「人が減っている里山で、獣害対策の負担を減らすにはどうしたらいいんだろう…」「地域ごとのごみ収集ルール、もっとわかりやすく教えてほしいな…」などなど。暮らしの中で、もっとこうなったらいいなと思うことがあったとき、みなさんはどうしますか。
専門家に相談しに行ったり、自治体に働きかけたり……。いろんなやり方がありますが、社会の課題について自分たちで考え、解決するしくみをつくるために注目されているのが「シビックテック」です。
シビックテックというのは、「Civic(市民の・市民による)」と「Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた造語。2010年頃からアメリカを中心に使われ始め、今では世界中で使われるようになっています。
そんなシビックテックを、自分たちの手で身近な課題を解決しようというマインドとともに広めてきた団体が、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下、Code for Japan)です。
人口が減り続けることで財源が乏しくなり行政のサービスが行き届きにくくなったり、急激な環境の変化によってこれまでにない課題への対応が迫られるようになっていたり。解決策を誰かに委ねるだけでは、自分たちが望む社会を描くのが厳しくなってきているいま、新しい「自治」のあり方が求められるようになっています。
では、シビックテックはどのような自治を可能にするのか、そして、私たちはどのようにして関わることができるのか。Code for Japan代表の関治之(せき・はるゆき)さんにうかがいました。
震災が教えてくれた、仕事以外で技術者ができること
「ともに考え、ともにつくる社会」というビジョンを掲げるCode for Japan。その原点は、2011年に起きた東日本大震災のときに関さんが見出した新しい可能性でした。
関さん 当時、私はヤフーでエンジニアとして広告配信サーバーの開発をしていました。震災が起きると、自粛によって広告が一斉に止まったんです。その一方で、震災に関する情報を求める人は多くて、ヤフーのトップページのページビューは過去最高になっていました。広告が止まったことで仕事以外の時間が増えたこともあって、いま自分にできることは何かと考えたんですね。それで、会社の仕事とは別に、仲間たちと被災地の情報を地図上にマッピングするサイトをボランティアで立ち上げたんです。
そのとき、「技術者は仕事以外でも役に立てるんだ」と実感したんですね。お金を稼ぐことも大事だけど、みんなに使われるサービスをつくることが喜びだと。そんなときに海外にシビックテックという概念があることを知りました。市民がテクノロジーを使いこなして自分たちで課題を解決するというコンセプトはいいな、と。
関さんは当時エンジニアとして、オープンソースに関するコミュニティでも活動をしていました。オープンソースとは、ソフトウェアの設計図(ソースコード)を無償で一般公開し、誰でも自由に「利用・修正・再配布」ができるようにするしくみのこと。企業が設計して販売するソフトウェアとちがい、自分たちが望むサービスを自分たちでつくって届けるというオープンソースのあり方には、シビックテックと共通するマインドがあります。そこに面白みを感じた関さんは、社会とテクノロジーをつなぎ、たくさんの人に開いていくためにCode for Jpapanを立ち上げます。
関さん こういう生活がしたい、こういう社会にしたいといった願いを、誰かえらい人がやってくれるという、いわゆる「お上頼み」の感覚にならずに、みんなでどうあるべきかを考える。そこがまず大切です。その上で、自分たちであるべきかたちをつくりあげていく。そのプロセスにテクノロジーをうまく使うことで、社会はよりよくできるのではないかと考えています。それがまさに、「ともに考え、ともにつくる社会」というビジョンなのですが、そのビジョンのもとに、いろんな人たちがプロジェクトを自分で立ち上げて、それをみんなで支援し合いながら、一緒にかたちにしていく。そのための環境づくりをしているのがCode for Japanというコミュニティです。
主役になるのは、「こうしたい!」という思いをもつ人
Code for Japanの具体的な活動としてわかりやすいのが、2ヶ月に1回ほどのペースで開かれている「ソーシャルハックデー」というイベント。さまざまな関心ごとや取り組みたいテーマを持ち寄り、仲間を集め、みんなで手を動かしながら解決策のプロトタイプを実験的につくる「ハッカソン」というスタイルで行われます。
ハッカソンにはどういう人が参加しているのでしょうか。シビックテックやオープンソースといった言葉を聞いていると、エンジニアの人たちが多いような気がしますが……。
関さん 実はエンジニアは、参加者の中で3分の1くらいです。中心になるのは基本的には「何かを解決したい人」なんです。何かものをつくる時、エンジニアだけではつくれません。企画を立てることも必要ですし、それをどう人々に使ってもらうかというマーケティングも必要です。普通の会社でもそうですよね。100%技術者だけの会社ってあまりない。
最近はプログラム言語なしでアプリなどがつくれる「ノーコード」というやり方でできることも広がってきているので。むしろ、課題の当事者だったり、こうしたい!という思いが強い人がプロジェクトをリードしている印象がありますね。
行政が提供している子育て情報サイトがわかりにくいといった課題に対して、保育園をマップ上で簡単に探せるサイトをつくる。日本の公的支援制度が複雑で、生活に困窮したときに必要な支援にたどり着きにくいという課題に対して、誰もが適切な支援を見つけられるサービスをつくる。Code for Japanのプロジェクトからは、行政や企業がクイックに対応できない課題を解決したさまざまな事例があります。
関さん ハッカソンを行うときのチーム編成も工夫しています。プロジェクトを進める上でいちばん大事なのは、続けられること。素晴らしい技術を使っているとか、つくり方がうまいとかではないんです。そもそもどういう課題に向き合うのか、どう続けて実際に解決に導くのか、という視点が大事です。そういう意味では、地域に根差した活動をしている人の参加が鍵を握るんですね。子ども食堂をやっているとか、里山についての知恵があるとか、そういう人がちゃんと集まるかがすごく大切なんです。
地域でシビックテックが活用されている事例として挙げられるのが、兵庫県豊岡市での取り組み。豊岡市で2023年に開かれた「豊岡市・地方都市の暮らしハッカソン」では、地域の埋もれた情報をみんなで集め、みんなで探せるようにする「さといま」というアプリがプロトタイプとしてつくられました。そこで生まれた熱量は、豊岡市の公式アプリ「Toyooka iDO(トヨオカ アイドゥ)」として実を結ぶことに。Toyooka iDOは、子育てや暮らしに役立つプラットフォームとして多くの市民に利用されています。
コミュニティをつなぐ・動かすウェブアプリ「Toban」
そして、2025年10月に奈良県奈良市の月ヶ瀬で行われた1週間限定の共同生活実験プロジェクト「kuu village」は、「誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分たちでやれることはどんどんやろう」というCode for Japanのマインドを、リアルな村づくりで実践するチャレンジでした。
関さん これまで私が夢中になって取り組んできたオープンソースって、みんなで集まってつくったものを、「便利だね」と他の人が使って、そこでの反応がフィードバックされることで育っていくという意味で、共有の資産、つまり“コモンズ”なんですよ。みんなで新しいコモンズを創造し続けるということを、デジタル上だけではなくて、リアルなかたちで地域にも適用できないかとずっと考えながら活動していたんですよね。
技術が進んだことで、ローカルで活動してきた人たちとテクノロジーがぐっと身近なものになってきている感覚があります。そこで、Next Commons Labの林篤志さんたちが地域で行ってきたコミュニティ活動を土台として、リアルな場でコモンズをつくる実験をしようと。それが、kuu villageなんですよね。
暮らしを通じて「空(kuu)」を生きる——そんな新しい社会の実験場として企画されたkuu villageでは、村をつくり、運営していくために必要な仕事を、ゲームのように楽しみながら主体的に取り組めるよう「クエスト」として設定。運営側が用意したクエストを選んでもいいし、自らクエストを立ち上げてもいいというルールになっていました。
サウナ部屋づくり、茶室づくり、井戸掘り、竹炭づくりなど、さまざまに立ち上がったクエストを動かす鍵となったのが、Code for Japanの「Toban」というウェブアプリ。
Tobanにはこんな機能が盛り込まれています
・クエストの登録・募集・マッチング
・活動の報告と記録
・仲間による「承認」とコミュニケーション
・成果や信頼の果実である「トークン」のやり取り
Tobanには、特定の管理者を持たず、参加者同士の活動や貢献、やり取りの履歴を自動的に書き込むブロックチェーンの技術が活用されています。そのため、たくさんの参加者それぞれの動きが透明化され、自律的にコミュニティを発展していけるようになっているのです。ブロックチェーンというと、主にビットコインのような暗号資産で活用されているため経済的な価値が注目されてきましたが、関さんはコミュニティ内の人と人との関係性を高められるところに新たな可能性を見出しています。
関さん ブロックチェーンというのはいろんな情報をオープンに記録できるしくみです。コミュニティ通貨をつくるだけでなく、コミュニティの中での関係性を育てていくことができるんです。たとえばTobanでは、「ありがとう」という気持ちが循環することを目指してデザインされています。通貨のような価値交換のツールに感謝の循環という機能がプラスされることで、コミュニティで活動する人同士の関係がより滑らかになる。信頼関係が築きやすくなる。そういう意味で、地域の営みにブロックチェーンを活用することには大きな可能性を感じています。
貢献が”見える”から、活動が広がるーーTobanが記録するもの
関さんがTobanをつくろうと思った原点は、目に見えない「貢献」というものをちゃんと記録したいという想いでした。ボランティアでスタートすることが多いコミュニティにおける活動を続け、広げていくためには、一人ひとりがどんな貢献をしているのかがわかることが大切なのではないか……と。
関さん たとえばハッカソンをするとき、エンジニアの場合はコードを書けばGitHubという場所にその作業が記録されるので、誰が何をやったのかが可視化されます。一方で、企画を考えた人や、広めるためにがんばった人、さらにはツールを使った人などの貢献は目に見えにくい。
ボランティア的な活動にはお金は発生しないので、貢献に対するフィードバックはすごく大事なんです。やりたくてやっているというプロジェクトでも、それがかたちになったときに「この人はこれだけ貢献したんだな」ということがわかると、本人も、関わった人も実感としてのよろこびがありますよね。新しくプロジェクトに加わった人やコミュニティに入ってきた人も、自分が感謝されるとやる気が出るじゃないですか。
「貢献を見える化する」というコンセプトでつくられたウェブアプリ、Toban。さまざまな機能も、それぞれのメンバーが積極的に活動を記録したり、チェックをしたりしないといかされません。そのため、Tobanには使っていて楽しくなるような工夫が施されています。
関さん 何かアクションをするたびに記録をしたり、誰かに感謝の気持ちを言葉で入力したりするのは面倒ですよね。こうした手間をどれだけ減らして、みんなから反応が返ってきやすい状態をつくるか。そこがデザインのポイントでした。写真を送るだけで記録ができたり、アイコンで反応ができたり、感謝の大きさをゲージで動かすように設定できたり。とにかく、直感的に操作ができて、視覚的にコミュニティの動きがわかる。そんなツールになっています。
テクノロジーがぐっと親しみやすくなることで、コミュニティにおける生態系の「見える化」がぐっと進む。人と人とのつながりがよりあたたかくなり、活動がより広がっていく。「ともに考え、ともにつくる社会」というCode for Japanのビジョンを身近なかたちで実感できるツールと言えるのではないでしょうか。
関さん 参加者の顔が見える小さなコミュニティなら、このようなツールは必要ないと思うんですよ。でも、どんどん人が増え、必要に応じてメンバーが入れ替わるなど、コミュニティやプロジェクトが成長していくに従って、信頼関係を可視化していくことが大切になってきます。
たとえばメンバーを受け入れる姿勢を伝えたり、明確なタスクが用意されていたりすることで、新しく入った人も「まずやってみよう」という気持ちになりますし、他のメンバーからの感謝が届くことで、楽しい体験とともに「続けていこう」と思うようになります。
Tobanのこれからを、関さんはどのように展望しているのでしょうか。
関さん 現在、Tobanにおける貢献度や感謝はトークンという地域通貨のようなかたちで、コミュニティ内でやりとりできるようになっています。お礼として送ったり、メンバーが持っている物と交換できたり。それが、たとえばある活動に対するクラウドファンディングと結びつくことで、お金と交換できるようになるかもしれません。クラウドファンディングで集まったお金を、トークンに応じて分配するという方法ですね。いまはコミュニケーションツールとしての側面が強いですが、これからは貢献をどう価値化していくのかといった面も追求していきたいですね。まだまだ開発中のツールなので、関心がある方はぜひ協力してほしいです。
一人ひとりの動きを、社会の力にするテクノロジーを
テクノロジーをめぐってはワクワクさせられる一方で、AIの脅威的な進化や、偽情報が拡散するSNSなど、どこか人を置き去りにしてしまう懸念を抱かざるを得ません。しかし、関さんのお話を伺っていると、人のリズムに合わせて社会をアップデートしていくようなテクノロジーのかたちが思い浮かびます。
日本、とくに地方では、人口減少のフェーズに入っています。テクノロジーへの期待も高まりますが、関さんは地方自治において、これまでのあり方をいかしながら、新しい技術や視点とともにしなやかに変わっていく未来を描いています。
関さん いまのあり方を全否定して全くちがうことを始めても、うまくいかないことが多いと思います。既存のしくみ、たとえば自治体のしくみにも、よくできている部分はいっぱいあります。既存のしくみも尊重しつつオルタナティブを考え、そこで生まれたものを既存のしくみに融合させていく。そういう領域をつくっていく方が長続きするし、より多くの人を巻き込めると考えています。
自治という点では、政治との関わりも気になるところ。社会課題がどんどん複雑になり、人々のニーズや価値観の多様化が進む時代。選挙で選ばれた市民の代表が議論をしてルールを決めるという政治のしくみは機能不全を起こしているように思えます。そんな中、シビックテックの視点から、解決策を見出すことはできないのでしょうか。
関さん 私はデジタル民主主義のコミュニティでも活動をしていまして、そこでもこうした話題はよく出てきますね。私個人の考えとしては、既存のしくみは、いろいろな妥協はあれど、極端な思想が暴走することを防ぐ側面で、よくできていると思うんです。安易に、テクノロジーで吸い上げた民意を政策にするのはどうかと。情緒的な判断に流された民意によるポピュリズムに陥って、戦争のような危険な方向に行きかねない。とはいえ、議員という特定の人を信頼して何年間も意思決定を完全に任せるというのは、それはそれで乱暴だなと。選挙のとき、私も「ここは賛成だけど、ここは反対だな」と思いながら投票しますからね。
関さんが思い描くデジタル民主主義とは、既存のしくみをデジタルに置き換えるものではありません。むしろ、既存のしくみをより民主的に機能させるためにテクノロジーを活用するという姿です。
関さん 民意を意思決定者に伝える方法がもっと進化すればいいと思っているんですよね。テクノロジーを用いて民意を見えるかたちにして、議員がそれを見ながら考え、熟議する。そうした環境整備がもっとできるのではないかと。代議制における議員さんが担う領域と、市民として自分たちができる領域をそれぞれ実りあるかたちに広げていく。そして、それぞれがシームレスにつながるようにする。多数決を乱暴に当てはめるのではない民主主義へとアップデートするために、シビックテックをいかしていければと。
選挙のときだけ盛り上がって、あとは議員にお任せ。議会では多数決がものを言う。そんな雑な民主主義から、市民の側も多様な意見を出し合い、それを元に議員が考え、政策として実行するという、成熟した民主主義へ。政治との関わり方を進化させていける可能性を、シビックテックは秘めているのです。とはいえ、あくまでもシビックテックは道具。自治の質を決めるのは、地域で暮らす一人ひとりです。
関さん これからはAIもどんどん進化していくでしょう。いまネット、特にSNSでは偏った意見がどうしても目立ちますが、AIを活用すれば、私たちが検討すべきことを適切に見える化できるようになると思います。でも何より大切なのは、地域の中で当事者が10年後、20年後を考えて熟議をしたあとに政策を決めるという環境づくりです。これはテクノロジーだけではできません。
いくらAIが賢くなっても、時間をかけて意見を交わし、その意見が反映されるという実感は、人と人との間からこそ生まれていくものです。自分たちで考えて、自分たちで決めて、自分たちで実行する。それこそが民主主義なのですから。政治に関しては、テクノロジーで改善できるところはあるけれども、解決できないことの方が多いというのが、いまの私の感覚です。
テクノロジーを解放し、自治の手綱を取り戻す
自治の主体である人の動きを前向きにするパートナーとして期待が高まるシビックテック。地域で、こんなことがしてみたい、こんな課題があるんだけれど、という人は、どのようにしてCode for Japanの活動に参加できるのでしょうか。
関さん 参加しやすいのは、ソーシャルハックデーですね。いまはオンラインとリアルのハイブリッドで開いているワンデーのハッカソンのようなイベントです。だいたい11時ごろから始まって、いっしょにランチして、午後5時くらいに終わるというような感じですね。
ハッカソンといっても、順位を決めるわけでも、技術を競うわけでもありません。いろんな人が自分の活動テーマを持ち込んで、それに対して手伝いたいという人がチームになって、数時間セッションするというようなスタイルです。すでに地域で何らかの活動をしているという人がテーマを持ち込むことも大歓迎です。ワークショップ感覚なので、非常に敷居が低いと思います。Code for Japanホームページのお知らせをチェックしてみてください。
地域ごとに活動するパートナー団体が定例会やワークショップを開くことがあるので、そこに顔を出してみるのもオススメですよ。
プログラムのコードなんか書けないし、テック系の話はついていけなさそうだし……。これまで私は正直、シビックテックというものはあまり自分には関係がないものだと思っていました。しかしじっくりお話を聞いてみると、シビックテックというものは、テクノロジーを限られた巨大なビッグテックから解放し、自治を地域で暮らす一人ひとりの手に取り戻すための身近な相棒のように思えてきたのでした。
コードは書けなくても、理想の暮らしを、社会を思い描くことならできる。シビックテックといっしょに、あなたの地域をどんなふうに育てていきたいですか。
(編集:上沼祐樹)
(撮影:廣川慶明)





