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ミニマリズム×パーマカルチャーで、幸せを確かめながらコミュニティで生き延びる(後編) 『超ミニマル・ライフ』著者・四角大輔さん×鈴木菜央対談

greenz.jp前編集長の鈴木菜央と、作家で森の生活者(兼 Greenpeace Japan・Fairtrade Japan・環境省アンバサダー)の四角大輔(よすみ・だいすけ)さんのトークイベントから振り返る「いかしあうつながり」。

前編ではお互いの幸せの確認のしかた、パーマカルチャーとコミュニティの掛け合わせ、持続可能なハンモックパーマカルチャーの話題で盛り上がりました。後編では、そのハンモックパーマカルチャーへ近づくプロセス、それぞれの幸せの確かめ方、「いかしあうつながり」を体現するコミュニティコーチングにまで踏み込んで語っていきます。

※本記事は、2022年10月6日に開催されたトークライブイベント、「四角大輔さん × 鈴木菜央 ミニマリズムはサステナブル? 〜新しい働き方とパーマカルチャーについて」の講演内容をもとに、記事化しました。

四角大輔(よすみ・だいすけ)
レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録した後、ニュージーランドに移住。湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない働き方を構築。第一子誕生を受けてミニマルライフをさらに極め、週3日・午前中だけ働く、育児のための超時短ワークスタイルを実践中。ポスト資本主義的な人生をデザインする学校〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。

ハンモックに近づくプロセスを楽しむ

四角大輔さん(以下四角さん) 今まで話してきたように(前編参照)、「最小労力、最短時間、最小限の負担」を常に目指すミニマルライフは、ハンモックパーマカルチャーの考えかたに相通じると感じますね。

鈴木菜央(以下菜央) そうなんだよね。でも、暮らしをハンモックふうにデザインする時に、いきなりハンモックにごろっと寝ることはできないよね。だから僕の場合、自分の仕事も含めた暮らし全部を、俯瞰しようと試みるわけ。

つまりちょっと時間がある時に、いろいろ書き出してみて、自分に問いかけるわけね。今の生活や、仕事のやり方って、どこに手を入れたら、もう一歩ハッピーになれるかなって。例えば、今月はPC内のデータがごちゃごちゃになって溜まっているから、データを整理してみようとか、もうそうならないような仕組みを導入しようとかっていう感じで、1個ずつやってくのね。

四角さん いいですね。

菜央 それがハンモックに近づいていく旅って感じで、超楽しいのね。あと仲間に助けてもらいながら、例えば仕事を減らしたいんだけど、どこを減らせると思う? って聞いてみたりとか。そういう相談をしていると、いつの間にかそういう風な話に現実的になってきて、他の人から「じゃあ、このプロジェクトは止めたら?」と言われたりするようになるんだよね。

だから、僕も別にハンモックで暮らしてるわけじゃないんだけど、ハンモックを目指していくプロセスは、1個1個がすごく楽しいんだよね。逆にゴール思考だと、ゴールするまでの間がずっとそれの”劣化版”にすぎなくなっちゃって、 ゴールしたと思った途端、一瞬ドーパミンが出るだけで、そこで終わりなんですよ。だからハンモックを目指すには、ゴール志向じゃなくてプロセス志向の方がいいと思うんだよね。

四角さん まさに、プロセス思考って、パーマカルチャーの本質ですよね。

菜央 そう。それは「今、幸せになるってこと」だからね。

四角さん つまり、山頂に立つことが全てではなくて、山頂に向かって歩いてる間も、下山時も楽しむべきということですよね。

僕は、僕は本(※)も出すほど「バックパッキング登山」が大好きで。この登山スタイルでは、最初の山を登った後、そのまま何日もかけていくつもの山を越えて一つの山脈を歩き続けます。一方、一般的的な「ピークハンティング登山」では、1つの山を登って「よし成功!」と大喜びし、その後は「面倒だな」と思いながら下山する感じで、あんまり好きじゃない。

ピークハンティング思考では、ひたすら上だけを目指し、到達したら終わり。多くがこで燃え尽きてしまう。ひたすら世界一を目指すオリンピック選手なんかがそう。「なにがなんで金メダル」って全てを犠牲にしてボロボロになって、なんとかメダルを取ったものの、次に何を目指すべきかわからずバーンアウト、何もやる気が出なくなってしまう。上限がある「上」を目指すより、ずっと続く「奥」を目指そうっていうのも、ミニマルライフの思想なんです。

(※)『バックパッキング登山入門』、『バックパッキング登山紀行』(エイ出版社)

菜央 そうだね。

四角さん あと、ハンモックっていうスタイルに行きつくのにも、それなりの努力も必要じゃないですか。畑で言うと「これをここに植えたほうが後々楽になる」と分かるまで、それなりの手間と時間がかかる。それはある意味、山頂に向かう途中で。

ハンモックって言われると、最初からずっとハンモックに寝てるイメージですけど、違いますよね。ハンモック状態を確立するためには創意工夫と労力が必要だし、そのプロセス含めてハンモックなんだなって。

菜央 その途中のプロセスも認めて楽しむ。

四角さん でも、資本主義にどっぷり漬かっている人たちは、目標に到達してもハンモックしない(笑)。「もっともっと」と、さらなる “上”を目指しちゃう。そして、資本主義どっぷりの日本人に僕はこう言いたい。「高さはもうここで充分じゃない? ここから先は“上”じゃなく、この景色を味わいながら山脈の“奥”を目指してゆっくり歩き続けようよ」って。

菜央 なるほどね。目指すところの次元が違う。

四角さん ちなみに、尊敬している独立研究家の山口周さんは、著書『ビジネスの未来〜エコノミーにヒューマニティを取り戻す』で、それを“高原”って表現している。

日本の現状は、「景気後退」や「成長後の下山状態」だって言われているけど、そんなことない。みんなでがんばってここまで登ってきたんだから、存在しない「さらなる上」を目指して苦しむのではなく、「我々は気持ちのいい高原にいるんだから、このまま幸福な高原社会を歩き続けよう」って。

登山をする四角さん(『超ミニマル・ライフ』より)

四角さん これは、ハンモック理論とほぼ同じだと思ってて。ミニマル主義的に解釈すると、「ハンモックに乗れて人は、もういいんじゃない?さらに上を目指すという無駄な努力はやめて、労力と時間を、自分が本当に好きなこと、やりたいことのために使おうよ。ハンモックに乗れてない仲間がコミュニティにいるなら、彼らのために使おうよ」って解釈してます。

自分の心に問いかける時間を持つ

菜央 あとは、本を読んだ時はそうだよねって思うんだけど、そのメンタルをどういう風に維持したらいいのかっていうのは、多くの人にとって課題という気がして。仕事で忙しい日常を送っていると、自分の暮らしを振り返って、幸せになる方向を何度も繰り返し探していく思考回路は保ちづらいというか。

常に我々は上を目指すべきだ、大人というものはとにかく毎日がんばって働くもんだ、全てはお金で手に入れるしかないのだから、できるだけお金はたくさん手に入れるべきだとか。日常生活を送っているとそういった違う方向にチューニングされてしまう人も普通に多い気がする。

大輔さんはどうなの? チューニングされちゃう感覚ってある?

四角さん 僕みたいな変わり者でも、よくない方向にチューニングされそうになることってありますね。 でもね、この記事の前編で話した小学生の時に気づいた「今、生きてて何に一番感動するか」っていう価値基準は、人生の羅針盤となり、その後も僕を救い続けたんですよね。

菜央 それだけ深い気づきだったんだね。

四角さん ですね。あと僕は、講演をやる時によく 「今、生きてて一番楽しいこと、好きなこと、心地いいってことってなんですか」ってよく問うんですが、答えられない人が多いことに驚きます。

結局多くの人は、忙しい日々のなかで「自分の心に問いかける時間」が持てないんですよ。孤独っていうとネガティブに聞こえますが、そのためには”孤独な時間”が絶対必要です。SNSやLINEなどのチャットが諸悪の根源だと思うんですけど、大人数と常時つながりすぎてる。それは、パーマカルチャーで言う「本当のつながり」ではなくて、バーチャルなつながりです。

自宅の野外ワークスペースでの四角さん

四角さん 僕はひとつの方法として、自然の中に入っていくとか、自然を感じることが大切だと思います。都会にいると無理だって思うかもしれないけど、実はね、どこにいても即アクセスできる大自然があるんですよ。何か分かりますか?

菜央 自分?

四角さん 確かに、自分も大自然の一部ですね。僕が推奨するのは、空です。常に僕らの上には大空という大自然がある。新宿のビル街だろうが、ニューヨークの摩天楼だろうが、ちょっと外に出て上を見たら絶対に空が見える。

例えば1日1分でいい。昼休みとか。1分でいいから空を見上げて雲を探し、雲の動きをじっと見てるだけで誰でもマインドフルネス状態になれます。都会で、1分間空を見上げている人がどれだけいるかって、ほとんどいない。常にタスクに追われ、SNSで他人の動向を見ては、 チャットで通知がきて即レスしてたら、空を見上げる余裕なんて持てない。

けれど、その空を見上げる一分間で瞑想ができるんですよ。その状態で「自分は本当は何が一番幸せなんだろうか」って問う。「何が一番楽しいか、心地いいか、感動するか」問いかけてみてほしい。「グッチの鞄を買った瞬間?」、違うやろって多分気づくんですよ、「フェラーリ?」違うやろってね(笑)。フェラーリ買うために死ぬほど働くって、それで本当に幸せになれるかなって。

自分のニーズに耳を傾け、毎日幸せを確かめる

菜央 自分に問いかける時間は、本当に大切だよね。で、なんかね、このカード。いきなり出てきて訳わかんないって思うんだけども(以下の写真参照)。僕、パーマカルチャーを実践する時に、カードがあるとすごくやりやすいなと思って、カード作ったの。「いかしあうつながりデザインカード」。

いかしあうつながりデザインカード。持続可能な環境を作り出すためのデザイン体系である「パーマカルチャー」や、共感をベースとしたコミュニケーションの方法論「NVC(非暴力コミュニケーション)」など、さまざまな智慧をヒントにしながらつくられた


四角さん これ、めちゃめちゃいいですね。

菜央 カードのなかにね、ニーズカードっていうのがあるんだけど。ニーズっていうのは、みんなが持ってる人間の根源的な求めなのね。例えば「安全」とかね、「生み出すこと」「祝福」「嘆き」「極楽」「遊び」「理解」「繋がり」「思いやり」「癒し」「気楽さ」「休息」「自由」…などなど。

40ぐらいのニーズを、10枚にまとめて、それを見ながら考えられるようになってるの。実は幸福っていうのは、ニーズが満たされているっていうふうに捉えられるんだよね。

四角さん 確かに確かに。

菜央 人にはいろんなニーズがあって、実は瞬間だけで切り取っても、僕の観察によると、常にたくさん、たとえば20ぐらいのニーズがあるんだ。例えばこの瞬間の僕だったら、水が飲みたいから「生命」みたいなニーズもあるし。あと僕は今、「創造性」のニーズがめちゃめちゃ満たされてる。あと「つながり」。大輔さんと繋がりたかった。あとは、みんなと分かち合いたいという気持ちとか。

四角さん 僕もです。そうか、そういう感じか。

菜央 だから僕は今、全体的にすごいハッピーなの。それは多様なニーズが満たされてるから。だから、ニーズから自分の幸せを探るっていうのも、とてもいいんじゃないかって。僕は朝、「ニーズ瞑想」っていうのをやってるんです。僕はもうニーズの言葉が頭に入ってるから、自分に問いかけるの。「僕は今日、どんなニーズを満たしたらハッピーかな? 」って。

菜央 そうすると例えば、疲れが溜まってるから休息のニーズを満たしたいな、とかが出てくる。休息のニーズOK! じゃあ今日は仕事を4時に切り上げよう、お風呂入れて、ゆっくりしようとか。最近仲のいい友達とつながっていないから、つながりたいな。じゃあ、電話しよう、みたいな。そういう自分のニーズから考えてく。満たしたいニーズをノートに書き出して、それぞれに対してアクションをしてあげると、体がめっちゃ喜ぶんだよね

四角さん それ、いいですね。

菜央 そういうふうにして、幸せっていうのを毎日確かめる。そしてそれを毎日続けていると、今まで出てこなかった声が聞こえてくるわけよ。このニーズ瞑想をやりはじめた頃は、全然声が聞こえてこなくて。それは多分僕がその声を無視し続けたからなんだよね。

だから本当は休息が欲しいって言ってたのに、休息を何年もあげなかった。その結果、僕は鬱みたいになったり、腰を痛めてしまって、半年ぐらい荷物を全く持てなくなっちゃって。歩く時もスーツケース使って、杖代わりにしながら歩いてたり。

四角さん え…そうだったんですか…。

菜央 逆に言うと声を聞くっていうことがそれくらい価値があることなんだよね。声をどんどん聞いてあげることで、自分の中の声がもっと聞こえてきて、そうすると大輔さんが小学校の時に自分の気持ちいいことを見つけけた時みたいに、「俺、これがやりたかったんだ!」みたいな、奥底に眠っている本音の声が湧き上がってくる

自分で押さえつけてたけど、実は絵が描きたかったんだ、 自分でスポーツ嫌いだと思ってたけど、実はめっちゃ体動かしたかったんだ、とかね。

四角さん いわゆる古い思い込みですよね。

菜央 そう。思い込みを外すために何回も自分に聞く。そうするとめちゃくちゃ効くんだよね。

ディープニーズを満たさない限り人は幸せになれない

四角さん 今菜央さんが話した、自分の中に眠っている本当のニーズみたいなものを以前僕が言語化しようとしたとき、心理学を勉強していた友達に、「それ、ディープニーズって言うんだよ」って教わって。

これは日本語で言うと、本当の心の声とか、内なる声みたいな感じなんですけど、ディープニーズを満たさない限り人は幸せになれないって言うんです。頭の中に、大量の外部情報や間違った思い込みなどのノイズが入りすぎると、ディープニーズが聞こえなくなっちゃう。

菜央 僕、グリーンズをなんとか軌道にのせようと思って、めっちゃがんばっていた時期が5、6年続いた時にね、ついにブレイクダウンしちゃって、鬱になっちゃったの。

病気になる前は、新しいことをテーマにして仕事をして世のなかの役に立っている自分をアイデンティティのように思っていたんだけど、鬱になり、新しい映画も観ないし、本も読まないし、何もできない。インプットがないからアウトプットが何もない。本当に僕は役立たずだと思ってた。何年かはもう何も提供するものはないっていう悲しさに陥ってた。

四角さん それはつらい時期でしたね。知らなかったです…。

菜央 もう全然表に出られなくなっちゃって、2年ぐらい引きこもり生活をしてたのね。そこからどうやって抜け出そうかとめっちゃ苦しくてもがいて。友達に誘ってもらったリトリート(※)に行ったのね。

その時に、 ディープチェックインをする機会があって。当時の僕は、あんまりそういうことを深めてなかったせいか自分の中に全然声が聞こえなかったの。すると、「その、声が聞こえないってどんな感じ?」って向かいにいた女性に質問されて、僕は「暗闇の奥のほうで膝を抱えて座ってる自分がいる」って言ったの。そしたら、初めてそこで会ったその女性が、「私は今、膝を抱えて座ってるあなたのところに行って、ぎゅって抱きしめたよ」って言ったの。それで僕は、その場で号泣した。

(※)仕事や生活から離れた場所で自分と向き合い、心と身体をリラックスさせるためにゆったりと時間を過ごす新しい旅のスタイル。

四角さん 俺も涙出てきた。

菜央 それが僕が鬱から抜け出すきっかけになった。それまですっごい苦しかったんだけど、その人にそれを言われて、僕は本当に何がやりたいんだ、これからの人生で追いかけていきたいものはなんだろうって考えたときに、答えがパーマカルチャーだったのね。

四角さん そこでパーマカルチャーに出会った。

菜央 いや、もともと知ってはいて、心の奥底でずっとやりたいと思ってたけど、今はそれができないっていうふうに自分で蓋をしていた。それでもう一回学ぼうって思ったの。10年ぐらい前かな。だから、自分が本当にやりたいことを自分に問いかけて、その声を聞くというのは、とんでもなく価値があることなんだよね

自分のなかの彫刻を削り出す

四角さん そうですね。話を聞いてて、ディープニーズに気づくことって、「自分のなかに眠る彫刻作品をそのまま削りだす」って表現もできると思うんです。実は『超ミニマル主義』(と『超ミニマル・ライフ』)は、別名「彫刻本」って呼んでるんですけど。

現代アートのカリスマ、ヨーゼフ・ボイスは「人は誰もが彫刻家だ」という社会彫刻という概念を提唱したんです。「社会という彫刻作品を作る活動に誰もが参加できる、すべきだ」という考え方です。

まさにソーシャルデザインですよね、市民全員で社会を彫刻(デザイン)するという。僕がずっと発信してきた「人は誰もがアーティスト」は、彼の思想に近いですが、社会彫刻より個人彫刻に特化しています。僕らは「自分の中に完成形として存在する彫刻作品を、そのままの形で削り出すために生まれてきた」と。

菜央 なるほど、それで彫刻。

四角さん そうなんですよ。僕がレコード会社でプロデューサーをしてた頃、アーティストと仕事をはじめる時に伝えてた言葉があります。ヒットメーカーと呼ばれていた僕に、新人アーティストは「この人は答えや方程式を持っていて、任せれば自動的にブレイクさせてくれるだろう」と、つい期待を寄せてしまう。

「僕は何も答えも持ってない。答えは、あなたのなかにあるんです」と。つまり、あなたのなかに彫刻作品が眠っていて、「まだ自分で削り出せてないその彫刻作品を、一緒に見つけ出して削り出すお手伝いをします」と。「僕にはその完成済みの彫刻作品が見えるから、それだけは安心してください」と話してたんです。

四角さん で、その削り出しに成功したら、唯一無二のものすごいエネルギーを放ち始めます。それは歌だったり、パフォーマンスだったり、言葉だったり、メロディーだったり、動きだったり、あらゆる形で世の中に放たれて、たくさんの人の心を動かし、誰かを幸せにし、世の中に大きな影響を与えていくわけです。

ちなみに僕は人と対峙する時に、「あ、この人削り出しできてないな」というのが怖いぐらい分かってしまう能力があって。この人は本当はこうじゃないはずなんだろうなって。そして「削り出したい!ああ、もったいない!」って思っちゃう。

だから記事の前編の冒頭で、僕らは幸せになるために生まれてきたって話題を菜央さんがしてくれたけど、言い換えれば、僕らは自分の中に眠ってる彫刻作品を削り出すために生まれてきたんだ、と。「自分彫刻」を終わらせて「ディープニーズ」に目覚めない限り、人は幸せになれないじゃないでしょうか。それを終えずに人生を終えてしまうなんて、本当にもったいない。

僕はたまたま幼少期に辛い時期があって、あの頃から早々に自分の削り出しをはじめて、途中でくじけながらも、ニュージーランドに移住した40代でやっと削り出しが終わった感覚なんですよ。一方で菜央さんは大人になってからそういう辛い思いがあって…

菜央 なるほど、僕はその削り出しができた、と?

四角さん そう。でね、実はこの『超ミニマル主義』は僕のプロデュース本なんです。この本を読んで、財布の軽量化から始まって、70のメソッドを1個1個やってくと、自分という彫刻作品の削り出しが進んでいくんです(そして四角さんいわく、続編の『超ミニマル・ライフ』を読めば「自分彫刻」は自動的に完成するという)。

菜央 なるほど、いろんな方向から自分を削っていくための1つひとつのやりかた。

四角さん はい。僕はニュージーランドには14年住んで、世界中を視察してきましたが、ニュージーランドの人たちって、削り出せてる人が多いと感じています。それはきっと若い国ゆえに、守るべき古い伝統や古い常識がないからだなと。社会がリベラルかつスローなので、保守的な日本にある否定から入る文化や同調圧力、制約や競争も少ない。だからか、社会全体が自由な風潮で、比較意識や足の引っ張り合いが少なく感じます。

結果、お互いの個性を尊重し合って「それぞれの彫刻作品を削り合う」っていう風潮が育っている気がするんです。

日本もお互いをそうやって「活かし合う」という文化が、昔は絶対あったはずなのに、なくなってきてる。『超ミニマル主義』(と『超ミニマル・ライフ』)は、「まずは自分自身の彫刻作品を削り出してほしい」っていう思いで書いた。今日話していて、もっと違う方法論があるな、と気付きました。もっと有機的な、パーマカルチャー的な方法に期待を感じてきています。

答えを見つける手伝いは誰でもできる

菜央 1個思ったのが、僕は地元で、ローカル起業部っていう活動やってるんですね。さっきコミュニティで起業すると孤独じゃない(前編参照)っていったけど、まさにそれは、“コミュニティ起業部”とも言える。

千葉のいすみ市って、小商いとか、小さい商売をやってる人たちがいっぱいいる。例えばパティシエを東京でやったんだけど、すごいブラックな環境で潰されちゃって、それで沈んだ時期を過ごして、やっぱり私はケーキやスイーツが好きって言って、ここいすみで起業した方がいたり。また、田んぼのなかでおにぎり屋さんやってたりとかね、いろんな人がいるんですよ。

そういう人たちにとって、やっぱり起業って孤独なんだよね。また東京と違って、起業をする時に、起業と生活がひとつのものになるわけ。それなりに悩みがいろいろある。それをお互いに“コミュニティコーチング”やろうよって言って、何年も前から取り組んでいるの。

四角さん コミュニティーコーチングっていいな。削りあいじゃないですか。

菜央 まさにそう。で、何をやるかっていうと、●●さんは、どういうふうになりたいの? 何したいの? って聞く。質問はそれだけ。そうすると、いや今、これ悩んでるんだけど、本当はこうしたいんだよね、とか話し合える。

じゃあそれどうやったらできる? うん、こうかな。それいつできる? うーん、じゃあこれくらいかな、って。事あるごとにその起業部に話を持ち込んで、そうするうちに商店街でお店を出した人とか何人かいるんだ。

いすみローカル起業部。起業を目指している、あるいは起業に興味がある人が集まり、講座、ワークショップ、メンタリングなどを通じてそれぞれらしい起業を目指す大人の部活動 (写真:ローカル起業部より)

四角さん そうやってアドバイスもらえたり、スキルを提供されたり、人を紹介されたりすると、孤独じゃなくなりますよね。

菜央 そうなのよね。あとさっき大輔さんが言ってた、僕の中には答えは何もないって言うのは、裏を返せば答えを見つける手伝いは誰でもできるってこと

だから、見つけるコツさえあれば、誰でも彫刻はできるんだよね。自分を彫刻することもできるし、家族や仲間うちで本当の素敵な側面を見つける手伝いもできる。それが希望じゃない? だから僕はそうありたいしね。それだと周りがみんなハッピーになるよね。

そこでも、まずディープチェックインするの。5人ぐらいでやるんだけど。本当に一瞬自分とつながってみようって言って、 自分の声をその場に出す。今膝が痛いんだよねとか、子供のこと気になってんだよね、とかっていうことを出す。で、その後でさっきの定型の質問をする。

四角さん なるほど。たまたま僕に「削りだせてない人を見抜く能力」があったから、僕はその個人的な能力に頼りすぎてたんですよね。この能力を周りにシェアしなきゃ、僕自身が削り出しに貢献したいって思いが強すぎたな、と。

でもやっぱり、どんな高い能力があろうと、1人でやれることには限界がある。でも、グループでやる、コミュニティでやるっていう方が、もっといいと思いました。効果をより楽に最大化できますから。

菜央 みんな神じゃないからね。

誰かに依存しない。何かひとつに依存しない

四角さん あと、もうひとつの理由として、1人でやると、「オーバープロデュース」つまりプロデュースしすぎるリスクが付きまとう。例えばアーティストの削り出しをする時に、プロデューサーはソウルミュージックが好き、アーティストはロックが好きとする。「 いや、もっといい音楽あるよ。ソウルミュージックやらない?」と個人的な好みを押し付けてしまう。これ、完全にオーバープロデュースなんですよ。

でも多くの人が、ついやっちゃう。正確な削り出しができるプロデューサーの絶対条件は2つあって。1つは、心から”愛していること”。これは恋愛じゃなくて人間愛。2つ目は、心から“理解していること”です。先生や親に「お前のこと思って言ってる」って何かを押し付けられたこと、誰もががあるでしょう。この言葉に“愛”はあるけど“理解”がないことが多々ある。

菜央 「お前のこと思ってんだから、ソウルミュージックやれ」と。

四角さん そう。絶対条件2つ目の”理解すること”こそが重要なんです。そして、理解するって難しくて、実は愛する方が簡単。相手を理解することは本当に難しい。

菜央 聞くってことだね。

四角さん その姿勢が最も大切ですよね。下手なコーチに出会って、潰れる人ってけっこういる。本来コーチングって、「愛と理解」が最低条件なんだけど、両方を兼ね備えている人は少ない。だから、1人でやるより、 グループやコミュニティでやる方が間違いが少なくなる。これはいいですね。

菜央 いいよね。だから、僕らが持続可能な暮らしかたを考える時のスキルセットのなかに、コミュニティコーチングとか、そういうのをもう少し探求してみてもいいかもしれないな。

四角さん 僕が探し求めてた答えが見つかったな。これこそがパーマカルチャーの真髄かもしれないですね。

菜央 ね。コミュニティコーチングは、最初は僕が主催するコミュニティコーチィングに来てもらうんだけど、3回ぐらい参加したら、どういう順番で何を聞くかの段取りが分かるから、次回からその人が主催してもらう。

四角さん えー!めちゃめちゃ有機的で持続可能。そして、まさにハンモック。

菜央 自分としては、ちょっと庭をいじるみたいな感じ。そして、庭をこうちょっと手を入れただけで、いきなりめちゃくちゃおもしろくなる。いかに自分の力をちょぴっとだけ使って、いかに自分の生活圏を作るか。

それによって地域が豊かになることからの恩恵が計り知れないの。だってお店がおもしろい店が増えるし、おもしろい友達が増えるし、なんか分かんないけど感謝されちゃったりとかして。別にたいしたことやってないけど、それでメディアから注目されたりして、また移住者が増えて、それも嬉しい、みたいな。

四角さん いい循環ですね。そしてパーマカルチャー的!

菜央 そうそう、これですよ。(ニーズカードを取り出して)これね、「再生可能な資源を生かす(Using Biological Resources)」ってカード。あらゆる生き物の力を活かすって意味。だから人間もそうだし、虫とか鳥とか、そういう自然を活かすっていうものも含めて、そういうあらゆる流れを合気道していくっていう感じ。

四角さん パーマカルチャーって多様性が必須で、だからこそお互いを活かし合える。一人だけがコーチイングをやると、やっぱりその人に依存せざるを得ない上にリスクが高い。
でもみんなでやり合うと、リスクは減らせるし、誰か1人に負担がいかないから、まさにパーマカルチャー的ですよね。誰かに依存しない、何かひとつに依存しない

菜央 それがレジリエンス(※)にも繋がるんだよね。それになんか楽しい。さっきのそれぞれがスキルを持っている大輔さんのニュージーランドの仲間たちも、息子とか娘とか、周りに教えることに喜びを感じるでしょ。全然教えるよ! みたいな。そうやってできる人が増えていけば、例えばその人が怪我したとしても、地域全体としてはスキルが広がっているのだから、ハッピーでいられる。

(※)精神的回復力、しなやかさ。

四角さん まさに僕も釣りを教えてほしい、って言われて。教えはじめたら、釣りが得意な人が増えてきて。なんなら、僕に魚を持ってきてくれる人が出てきたり(笑)。

菜央 すばらしい。それですよ。そういえば僕ら、 「いかしあうデザインカレッジ」(2023年4月に「いかしあうデザインビレッジ」へと進化)っていう学びの場で、実際にオンラインでお互いから学び合う、まさにコミュニティーコチングみたいなこともやっているの。

四角さん それいいな、菜央さんのコミュニティは素晴らしいな。うちのコミュニティ「LifestyleDesign.Camp」から何人か送りこんでいいですか。 菜央さんところ行ってこい! って(笑)。そして、ぼくらも菜央さんとこのメンバーは喜んで受け入れますよー!

菜央 交換留学制度ね。いかしあうデザインカレッジのメンバー、ぜひこの本読んで!

四角さん ぜひ。願いと祈りを込めて書いた僕の魂の 一冊なので。今日は本当にありがとうございました。

菜央 今後、交流もどんどんしたいよね。こちらこそありがとうございました。

(編集: 青木朋子)