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地域おこし協力隊を卒業しても、その地域とともに生きていく。富士吉田のゲストハウス「hostel&salon SARUYA」共同代表・赤松智志さんに聞く、人任せにしないまちづくり

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

ここ数年、国の施策もあり飛躍的に隊員の数も増えている「地域おこし協力隊」。任期は1〜3年間ですが、彼らがまちに入り、どんなことをしているかご存じですか?

地域おこし協力隊は、地方自治体の委嘱を受けて、地域外から人を登用し、地域力の維持・強化を図っていく制度ですが、自治体の受け入れ体制や隊員の意向によって、活動の幅も大きく変わってくるのが特徴ともいえます。

今回は、地域おこし協力隊として地域に入った赤松智志さんが、地域の人と旅人とをつなぐ地域のハブになる施設として仲間とつくり上げた山梨県富士吉田市のゲストハウス「hostel&salon SARUYA」と、そこから赤松さんが仕掛けているまちづくりの様子をご紹介します。

観光客は増えても、まちには元気が足りない

山梨県富士吉田市は、富士山の麓、富士五湖のひとつ河口湖などを有する一大観光地を有している街です。富士山がユネスコ世界文化遺産に登録されたこと、近年訪日外国人が増加していることもあり、今、日本人に加え、多くの外国人観光客が訪れる街になっています。
 
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富士山に向かってそびえる金鳥居

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河口湖駅前で富士山五合目を目指す外国人旅行者のバス待ちの行列

麓を走る富士急行の駅名変更(2011年富士吉田駅から富士山駅へ)や駅舎デザインリニューアルを行うなど、地元も観光振興に力を入れています。
 
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工業デザイナー水戸岡鋭治さんが改装デザインを担当した下吉田駅舎

しかし、富士山へ向かう観光客は増えても、富士急行下吉田駅の駅前から続く商店街は、今はほとんどシャッター通りとなってしまい、人の交流も減っています。まちの中心はモータリゼーションの進化とともに、駅前通りではなく国道139号沿いに移っていったのです。
 
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人通りも減ってしまった古くからの商店街

そんな下吉田駅近くの商店街通り沿いにつくられたのが、ゲストハウス「hostel&salon SARUYA」です。

ゲストハウス「hostel&salon SARUYA」って?

「hostel&salon SARUYA」は、富士吉田市、下吉田本町2丁目商店街の空き店舗を自分たちの手で改修し、人が集まることができる一階のサロンと、二階のドミトリー(相部屋)方式のホステル部分をあわせもったゲストハウスです。
 
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一階のサロンではゆっくりお茶を飲んだり、スタッフやお客さん同士話をしたり、地元の人がふらりとやってきたり。ときにはここでイベントが行われることもあります。

自由に使えるキッチンスペースもあるので、富士登山に向かうゲストがここでお弁当を仕込んだり、夕食を自分でつくって食べることもできます。
 
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自由に使えるキッチン

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SARUYAのロゴが施されたエントランス

SARUYAというネーミングは、動物の猿から。申年に富士山が現れたという言い伝えなどから、猿は神の使いであるとされているそう。ネーミングからそんな富士山やまちの歴史を知ることもまた、まちを深く知る入り口なのかもしれません。

2階のホステルスペースは、和室をカーテンで仕切ったつくり。2段ベッドよりも天井が高く、左右の仕切りがあることで一定のプライバシーも確保されます。各スペースごとに手元を照らすランプと電源がきちんと2つ確保されているのもうれしい気配り。宿泊時のWi-Fiと電源確保問題は、長い旅をする人にはとても重要なポイントです。
 
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シャワーやトイレ、洗面スペースも清潔で美しく整えられています。古い梁や和室を活かした日本的な部分と、新しくつくられた水廻りスペースの機能性の両方がある使いやすいつくりです。
 
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赤松さんは、なぜこのようなゲストハウスをこの富士吉田のまちにつくろうと思ったのでしょうか?

このまちに必要なことは、人の流れをつくること

2013年に山梨県富士吉田市の地域おこし協力隊に着任した赤松智志さん。

大学時代に学んでいた観光のまちづくり連携の実習先として、既に富士吉田市とつながりができていたこともあり、コミュニティデザインを行う会社でまちづくり事業などに携わったのち、地域おこし協力隊に参加することを決意しました。
 
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富士吉田のまちは富士山の麓にあるので、夏は富士登山の観光客で賑わいますが、冬は人がいなくなる。

地元の商店街も以前は賑わっていたようですが、今は長く商売を営んで来た方が店をたたむなど、代替わりができておらず、人間のからだで例えると「血管が詰まっていて流れていない」状態だな、と感じていました。

そんな現状を知り、赤松さんが最初に取り組んだのが、富士吉田市下吉田地区の路地裏にある空き家の活用。まずその第一弾として古い六軒長屋の家屋の3軒を移住者向け短期滞在シェアハウスとして、残りをイベントスペースとして改修し、「ハモニカ横丁」と名付け、再生させました。
 
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シェアハウス&イベントスペースとして蘇った六軒長屋「ハモニカ横丁」

また、ハモニカ横丁のシェアハウス完成後、でき上がったイベントスペースをまちの人に知ってもらうお披露目イベント「げんき祭」を企画することにしました。

「げんき祭」というイベント名は、げんき祭に関わった人みんなが元気に、ポジティブな気持ちになれるように、という思いを込めたそう。一箱古本市や1日カフェなど、地域おこし協力隊員や空き家改修に参加したメンバーだけでなく、「やりたい!」と声を上げた人が、その日1日だけでも何か新しいことをできる場にしたのです。
 
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「げんき祭」は、誰でもイベント企画から参加できる仕組みをつくったことで、運営側にまわるスタッフも増え、その口コミ効果で地元だけの集まりではなく、遠方からの来訪者が多く集まってまちの人も驚く賑わいとなり、大好評のうちに終了しました。

この企画の成功が赤松さんを更なる動きへ加速させます。協力隊2年目に入った赤松さんは、地域おこし協力隊の支援機関である「一般社団法人みんなの貯金箱財団」や市役所など、行政との連携を深め、さらに多くのプロジェクトと関わるようになっていきました。

ゲストハウスの役割を超えた、人の集まる場に

シェアハウスだけではなく、もっと外からの人がここにいつでも集えるような場所が欲しいと思うようになりました。宿屋は自然と観光客という外からの人たちが集まってくる場所。まちを家とするならば、玄関のような入口をつくることができるのではないかと考えたのです。

その想いが実り、ハモニカ横丁があるすぐ隣、商店街のメインストリートにある空き物件を借りて、一階を人が集まれるサロンスペース、二階をドミトリータイプで泊まれるゲストハウス、「まちを新陳代謝する宿」をつくる計画を進めていくことが決まりました。

このまちをもっと誰でも立ち寄れる、ひらかれたまちするためにはどうしたらよいか? また、赤松さん自身の生活の基盤として、地域おこし協力隊を卒業しても、ここ富士吉田で自分の力で生きていくためにどうしたらよいか? と考えた末の赤松さんの答えが、ゲストハウスだったのでした。

ちなみに、まちを新陳代謝する宿とはいったいどんな意味なのでしょうか?
 
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よく生物学的な意味合いで使われる新陳代謝という言葉ですが、意味は「細胞の生まれ変わり」です。

例えば、宿を訪れた人が、まちの中を観光して遊ぶだけではなく、そこでイベントを企画できたり、空き家改修を手伝えたりして、もっと深くまちを楽しむような活動ができたりする。

まちの内側の活動を、外からやってきた人たちに橋渡しをしながら、人の流れを生み出していく。それが、まちにとっての細胞の生まれかわり、新陳代謝する宿の役割だと思っています。

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1Fサロンスペースの改修前

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商店街の中にあるSARUYA(右)。以前は左の建物同様ペンキも剥がれた状態だった

ハモニカ横丁の改修同様、多くの仲間の賛同を経てスタートしたゲストハウスづくり。自分たちで改修作業も行い、なるべく少ない資金でスタートできるよう工夫しましたが、資金の一部はクラウドファンディングを利用しました。

資金面の支援が欲しいという理由だけではなくて、これまでいろいろなところでお世話になった方々に、僕たちがいま何を思ってどんなことをやっていくのかをわかりやすい形で知ってほしかった。

また「何かあったら協力するね!」と常々お声をかけていただいている方の思いを受け取る機会としてもいいタイミングだなと思ったからなのですが、本当にやってよかったなと思っています。

クラウドファンディングは、目標の金額の2倍以上という大幅に超えにて達成。内装改修費や寝具などの購入費用に充てることができました。

そうして多くの賛同者を得て自分たちで改修し、今までの古民家改修などで出てきた古い建具や道具もリメイクして、2015年7月、「hostel&salon SARUYA」はオープンしました。
 
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DIYでつくりあげた居心地のよい空間

2015年7月にゲストハウスオープン、すぐに夏の富士登山シーズンを迎え大忙しとなったSARUYA。

紅葉シーズン以降、冬は観光客も減り閑散期となって落ち着くだろうという予想でしたが、冬も予約が入り続け、宿としてはうれしい誤算となりました。英語対応ができる格安の宿が近隣にまだ少ないためか、現在は宿泊ゲストの9割方が外国人旅行客なのだそう。

サロン機能としては、同じ山梨県甲府市にある「バッカス甲府ゲストハウス」と共同でのイベントやライブなども行なわれ、富士山には何度も来ていても富士吉田のまちを知る機会がなかった人が、イベントを機に初めて富士吉田のまちで生活する人とも交流できてよかったという声も聞かれ、好評です。
 
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クラウドファンディングでイベント主催権を獲得したゲストハウスと「さかな祭」イベントを共催

まちづくりは人任せにせずに、自分で動くこと

赤松さんは、今年2016年3月でまる3年の地域おこし協力隊の任期を終えました。ハモニカ横丁お披露目イベントとしてスタートした「げんき祭」も、その後役割を変え、「まちとひとがもっと元気になれる」交流イベントとして毎年開催するようになり、県外からも多くの参加者が訪れ、人通りの少なかった商店街に行列ができるほどの賑わいを生むにまで成長しました。
 
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山梨の人気パン屋さんが集結、即完売になったげんき祭のパンイベント

まちとひとを交流させる「げんき祭」をはじめとする各種イベントと、外からの人がふらっと泊まれて集える場所としてゲストハウス「hostel&salon SARUYA」の立ち上げから運営を軌道に乗せた赤松さん。まさに大活躍された3年でしたが、これから先はどんな活動をしていくのでしょうか?

ひととまちを交流させるために、結果的にゲストハウスを運営することになりましたが、宿屋をやることが最終目的ではなく、手段のひとつなんです。

地元のように好きになってしまったこのまちを、より楽しくしていくこと。そのためにはまちづくりを人任せにせず、自分から動ける人をもっと増やしていきたいと思っています。

赤松さんの今後は、SARUYAの運営だけに留まることはありません。特に「げんき祭」の企画運営を通じて、若いメンバーがどんどん力をつけ、自信を持って行動を起こせるようになっていったことがとてもうれしかったそう。

まちを楽しむ力を鍛える。富士吉田市で暮らす中学生や高校生などの若者たちには、そんな力をつけてほしいと思っています。

「何もない」と言って目を背けてしまうよりも、楽しみを見出しながら街にかかわっていけば、きっとまち自体が面白い場所に変わっていく。これから先、市内の高校と連携して、地域と積極的に関わってもらう動きをつくっていくことになりました。他にもアーティストインレジデンスやゲストハウスの隣に古道具屋をつくる計画もあります。

地域おこし協力隊の3年間は、受け身で来た仕事をこなすだけだとあっという間に終わってしまう、と赤松さんは言います。「受け身ではなにも始まらない。」これはどんな立場、どんな仕事においても言えること。

「自ら考え、検証し、仲間をつくり、実際に動くことが何よりも大切」という考えを実践してきた赤松さんの行動は、これから先、富士吉田のまちの人がもっと地元を好きになり、旅やイベントでまちを訪れた人が「また来たい」「住んでみたい」人を増やすきっかけのひとつになりそうです。

これからの富士吉田市と、赤松さんの活動に興味が沸いたら、ぜひ「hostel&salon SARUYA」を訪れてみませんか?

(Text: 西村祐子)