グリーンズが運営する、社会課題解決に特化した求人を提供するサイト「WORK for GOOD」。ローンチから一年という節目である2025年5月31日、「パーパス転職DAY 〜やりがいのある仕事を考える一日」を開催しました。
当日は、社会課題解決に取り組む8社と、約100名の参加者が集まり、「パーパス転職」をキーワードに交流。イベントをきっかけに取り組みを知り、求人にエントリーする方もおり、やさしい熱気につつまれた会となりました。
この記事では、「私のパーパス転職ストーリー」と題したトークセッションの内容の一部をお届け。ゲストとして登壇した桑山知之さん(株式会社ヘラルボニー)、高山奈々さん(合同会社シーベジタブル)が、それぞれのパーパス転職のエピソードを語ってくださいました。
クリエイティブディレクター。1989年愛知県名古屋市生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、2013年東海テレビ入社。報道部にて遊軍や愛知県警担当の記者・ディレクター。また「見えない障害と生きる。」といったドキュメンタリーCMをプロデューサーとして制作。2023年、ヘラルボニーのクリエイティブディレクターとして入社。NHK Eテレ「あおきいろ」内コーナー「くりかえしのうた by ROUTINE RECORDS」総合演出などを務める。主な受賞歴は、日本民間放送連盟賞最優秀賞、ACCゴールド、ギャラクシー賞優秀賞、消費者が選んだ広告コンクール経済産業大臣賞、広告電通賞SDGs特別賞・フィルム広告金賞など。
代表秘書・販促部マネージャー。大学卒業後、地域プロデュース事業を行うベンチャー企業へ新卒1期生で入社。代表と二人三脚にて、地域プロデューサー、Webメディア編集長ほか、営業、企画、総務など幅広い業務を担当。独立後、ご縁で出会ったシーベジタブルで「海藻の食文化が広がれば社会は良くなる」ことを確信。限りある時間を心震える未来のために使いたいと思い、共に走り出す。
異彩を放つ作家とともに、新しい文化をつくる
桑山さん 僕はもともと、名古屋にある「東海テレビ」というテレビ局でキャリアをスタートしました。報道記者やディレクターとして現場を走り回りながら、ドキュメンタリーCMの制作などにも携わっていたのですが、2年前に転職して、現在はヘラルボニーという会社で働いています。
ヘラルボニーは、「異彩を放つ作家とともに、新しい文化をつくる」を掲げるクリエイティブカンパニー。盛岡・銀座・パリに拠点があります。現在、国内外の54の福祉施設と連携し、243人の作家と契約。2000点以上のアートデータの著作権管理を行いながら、商品開発や空間デザイン、展覧会などを手がけています。
ヘラルボニーでは、アートを使ったプロダクトをつくるだけでなく、それが作家の収入やリスペクトにつながることも大切にしているんです。
就労継続支援B型の月額工賃の全国平均は、1万7,031円ほど。障害のある方の年収は230万円にも満たないのが現状です。そうした中で、僕たちは少しずつですが、作家さんや福祉施設にお渡しできる報酬を増やせるよう努めています。
印象的だったのが、作家の一人である小林 覚さんが確定申告をすることになったときの、ご家族からの言葉です。
「息子が扶養の基準を超えて、確定申告することになりました。いつか私が息子に扶養される日も近いかもしれません。」
このメッセージを、僕たちは広告として発信しました。単なる事実以上に、社会の見方や価値観を揺さぶる力があると感じたんです。
人生をかけてでも取り組みたいテーマとの出会い
桑山さん ヘラルボニーに転職する以前、僕にとって「障害」はまだ遠いテーマでした。それが変わるきっかけになったのが、漫画家の沖田×華(おきたばっか)さんとの出会いです。
彼女は「トリプル発達障害持ち」と自称しています。たとえば「サファイアブルーの服しか着たくない」といったユニークな感覚を持っていて、とてもチャーミングな方でした。僕は彼女と接する中で、「自分が持っていた障害へのイメージって、実際の彼女たちの姿とまったく違ったんだ」と気づいたんです。
その気づきがきっかけとなって、東海テレビのドキュメンタリーチームで『見えない障害と生きる。』というCMを制作しました。本人に障害があるというよりも、社会側に障害があるのではないか。そんな視点で描いた作品です。
そんなふうに、障害というテーマに関心を持つようになるなかで、「人生をかけて取り組みたい」と思えたのが、ヘラルボニーの事業でした。ありがたいことに、そんなヘラルボニーとご縁をいただき、現在はクリエイティブディレクターとして、企業とのコラボレーションや映像制作、グラフィックのディレクションなど、さまざまなプロジェクトに関わっています。
違和感を大切にする
桑山さん 僕が一貫して大事にしているのは、「社会に届けるべきものに、スポットライトを当てる」こと。障害のある方の表現が本当に素晴らしいと感じたからこそ、それを素晴らしい状態で届けたいと心から思っています。
例えば、「確定申告をする作家さんが出てきた」という事実が、社会に与えるインパクトは大きい。そうした影響がもっともっと広がってほしいと思います。
そして最終的には、「作品が描けなくてもいい。その人が存在していることが素晴らしい」と言える社会になったらいい。そんな未来に向かって、僕も挑戦を続けていきたいと思っています。
僕にとっては、「これはおかしいんじゃないか?」という違和感が、働く力になりました。その働く力は、生きる力にもなるんだと、個人的にすごく感じています。
待遇面ではマスコミの方が一般的にはよいとされています。けれども、ヘラルボニーでの2年間は、ドラゴンボールでいう「精神と時の部屋」に入ったかのような目まぐるしい日々(笑)。毎日が充実していて、転職したことを後悔した日は一日もありません。
なので、もし今「これはおかしいんじゃないか?」という違和感を感じている方がいたら、その違和感を大切にしていただくといいんじゃないのかな、と思っています。
“縁の下の力持ち”として、ゼロから支える仕事に燃える
高山さん こんにちは、高山と申します。合同会社シーベジタブルにて代表秘書と販促チームのマネージャーを務めています。
では、いきなりの質問ですが、皆さん、何種類の海藻を食べたことがありますか? 5種類くらい出てくるとしたら、なかなかの海藻通かもしれません。
昆布、ワカメ、海苔、もずく……このあたりがよく知られている海藻だと思います。実は、日本の沿岸海域には約1500種類の海藻があると言われていて、しかもそのすべてが毒がなく、食べられるんです。それぞれ、味・食感・見た目・香りもまったく異なり、とても多様な食材なんですよね。
でも、現在日本で一般的に食べられている海藻は、ほんの約50種類ほど。つまりまだまだ知られていない、ポテンシャルがたくさんあります。
私たちシーベジタブルは、そんな海藻の研究から、生産・加工・販売を一貫して行っている “海藻の会社” です。創業時からずっと海藻を食の観点から広げてきましたが、最近はブルーカーボンやネイチャーポジティブといった観点で、食材以外の活用ニーズも高まっており、新規事業や企業との協業も進んでいます。
人はひとりでは生きられない
事前に植原さんから「あなたのパーパスはなんですか?」という質問をいただいていたので、少しお話しさせてください。
実は、新卒で勤めた会社の入社日に先輩から「なんで働くの?」と聞かれたんです。その時、すごく考えた末にたどり着いたのが、両親がよく言っていた言葉でした。
それは、「人はひとりでは生きられない」という言葉です。
皆さんが今集まっている建物や着ている服、食べ物など、生きていくために必要なものは、誰かの仕事からできている。だからこそ、私にとって働くことは「誰かの生活や暮らしを支えること」。私も誰かの仕事で生かされているからこそ、その恩送りをするのが仕事だと思っています。
もう一つ、よく聞かれるのが「なぜ転職したのか?」ということ。
前職は本当にやりがいがあって、一生懸命働いていました。でも、入社から5年経って、一つやりきった感覚があったんですよね。「もっといろんな世界を見てみたい」「新しい挑戦がしたい」と思い、辞めることを先に決意したんです。
その時に出会ったのがシーベジタブルでした。「美味しい海藻を食べてもらえば、海の生態系が豊かになり、食文化が守られ、地域の雇用も生まれていく」。そんなビジネスモデルがあることに、驚き、興味を持ちました。
2年働いた今でも、「この会社は、誰も不幸にしないビジネスモデル・企業カルチャーをもっている」と確信しています。だからこそ、今もシーベジタブルで働き続けているんだと思います。
はやく、みんなで、遠くに行こう
最後に、「転職してよかったことは?」という質問にもお答えします。
昔教えてもらった言葉に、「はやく行きたいならひとりで行け。遠くへ行きたいならみんなで行け」というアフリカのことわざがあります。
文字通り、「早く結果を出したいなら一人で行動するのが効率的だが、困難な目標や遠くへ行きたい場合は、仲間と協力することが成功への近道」といった意味なのですが、シーベジタブルは「はやく、みんなで、遠くに行こう」なんです。
私たちは、海藻で海も人もすこやかな未来をつくっていきたい。
例えば、近年は海苔の収穫量がどんどん減ってきて、コンビニでも「海苔なしおにぎり」が増えています。でも、やっぱり海苔ありのおにぎりが好きな方は多いですよね。
あの味を、文化を、絶やしたくない。だからこそ、ゆっくりしている時間なんてない。「はやく、みんなで、遠くに行こう」。そんな想いで、走れるシーベジタブルは楽しくて面白いんです。
インスタの投稿が、転職のきっかけになった
植原 ここからはトークセッション形式で、お二人のパーパス転職ストーリーについて深堀りしていけたらと思います。
まずは桑山さん。世の中では安定しているといわれる会社から、スタートアップに転職したわけですが、迷いはなかったですか?
桑山さん 僕が転職を考えたきっかけは、名古屋での生活にある種の区切りを感じたことだったんですね。東京に出たいという気持ちもあったし、ちょうど結婚というライフイベントも重なって。「このままでは名古屋に根を下ろしてしまうな」と感じていたんです。
当時は自分の成長が停滞しているような気がして、「今が挑戦するタイミングだ」と思った。そのときに、「ヘラルボニーという存在が、これからの社会に必要になる」と確信していたこともあって、転職に迷いはありませんでしたね。
植原さん ヘラルボニーのことは、もともと知っていたんですか?
桑山さん はい、かなり前から知っていました。自分が制作したドキュメンタリーCMを、ヘラルボニーを立ち上げた双子が見てくれていて、お互いにSNSでフォローし合っていました。
2020年ごろ、ヘラルボニーが名古屋で開催していたポップアップショップに行ったことをインスタに投稿したら、代表からコメントが来て。それが交流のきっかけになりました。その後、僕が書いていたコラムに代表の二人が登場したり、逆に僕がイベントに呼んでもらったりと、少しずつ関係が深まっていったんです。
そして、ヘラルボニーが採用を強化していた時期に「採用するんですね!」とメッセージを送ったら、「桑山さん、興味あるんですか?」と返ってきて。Zoomで話すことになり、その10日後にはもう内定通知が届いていました(笑)。
植原 前職での活動が、自然に次のキャリアにつながったんですね。
桑山さん そうなんですよ。だから、いわゆる「転職活動」はしていません。「他の会社も見たら?」と言われたけれど、「ここがいいと思う」という感覚が強くて、そのまま進みました。
新しいことに挑戦したかった
植原 高山さんにも伺いたいのですが、新卒で代表と二人三脚という濃密な経験を積んで、そこからなぜシーベジタブルに?
高山さん 実は、海藻にはぜんぜん興味なかったんです(笑)。でも、新しいことに挑戦したい気持ちが強くて。前職では、年上の方とばかり働いていたので、もっと同世代と一緒に成長できる環境がいいなと思っていて。
そのときに、ふと思い出した知人がいました。はじめてご飯に誘って、「会社辞めようと思ってるんだよね」と話したら、「実は一緒に働きたいと思ってた」と言ってくれて。それで代表と会ってみたら、ビジネスモデルがすごく面白くて。そのまま関わったら、沼りました。
植原 シーベジタブルには、海藻に興味がなくても入ってくる人って意外と多いんですか?
高山さん 海藻や海が好きな人ももちろん多いです。でも最初は興味なくて、「シーベジタブルの海藻が美味しかった」とか、「働いている人が魅力的だった」とか、そういう理由で入ってきたメンバーも多いですね。どんなに忙しくても、みんな目をキラキラさせて働いているのがすごいなって思います。
コミットしたいのに、手が回らないジレンマ
植原 転職してみて、「これは大変だったな」と感じたことはありますか?
桑山さん ありがたいことに、毎日のように話題があるので、メディア対応やプレスリリースなど、とにかくやることが多いです。「もっとこれにコミットしたいのに、手が回らない」みたいな悩みは、正直ありますね。嬉しい悲鳴ですけど(笑)。
正太郎 前職のテレビ局時代も、けっこう忙しかったのでは?
桑山さん そうですね。最後の方は愛知県警の担当記者だったんですが、意義ある仕事であると思いつつ、「自分じゃなくてもできるんじゃないか?」と疑問に思うこともありました。
特に有事の際ですよね。災害が起きたとき、多くの人が家族のもとに帰るなか、自分は出社しなきゃいけない。「なにかあったときに人生の最後に後悔するんじゃないか」って思ったこともありました。その点、今はなにかあれば家族のもとに帰れる働き方ができていますね。
高山さん 私たちも、本当にニュースがない日がないくらい忙しくて。海藻が注目されていることもあって、案件や問い合わせも多いんです。
それに、私たちのチームはリモートワーク中心で全国に散らばってるから、「ちょっと困ってる」って言い出しにくかったり、プロジェクトの進捗が見えづらいこともある。だからこそ、遠慮なく言い合える関係が大事なんですよね。
これから歩みたい人生
植原 最後に、お二人がこれからどんな人生を歩みたいか、お聞きしたいです。
高山さん 今日の話を聞いて、「この人、すごく仕事が好きなんだな」って思われたかもしれません(笑)。実際、仕事は楽しいです。でも今だからこそできる働き方でもあるなと思っていて。
実は将来的には、「家族を第一優先で働きたい」っていう気持ちもあるんですよ。私だけじゃなくて、他のメンバーにも、人生のいろんなフェーズがある。だから、それぞれのフェーズに合った働き方ができる組織にしていきたいなって思っています。
桑山さん 星野源さんの言葉で印象的だったのが、「苦しんで作品を生み出さないといけないと思っていたけど、本当に得意なことは、自然とやれてしまうことだった」っていうものです。
できないことを頑張るよりも、「なぜかできちゃうこと」にこそ可能性がある。私自身、そんな「なぜかできちゃうこと」をこれからも探していきたいし、そういう感覚を大切にしながら仲間と働いていきたいと思っています。
植原さん なるほど。ありがとうございます。お二人の話を聞いていると、「水を得た魚のように、自分に合った場所で自由に泳いでいるなぁ」と感じますね。
でも、今日の話はあくまでひとつのケースにすぎません。なにかみなさんがみなさんなりのパーパスと出会い、それに合う仕事を見つけるヒントになったらうれしいです。
リアルな出会いの可能性
パーパス転職DAYでは、トークセッションのほか出展企業によるピッチや企業ブース交流、マイパーパスを言語化するワークショップなども行いました。
WORK for GOODとして初の試みでありながら、盛況のうちに幕を下ろしたパーパス転職DAY。「うまくいくんだろうか?」という不安もありましたが、たくさんの方がやりたいことや仕事についての思いを語り合う姿を目にして、ほっと胸をなでおろすとともに、「こういうリアルな出会いから、人生って変わったり、社会が変わったりしていくのかもしれないなぁ」と、しみじみと思ったりもしました。
WORK for GOODでは、こうした「パーパス」をつうじた会社と個人の出会いの機会をつくっていくので、ぜひ今後もWORK for GOODのサイトやSNSをチェックしてくださいね!
(撮影:廣川 慶明)
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