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途上国でも被災地でも、ほしいのは“援助”ではなく“生きがい”!フェアトレードショップ「LOVE&SENSE」高津玉枝さんインタビュー

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「株式会社福市」代表高津玉枝さん

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

社会がもっと良くなるために、今日からできるアクションは何でしょう?
多くの人が衣食住のシーンで“消費者”なのだとすれば、“買い物”で世界を変えていくことだって、できる。そう思いませんか?

中でも“フェアトレード”は、先進国に住む私たちが、生産者に適正な賃金を支払い、生産者から一方的に搾取するあり方を変える貿易として、認知度が高まってきています。greenz.jpの読者の皆さんなら、きっとすっかりおなじみですよね。

今日は大阪を拠点にフェアトレードのセレクトショップ「LOVE&SENSE」を運営し、東日本大震災の後は東北支援のプロジェクトを立ち上げた株式会社「福市」の代表、高津玉枝さんをインタビューしました。

「フェアトレードらしくない!」洗練された商品ライン

大阪・梅田にある「阪急百貨店」。2012年11月に、待望の常設店「LOVE&SENSE」がオープンしました。

お店を訪れてまず目をひくのが、空き缶のプルタブを手編みでつないだ「プルタブバッグ」。他にも南米の熱帯雨林に自生する象牙椰子の種子を使ったアクセサリーや、ビビッドな色のカゴバッグなど。アジアや南米を中心にフェイス・トゥ・フェイスで契約を結んだ生産者団体から届いた商品は、フェアトレード製品だとは思えないほどにスタイリッシュです。

フェアトレードの商品がデパートで販売されること自体が、珍しい。高津さんの口から出た言葉に、私は衝撃を受けました。

shop「阪急百貨店」10階にある「LOVE&SENSE」

フェアトレードという名に負うているわりには、私たちは「アースデー」などのイベントには出店しないのです。だってそこに来る人たちは、もうすでに意識が高くて、フェアトレードを知っているから。私たちが届けたいと思っているのはファッションにはすごく興味があるけれど、国際貢献などにはあまり関心がない、という層なんです。

一般消費者の前に、バイヤーに向けて訴求

高津さんは「私ひとりでフェアトレードが良いと騒いでいても、世の中が変わるわけではない。一人ひとりの消費者が、貧困にあえぐ世界に想いを馳せることが大事」だといいます。そこでまずは、広い顧客層にリーチするために「大型商業施設で“成功事例”をひとつでもつくること」を目標にしました。

途上国の現状やフェアトレードの意義を訴求するニューズレターを自主的に発行。まずは流通の鍵を握っている一流百貨店のバイヤーに向けて、訴求し続けました。それでもなかなか理解は得られずに、歯がゆい思いをしながら夢を何年も温め続けたそうです。

bagタイのチャイナット地方でつくられたバスケット。田んぼの溝に繁茂するホテイアオイを刈り取り、バッグの原材料としてうまく利用しています

seisansyaバッグの生産によって、水田で働けなくなった年配の方たちが収入を得ることができるようになりました

玉砕状態からつかんだ成功への鍵

誰もが知っている商業施設でショップを開く。その夢が、現実になったのは2006年のこと。当時はマーケティングと販売促進の会社を経営していた高津さんに、取引先のひとつである「名古屋ロフト」で出店するチャンスがめぐってきたのです。

しかし結果は玉砕。売り上げが「チョコレートたったの1枚」だった日もあったのだとか。それもそのはず、この時点で日本におけるフェアトレードの認知度はたったの3%だったのです。売り上げは赤字、反省点もいっぱい。完全に落ち込んでしまいそうですが、高津さんは持ち前の「とにかくあきらめない!」根性を発揮しました。

売り上げはダメでしたが、そのかわり、ショップオープンのことはメディアでかなり大きく扱われ、掲載実績がつくれました。また、この敗因を分析するために、ネットで数百人規模のマーケティング調査をしたのです。

すると、商品を見ただけでは「欲しい」と思わなかった人も、つくり手の暮らしぶりや、背景にある貧困などの諸問題を伝えると「商品が欲しい」と意見が変わったのです。そして最終的にそれをデータにして分析すると、フェアドレードが「すごく伸びていくマーケット」であると明白になったのです。

このことからも、フェアトレードをビジネスとして広めるためには、まずは「共感を呼ぶこと」がとても大事だと思います。

このアンケート結果とメディア掲載実績、そして「ショップを名古屋ロフトに3ヶ月オープンした」という実績を三種の神器とし、その後は表参道ヒルズや伊勢丹、阪神百貨店、高島屋といった一流の商業施設で期間限定店を次々とオープンさせていきました。

フェアトレードの認知度は時代とともに徐々に高まり、「LOVE&SENSE」は今年10月に、アパレル業界のバイヤーや、メディア向けに開かれる見本市「rooms」に出展。世界的デザイナーのコシノジュンコ氏ご本人からも「とても素敵!」と絶賛されたとか。

正直言って、売り上げ面ではまだまだ道半ばといったところですが、フェアトレードをかっこよく見せられたということでは社会に対するインパクトは少しずつ出せているのかもしれませんね。

フェアトレードに出会ったきっかけ

そもそも高津さんがフェアトレードに出会ったのは、日本でまだまだその認知度が低い2000年のことでした。当時は「良いものをもっと安く欲しい」という、バブル崩壊後の消費者の意識の変化を感じ、自分の仕事になかなか誇りを持ちづらくなっていたといいます。

「どうやったらものが売れるのか?」の答えは明快で「高品質なものを値段をさげて売る」です。それが過度になると、生産者に過剰な負担をしいているなということが商品を通して、透けて見えるわけです。

当時私は、販売促進のコンサルティングなどを仕事にしていたのですから、大量消費、大量生産で「捨てることを前提に買う」ことの方に加担していたのです。果たして「地球環境や自分の気持ちにたいしてもいいのか?」と問うたときに、せっかくならもっと困っている人たちに向けて、マーケティングの力を使いたいなと思ったのがきっかけです。

笑顔のループが広がる「EAST LOOP」

eastloopsyukusyou2「EAST LOOP」ハートブローチ。編み手によって大きさや形に“個性”があり、それも魅力のひとつです

マーケティング会社とフェアトレード。二足のわらじではなかなか成果が得ることができません。ならばフェアトレードに集中しようと、それまで経営していたマーケティングの会社は2010年に解散。「これからはもっとフェアトレードに本腰を入れよう!」と思っていた矢先に東日本大震災は起こりました。

高津さんは地震から1ヶ月後の4月に被災地に入り、現地のNPO団体に「仕事をつくる」ことを提案しました。

生きるか死ぬかという状態の人に「仕事をさせる」なんて、考えられないといわれ、はじめは申し出を受けてもらえなかったのです。でも私の中では、被災地に必要なのは「仕事」だとわかっていたのです。

というのも、1995年に起きた阪神淡路大震災では、高津さんご自身が被災者だったのです。住んでいたマンションが一部破損し避難を余儀なくされたそう。

ご自身の経験から、地震直後の混乱や、家族や仕事を失った人の心の傷、そして時間が経過するにつれて震災が風化してしまいがちなことも、高津さんには見えていました。そして、高津さんを駆り立てたもうひとつの理由があります。

フェアトレード事業を通してネパールの”タルー族”と出会ったときのことです。彼らは「自分達は施しはいらない。自分達は自分達の民族の誇りがあるから」といったのです。お金があればいい、ではなくて、自分たちで自立して働いて、人の役に立ち、ありがとうといってもらう。これこそが生きる力になるんだな、とわかったのです。

だから被災者が義援金をもらったとしても、やはり仕事がなければ、生き残った自分の”価値”は見いだしにくいと思いました。

翌5月に高津さんは再び被災地を訪れました。すると予想していた通り、現地のNPO団体の人から「家族や仕事を失い、何もすることのない被災者が前を向くために、何かさせないと」と相談を受けました。そこで満を持して「EAST LOOP」プロジェクトがスタートします。

そっと包みたくなるような優しい手触りのブローチは、現地のNPO法人と協力して、編み手を募集。ピーク時には約200人の被災者が編み手として登録したそうです。プロジェクト開始から2年経った今では、売り上げが5,400万円、売り上げ個数は6万個。ブローチは1個800円、その50%が編み手たち生産者グループに渡ります。

さらに、編み手と購入者をつなぐための仕掛けとして、ブローチの台紙の裏には、編み手の名前と居住地を明記しました。Facebookや「EAST LOOP」プロジェクトのホームページを通して、購入した人が編み手にメッセージを送り、編み手と購入者がブローチを通して思いを馳せあう、そんな心のやりとりが、今も広がっています。
 
kamaitshi岩手県釜石地区の編み手のみなさん。編み手が集まり、手芸を媒介としたコミュニティが被災地の各地でできています

高津さんに震災後の時代の変化を伺いました。

地震後に、日本中のあちこちで被災者のためになる商品やグッズが色々出てきました。つまり困難な状態にある方たちを、買い物を通してサポートできるという意識を持っている消費者が増えたということ。ソーシャルなことに対する国民の意識は、確実に広まっていると思います。

阪神淡路大震災の時とは、地震の規模も違いますが、国民の意識にも良い意味で変化が見られているのではないでしょうか。

もっと「社会に良いこと」の輪が広がるために

「チャリティベースのビジネスは、次第に売り上げが下がってくる。その後も継続的に雇用関係を結ぶことは困難だろうから、震災から1年だけの期間限定で」という条件で「EAST LOOP」プロジェクトは始まりました。

ところが1年経っても震災復興の兆しは見えず、高津さんらは2年間プロジェクトを継続。そして、EASTLOOPを現地の生産者グループがコミュニティビジネスとしてまわしていくことを次の目標に掲げ、現在は在庫管理、商品の検品、発送などの業務を現地のNPO団体に移管している最中とのこと。

また、被災地に雇用をつくり出す、EASTLOOPの一連の取り組みが評価され、経済産業省のソーシャルビジネス創出促進事業に採択されました。EASTLOOPで培ったソーシャルビジネスのノウハウを3つの団体に伝えるプロジェクトとして東北で頑張る小さな事業所を支援しています。

数々の実績を残してもなお「まだまだ道半ばです」と謙虚な高津さん。今後は「日本の各地域でソーシャルなお買い物の仕組みをつくりたい人や、商業施設に対してコンサルティングをしたいです。そうすればもっと良いことの輪が広まっていきますから」と答えてくれました。

「たとえ転んでも、また立ち上がり、一旦掲げた目標は下げない」そのしなやかな強さに、脱帽です。これからもハートがつなぐ笑顔の輪が、ますます広がっていく様子が見えた気がしました。