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企業の中でマイプロジェクトを実現!その進め方を学ぶ「越境リーダーシップ」

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「越境リーダーシップ」ワークショップにて

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

仕事は仕事、プライベートはプライベート。そんな生き方ももちろんアリですが、会社の協力を得て、個人としての想いを実現することも、一部の企業ではすでに受け入れられ、成果が表れています。

会社にいながら、その事業の一環として、個人の想いを実現する。むしろそれこそ、イノベーションが求められているビジネス界にもブレイクスルーを得るために必要なアクションなのでは?

そんなアクションを支援するのが、人材育成の企業に勤める三浦英雄さんが立ち上げたプロジェクト「越境リーダーシップ」です。個人の想いと仕事を切り離すなんて、もはやナンセンス。企業にもプラスの効果をもたらす“マイプロジェクト”の進め方、聞いてきました。

自身の強い想いを発端に、企業の新規事業を立ち上げ

これまでgreenz.jpでは、自分自身が強く感じた問題意識をきっかけに、さまざまな形で“マイプロジェクト”を進めている人たちを数多く紹介してきました。NPOを立ち上げた人、社会起業家として会社を興した人。中には、企業に勤めながら、余暇を使って自分のやりたいことを追求している人もいました。

今回ご紹介する「越境リーダーシップ」は、個人の想いを企業の中で実現するという、次なるマイプロジェクトの展開を支援するもの。昨年秋にスタートし、月1回のカンファレンス&ワークショップを実施。参加者同士や講師陣とのネットワークづくりを支援しながら、最初の第一歩を踏み出すことを後押ししています。

「越境リーダーシップ」カンファレンスに登壇する、グラミン雪国まいたけ Co-CEOの佐竹右行さん。「越境リーダーシップ」カンファレンスに登壇する、グラミン雪国まいたけ Co-CEOの佐竹右行さん

昨年11月、第2回「越境リーダーシップ」カンファレンスが開催されました。講師に迎えたのは、「グラミン雪国まいたけ」Co-CEOの佐竹右行さん。かわいいキノコのCMでもおなじみの、雪国まいたけの常務執行役員も務められています。

グラミン雪国まいたけは、バングラデシュでグラミン銀行を運営するグラミン・クリシ財団と雪国まいたけ、そして九州大学による合弁会社です。バングラデシュの貧しい農村部で、もやしの原料・緑豆を生産することで、雇用を生み出して農業技術をもたらし、同時にもやしを食生活に取り入れて栄養状態の改善を図っています。

雪国まいたけは、これまでもやしの原料である緑豆の輸入の90%を中国に頼り、原価の高騰が問題になっていました。そのためバングラデシュでの展開には、原材料費の削減や、調達先分散によるリスクの低減、それから“川上”つまり原料の段階に進出し、ビジネス継続の安全性を確保する、といったビジネス上のメリットがありました。

でも、もともとの発端は利益目的ではありませんでした。佐竹さんがプライベートでバングラデシュの農村を訪れ、貧しい現状を目の当たりにし、その解決のための行動を組織の中で起こした結果、上のような新規事業の開発に至ったのです。これは、企業に属しているからできたこと。自社のメリットも見据えて、バングラデッシュの社会課題の解決を目指すWIN-WINの発想をもつ佐竹さんだからこそ、成し得たことでした。

既存の枠を越え、国境を越えて活躍するリーダーを育てる

「企業のリソースを活用しながら、他団体や社会起業家やNPOと協業して社会的な課題を解決する取り組みは、今いろいろなところに見られます」と、「越境リーダーシップ」の発起人である三浦さんは話します。

「越境リーダーシップ」プロジェクト発起人であり、ウィルソン・ラーニング ワールドワイドのグローバル営業1部部長でもある三浦英雄さん。「越境リーダーシップ」プロジェクト発起人であり、ウィルソン・ラーニング ワールドワイドのグローバル営業1部部長でもある三浦英雄さん

佐竹さんや、カンファレンスに登壇いただいたほかの方々の大きな実績を聞くと「マネできないな」と思ってしまいがちですが、みなさん最初の一歩は自分自身の「何とかしたい」という強い想いと実感から。

その発端からお話しいただき、講義のあとには参加者同士のワークショップを設けて、自分の環境下ではどんなアクションが可能かを考えてもらっています。

「“越境”という言葉には、2つの意味を込めています」と三浦さん。ひとつは、既存の枠組みを超えようということ。既存のビジネスの目的と社会的課題の解決は、決して相反するものではありません。もっと、企業と個人の想いや、企業とNPOの意図とが“Win-Win”となる関係性を探れるのではないか。そんな発想がベースにあるといいます。

「越境リーダーシップ」プロジェクト資料より。これからは、個人の想いが企業やNPO、地域を束ね、動かしていく時代に。 「越境リーダーシップ」プロジェクト資料より。これからは、個人の想いが企業やNPO、地域を束ね、動かしていく時代に。

もうひとつは、国境を越えよう、という意味。少子高齢化や経済成長の伸び悩みを抱えた日本は、国の成熟度としての先進国だけでなく、このフェーズで発生するさまざまな社会的課題の面でも先進国といえます。

今の日本が抱えている課題は、いずれどの国にも訪れる可能性があります。その課題を解決できる人が増えて、日本が“課題先進国”から“課題解決先進国”になれれば、それは国境を越えて各国に参考にしてもらえるグローバルな価値を生み出すことになります。

「越境リーダーシップ」では、企業のリソースを活用しながら新たな価値を創り出すことができる個人の育成、支援を目指しているんです。

ちなみに「越境リーダーシップ」プロジェクトは、三浦さんが所属している人材育成事業を展開するウィルソン・ラーニング ワールドワイドと、慶應義塾大学、一橋大学との産学連携事業です。ここでも、枠を超えた取り組みが実現されています。

趣味と家庭とのトレードオフにどう向き合うか?

じつは、三浦さん自身、長年勤めているウィルソン・ラーニング ワールドワイドの活動としてプロジェクトを立ち上げた“越境者”。その発端は、何だったのでしょうか?

三浦さんは企業に勤める一方で、独身時代から続けていた音楽活動を軸に、ジャズイベントなどを開催していました。ですが結婚し、一人目の子どもが生まれると、なかなか土日にこうしたライフワークに時間をかけるのも難しくなり……。

妻は理解してくれていましたが、二人目の子どもが生まれ、さすがに二人が同時に泣いているときに外出するのは申し訳ない気持ちがいっぱいで。土日の時間が、自分のやりたいことと家庭とのトレードオフになってしまっていると、改めて気づきました。同時に、どっちを取るかという選択ではなく、大切なものの両方を取れる方法を創り出そうと思いました。

そこで三浦さんは、子ども連れで参加できる昼間の音楽フェスを企画。開催する地域の方々も巻き込んだ、年齢を問わず楽しめるイベントは盛況で、これまでに28回実施しています。

下北沢LIVE BAR440で開催した「When you are smiling!」。子ども連れ歓迎のイベントは、多くのファミリーに喜ばれました。下北沢LIVE BAR440で開催した「When you are smiling!」。子ども連れ歓迎のイベントは、多くのファミリーに喜ばれました。

この企画がうまく運んだことは、三浦さんにコミュニティづくりの可能性も感じさせました。フェスを開催すると、その地域の人たち同士の連携が強くなったからです。緩やかな活動の間で東日本大震災が起こり、ボランティアに出向く中でも三浦さんは連携の大切さを実感します。

ハード面では同じような復興状況でも、その地域の人たち同士のつながりが濃いか薄いかで、復興のスピードが違っていました。地域のコミュニティがしっかりしているところは、皆が前向きで立ち上がりも速かったのです。地域に根差した関係性を作れば、災害に強い地域にもなるし、家族を守ることにもなるんですね。

地域の住民で創り上げた、台東区・谷中の音楽祭「おせっかいまつり」。ジャズバンドと街の人たちの合唱団によるライブや、防災などのワークショップも。地域の住民で創り上げた、台東区・谷中の音楽祭「おせっかいまつり」。ジャズバンドと街の人たちの合唱団によるライブや、防災などのワークショップも。

趣旨に賛同してくれる人同士がうまくつながれば、活動も成果も大きくできる。同時に、ついトレードオフだと考えがちな事柄でも、仕組みから考えれば両方を取ることができる。そう実感したことが、会社の協力を得ながら、いわば“会社のプロジェクト兼マイプロジェクト”として自分の取り組みたいことに向き合えないかを考えるに至っています。

“越境リーダー”を育て、そして彼らが集う場を育てたい

現在、営業部長とプロジェクトリーダーの両方を務める三浦さん。この春には、約半年間のプロジェクトの活動報告を社内向けに行いました。「社員個人のプロジェクトを、特別に推奨しているわけでもない」というごく一般的な会社の中で、立ち上げ当初は本業に影響はないのかと心配されることもあったそうですが、今ではおおむね社内の理解を得られている様子。

法人向けに研修事業を展開していた同社に、個人向けのリーダーシップ研修のノウハウを蓄積したり、産学連携プロジェクトの進行から得られる知見やネットワークが財産になったりと、会社にもプラスのメリットをもたらしているといえそうです。

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三浦さんが描く、トレードオフを生まない柔軟なかかわり方のイメージ

企業ですから、ビジネスになるかどうかという点にはシビアです。今はマーケティング・リサーチの一環として展開させてもらっており、かかった費用はプロジェクト内で回収することをベースにしていますが、今後はさらに仕組みとして発展させたいと考えています。

ワークショップの参加者は、みなさん“やりたいこと”の芽は持っている方々。「越境プロジェクト」を通して刺激やつながりを得て会社に戻り、組織を変化させたり、外部に連携を求めたりして自分のプロジェクトを進めながら、同じような想いを持つ人たちにいい影響を与えてほしい。そういう場づくりを、これからはもっと意識していきたいです。

三浦さん自身にもまた、このプロジェクトはいろいろな視点を与えているようです。会社のメリットも見据え、会社を巻き込みながら活動の幅を広げていく。そして、ひとりでは成し得ない社会的な影響を、持続可能なビジネスとして創り出す。そんなマイプロジェクトの進め方にも、目を向けてみてはいかがでしょうか。