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「美しい経済の風景」という概念をめぐる書籍『Communtiy Based Economy Journal』が刊行。桜井肖典さんを迎えて語る、未来に希望を持つ方法

21世紀がはじまって、まもなく四半世紀。「次世代や未来のために」というフレーズを見聞きすることは多々ありますが、こうしている間にもどんどん進む時のなかで、私たちは未来をどう捉えればいいのでしょうか。

2024年夏、「過去に学び、現在に出会い、未来に遺す」という視点でつくられた書籍『Community Based Economy Journal − 美しい経済の風景をめぐる旅の記録 − 002』が上梓されました。

未来に向け、いま育むべき「美しい」経済とは——。土地や規模を問わず、各地の実践者たちを訪ねた記録として、年に一度刊行する「ビジネスドキュメンタリー誌」というスタンスを取っています。本書の企画制作および編集長である一般社団法人RELEASE(リリース)共同代表の桜井肖典(さくらい・ゆきのり)さんと、本書の制作における副編集長として桜井さんに伴走した、greenz.jpの増村江利子による対談をお送りします。

(ここから対談をお送りします)

増村 『Community Based Economy Journal』は、毎年制作することを目指して、2023年に始まりました。今回、第2号が無事に発売されたこのタイミングに、ぜひCommunity Based Economyという考え方や、ジャーナルを制作する思いについて聞かせてください。

まず、Community Based Economyとは、京都市で生まれた言葉なのでしょうか?

桜井さん 京都市というよりは、京都市民から生まれた言葉、と言った方が正しいかな。もともとのきっかけは2016年にはじまった、京都の企業が取り組みたいことや課題を京都市が後押しして、よりよい事業や施策をつくろうという「京都市中小企業未来力会議(現:京都市地域企業未来力会議)」がきっかけでした。企業間の連携があって、公共の利益に資することを仕組みにするべく、京都では誰もが知っているような老舗から、スタートアップ、商工会議所、金融機関など、経済団体が一同に揃った会議でした。

そのなかで、採用に関する悩みがたくさん挙げられたんです。学生が多い街なのに募集してもなかなか人が集まらない、という話になった時、「中小企業という呼び方が良くないのでは?」という声が挙がりました。「大・中・小って比べられたら、そりゃみんな、大に行きたがるやろ」と。

「じゃあ、なんて呼ぶのがいいですかね?」と尋ねたら、「地域企業」という呼び名が出てきたんです。

京都では、自社の営利追求だけにこだわらず、周囲も一緒に栄えた方が良いと考える傾向が強い。「地域企業」という言葉も、京都社会における誠実さが現れているように感じられた

桜井さん 2017年の未来力会で提案された「地域企業」という考え方には賛同が多かったこともあり、その後約1年半にわたり、企業や市職員と共に議論を尽くしました。議論の内容は、述べ1,164名の意見を集約した宣言文、「京都・地域企業宣言」として発表されました。対して京都市も、各企業の持続的な発展に賛同・支援し続けよう、という内容の条例を2019年に制定したんです。

そのため統計データ上の用語などを除いて、京都では、中小企業ではなく「地域企業」と言われるようになり、市の中小企業振興課も、地域企業振興課に変更されています。今では、全国の自治体や国の資料などでも「地域企業」が用いられるようになりましたね。

増村 市民から出た言葉ということでしたが、最初に「地域企業」と発言した方がどなたか、今ではもうわからないんですか?

桜井さん そうですね。実は「地域企業と最初に言ったのは俺だ」と思っていらっしゃる方が複数いて(笑)。それはそれで当事者意識を持てるプロセスが踏めたということなので、良いことだなと思ってるので、あえて誰かを特定せずに、皆さんの発言となれていることが嬉しいです。

あと「地域企業」をCommunity Based Companyと英訳してくれた方も、おそらく市役所の国際部の方だと思うんですが、特定できないままです。ただ、とても素敵な訳をつけてくれたと思って、この概念をもっと広めていきたいと考えるようになりました。

先に民意。京都のシビックプライドに学ぶ意識

増村 桜井さん自身、長く京都を拠点に経営されていますよね。京都にはそのように、ビジネスを営む民間からの意見や民意が反映されやすい土壌があると感じますか?

桜井さん 前例は多いと思いますね。景観条例があったり、2010年に制定された「歩くまち・京都」憲章も、民間から出たのがはじまりでした。小さいお店をゆっくり見られるように、京都は車で移動せずに歩きましょう、と促すものです。当然、一部の利益だけではなく全体のためにもなることなので、市も賛同して制度化されました。四条通の車線を一車線減らして、歩道が広くなったんです。

あと何と言っても京都には、世界文化自由都市宣言があります。1978年に、哲学者の故・梅原猛さんが中心になって起草されたもので、「全世界のひとびとが、人権、宗教、社会体制の相違を超えて、平和のうちに、ここに自由につどい、自由な文化交流を行う」という宣言は、京都における憲法のような存在です。

また2001年には、当時京都市立芸術大学の学長だった鷲田清一さんを中心に「京都基本構想」がつくられました。通常の基本構想のように「京都市は、」で始まるのではなく、「私たち京都市民は、」という主語が繰り返し使われています。

関東出身の桜井さんだが、ご縁のあった京都で起業。在住歴は24年

桜井さん こうした積み重ねがあった上に地域企業振興策ができているので、未来力会議から「地域企業とは」を宣言文にまとめることも自然な流れでした。地域の将来の姿をみんなで一緒に議論できる土壌があるって、すごいことですよね。住んでいても誇らしさのある、いい街だな、と思います。

増村 すごいな、京都。そのストーリーだけでも羨ましくなるような、素敵な価値観が醸成されていますね。文化を大事にして、京都に住んでいるという意識を強く持っている。Community Based Companyという概念がこれだけしっかり言葉化されたことにも、とても納得できます。

桜井さん 以前、谷川俊太郎さんが、「ひとつの言葉があることで、何かを区別することもできるし、結びつけることもできる」と話されていたことが印象的だったんですが、本当にその通りなんですよね。中小企業ではなく「地域企業」という言葉をつくることで、ソーシャルとか非営利といったカテゴリーは要らなくなり、みんなが同じ土台の上で喋れるようになった。しかも、地域すらこだわらずに、広義的に捉えられることもできると思います。

増村 どこか固有の地域に限定しなくていい、ということですか?

桜井さん 言葉としてのCommunity basedは、どこかの地域に根ざした、という意味になりますが、もはや時代的にも、自分が貢献するコミュニティを決めるものは地縁だけではないですよね。同じものを大事に思う仲間とはコミュニティになれるわけですし、世界規模の会社であれば、どこかに拠点はあるとしても、地域性を超えた価値観でつながりあっている。

京都市も、この言葉に市の著作権とか、©(マルシー)とか言うこともなく、どの地域でも「地域企業」という概念が広がったら良い、と考えてくれています。

桜井さんたちが他の地域で「地域企業」「Community based」の概念を紹介する際、京都の事例を伝えるために市の人が同行してくれたこともあるそう

あえて定義づけない理由。いかに「地域企業」な経済であるべきか

増村 その後、Community basedというコンセプトは広がり続けていますね。

桜井さん 京都の皆さんだけでなく、ご縁のあった熊本の水俣、長野の飯山など、北は北海道から南は沖縄まで、各地の仲間も共感してくれましたね。だんだん、国際的にはどうなんだろう? と考えるようにもなり、海を越えてバルセロナとかベルリンでも、地元の方々と同様の議論の機会を持ちました。

それによって、「地域企業」の考え方はどこにおいても共通言語になり得ることを実感して、いかにCommunity basedな経済であるべきか、と考えるようになったんです。これからの社会はCommunity Based Economyでないと大変なことになる、と考えているときに、世界的なパンデミックになりました。そこでまず、このコンセプトに賛同してくれている方や企業に呼びかけ人になっていただいて、Community Based Economyのステートメント(宣言文)を発表したんです。

増村 さらに共鳴が広がり、2021年にはフォーラムが開催されましたよね。

桜井さん 「Community Based Companies Forum」ですね。初回は京都から2日間のオンライン配信による開催でした。

この日の対談は東京・池袋にあるソーシャルインキュベーション施設「HIRAKU 01 IKEBUKURO SOCIAL DESIGN LIBRARY」にて

増村 フォーラムはどんなことを目的にしていたんですか?

桜井さん まずひとつには京都の事例のように、ソーシャルビジネスの支援と、地域企業の支援が分かれていたことに対して、どちらも応援しあえる形をつくること。そしてそれが、全国各地で定着しながら広まり、コミュニティ同士がお互いの仕事を称賛しあったり、事業経営上の創意工夫を共有し合うつながりをつくることを考えていました。今はそうしたつながりを、「Community to Community」と呼んでいます。

あと、このフォーラム自体が、各地の事業者にとって、誰かを誘ったり相談しやすい機会になってほしかったので、「Community Based Companies Forum」というタイトルに、「〜希望の兆しかもしれない〜」という副題を付けました。

増村 「かもしれない」なんですね。面白いなあ(笑)

桜井さん この副題によって、まだ声を掛けたことない人を誘いやすくなったり、もしくは、各地で「この街で希望の兆しになる企業ってどこだ」という議論が起きたら、そこからコミュニティが生まれるだろうな、と思ったんです。

増村 薩摩会議もそこから始まっているんですものね。

桜井さん 京都のフォーラムでは、各地から招いたゲストの中に薩摩会議を主宰するSELFのメンバーもいて、「鹿児島でも開催したいな!」と言ってくれたんです。ちょうどSELFが法人化する時期でもあったので、彼らの想いを鹿児島内外と共有する良い機会になるね、と。僕らも京都での経験を共有させてもらいながら、開催の後押しをさせてもらいました。京都市長にビデオメッセージをいただいたりとか。フォーラム名も、Community Based Economyのコンセプトが広まるものだったら各地の独自性に合わせて変えて構わないよと伝えたら、「薩摩会議」という名前になっていたんです。京都の僕らではぜったいに思いつかない、変革のDNAがある名称ですよね。その後も続いて長野、北海道、今度は沖縄でも開催される予定です。

増村 Community Based Economyのバトンはどんどんつながっているわけですね。各地で探求が始まっているように感じています。

桜井さん 京都だけではなく、どこでも「自分たちの世代が今この地でするべきことは何か」と考えられていたということだと思います。なので僕らも決して、Community basedとはこういうものである、と定義しないよう気をつけています。別に僕らが生み出したものではないからです。Community basedな文脈はどこにでも昔からずっとあって、僕らがたまたまピッタリくる言葉を発見できた、という感覚でいます。

ジャーナルという書籍化が叶える、3つのこと

増村 Community Based Economyのステートメントでは、目指す経済について明言していますよね。大切にする指標として、自分たちのValue(価値)、Well-being(ウェルビーイング)、Creatibity(創造力)、Freedom(自由)といった10の価値観が挙げているのを読んで、確かにどれも健全な経済のためには必要だと考えさせられました。ということは、今の経済って一体何なんだろう、とも思ってしまいます。

桜井さん 例えば、京都の料亭を任せられている料理人さんは、信頼できる仲買さんからその日に獲れた魚を聞き、その時点でメニューを考えています。仲買さんもまた、同じハモでもどこで獲れたハモならどこの料理人が好む味かということまで把握している。職人同士の信頼関係があるからこそ、獲れた材料を無駄にせず活かしあえるし、お客さんも最高においしいものを堪能できるというエコシステムができているんです。

Community Based Economyもこれと同じで、職人レベルの納得感をどうやって再現することが可能なのかが問われていると思います。最高のクオリティを品質管理の基準にし、いいものを繋いでいくポジティブなループができるように努めること。そこには個性が生まれて、それぞれの個性が地域の特色となり、その連鎖が文化に変わっていくわけです。

増村 本当にそうですね。ではCommunity basedというコンセプトを、こうしたジャーナルとして書籍にしようと考えた理由についても聞かせてください。

画像右は2023年の創刊号(旧版装丁)、左が第2号として2024年に刊行された『Community Based Economy Journal − 美しい経済の風景をめぐる旅の記録 −』。いずれも素晴らしい写真の数々が、物語の理解をより深くしてくれる

桜井さん 僕らが今、未来に対して希望をもてるためには、3つのものが必要だと考えています。一つは、新しい発想。こんなこと考えて良いんだ、と思えるアイデアですね。二つ目は、具体例。こんなことが可能なのかと分かる、実践やプラクティスのこと。そして三つ目が、方法論。いろんな人が実践できるためには、体系化されたノウハウが必要だからです。

アイデアと、プラクティスと、メソドロジー(方法論)。時代を超えて、広くこの3つを共有できる方法は、書籍が一番だと思いました。

増村 自分たちの世代だけではなく、次世代にも伝えるために、と。

桜井さん これから社会や経済がどう変化しようとも、アイデアとプラクティスは気づきをくれるものですし、もしもやり直したいと考えたら、方法論が必要になるはずです。むしろ、僕らができなかったことがあっても、この本に残すことで、いつか誰かがやり直してくれると信じられるというか。

増村 確かに、未来の人たちがこの本を見て、2024年はまだこんなことに悩んでいたのか、と思えるようならそれも良いですし、逆に、さらなる改善のためにここからヒントを得てくれたら、それも良いですよね。

桜井さん 実際、イントロダクションを書くときは、僕らの子どもたちのことをイメージしました。彼らが将来、たまたまこの本を手にして、そこから動き出してくれたらいいな、と。

1号目の発売時にはすでに2号目の取材先が決まっていたそう。対談時には「3号目も半分くらい決まっていますよ」と桜井さん

桜井さん あともう少し現実的な背景として、僕らは非営利団体であり、ミッションに「未来が歓迎する経済をつくる」と掲げています。毎月の売上から一定額を社会貢献のために積み立てていて、いざ何に使うべきかを理事会で相談したところ、「Community Based Economyの研究報告書をつくるのが良い」という話になったんです。毎年制作することで、僕らのアニュアルレポートのようにもできると考えています。

増村 研究報告と言われて、今「なるほど」と思いました。私もそれぞれの取材先に立ち会わせていただきましたが、桜井さんは、そのビジネスがどんな背景で生まれたか、そこにどのような想いがあるかだけではなく、哲学や創意工夫をどんな仕組みに落とし込んでいるかを紐解くような、そんな聞き方をされていると思っていたんです。つまり、リサーチだったわけですね。

桜井さん どうしても「何がそれを可能にしたのか」ということを聞き出さないと、誰かの能力の話で終わってしまう。それはそれで個性として大事な側面でもありますが、やはり希望を残すことを大事にしたいんです。それぞれの哲学がどうして生まれ、哲学をどのようにかたちにしたのか。これはどのインタビューでも聞きたかったこだわりですね。

Community Based Economyとは、ひとつの正解があるようなものではないと思うんです。なんらかの正解の形に自分から合わせにいく社会は苦しいものですし、そうすると、権威のようなものも生まれやすくなってしまう。そうではなく、ビジネスや経済がこの先どう「なれる」のかを議論できたら、それはみんなにとって平等な議論だと考えています。

増村 タイトルの「経済」に、「美しい」という形容詞を当てたのも、同じ思いがありましたよね。

桜井さん 良いか悪いか、と善悪を問うものにはしたくなかったんですよね。真善美のなかでも「美」だけは比較的、個人の感性で決められるものだと思うんです。ある程度は共同体で規定されたとしても、僕が美しいと感じるものを誰かが否定することはできない、それはあまり意味がないことです。しかしその美しさを誰かと共有することができたら、それはそれで嬉しいことでもある。だから、どういう働き方や経済を美しいと思うのかは、いろんな人が考えて良いはずだと思っています。

増村 本書ではそれらを、三章で構成しましたよね。第一章では、美しい経済をつくっている実践者の皆さん。二章が少し特徴的で、美しい経済を感じるための補助線になっている。この二章を読むことで、読み手が自分なりの美しい経済を考えやすくなりますよね。そして第三章では、アイデアとなる美しい経済のつくり手たちが紹介されていて、それぞれの土地や場を追体験できるようになっている。全体として、旅する感覚が意識されているわけですが、読む人にはやはり前から順番に読んで欲しいですか?

桜井さん 好きな人とか気になる人の話から読むのも良いでしょうし、いろんな読み方ができると思います。創刊号と2号目の読後感が違うものになっているのも面白い、とよく言われます。それは、創刊からの一年間で世界が変化していて、社会的にもCommunity basedな経営への信頼というか、確信のようなものが強くなり、より伝わる感覚が増していて、取材対象者の皆さんも選ぶ言葉が変わったからだと思います。

いずれにしてもおすすめしたいことは、全体を読むこと。それによって感じることが変わってくるはずです。読み終わった時に、各地を訪ねたくなってくれたら良いですね。

また、この本をコミュニティ間の議論に使ってもらえたら嬉しいです。各地で手にしてくださった皆さんの声がけで読書会も広まっていますし、一緒にできることがあれば相談も大歓迎です。自分たちの、その周りを発見するような活用をしてもらえたら嬉しいです。

(対談ここまで)

– INFORMATION –

書籍『Community Based Economy Journal − 美しい経済の風景をめぐる旅の記録 −』はこちらのオンラインストア、もしくは各地のお取り扱い拠点で購入可能。

(撮影:廣川慶明)
(編集:増村江利子)