の利用どうしよう」「空き家をどうしようか」と、ハードに目を向けがちです。でも、ベンチャー企業をたくさん作ることに重きを置けば「このハードが空いているね」とどんどん埋めていける。楽しいことをやってソフトをつくり、ハードを埋めて行くほうがスッキリしたやり方だと思っています。
地域を俯瞰して、「そこにすでにある資源」を生かすほうが、地域の活力を上げることにつながりやすいのかもしれません。
「みんなで電気つくれるやん!」を証明(宝塚すみれ発電・井上保子さん)
次に登壇したのは、兵庫県宝塚市で市民発電所づくりに取り組む、「非営利型株式会社 宝塚すみれ発電」の井上保子さんです。
宝塚すみれ発電は、地域の人たちが主体となって再生可能エネルギーをつくり、地域に還元できる市民発電所を立ち上げている非営利型の発電会社。2013年1月には、全国初の市民発電所「宝塚すみれ発電所第一号」を稼働させることに成功しました。設置にかかった320万円の費用は、市民による私募債で賄いました。1口10万円の私募債が、募集からわずか1ヶ月で全額集まったそうです。
現在、稼働している発電所は6基。2016年には、そのうち3基の発電所をつくったので、「もう、へとへと」という井上さん。「それでも、なんで市民発電所をつくるかというとね」と、そもそものきっかけを話してくれました。
井上さん 私たちは30年以上、原発に反対してきました。でも、電力会社に行くとね「今、原発を止めたら江戸時代に戻りますよ」「代替案あるんですか?」って言われたんです。だから、2012年にFITができたときに市民発電所をつくりました。
施設工事は、井上さんたち宝塚すみれ発電のスタッフとNPOのメンバーや市民、宝塚市の新エネルギー推進課の職員が力を合わせて行いました。ひとつ20kgもある敷石や太陽光パネルを運び、配線をして電気連携ができたとき、井上さんは「みんなで電気つくれるやん!」と快哉を叫びました。世の中に、そして電力会社に、「電気は自分たちでつくれる」ことを証明してみせたのです。
井上さん 市民発電所は、身に合ったやりかたで地域にエネルギーをつくって、それを地域で暮らすみなさんのエネルギーをまかなうしくみ。誰にでもできるし、市民発電所はどんどんできて当たり前なんですよ。
宝塚市の人口は約22万人。しかし、そのほとんどが南側の鉄道沿線エリアに集中しており、北部人口は3000人を切っています。市の面積の3分の2は農村や山林であり、なんと牛も800頭いるそう。井上さんいわく、「(北部地域は)再エネの里」。ここで、宝塚すみれ発電は、エネルギーと食の地産地消を両立させる事例を生み出しています。
井上さん すみれ発電所四号は、地元の大学・甲子園大学フードデザイン科との共同研究で、太陽の光を電気と作物で分け合う “ソーラーシェアリング”にしました。20年間電気を売るので、農業も続けなければいけなくなる。農地と食べ物を守ることにもなるんですね。
すみれ発電所五号は、中古の太陽光パネルを貰い受けて、地元の乳業会社の製造工場の屋根に取り付けて施行。工場の遮熱と経費削減を実現し、おいしい低温殺菌牛乳をつくる地元の乳業会社の支援にも役立ちました。
井上さん 「再エネは繰り返し使える」と言いますけど、繰り返すのではなくて「自然の力をちょっと貸していただく」んです。ここを間違えたらあかんと思う。それから「なんのために、誰のために再エネを導入するのか」も大事です。私がやりたいのは、再エネを使って一次産業を守るということ。一次産業を守るということは、自然を守ることになるんです。
井筒さん、井上さんともに共通していたのは、「エネルギーをつくることを目的化しない」というまなざしだと思います。そして、「誰のために、何のために?」という問いを持ち続けること。最後に登壇した澤井まりさんは、この問いへのひとつの答えかたを、とても身近なことばで教えてくれました。
等身大で暮らす家庭のエネルギーの話(主婦・澤井まりさん)
澤井さんのお話は、発電所や地域をつくる話ではなく「ほんとうに等身大の暮らしの話」。3年前、神戸市の塩屋という海辺の漁師まちに夫婦で引っ越し、築50年の家を直しながら、「たくさん稼がずに、大きな流れに巻き込まれない」暮らしをはじめました。
神戸の中心地・三宮まで徒歩と電車で約30分、澤井さんの家の周囲には、そのアクセスの良さからは考えられない田園風景が広がっています。台所の改修をしていた8ヶ月間は、外にしつらえたキッチンで料理していたそう。七輪を置いて、薪でごはんを炊くので「1時間半かかるんですけどね。雨の日は外食でした」と澤井さん。
でも、夫婦ふたりだけのDIYはあまりにもハード。キッチン、階段、トイレをつくった後、元々教師だった旦那さんは再び学校に勤め、改修作業は毎週土曜日と決めて友人の手を借りてすることになりました。壁を塗ったり、排水工事をしたり、家の装飾をしたり。各々の得意なことをしてもらい、夜はみんなで宴会です。
澤井さん ロケットストーブを暖房器具としてつくるのは始めてだったので、いろんな人に本を借りたり、話を聞いたり、手伝ってもらったり、10人以上の人に関わってもらって完成しました。去年までは土間で、室温が最高でも10℃。ずっと外の格好をしていましたが、今年はたいへん暖かいです。
プロパンガス代が高い(都市ガスの3〜4倍!)ので、お風呂と台所のお湯にはボイラーを導入。燃料には、塩屋の港で廃棄される、古くなったフォークリフト用の木製パレットをもらい受けているそう。電気は、売電しない独立型の電気システムを導入。ソーラーパネルで発電した電気をインバーターに通して、バッテリーに貯めて使用しています。
澤井さん ブレーカーの横につくった、もうひとつのブレーカーを上げると全館太陽光、下げると関西電力というしくみにして、各部屋にも関西電力のコンセントを残しています。あまりハードルは上げないようにしたいなと思って。電気システムの施行をお願いしたのは藤野電力さん。無理せず、得意な人に任せました。
家の周りの土地もみんなで開墾して畑をつくり、思い思いの野菜や穀物をつくっているそう。野には、つくし、たけのこ、きいちごもありますし、地域のお手伝いをすると魚をもらえます。気候の良い季節は、野のもの、山のもの、海のものでつくったランチを、テラスでいただくことも。
澤井さん はじめる前は、不安のほうが大きかったんです。「どのくらい労力がかかるのかな、うまくいかなかったらどうしよう?」と考えちゃって。でも、バリバリに循環型の生活をしている友人に「まあ、やってみ。やってみたらそんなにしんどいと思わへんと思うよ」って背中をポーンと押してもらって、私はいけた。たしかにしんどいことも、力仕事もあって、人にお願いして頼らないといけないことも多くて、そういうエネルギーも使います。でも、それはいやなことじゃないんです。
「やりたい」と言ってくれる人の気持ちを大事にしたり、「ありがとう」とごはんを食べてもらったり。困っている人がいたら、知っている方法を教えたり、詳しい人を紹介したり。澤井さんのお話を聞いていると、暮らしのなかに再エネを取り入れるということは、人と人の関係にもエネルギーを生み出していくのだな、と思えてきました。
わからないことは詳しい人に聞いて、ひとりでできないことは誰かに手伝ってもらって、無理はしない。「やらねば」から「やりたい」に気持ちのスイッチが入れ替わったとき、きっと新しいエネルギーとのつきあい方が見つかるはずです。
(撮影:浜田智則)