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私たちがつくれるのは家庭料理だけ? そんなはずがない! 美食業界の美しくない不平等を訴える「UNCOMFORTABLE FOOD」

行ってみたい場所へオンライン旅行をする。
授業や会議に遠隔で出席する。
デジタル技術の革新で、わざわざ足を運ばなくてもできることが増えました。

しかし、「食」はどうでしょう? オンラインで予約したり注文するサービスはありますが、地方や海外の名店の料理や、おふくろの味をできたてで食べることは難しい。そんな自分がその場に行かなくてはいけない「アナログ感」に、私はフードカルチャーの面白さを感じています。

世界各地に先鋭的な美食があり、あこがれを抱く一方で、レストラン業界には美しくない現実も。それは性による機会の不平等です。調理師になる女性が多い一方で、毎年出版されるレストランガイドに記載されているのは、圧倒的に男性の名前ばかり。多種多様な美食文化と価値が、世界中のレストランで紹介されている今と逆行しているようです。

この不平等に声をあげたのが、ブラジルの才能あふれる女性シェフたち。単に反対の声を発信するのでなく、彼女たちのクリエイティビティでこの問題を「味わってもらう」キャンペーンを始めました。


via ©Stella Artois

ブラジルでは、96%以上の家庭で女性が炊事を担う一方、国内で高い評価を受けたレストランにおける女性シェフの割合はたったの7%。その背景には、依然、国内に根深く残る性差別意識があるのだそう。

たとえば2014年、当時の大統領、Jair Bolsonaro(ジャイール・ボルソナーロ)が「妊娠で仕事を離れるのだから、女性は男性より高い賃金を得るべきではない」と発言。物議を醸す一方で、国のリーダーによる公な不適切発言は、ブラジルにおける女性の社会進出に悪影響を与えたのは言うまでもありません。

女性がつくれるのは家庭料理だけなのか。
評価と地位のある料理は男性だけがつくるものなのか。
きっと、絶対にそうじゃない。
私たちがより活躍し、的確な評価を得る社会をつくりたい。

ブラジルで女性シェフとして活躍する100名以上が立ち上がり、国内で人気の「ステラ・アルトワ」ビールとタッグを組みました。そうして始まったプロジェクトの名は「Uncomfortable Food」。家庭料理を意味する「Comfort Food」を否定形にしたもので、業界を独占してきた男性には気まずく感じる名前かもしれません。


via ©Stella Artois


via ©Stella Artois

女性シェフたちが不平等の実態「Uncomfortable(感じる違和感)」を根拠に社会を変えていこうと発信するよりも、私たち自身で「Uncomfortable(家庭料理を超えた)」な料理をつくり、そこにメッセージを込めることに決めます。

選ぶ食材、ソース、色彩、香り。
さまざまな側面で、女性の感性の素晴らしさや発想力の豊かさをアピールしました。

こちらは、ザリガニをつかった料理「Lagostim Da Prosperidade(ザリガニたちの繁栄)」。シェフのふたり曰く「女性の細やかな下ごしらえにより、さらに輝く」のがザリガニだといいます。そんな手間がかかる素材を活用することで「私たちのテクニックが評価されないのはなぜ?」と訴えるのです。


via ©Stella Artois

こちらはデザート「Mousse Quebrando Barreiras(バリアを打ち破るムース)」。食感や色彩など、いくつもの層によって形をなしている逸品です。美食(ガストロノミー)の世界にいざなう一方、既存の男性中心の枠組みへのバリアを壊したいという気持ちを込めた料理名に目が引きます。


via ©Stella Artois

ちなみに他にも多くの料理が公開され、食事会も開催。その様子を拡散するためのInstagramフィルターも準備され、9,000万人以上の人びとに彼女たちの才能が紹介されました。これらの取り組みがきっかけとなり、参加した女性シェフたちのレストランへの予約が平均して42%も増加したといいます。

そして冒頭に書いた通り、その場に足を運ばないと、新鮮かつできたての料理にありつけないというアナログ感がフードカルチャーの面白いところ。個性的な名前や随所にあるこだわりと皮肉がこもったメッセージ。私たちもブラジルに行ってみたくなりますね。


via ©Stella Artois

#MeToo以降、世界中でジェンダーの不平等を訴える声が上がっています。その声はときに批判の応酬を招き、対立を深めてしまうことも。

多くの人にフラットに社会の不合理を理解してもらう入り口として、グルメという多くの人の関心ごとをフックにする。
そして、何気なく見てみたらもっと知りたくなるような深みでコンテンツをつくり込む。

いちど覚えた味は忘れられないものですが、味覚とともに得られる気づきも、人の心に残り続けるのではないでしょうか。

(編集: 丸原孝紀、greenz challengers community)
(Text: スズキコウタ、丸原孝紀)

[via juliacailas, vimeo]