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伊那谷フォレストカレッジが、森と地域にもたらしたものとは。森と土、人を見つめることで浮かび上がった「コミュニティ発酵論」

[sponsored by INA VALLEY FOREST COLLEGE協議会]

「森に関わる100の仕事をつくる」をテーマに、長野県伊那市で始まった「伊那谷フォレストカレッジ(以下「フォレストカレッジ」)」が2024年、5年間の活動を経て幕を閉じました。

これまでにないかたちで森と人とのつながりをつくっただけではなく、地域にも新しい動きをもたらしたフォレストカレッジ。その立ち上げから企画、運営に携わった株式会社やまとわの奥田悠史さんと榎本浩実さんに、フォレストカレッジと歩んだ道のりについて、そしてこれからのコミュニティのあり方や森との関わり方について、根掘り葉掘りお聞きしました。

フォレストカレッジ立ち上げ時の想いについてはこちらの記事を。
2022年度のフォレストカレッジのレポート記事<前編><後編>もぜひ。

始まりは、四面楚歌と、ぶつかり合い

業界を超えて森の価値を再発見し、再編集することをめざして発足したフォレストカレッジは、官民連携事業として企画、運営されてきました。協議会のメンバーは、林業関係者だけでなく、まちづくりや教育に携わる人や大学の先生など、さまざまな領域の人で構成されていました。その船出は、じつは雲行きが怪しかったのだそうです。

株式会社やまとわ 農と森事業部ディレクター 榎本浩実さん

榎本さん フォレストカレッジには、やまとわに入社して間もない頃から関わらせてもらいました。そんなタイミングで協議会の会議に参加して…驚きました。こんな喧々諤々の会議があるのかと。正直、私たちは四面楚歌の状態でした。協議会のメンバーから口々に『何がやりたいのかわからない』と不安の声が。奥田さんが説明している横で、私は一語一句、すべての発言を議事録として残していくことしかできないと、ひたすらパソコンに向かっていました。

奥田さん いろんな意見が飛び交う中で、榎本さんがすごい集中力でタイピングする姿が逆に面白くて(笑)。それでも行政の方が、『わからないからやる意味があるんじゃないですか?』と言ってくださったりして、とてもありがたかった。みなさんからの意見は、つらかった部分もありますが、振り返ってみればあの意見交換が、フォレストカレッジを面白くしたという気持ちもあります。

ぶつかり合いから始まった協議会は、粘り強く対話を重ねることで、ようやく一つの方向にまとまることに。

榎本さん 何度も話し合いを重ねました。仕事が終わってから、やまとわの事務所に話に来てくれたりもして。協議会メンバーも森に対して本気だからこそ、これってどういうことなの?と聞きたかったんだと思います。だんだんと、使っている言葉が違うだけだということがお互いにわかってきました。やりたいことのすり合わせができてきて、『なるほど、こういうことがやりたいんだね、よくわかったよ』と。私たちが企画する立場として使っている言葉と、林業の現場で使われている言葉。同じ日本語ではあるけれど、ニュアンスが違うと伝わらないことを実感しました。あきらめずに対話を続けたことで、フォレストカレッジとしての方向性をしっかりと見据えて前に進むことができたように思います。

パンデミック下で芽生え、現地講座で実を結んだ学び舎

2020年にスタートしたフォレストカレッジは、第1期と第2期はコロナ禍ということで、オンラインでの実施に。

(写真提供:株式会社やまとわ)

榎本さん 運営側の私も参加者の一人といった感じで、ただただ楽しんでいました。みんなちょっと緊張した状態で始まったんですが、回を重ねていくごとにコミュニティ感というか、一体感が生まれてきたんです。オンラインでこんなにつながれるなんてすごいね、みたいな空気感がありましたね。

奥田さん 1期目のときはコミュニティづくりの経験もまだ浅かったので、とにかく時間をかけるようにしました。僕がまだ高校生くらいのときに、小学校の先生になりたてだった兄がぽろっと言っていた『自分は教師として未熟だから、時間をかけるしかない』という言葉が印象的で、いまも肝に銘じているんです。未熟なのに時間を節約するなよ、と言われている気がして。1期目は、4カ月間で全6回の講義がありました。それとは別に、課外授業と称してオンラインイベントを開催したんです。それが楽しかったのもあるし、みなさんが前向きに参加してくれたのもあって、結果的に期間内に15回もやりました。運営スタッフの僕たち自身も議論に参加して、受講生の中からテーマが浮かび上がってきたら『それいいですね!』と、受講生中心のトークイベントを立てたりして。2020年はコロナ真っ只中で受講生たちも基本、在宅だったからこその時間でした。

(※)第1期の振り返りインタビュー記事もぜひ読んでみてください!

そして、3期目となる2022年度からは、当初計画していた伊那谷での現地開催を実現することに。

(写真提供:株式会社やまとわ)

榎本さん どうやったら森の中で心地よく過ごしてもらえるか、楽しんでもらえるか、初対面の人たち同士で緊張をほぐすには、一つひとつのプログラムをより良いものにするにはどんな場所がふさわしいかなど、受講生の気持ちを想像しながら準備をしました。準備に本当に時間をかけましたね。退社後も心配になって、スタバに寄って繰り返しノートを開いてシミュレーションして、ということもたびたびで…。カロリーをかなり消費しましたが、受講生のみなさんの反応を見ていると楽しい気持ちになって、本当にいい時間だったなと。

1期目、2期目とオンラインで実施してきた中で生まれたつながりも、満を持しての現地開催で生かされることになりました。フォレストカレッジがきっかけで伊那市に移住した受講生を含め、20人以上が「チーム伊那」のスタッフとして参加。フォレストカレッジは単なる学び舎ではなく、コミュニティとして育ちつつあったのです。

榎本さん 現地講座には、スタッフとして入りたい方にどんどん入ってもらうようにしました。いろんな人に、スタッフ兼受講生として参加してほしくて。講師の話を聞いてほしいし、受講生とも交流してほしい。フォレストカレッジを経て伊那市に移住した人もたくさんいたんですが、想いをともにする人たちが同じ方向を向いている中でのウェルカム感、アットホーム感を心地よく感じてくれたんじゃないかな。いつも前向きなスタッフのみなさんにはすごく助けられました。立ち上げのときの会議では喧々諤々だったけど、この人たちと一緒にできてよかったなあと。

奥田さん 初の現地講座となった3期目の懇親会後に、協議会の方から『奥田くんがつくりたかった風景は、こういうことだったんだね』と言われて、本当に嬉しかった。言葉では伝えきれないものも、みんなに伝わったんだなと実感しました。

やり切った、と振り返る、やまとわ 取締役/森林ディレクターの奥田悠史さん

そして2024年、集大成となる5期目のフォレストカレッジを現地で開催。振り返ってみて、二人はいたずらっぽい表情で「反省点、なし!」と言い切ります。運営面で細かい課題は残ったものの、結果に対しては反省すべき点はない、と。

奥田さん 5期目は『森と関わる視点をつくる』をテーマにしました。小難しい話をすると森との距離が生まれてしまう。でも、簡単な話ばかりをするとその先のアクションでつまずきやすくなる。面白いところとディープなところの両方を感じてほしい。そう思って、いろんな立場の人たちの視点を通して、森への入口を見出してもらうことを目指しました。

フォレストカレッジは、『森で企てるコース』と『森で働くコース』に分かれて現地講座をおこなってきましたが、5期目は夜の懇親会を初めて両コース合同で行うことに。森のそばで焚き火を囲んで実施する予定でしたが、前日夜の天気予報では大雨…。急な計画変更を迫られたスタッフの動きに、5年間で育まれた想いを実感したと榎本さんは話します。

榎本さん 朝の7時に集まって、台風並みの雨風の中、全員でビショビショになりながらテーブルや丸太の椅子などを屋内の会場に運び込みました。それが、講座が始まってお昼が近づくにつれ、雨が止んで晴れてきたんですね。午後のプログラムはせっかくなら、屋外でやった方がいいな、でも、早朝に移動させた物をまた戻すとなると大変だな…と迷ったんです。それで協議会の会長でもある、有賀製材所の有賀さんにぽそっと相談してみたら『僕たちも晴れてきたから、絶対外でやった方がいいと思ってたんだよ!』と、すぐに人を集めて動いてくれたんです。この5年間を通して、協議会の人たちが『より良い場をつくりたい』という気持ちで一緒に運営をしてくれていることが、ただただ嬉しく心強いなと改めて実感した瞬間です。

5期目の現地講座では、『焚き火がなかなか終わらなかった事件』と呼ばれるエピソードがあったそうです。

榎本さん 一緒に山仕事をした仲間と講師の木こりさんで振り返りをしたんですが、どのグループもめちゃくちゃ盛り上がって、気がついたらそれぞれの人生観や仕事観について語り合っていて。締めようと思って何度も声をかけるんですが、もう乗っちゃって。その中で、木こりの人が『フォレストカレッジ以前は、林業は木を伐って売るのが仕事だから、森に生えている木に価値があると思っていた。だから、最初はフォレストカレッジがやろうとしていることがわからなかったけど、森にもいろんな価値づけができることを教えてもらった』と語っているのが聞こえて、なんだかグッときました。その空気感がすごくよかったので、中締めだけして、焚き火を囲んでの対話が続いたんです。16時から始まって、19時半くらいまで。寒くて寒くて大変だったんですけどね(笑)受講生のみなさんの森に対する純粋な気持ちが、林業関係の人たちに与えた影響は計り知れないということを思い出させてくれる、忘れられないエピソードです。

地域の人たちの「当たり前」をぶっ壊した5年間

5年に及ぶフォレストカレッジの活動は、40名以上の移住者と、伊那市の林業会社に就職する人や起業する人を生み出し、卒業生が関わって伊那市の地域プレイヤーと連携した商品やサービスをつくる動きももたらしました。二人は、フォレストカレッジ前とフォレストカレッジ後では、数字やかたちには表れない、大きな変化があったと語ります。

奥田さん フォレストカレッジは、地域の人たちの当たり前をぶっ壊してくれました。それまでは、森に関わる仕事に就こうと思ったら、林業会社に就職することをイメージする人が多かったし、森に関わる人たちも、もしかしたらそう考えていたかもしれません。なので、1年目は『異業種の人たちや、具体的に何をするのか決まっていない人たちを集めてどうなるの?』という声が多かった。それが、受講生たちが地域の人たちの間をポリネーター(媒介者)のように飛び回ってくれたおかげで、地域の中で新しいつながりができて、果実のようにいろんな仕事が生まれるきっかけができたんです。

榎本さん 森に関わる人たち同士がつながったことは大きいですね。たとえば、製材所の人は木こりから原木を預かって製材はするけれども、実際に山に行く人はあまりいなかったんです。それが、フォレストカレッジを通して実際に木こりの人が木を伐る現場に行って、木をどう使うかについて話す機会が生まれて、つながりが深まっていったんですよね。そして、受講生と対話を重ねたことも大きかったですね。林業はこうあるべきだ、という想いのある熱い林業関係の方たちも、そういう考えもあるんだ、面白いね、という気持ちになっていって。山仕事で出た枝葉を蒸留して、フレグランスウォーターの商品を自らつくった木こりもいるんです。

フォレストカレッジの2000年から2022年までのアニュアルレポートはここでも読める

育ててきたのは、コミュニティとしての学び舎

奥田さんは、学び舎として始まったフォレストカレッジを、生きたコミュニティとして捉えてきたと振り返ります。森と人をつなぐコミュニティとして、どのようなデザインをしてきたのでしょうか。

奥田さん 大事なのは、現在の延長上ではない、あったかもしれない現在に想いを馳せることなんですね。そのためには、単に森の現状を知ってもらうだけでは不十分。まだ森のことを勉強し始めたばかりの人が製材についての難しい話を聞かされても、実感が伴わない知識に疲れてしまいますよね(苦笑)森を面白く思えることならなんでもやろう、半分森の外側にいて、半分森の内側にいる立場として企画できることを、徹底的に考えようと。まずは、森と暮らしの導線の入口をつくる。森を散歩してみましょう、くらいのところから始めて方向性をつくって、その中で、自分の中から言葉をたくさん出してもらうことを意図していました。

コミュニティづくりという視点では、どんな人たちが、どのような動きをするのかが大切になってきます。

奥田さん 誰か一人が自分の想いを押し通そうとした瞬間に、場は壊れていくと思うんです。受講生を選考させていただく際も、応募理由を読み込みながら、フォレストカレッジに対する想いや考え方に柔軟性がありそうかという部分を重視しました。その上で、ワークショップをするときは、相手の言葉を否定しないとか、自分から心を開こうといった、基本的ルールを共有するようにしていました。みなさんがオープンに対話をしてくれたので、それが卒業後も育っていくコミュニティの肥やしになったところはあると思います。

筆者親子も、実はフォレストカレッジ卒業生だったりする

企画する、デザインするといっても、コミュニティというのは生きもののようなもの。ものをつくるようにはいかないものです。

奥田さん とはいえ、人と人とで成り立っているコミュニティの運営って、仕組みで動くような簡単なものじゃないですよね。人の情熱をどう膨らませたりつないでいくか、ですから。とにかく観察することが大事であると感じます。観察して、考えて、動いてみる。それに尽きます。野菜づくりに例えると、プロの農家さんは葉っぱを見るだけでその作物の健康状態や異常がわかるといいます。しかしその違いは微細なもので、農業を始めたての頃は、葉っぱを見てもそれがどんな状態なのかはわからない。でも日々の野菜の姿に目を凝らしていると、ちらっと見ただけで大丈夫かどうかがわかってくるようになるんです。土づくりや野菜づくり、森の生態系を観察することと、僕らの社会やコミュニティを観察することは、どこかでつながっている気がします。

榎本さん型に則ってやるというより、受講生やスタッフ、講師のみなさんの様子をよく観察して、みんなが楽しみながら熱量を上げていくためにはどうしたらいいだろう、ということを現場でも考え続けていました。決められたことをその通りにやるのではなくて、より良くなるように考え続けようという姿勢は、この5年間で身に染みましたね。

奥田さん システム化した方が楽なんですけどね。現地講座になってから、僕は最終日のカリキュラムを前日か当日の朝まで決め切らない。スケジュール表にも担当者:奥田とだけ書いてある。集大成となる1日がほぼ空白。そういったことを榎本さんやスタッフチームも許容してくれるのが本当にありがたかった。多くのイベントでは、タイムスケジュールがガッチリ決まっていて、盛り上がっていたとしても、『時間なので次へ』となってしまうじゃないですか。コミュニティを“発酵”させるためには、ここで熱を上げておかないと、というタイミングがあるんです。最終的に出したいアウトプットは何だろう、そこにいる人たちにとって何が大切なんだろうと考えたときに、決めごとよりも柔軟であることの方を優先させるべきだと。決めないということを決める、という(笑)

榎本さん 5期目の最終日は、本当に全部変わりましたね。場所も、内容も。inadani seesという施設内の予定が、『初日が雨で森の中で焚き火ができなかったから、森でゆっくりする時間がもっと欲しい』ということで、私たちも関わらせてもらってきた小学校の学校林でコーヒーを飲むところから始まって、受講生同士が対話する時間をうんととって。スタッフもすぐに、そっちの方がいいじゃん!とテンションが上がってパッと動きをとる。そんな一体感も気持ちよかったな。

奥田さん 朝、学校林に集まって会場準備をしながら、榎本さんにこの学校林のこと、説明してもらえませんかと、ある種無茶振りをしたら、ぱぁっと明るい顔になって『そう言われるかもしれないと思っていました!』と言ってくれて。そこで行われた学校林の説明は、本当に素晴らしかった。もう一人のスタッフであるやまとわの唐木さんも、当日早朝からコーヒーやお茶の準備をしてくれていて、なんて素晴らしいんだろうって、感動しました。

堆肥のように、コミュニティを「発酵」させるには

コミュニティを…発酵…させる!?奥田さんが何気なく口にした言葉がとても気になります。常に思索と実践を繰り返す奥田さんに、コミュニティと発酵についてさらに語っていただきました。

発酵している堆肥のように、熱っぽく語られる「コミュニティ発酵論」

奥田さん コミュニティづくりと堆肥づくりって、なんとなく似ていると思ったのがきっかけで。堆肥は、動植物の有機物を混ぜ合わせることで、微生物が分解して無機物に変わり、完成します。その分解される時に熱が発生して、50℃とか70℃くらいになる。微生物の餌である有機物がなくなると温度が下がり、落ち着いたところで堆肥として使う。それが、次の命を育てる土台になるんですよね。コミュニティも、知識や知恵を吸収するような好奇心が働いている時には、どんどん盛り上がって熱が上がるけれど、それが一定して落ち着く時期がくるかなと。

コミュニティが落ち着いた時にイベントをするとまた盛り上がりはするものの、落ち着いてしまう状況に寂しさや力不足を感じていた奥田さんは、やがて、それも前向きに捉えるようになったと語ります。

奥田さん よくよく考えると、熱量が上がり、やがて落ち着いてくるというのは自然な営みなのかもしれないと思うようになりました。熱を出し続けることが目的になってはいけない。熱が上がって、いいかたちで次を迎える、いわば次の何かを育む土台としての土や堆肥になるのであれば、それは発酵的なコミュニティとして終わらせてもいいのではないか。僕はそれを『コミュニティ発酵論』と言っているんです。

フォレストカレッジから生まれたつながりは、伊那谷という地域に新しい風をもたらし、これまでにない取り組みが始まるきっかけをつくってきました。フォレストカレッジ最終回の卒業生たちもいま、自分たちで伊那谷をフィールドにプロジェクトを立ち上げています。

奥田さん 今期のフォレストカレッジが終わったあとも、卒業生たちは伊那谷に2〜3回は来ています。昨年の11月末には、協議会メンバーの呼びかけで、講師の方が皆伐した現場の地ごしらえの作業を希望者で行いました。春には植林作業をやるそうです。そのほかにも、森の中に遊歩道をつくるプロジェクトが立ち上がったりしていて、とても嬉しい。

みんなから次の希望が芽生えてきて、『自分たちも森に関わりたいのですが、何かできることはありませんか』という声が自然と上がってきたときに、いい終わり方ができたんだな、としみじみと実感します。フォレストカレッジというコミュニティは、いい堆肥になりつつあるなと。この堆肥が、次の人の動きの肥やしになればいい。これまでフォレストカレッジに限らず、自主的なプロジェクトがメンバーそれぞれの忙しさや環境の変化もあって、自然と終わっていくのをいろんな場面で見ているので、過度な期待はせずに、それでも動き出す人たちの最初のサポートはしていきたいと思っています。基本は、どんな堆肥になっていくんだろうと見守っていく感じですね。

榎本さん 遊歩道づくりは本当に盛り上がっていて、カレッジが終わったあとの12月に卒業生の有志が森を歩いて、どんなことをしたら楽しいか、どんな道にしていきたいかを話し合うところから始まりました。みんな遠方なので、年に5回ほど伊那谷に来て作業をしようということになっています。いまは卒業生だけですが、ゆくゆくはお友だちやご家族、地域の人も仲間にしていくことで、たくさんの人が森とつながる機会になっていったらいいですね。

循環という営みに誠実に、感じることを大切に

やまとわという会社そのものも、地域や林業界、そしてビジネスや暮らしといった幅広い分野にさまざまな動きをもたらすコミュニティのハブとなっているのではないか。お二人の話を伺っていると、そんなふうに思えてきました。フォレストカレッジの先に、お二人はどんな仕事をつくっていきたいと考えているのかを聞いてみました。

奥田さん 循環という営みに対して、すごく誠実にビジネスをするということに尽きますが、そのためにも、面白いことを増やしていきたいなと。頭で考えた企画ではなくて、体で感じた企画を生み出していきたい。地域材や地域資源の利用、資源循環といった、サステナビリティにおいてわかりやすいキーワードがたくさんある中で、現場にいない企画立案者が頭の中で考えた企画で、本当に人は動くのかと疑問に思うことがあるんです。

端的に言うと、ネイチャーポジティブやJクレジットで脱炭素を、例えば1,000ヘクタールの森だと木は何本で、これくらいのクレジットになるとお金に換算するような話は、森の現実と離れてしまうところがあると感じます。それは、僕らのつくりたい未来じゃない。これまでの痛みを引き伸ばしていくだけなんじゃないかなと。やまとわは、土とともに考えた企画しかつくらない。そうするとすごく明確で、地域材を使って家具をつくるとか、ものづくりの過程で出てくる端材を堆肥にして野菜を育て、その野菜を使った加工品を本気で届けるというように、自分たちが実体をもって語れるビジネスに注力していくだけなんです。

森を語るとき、「ムズい」「めんどい」「面白い」を連発する奥田さん

榎本さん 実体をもって語れるビジネス、というところに共感をしています。私自身はいま、食の商品企画を担当していて、モミの葉を使ったお茶の開発をしているんです。オレンジピールやレモングラスみたいな柑橘系の風味で、爽やかで味わい深いんですよ。これが商品化されたら、森にまた新しい価値がつくれると思ったら、すごく嬉しくなっちゃって。実はこの3日間、室内で8時間くらいモミの葉を取るという作業をひたすらやっているんです。この作業はひとりでやっていると苦行でしかないんですが(苦笑)、おばあちゃんたちの梅仕事みたいに、フォレストカレッジの卒業生のみなさんと井戸端会議をしながらやったりすることで、あたたかいものづくりの場ができるんじゃないかな、なんて考えています。

ひたすら、モミの葉っぱと向き合う榎本さん。お茶になるのが楽しみ!

たっぷりお話を伺ったあと、お二人といっしょに雪が舞い散る森を、白い息を吐きながら歩きました。見回すと、寒い中でも静かに力をたたえる木々があり、その先には、集落を見守るような山並みがある。そして、足元には、ふかふかの落ち葉がいっぱい。息を吸い込むと体にすうっと入ってくる空気さえ、とてもありがたいもののように感じられました。

自然の営みに心を寄せながら、人と人とのつながりで、どんな現実をつくり出していけるか。これからも伊那谷を訪れ、やまとわのみなさんと考えていきたいと思いました。

(撮影:秋山まどか)
(編集:増村江利子)

[sponsored by INA VALLEY FOREST COLLEGE協議会]