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社会課題解決に向けた仕組みをデザインすることで、世の中を元気にする印刷会社「シーズクリエイト」

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CSR室の皆さん ©Makiko Takemura

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

「CSR」という言葉は、もう随分と一般的になってきたと思いますが、みなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか? 大企業が本業の“傍ら”に行う社会貢献活動、というイメージを持っている方も少なくないかもしれません。

ところが、大阪の八尾に本社を構える印刷会社「シーズクリエイト」は、このCSRに大きな力を注いで、社会課題解決に向けたさまざまなプロジェクトを産官学民と協働しながら進めています。結果、企業価値を高めて本業に良い影響をもたらすだけでなく、そこから新たなビジネスの芽も生まれはじめています。

今回は、なぜ印刷会社がCSRに大きく力を割くのか、シーズクリエイトCSR室長の前田展広さんに各プロジェクトの概要を踏まえてお聞きし、そこには一体どのような“ほしい未来”があるのかを探っていきたいと思います。

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©Yoshiro Masuda

シーズクリエイトは西日本最大級のチラシの生産力を誇る印刷会社。150人の社員を抱え、輪転機を7台保有しています。B4両面カラーであれば1日に3000万枚ものチラシを刷ることができるそう。大阪全域に出回る折り込みチラシの多くはこの場所で生み出されているのです。

そんなシーズクリエイトのウェブサイトを開くと「社会への取り組み」として、多くのプロジェクトが掲載されています。まずはどんなプロジェクトがあるのか、順番にご説明してきます。

奈良と外国人旅行客のあいだに幸せなしくみをつくるバイリンガルフリーペーパー「naranara」

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(c)Yukiko Takemura

naranara』は、ある奈良の通訳ガイドの方の想いから始まりました。奈良の観光、特にインバウンド(外国人旅行客)観光の「滞在時間が短い」「客が北部のみに集中する」「客単価が低い」「もてなしの質が低い」「京都・大阪の通過点」といった課題を改善することがねらいです。大阪の編集事務所「MUESUM」、デザイン会社の「UMA / design farm」と協力してつくっているフリーペーパーが『naranara』です。

特集地域の人々と対話して観光ルートを一緒に考え、推薦者として登場してもらうなど「奈良の人と共につくる情報誌」として制作されています。

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現地の英語ガイド団体の立ち上げも支援

外国人旅行客の方々に、「奈良ならではの体験」ができる情報を届けると同時に、現地に率先しておもてなしをしてくれる人やお店、ツールが増えていく状況をつくるための活動も行っています。

外国人をもてなすのは、このフリーペーパーではなく、現地の人々なんですよね。だからこそ、そういうしくみがつくれたら、それが、外国人の方が感動するような体験につながると思うんです。

空き町家やまちの資源を編集する「くらす*」

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「まちは暮らす場」と考え活動している「くらす*」は、前田さんが関わる、奈良県大和郡山市の地域団体です。

まちの資源を活用した産業・雇用の創出、人が主役の住みたいと思えるまちの実現、歴史文化・伝統の継承と発展、という3つを達成するために、暮らしの場所・人のつながり・情報などを提供しているそうです。

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「くらす*」のメンバーと撮影した一枚。一番左が前田さん

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活動の状況を地域に伝えるフリーペーパー。デザインはくらす代表の小山さん

会社の工場用地のある大和郡山にご縁をいただいて2年余り、2011年に町家を使った芸術祭「HANARART」の実行委員のお声がけいただいたところから、たくさんの人や地域との繋がりが生まれました。

昨年は、国土交通省の委託事業として、空き町家の又貸しを行う「大和・町家サブリースPROJECT」も実施することができました。 そこから派生して今年、一緒に活動してきた大和郡山に思いのあるメンバーと「くらす*」を結成することができたのです。地元に根ざした関係性や、温かい対話が増えてきていて、これからがとても楽しみです。

かつての日本の“あたりまえ”を取り戻す、里山経済圏事業組合(LLP)「minawac(ミナワク)」

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次に紹介する「minawac」は、「LLP」と呼ばれる、同じ目的をもった事業体が協力し合う有限責任事業組合です。この組合にはシーズクリエイトはもちろん、一般社団法人里山再生機構、そのほか5つのさまざまな事業体が加わっています。

シーズクリエイトCSR室からはクリエイティブディレクションの他、事務局メンバーとして参加。この「minawac」の目的は、組合の名のとおり、「生きとし生けるすべてのもの(みんな)が、わくわくわいわいにぎわう社会づくり」というところにあります。

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奈良県大和郡山市の工場用地が「minawac」本部に

かつての日本には世界でも類をみない、里山を中心に全てが循環する「持続可能な社会」がありました。しかし、わずか50年足らずの間に、高度経済成長期を経て里山はその数を減らし、生き物たちがいなくなり、日本人が続けてきた大切な営みが途絶えようとしています。

今では、生態系のバランスが崩れ、その影響が街や人、世界のあちこちで出始めている。でも、日本には循環できるしくみがあった、次の世代に引き継げるものがあったんです。

「minawac」では、これまでの歴史を否定するのではなく、現代のテクノロジーを活用しながら、生きものを戻し、街の問題を解決していくことが目指されています。かつての日本にあった「持続可能な社会」を取り戻すためのしくみや人を育くむ事業を、日本人らしい相互扶助という思想のもとで行っていきます。

八尾にある価値を再編集する「YAOLA(やおら)」

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YAOLA」は、シーズクリエイトの本社がある八尾市の、ものづくり・風土・人にスポットをあて、価値を再編集していくプロジェクトです。ものづくり職人さんの技術や想いを伝えていくことで、製品を利用する人が増える。今まで出会う機会が少なかった職人さんと商店街の店主が出会うことで、新しい商品ができあがる。そんな状況を生み出していこうとしています。

こちらも、デザイン事務所「ことばとデザイン」、空間づくりとコトづくりの「アトリエカフエ」との恊働プロジェクトです。

ものづくりと言えば東大阪をイメージされる方も多いと思うのですが、実は八尾は、東大阪よりも工業出荷額が大きいんです。「当たり前のようにいいものをつくる」ということが脈々と続いている八尾のものづくりの価値を伝えていきたい。

具体的には、八尾市からの委託事業として年4回、いろんな場所で八尾ものづくりの魅力を発信するブースをつくっていきます。その過程で、企業と恊働でワークショップも行ったり、八尾のものづくりを集めた「お道具箱」のお土産企画、小さい頃から地元にかっこいい中小企業があることを知ってもらうための、小学校向け教科書も制作予定です。少しずつ規模を拡大し、来年の4月ごろにはどこかの空き工場を活用して、そこを拠点にできたらと妄想しています。

若者の“働く”の価値観を根本から変える「ミライ企業プロジェクト」

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このプロジェクトは、従来の大企業や中小企業とは違う、未来への創造力をもつ「ミライ企業」という新しいカテゴリーの確立を通じて、雇用のミスマッチ解消と大学の学習改革を実現するプロジェクトです。

課題解決型学習「PBL」を活用するNPO法人「JAE」と社会性の高い広報支援を行う「PRリンク」との恊働で、今年の秋から沖縄と大阪で同時にスタート。キャリア教育のカリキュラムづくりに取り組んでいます。

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沖縄での合同合宿の様子

このプロジェクトを立上げた背景には、大手就職情報サイト中心の現在の就職活動に疑問を持ったことがありました。そこに掲載される企業って、高い掲載料を払える大企業ばかりなんです。でも、日本企業の99%である中小企業が日本経済を確実に支えている。中小企業とひとくくりにされてしまいますが、世界に誇る素晴らしい企業がたくさんあります。

そこに目を向けてもらい、学生たちに無数の選択肢があることを伝えたい。それを常態化したいと考えています。その伝える手段のひとつとして先頃、掲載基準を「社会性の高い企業」にしぼったキャリアマガジン『READY』を創刊しました。紙面上で情報を得るだけでなく、希望する企業に職場体験やWSなどを通じ直接体感し、職業選択ができるしくみもあります。PBLの枠組みも今対話を進めています。

CSRが会社にもたらすものとは

印刷会社のCSR活動とは思えないこれらの取り組み。そもそもなぜこれほどまでシーズクリエイトはCSRに力を入れるのでしょうか?

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お話を伺った前田展広さん

「地域の豊かさなくして、自社の豊かさなし」。これは社長の宮城の想いですが、僕らが常に胸に秘めている想いでもあります。前身であった印刷会社の創立から数えると46年間、社員の生活をみんなで守ろうと必死でやってきた家族のような会社です。それゆえ、儲けを重視するのは当然のこと。しかし社長は「自分たちのことだけを考えていて、会社は社会から必要とされるだろうか。他にできることはないだろうか」と考えていたんです。

そんな折、前田さんは12年勤めたデザイン関連の教育機関を退職し、シーズクリエイトにやってきます。宮城社長や社員の方々と対話を行い、価格競争ではない、取引先と対等な関係を築ける事業が必要だと感じたそう。そして、社会貢献を通じて「会社と社会との関係性」や「会社の見え方」を変えることはできないかと考え、前田さんはCSR室の前身の部署を立ち上げます。

一年間は、いろんなところに顔を出して対話をして、人との関係性を広げるということをしていました。「やります」といったものの、何をすればいいかわからなかったんです(笑)。「社会に良いことしたいんですけど」って言いながら数千人の人と話をし、何ができるのか、何をすべきなのかを探す日々でしたね。

それから二年、前田さんたちは社会が抱える課題解決に向けたプロジェクトを立上げては、社内対話を繰り返し、やりたいこと・やるべきことの精度を上げてきました。それが前述した5つのプロジェクトにつながっているのです。

企業の価値向上と関係性づくりのために、CSR活動もいろいろ行ってきましたが、この5つのプロジェクトに関しては事業化を前提にしています。社会の問題を解決することを事業にすると同時に、本業の印刷でも、そういった社会問題の解決の一助となるものが増えていくと素敵だなと思っています。

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シーズクリエイトのウェブサイト

こうした社会貢献の取り組みは、社会的には歓迎されること。しかし、株式会社である以上、利益の追求はあってしかるべきこと。そんな中、社内外の反応はどうなのでしょうか?

部署を立ち上げて2年が過ぎて、社内認知を進めるための広報も行っていますが、まだまだ不十分です。この部分は反省し、改善しなければならないところだと感じていますが、少しづつ社内外に良い影響が出始めています。

例えば、仕入先や取引先の温かい関係性が生まれたり、若年の就職希望者も少しづつ増えてきています。今まで関わることのなかった業界の方から、経営的にも良いご紹介や、お仕事をいただくことが増えてきました。ある社員の家族から「あんたの会社、最近良いことしてるな」という声が上がったと聞いたときは、とてもうれしかったですね。

うれしそうにそう話す前田さんに、最後に「あなたの”ほしい未来”はなんですか?」と聞いてみました。

過去を否定するのではなく、先人の知恵や自然に学びながら、経済も大事にしながら、ちゃんと子どもたちに引き継げる日本を残すこと。それをみんなで一緒にやりたいんです。相互扶助、お互いさま。日本人はずっとそうしてきた。当たり前だった。そんな会社や個人がいろんなところで、「次の社会の役割分担」を行っているような未来にしたい。でも正解はわからないので、みんなで一緒に考えながらつくっていきたいなぁと思っています。

足下から日本全土へ。シーズクリエイトのCSR活動は、「社会にとってのよいことをする」だけではなく、「よりよい社会をつくるため」のものでもあるように感じます。ぜひみなさんも、シーズクリエイトのこれからのさらなる取り組みに注目してください。