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“自治” のあり方を再発見し、社会そのものをつくる実験。ローカルで自律・協働・循環を同時に試す、1週間のポップアップビレッジ「kuu village」

2025年10月、多元的でオフグリッドな未来に向けての永続的なポップアップビレッジ「kuu village」が奈良県奈良市の旧月ヶ瀬村で開催されました。

「空(kuu)」とは、すべてを受け入れ、何ものにも縛られない余白のこと。非公開、かつ完全招待制の参加者に向けて用意された kuu village wiki ページには、こんな言葉が置かれています。

「kuu village は、この “空” の世界観を暮らしながら体感する1週間のco-livingプログラム。オフグリッドを志向した住環境やDAOツールを掛け合わせ、自律・協働・循環を同時に試す実験場となります。参加者は所有やヒエラルキーへの執着を手放し、関係性の中でシェルター・エネルギー・水・食・ガバナンスなどを自分たちの手で組み、そこで得た学びと成果はオープンソース化し、次の地域へ引き継いでいきます。」

「kuu village」とは、なんなのか。
ポップアップの小さな共同体は、どんな未来をつくれるのか。

地域で自治を担うメンバーや、開発者や研究者など、国内外の多様な参加者と共に過ごした1週間を振り返りながら、見たこと、感じたこと、そして考えたことを、みなさんにお伝えできたらと思います。

“自治” のあり方を再発見し、共同体を生きる

「kuu village」が開催されたのは、奈良県北東部に位置する中山間地域、旧月ヶ瀬村。人口1,171人、高齢化率49.2%(2025年5月1日時点)と、いわゆる限界集落の一歩手前の状況で、他の中山間地域と同様に人口減少が続いています。

この旧月ヶ瀬村に、かつての学校給食センターを改修した、ワーケーションおよび地域住民の交流拠点「ONOONO(おのおの)」があります。ここが、今回の「kuu village」の拠点。自治体機能の一部を担う第二の自治体「Local Coop 大和高原プロジェクト」の活動拠点であり、このプロジェクトが運営する、ごみの再生資源の回収拠点でもあります(Local Coop 大和高原プロジェクトの記事はこちら)。

kuu village グリーンズ

旧月ヶ瀬村は、奈良市の中心地から車で50分ほど。名勝月ヶ瀬梅渓とともに、大和茶の産地として知られ、春には多くの観光客で賑わう

「kuu village」の初日は、夕方集合。会場の「ONOONO」に入ると、久しぶりに会う人との挨拶や、初めましてという会話はもちろん、「村民きた!」という声があがるなど、1週間の実験的な共同生活への期待に満ちていました。

kuu village グリーンズ

「kuu village」の1週間のスケジュール

まずは、「kuu village」が掲げる5つの理念について共有しましょう。

<5つの理念>
1. シェルター 回復力のあるオフグリッド生活を実践する
2. ノマド 個やネットワークとしての自律性を育む
3. コスモローカリズム 多様なコミュニティの叡智から学ぶ
4. コーディネーション 互いの違いを尊重し、共に繁栄を目指す
5. コモンズ 貨幣やシステム依存を超え、資源を共有する

5つめの「コモンズ」については、DAOツールの実証実験が用意されていました。具体的には、Code for Japanが開発中の「Toban」という仕組みを用います。これは、感謝の気持ちとコミュニティへの貢献を記録・可視化し、その結果に基づいてトークン(通貨)を報酬として分配するためのもの。kuu villageでは「kuu coin」が報酬として分配されました。掃除や食事の用意など、場をよりよく保つクエストに参加することで、トークンを稼ぐこともできます。

そして、このトークンは、「kuu village」の期間中、実際に貨幣と同じように使うこともできます。会場内には2つの冷蔵庫が置かれていて、左は、おみやげや持ち込まれたビールなど、誰でも自由に飲食可能。そして右は、サンクストークンを使って”交換”することができるのです。

kuu village グリーンズ

誰かが買い物に出かけるとストックが増えていたり、竹でつくったコップが右の冷蔵庫に並ぶなど、日々、何かしらの動きがあった

kuu village グリーンズ

参加者は、メッセージとともにサンクストークンを送り合う。毎日、配当されていくトークンがあり、トークンが底を尽きることはない。誰か、もしくはその場への貢献が、そのままトークンという価値になる

また、「kuu village」では、次の5つのテーマが置かれています。

<5つのテーマ>
– レジリエンス技術
エネルギー・水・コンポスト・建築・デジタルインフラなど、オフグリッド生活を支える 実践をすることができる
– 分散型ガバナンス
DAO ツールで貢献度と信頼を可視化しながら、意思決定プロセスを体感できる
– 多様なネットワーク
テック、ローカル、クリエイティブ分野のプレイヤー、様々な文化的背景のある人たちが交わる横断的コミュニティに参加できる
– 自己変容
余白ある環境で多様なバックグラウンドを持つ仲間と即興で協働し、価値観や働き方をリセットする機会が得られる
– コモンズへの参画
成果物とプロセスをアーカイブし、オープンソースとして世界に共有することで貢献できる

参加者は、所有や従来のヒエラルキーへの執着を手放して、シェルター、エネルギー、水、食、そしてガバナンスといった共同生活の基盤を、他者との関係性の中で共創します。 そして、プログラム後も参加者と地元住民の拠点として継続されていきます。

生まれた成果や知見は、プロセスを含めてオープンに公開しつつ、その土地に定着させていくことはもちろん、次の開催地へと“バトン”されます。「kuu village」が、いわば巡回するたびに、レジリエンスの高いフィールドとコミュニティが各地に芽生えていくのです。

これらの5つのテーマは、ガバナンス(民意反映、投票制度など)、財政(富の再分配、歳出入の設計など)、デジタル・技術(AI、IoT、ブロックチェーンなど)といった、「自治」のために不可欠な要素でもあります。ここからは、「kuu village」で実際に何が行われたのかを、たどっていきましょう。

社会が用意した脚本を降りて、社会そのものを立ち上げる

「kuu village」でのメインの活動は、興味関心に応じて「クエスト」と呼ばれる協働作業に参加するか、即興的に「クエスト」を立ち上げること。井戸を掘って水を確保する、サウナ小屋を建てるといったクエストが計画されていたほか、たくさんのクエストが立ち上げられました。

kuu village グリーンズ

クエストは壁に掲示され、日々増えていった。1週間のうち、ひとつのクエストに集中して取り組む人もいれば、その日の気分でやってみたいクエストに参加する人も

立ち上がったクエストをざっと挙げてみると、「竹林整備をして竹を入手する」「竹炭をつくる」「竹で雨樋をつくってサウナの水風呂用の水をためる」「茶室をつくってお茶会をする」「発酵茶葉をつくる」といったものや、「OpenStreetMapで月ヶ瀬のオリジナルマップを創る」「森の所有権をNFT化するプロジェクトについて考える」「SF的な世界観を想像し即興演劇として表現する」といったものなど。また地域との関わりでは、「小中学校の運動会に参加する」「地域の人を招待してBBQやキャンプファイヤーをする」といったものまで、本当にさまざま。

kuu village グリーンズ

井戸を掘った経験のある人がいなかったため、手探りで作業が進められた。近所の人が足を止めてくれて、アドバイスをもらうことも。結局、この1週間では水は出なかったが、生きるために必要な水にアクセスするというリテラシーを得た

朝食を終えると、あらたに立ち上げたいクエストを思いついた人は、そのプランをみんなに話します。夕食後には、一日の活動の振り返りとして、どこまで進んだか、どんな学びがあったかを共有します。

井戸を掘って水を確保するクエストに参加したメンバーからは、用意していた機材では5m程度しか掘ることができず、5万円程度の追加機材を購入していいか、いわば予算案の承認依頼も。それは、もともと「kuu village」が準備していた活動資金を何にあてるかという、小さな経済を自分たちで自治していくプロセスそのものでした。

また、4日目には、奈良市長の仲川げんさんが会場に訪れ、昼食を共にしつつ、自治をテーマとする議論も。地方自治と民主主義の新しい形態についてや、デジタル技術を活用した直接民主主義の可能性、地方交付税と自治体の財政自立に関する課題、ローカルコミュニティの自律と意思決定プロセスなど、さまざまな意見交換がなされました。

kuu village グリーンズ

奈良市長の仲川げんさんを迎え、関治之さん(一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事)、林篤志さん(株式会社paramita共同代表)が対話。林さんのファシリテーションのもと、「kuu village」の参加者も交互に入って議論が展開された

日々の食事を担ってくれたのは、フリーランスの料理人である横山太郎さん。毎食、地域の食材をつかった美味しいごはんが、参加者の滞在を支えてくれました。みんなで「いただきます」をして、プロの料理に舌鼓を打ちつつ、どんなふうに1日を過ごすか、夜はどんな1日だったかを語り合いました。

kuu village グリーンズ

共同生活の1週間分の食事は、みんなでお手伝いはするものの、基本的にはシェフの横山太郎さんによるもの。毎食、工夫を凝らした美味しいご飯を提供してくれた。最終日には、地域の猟友会の人から鹿肉の差し入れも

夕食後は、冷蔵庫から思い思いに飲み物をもってきて、ジェンガをして遊んだり、いつの間にか相撲が取られていたり。誰かと話していると、その輪が4人になり、5人になり……。話は尽きることなく、あっという間に夜が更けていきました。

また、会場の「ONOONO(おのおの)」の隣には小学校があることから、放課後の子どもたちが遊びにきてくれたりする日も。最終日の前夜には、地域の人とバーベキューするというクエストを楽しみながら、キャンプファイヤーも。大人も子どもも、たくさんの地域の人が参加して、賑やかな夜となりました。

kuu village グリーンズ

地域の人たちと、kuu villageメンバーがお酒を酌み交わしながら、美味しい料理を囲んだ。気さくに話しかけてくださる人ばかりで、旧月ヶ瀬村という土地と自分との距離感が縮まった気がした

kuu village グリーンズ

キャンプファイヤーでは、月ヶ瀬小唄を地域の人から教えてもらい、みんなで輪になって踊った。この日は満月で月が美しく、印象的な夜となった

私自身は、いろいろなクエストをのぞきつつ、サウナ小屋を建てるクエストに参加しました。DIYが久しぶりだったため、インパクトドライバーでビスを打ち込む感触を思い出しつつ、作業に没頭している自分がいました。床が張られ、壁が立ち、天井がかけられ……、実はあらゆることが思い通りにはいかず、その都度みんなで話し合い、やってみるという試行錯誤を繰り返しました。

例えば、カットした材の長さが揃っていなかったり、断熱材として用意した資材が足りなくなったり。他にも、薪ストーブを設置してみると、下に敷いていた耐熱用の石板が割れてしまったり、点火すると煙が逆流して、一酸化炭素量を計測する機械のアラートが鳴りっぱなしだったり。一つひとつの事象に対処して、ようやくサウナに入れたときは、心地よい達成感に包まれました。

kuu village グリーンズ

ONOONOの敷地内にある小屋を設計した建築家・土谷貞雄さんがサウナ小屋を設計。その設計図をもとに、材料をカットして組み立てて…。まさに「Do It Ourselves」。わずか4日ほどでサウナの試運転ができ、なんでもつくれそう、という自信を授かった。今後も、月に1度のメンテナンス作業が計画されている

kuu village グリーンズ

お茶の生産地であることから、お茶摘みのクエストも。ここから発展して、発酵茶葉をつくるというクエストにもつながった

また、4日目に雨が降ったことで、少しだけからだを休める時間をとることができました。そして、晴れ間が戻った5日目の朝。朝ごはんの支度をしてくれる人、コーヒーを淹れてくれる人、パソコンに向かって仕事をする人、まだ寝ている人、窓をぜんぶ開けてくれる人。気持ちのいい風が通って、それぞれがやりたいことに向き合って、自由であたたかい気に満ちていて。すがすがしさを感じるとともに、いい村だな、と思ったことが強く印象に残っています。

さて、他に例を見ないようなこの取り組みは、どのような経緯で始まったのでしょうか。

「kuu village」をかたちづくる、それぞれの願い

2024年、Ethereum(イーサリアム)を中心としたブロックチェーン技術の議論の場として知られる、国際的なカンファレンス「Devcon(デブコン)」(主催:イーサリアム財団)がバンコクで開催されました。そこでは開発者、研究者、一般ユーザーなどが集まり、Ethereumの自治への活用についても議論がされていましたが、参加者の大半は開発者で、実際に自治を担う人は会場内にあまり見当たりませんでした。

このイベントに登壇した関治之さん(一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事)、守慎哉さん(imi株式会社共同代表)、林篤志さん(株式会社paramita共同代表)、そして川邊悠紀さん(一般社団法人コード・フォー・ジャパン)の4人が、この状況を目の当たりにして、Ethereumを自治にどう活かすかを研究する人々と、ローカルで自治を担う人々を接続する必要がある、という話になったのだとか。

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守慎哉さん(imi株式会社共同代表)

守さん そこで、タイのチェンマイで1ヶ月間の共同生活と協働開発を行う「Edge City Lanna」というポップアップシティについて共有したんです。より小規模で、特定の目的に焦点をあてるようなポップアップビレッジも存在します。僕らも日本で、科学やテクノロジー、文化の最先端で活躍する人を集めて、暮らし方や働き方を再考したり、共同生活を通して社会そのものをゼロからつくるとしたらどうなるかという実験を、自主的にしてみようという話になって。

その後、半年ほどかけて、プログラムで大切にしたいことは何か、どこで開催するかなど、「kuu village」の開催に向けた準備が重ねられました。この構想の初期段階から、一般的な「ポップアップシティ」とは一線を画す明確なビジョンがありました。林さんは、当時を振り返ってこう話します。

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林篤志さん(株式会社paramita共同代表)。林篤志さんのgreenz.jpでのインタビュー記事はこちら

林さん 世界を見渡せば、ポップアップシティと銘打ったイベントは珍しくありません。ポップアップシティでは、都市機能全体を使いながら、共同で開発をする。僕らは、そうした既存の都市のシステムから離れて、身体的(フィジカル)な感覚を通して新しい自治のあり方を考えたいという気持ちがありました。ポップアップシティではなくポップアップビレッジとして、あえて旧月ヶ瀬村というローカルで開催する理由はそこにあります。

では、この「kuu village」という実験の場で、Ethereumなどの開発者は、どのような技術的課題に挑むのか。Code for Japanの川邊さんは、このプロジェクトにおける技術面の狙いについて、こう話します。

kuu village グリーンズ

川邊悠紀さん(一般社団法人コード・フォー・ジャパン)

川邊さん 技術者という視点からこのプロジェクトを捉えると、特に新しい技術について、“現実の世界”と“開発の世界”の間に存在する隔たりを埋めたいという狙いがありました。開発した技術を実際の暮らしのなかで試せる、実証実験の場をつくりたかったんです。「kuu village」のような、共同生活という環境に持ち込むことで、技術が人々の暮らしにどう作用するか、技術が生活者から見て真に有用なのかを、肌で感じられるフィードバックループをつくりたかった。この「生きたデータ」こそが、技術を社会に定着させるために不可欠だと考えています。

川邊さんが語る、「暮らしのなかでの実証実験」の場は、単に技術の検証に留まらず、デジタル技術を活用した市民参加型コミュニティの形成を描く、関さんの思いとも一致するものです。

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関治之さん(一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事)

関さん ブロックチェーンをはじめとする分散型テクノロジー、特にEthereumコミュニティは、黎明期から暗号資産を活用した寄付や公共財への資金提供メカニズム、さらにはオンラインコミュニティにおけるガバナンスや貢献の可視化といったプロダクト開発や研究に、多くの時間を費やしてきました。そのため、開発者たち自身が、世界中の人々と効果的に連携(コーディネーション)を実現する方法に強い関心をもっています。そうしたEthereumコミュニティに蓄積された、自律的に自治の運営に必要なコーディネーションに関する知見と、日本のローカルプレイヤーとをつなげたいという点で、私たち4人の思いが重なったんです。

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「kuu village」に参加した開発者たちは、「Open Street Mapで月ヶ瀬のオリジナルマップをつくる」「DAOhausでkuu villageのガバナンスシステムをつくる」といったクエストを立ち上げた

むしろ、いまの国民国家が、ここ数百年続いた社会実験なのではないか

「kuu village」という社会実験から約1ヶ月。東京都内で開催された振り返りイベントで、あらためてポップアップシティ、ポップアップビレッジにまつわる世界の潮流を、守さんが教えてくれました。

「kuu village」は、Ethereumコミュニティなどでよく行われる、ポップアップシティの一形態です。つまり、「kuu village」の背景には、ポップアップシティ、ポップアップビレッジという文脈がある。さらに、ポップアップシティ、ポップアップビレッジの動きは、「Network States」という概念と一部重なるところもあるのだとか。

少し補足をすると、「Network States」とは、バラジ・スリニヴァサン(Balaji Srinivasan)が提唱する、ネット上のつながりから新しい世界や国ができていく、という考え方。

同じ思想や志向をもつ人が国境や人種、性別や年齢に関係なく集まり、そのコミュニティに強い信頼関係が生まれることで、次第にネットワーク・ユニオン(連合、DAO組織)に移行し、社会活動や経済活動を行うようになる。そして、活動はネットにとどまらずに現実世界とシームレスにつながって、コミュニティの大きさによっては、最終的に既存国家から外交的な承認を得て「ネットワーク・ステート」化する、というのがその概略です。

ただし、「kuu village」が目指したいことは、「Network States」とはやや異なる、と関さん、林さん、守さんらは口を揃えます。

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関さんは、今回の「kuu village」にも参加した、思想家の落合渉悟さんや林さんが使いはじめている「United Locals」という概念が目指すところに近そうだと話す。この概念については、今後の「kuu village」の目指すところやあり方と合わせて、今後も議論が進められていく

守さん 「Network States」のような、ネット上にできていく自治のかたちもあるかもしれませんが、僕たちが「kuu village」で見据えたい最終のアウトカムは、現実のこの社会が、レジリエンス(回復力・しなやかさ)のある社会に向かうことです。

Ethereumコミュニティには、持続的なネットワークやサービスをつくるという思いが根底にあるものの、そこで扱われる社会は、オンラインコミュニティという社会の一部に留まります。コミュニティの外にあるフィジカルな空間と接続しなければ、社会全体はつくれないと思っていて。Ethereumの文脈と同じようなビジョンを描いている人たちがつながることで、何が生まれるのか。その実験に着手することができたと思っています。

守さんが、フィジカルな空間と接続された「実験の場」づくりに着手することができたと語る背景には、レジリエンスな社会をつくるという明確なアウトカムがありました。そして、社会を創造する力とそのポテンシャルに焦点を当てていた林さんには、次のような願いがありました。

林さん 僕は、人間が本来もっている、つくる力やそのポテンシャルがいま、失われていると考えているんです。つくる権利を奪われている、と言ってもいいかもしれない。社会のルールに折り合いをつけながらも、圧倒的につくることが許される世界をつくりたい。社会そのものをつくることだって、できるはずです。自分がつくることの権利や、そのポテンシャルに一人ひとりが気づいた先に「自治」があり、向かうべき社会があると思います。

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“現代に生きる私たちこそが、未来の共同設計者である。”
これは、オードリー・タンとE・グレン・ワイルによる共著『PLURALITY』の冒頭を飾る言葉です。

PLURALITYとは、多元的に捉えること。つまり、一人ひとりの異なる意見や視点を排除せず集合知として扱い、民主的でレジリエンスのある社会を再構築しようという提案です。

社会が用意した脚本をいったん降りて、自分たちで社会そのものを立ち上げる。その試みのベースには、それぞれの “願い” がありました。そして、「kuu village」が終わる頃には、「kuu(空)」という真ん中に集合的記憶(collective memory)がつくられて、身体性を軸にした共通の価値観が生まれていました。未来を “共同設計” するときに必要なのは、かたちとしては見えにくい、こうした共通の価値観からはじまる、ゆるやかな連帯なのかもしれません。

ちなみに、ポップアップ期間が終わった後も、この実験は続いています。例えば、サウナ小屋のメンテナンスデーの設置や、「kuu map」の継続的な開発など。「kuu village」の一週間で見つけた、この世界よりも、もっと自由で、誰もが自分らしくいられる世界に、私自身も参加しつづけたいと思います。