グリーンズが運営する、社会課題解決に特化した求人を提供するサイト「WORK for GOOD」。ローンチから一年という節目である2025年5月31日、「パーパス転職DAY 〜やりがいのある仕事を考える一日」を開催しました。
当日は、社会課題解決に取り組む8社と、約100名の参加者が集まり、「パーパス転職」をキーワードに交流。イベントをきっかけに取り組みを知り、求人にエントリーする方もおり、やさしい熱気につつまれた会となりました。
この記事では、グリーンズ 共同代表・植原正太郎によるオープニングトーク「社会と自分を重ねる『パーパス転職』とは?」の内容の一部をお届けします。
「働く」で社会を変える求人サイト
今日は「パーパス転職DAY」にお越しいただき、ありがとうございます。僕たちは「WORK for GOOD」という求人サイトをちょうど1年前から運営しています。これまではオンライン中心の活動でしたが、今回初めてリアルな場でのイベントを開催することになりました。
テーマは、「やりがいのある仕事を考える1日」。そもそも、やりがいってなんだろう? 働くってなんだろう?そういった問いを、皆さんと一緒に考える1日にしたいと思っています。
グリーンズでは、2006年から「greenz.jp」というWEBマガジンを運営していて、2017年からは「グリーンズ求人」という形で採用支援もはじめました。社会的な取り組みをしている企業・団体と、読者をつなぐ記事をつくっていく中で、もっと多くの人に出会いの機会を届けていきたいと思うようになりました。そして、「WORK for GOOD」という求人サイトが、2024年に生まれました。
WORK for GOODは、「社会をよくする仕事」を探している人と、そうした人を求めている企業をつなぐための取り組みです。社会には、分断や格差、気候変動など、さまざまな課題がありますよね。それを変えていくには、行動する人、つまり「働く人」の力が必要です。同時に、「働く」ということ自体が変わっていかないと、社会も変わらない。だからこそ僕たちは『「働く」で、社会は変えられる』を合言葉に活動してきました。
この1年間で64社の社会的企業と出会い、そのうちの8社が今日参加してくださっています。どれも「ここに転職したい!」と思うような素敵な企業ばかりです。現在、50件の求人が掲載されており、登録者数は約3,000人。ありがたいことに、毎月250人ほどのペースで増えています。
人生を変えた挫折
今回掲げた「パーパス転職」という言葉には、「志や想いを軸にキャリアを選ぶ」という意味を込めています。キャリアアップや年収アップも大切ですが、自分の想いを大事にする働き方も、もっと広がってほしいと願っています。
たとえば、小学生に「なんのために働くの?」と聞かれたら、皆さんはどう答えるでしょう?「お金のため」「社会のため」「自己実現のため」──いろんな答えがありますし、どれも正解です。でもその問いに真剣に向き合うことが、今の時代においてとても大切だと思っています。
「パーパス」についてお話しするために、少しだけ、僕自身の話をさせてください。
僕は1988年生まれの37歳です。僕が「何のために働くのか」という問いと向き合うようになったのは、自分自身のキャリアの中で、大きな挫折を経験したからなんです。
僕はもともと大学では理工学部に進みました。その理由は、「受験勉強で理系科目が得意だったから」。ほんとに、それだけの理由でした。
でも、大学の授業に入ってみたら、その内容がめちゃくちゃ難しかったんです。受験勉強とはぜんぜん違う。授業が理解できなくなっていった。次第にモチベーションも下がって、サークル活動にのめり込んでいくようになりました。
そんななか、大学2年のときに、「化学B」という必修科目を落としてしまいました。試験の時間を勘違いしていたんです。2限だと思っていたら、実際は1限で、気づいたのはまさに1限が始まったタイミング。大学までは家から1時間半。もう完全に間に合わなかった。このしょうもないミスで、僕は留年することになりました。
「誰かの役に立つために働く」仕事との出会い
それまで僕は、私立の一貫校に通っていて、大学も志望校に入って、「順風満帆なキャリア」を歩んでいる気になっていた。それが、時間割を間違えるという本当にささいなことがきっかけで、すべてが狂ってしまった。本当に落ち込みました。1週間くらい、表情を失ってました。
留年して、同級生だった友だちが就活を始めていくなかで、焦りもありました。僕自身「大企業に入って、終身雇用で働いていく」っていうイメージしかなかったんですが、1年間の空白の時間を得たことで「自分は何のために働くんだろう?」──そんなことを、ずっと考えるようになりました。
その時期に、たまたま出会ったのが「社会起業家」という存在でした。
2010年くらいだったと思うんですが、週刊ダイヤモンドで社会起業家の特集が組まれました。フローレンスの駒崎弘樹さんや、TABLE FOR TWOの小暮真久さんのような人たちが書籍を出して話題になっていた時期でもあります。
なんとなく「働くっていうのは会社のため」としか思ってなかった僕にとって「社会課題を解決するためにビジネスをする」という働き方があることを知って、衝撃を受けました「将来、こういうことがしたい」って、すごく強く思ったのを覚えています。
そこで僕は、NPO法人ETIC.のプログラムに参加して、「日本ブラインドサッカー協会」で2年間インターンをしたりしました。その後、情報発信にも興味を持つようになって、グリーンズでもインターンをさせてもらいました。大学の3〜4年生の頃の話です。
この時期の経験は、僕にとっての「働くことの原体験」になったと思います。「誰かの役に立つために働く」って、こんなにもエネルギーが湧くものなんだ、って知ったんです。
社会的な仕事をしたくても、道はなかった
ただ、そういう仕事を新卒で採用している企業は、ほとんどなかった。
当時の社会起業家とかNPOって、まだ黎明期で「新卒採用」という概念があまりなかったんですよね。だから僕は、まずはビジネススキルを身につけようと思って、SNSマーケティングの会社に入りました。
当時はTwitterやFacebookが盛り上がってた時代で、入った会社はまさにベンチャーですごく勢いがあったし、面白かったです。企業のマーケティング戦略を考えたり、公式アカウントを運用したり。知識やスキルを身につけさせてもらいました。
でも、社会人2年目になるころから、ふとした疑問が湧いてきたんです。「これって、なんの意味があるんだろう?」と。企業のフォロワーが増えて、その結果、商品が売れる。でも、それが「いい社会」にどうつながるんだろう?って。
だんだん、この問いは自分の中でどんどん大きな問いとなっていき、目の前の仕事に意味を感じられなくなっていきました。あるときにはトイレで寝ていたこともありました(笑)。眠くて仕方なかったし、なんかもう、働く意味が見出せなかったんです。
社会人3年目には、「心を失ってしまった」と言えるくらい、何のために働いているのかわからなくなっていた。そんなとき、元インターン先のグリーンズの経営メンバーが、僕に声をかけてくれました。「マーケティングポジションに興味はない?」って。
それがきっかけで、僕はグリーンズに転職することになりました。
「何のために働くのか?」を考えられる時代になった
ちょっと話が飛ぶんですけど、僕、「今って本当にいい時代だな」って思ってるんです。人類がやりがいのある仕事を選べるようになったのって、実はつい最近のことなんですよ。
人類の労働の歴史を辿ってみたいと思います。ホモサピエンスは30万年前に誕生しました。それから今に至るまでの働き方って、ざっくり4つのフェーズに分かれます。
フェーズ1は、生き延びるための労働の時代。狩猟採集で、動物をとって、植物をとって、食べる。とにかく生きるために働いてた時代です。
フェーズ2は、共同体のための労働の時代。農耕が始まって文明ができて、大きな社会構造が生まれて、ヒエラルキーや分業ができていく。「自分」というより「村」や「王」のために働くようになった時代。
フェーズ3は、生産のための労働の時代。産業革命が起きて、技術が一気に発達して、人間は「生産のための手段」になっていった。過酷な労働環境の工場で働く。チャップリンの『モダン・タイムス』で描かれる時代ですね。
そして、フェーズ4は、自己実現のための労働の時代。高度経済成長を経て、モノはもう十分ある時代になって、僕らは「自分は何のために働くのか?」ってことを自由に考えられるようになったわけです。
これって、ほんとに画期的なことだと思うんですよね。「自分は何を大切にして働きたいか」を問える時代って、これまでになかったから。
不安定さが増す現代
自由に仕事を選べるようになった一方で、社会自体はどんどん大変なことになってきている。気候変動は進んでるし、生物多様性も失われてる。差別や分断も加速している。「この社会、これからどうなっちゃうんだろう」って、不安になるようなことが多いですよね。
もう1個大きな変化として、AIが出てきましたよね。ChatGPTも含めて、皆さんも日常的に使ってると思うんですけど、便利ですよね。しかし、僕らが今まで普通にやってきた仕事の中に、「AIの方が早いし正確だよね」っていうものが、どんどん増えてきている。今はまだ「ツール」って感じだけど、近いうちに「僕らの仕事を奪う存在」になります。
自由に仕事を選べるようになったはずなのに、社会はどんどん不安定になって、しかも仕事そのものもAIに取られていく──そんな時代に、僕らは生きてるんですよね。とても難しい時代だと思います。
「何のために働くのか」を考える
だからこそ、こういう時代に「何のために働くのか」をちゃんと考えることが大事だと思っています。
僕なりの考えを言うと──やっぱり「自分のために働くこと」が、いちばん大事なんじゃないかと思ってるんです。シンプルな話なんですが。
ここでいう「自分のため」は、自己中心的にお金儲けするとか、そういうことじゃなくて。「自分が大切にしているものを大切にしながら働く」ということです。
皆さん、これまでの人生でいろんな経験してきたと思います。嬉しかったこと、感動したこと、つらかったこと、挫折したこと……。そのなかで、「これは大切にしたい」と思う信念みたいなものって、きっと1つや2つあるんじゃないでしょうか。
それが、自分にとっての「働く理由」だと思うんです。
それぞれが大切にしたいものを持っていて、それが尊重されながら働けたら、めちゃくちゃいい社会だと思うんですよね。
その結果として、社会問題が解決に向かっていくという順序が大事だと思っています。あくまで「自分のため」に働く。
パーパスに向き合う仲間として
でも、現実はそう簡単にはいかない。たとえば大企業に入ったら、その会社の固定化されたルールやシステムがある。社会全体も「とにかく経済成長!」っていう大きな流れが根強く残っていて、どうしても個人の想いもそこに巻き込まれてしまう。
ただ……今日出展してくれている企業の職場のように、「自分の大切にしたいものをそのまま持ちながら働ける」環境や機会が、確実に増えていると思うんです。
今日は、そういう「自分が大切にしたいこと」と、「企業がやっていること」とが重なるような出会いがあったらいいなと思っています。それが「パーパス転職」だと考えています。
「何のために働くのか」っていう問いは、簡単には答えが出ません。
でも、その問いと向き合っている人が集まってる今日この場は、本当に貴重だと思ってるんです。
みんなそれぞれ違う答えを持ってると思うけど、対話を通じて、ちょっとずつ自分の中の大事なものが見えてくる1日になるといいなと。
僕も、この問いに向き合ってる皆さんのことを、ほんとに「仲間」だと思っています。今日はそんな仲間と一緒に、時間を過ごせたらうれしいです。
(撮影:廣川 慶明)
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