「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」

greenz people ロゴ

食い食われる関係性。坂田昌子さんと森を歩き足元から学ぶ、生物多様性が本当に大切な理由

生き物の視点を
取り入れたい

あの日以来、ほんの数十メートルをうまく歩けない時が増えた。

千葉県山武(さんむ)市、日向(ひゅうが)の森。江戸時代から建材として重宝された山武杉(さんぶすぎ)の産地は、現在、約46ヘクタールという広大な市有林になっている。戦後の拡大造林によって植林はされたものの、手入れが滞り、結果として近年の台風や大雨のたびに倒木が増えるなど、荒れた状態にあった。

栗原幸利(くりはら・ゆきとし)さんは、この森の魅力を見出した一人だ。ロープを使って高い木に登り、剪定などの樹木メンテナンスを行う空師(そらし)の仕事のかたわらで、この森の再生に取り組んでいる。空師とは、まだ高い建物がなかった時代に、もっとも空に近い場所ではたらく仕事人のこと。歴史と自然への敬意が内包されたすてきな職名は、森の管理人にぴったりだ。

栗原さん 以前からこの森を工業団地にするという話も出ているんですが、この環境を大きく壊す選択は、少なくとも、今はしてはいけないと僕は感じています。「ヤケマルタトオノ」というお祭りや「森林整美」など多様なアプローチを通して、僕らの目に映っているこの土地の豊かさや、この森のままであることの価値を伝えてきました。

来年には市内の小中学校向けの環境教育プログラムがはじまろうとしてます。地域との関係性に奥行きが増し、活動7年目にして、これまで重ねてきたことの成果を実感しつつあります。

森のつくりなおしを行う、NPO法人CHARCOAL&AXEの代表理事を務め、同じく空師の佐瀬響さんとのユニット「WO-un(ヲ・ウン)」としても活動する栗原さん。希望者が主体的に参加できる「森林整美」を毎月開催している

栗原さんたちの手入れにより、放置されていた森が少しずつ快適な場に変化した。ほどよく草が残され、季節の草花がのびのびとした姿を見せる。畑として広げられた場所や、ある程度の人数が集まれる広場、ステージ、コンポストトイレ。どこも全て、この森にあるものを材料にしてできている。

人と自然の関係の再構築をテーマに活動している一般社団法人Ecological Memesの小林泰紘(こばやし・やすひろ)さんは、度々この森を訪れ、栗原さんたちと共にフィールドワークを重ねたり、リジェネラティブ・リーダーシップのプログラムなどを開催してきた。日向の森のことは、「貴重な場所」だと感じているという。

小林さん 手付かずの原生林でもなく、人が資源として管理する森でもない。WO-unさんらが少しずつ手を入れ、一度は途絶えてしまった森と人のあいだをひらき、関係を撚(よ)りなおしてきた場所なんです。こういう場所はあまりないと思います。

一般社団法人Ecological Memes共同代表の小林さん。各地で畑や里山などのフィールドに関わる他、「リジェネラティブ・リーダーシップ」を伝えるプログラムの運営や翻訳など、多様な活動スタイルを実践する

小林さん ここの生態系と呼応しながら、みんなで森に手を入れたり、谷津(※)の再生に取り組んでいくために、生き物の目線での森との付き合いの仕方、この土地の植生や土中環境に応じた手の入れ方を学ぶ場をつくりたいと思いました。そこで、生物多様性をテーマに坂田昌子さんをお招きして、森の手入れをみんなで一緒にできたらいいな、と考えたんです。

(※)千葉県で多く見られる地形で、丘陵地が浸食されて形成された谷状の湿地。

栗原さん 僕ら空師はいつも土の上に立つ樹木を眺めてるんですが、それだけではやっぱり不十分で。土中で起きていること、他の生き物との関係性、森としての全体性とかいろんな視点を持つ事が重要だと感じますね。

森の植生と土中のつながりを学ぼうとしたふたりは、坂田昌子(さかた・まさこ)さんを迎えた。坂田さんは東京・高尾の山を拠点に、ネイチャーガイドや講師として活動する他、森を共有財産とする活動「一般社団法人コモンフォレストジャパン」の理事も務めている。環境保護活動や生物多様性において、第一線の実践者だ。

暑さの残る秋のはじめの日。坂田さんによる植物観察のガイドウォークと、実際に手を動かす環境整備のワークショップが開催された。

坂田さんは、2010年に日本が議長国となって開催されたCOP10以降、「国連生物多様性の10年市民ネットワーク」の代表でもあり、関わる環境団体は多数。講座はオンライン・オフラインともに頻繁に開催され、日本各地に彼女の訪れを切望する人たちがいる

生物多様性とは
関係性が多様であること

残念ながら日本では、都市開発のために生きている樹木が切り倒される問題が各地で多発している。本来なら、切るか切らないかの二項対立ではなく、未来をどう描くべきかと議論するイシューだが、そもそも自然の声が取り残されてはいないだろうか。

坂田さんは「環境保全を求める声が増えていることはとても嬉しい」としながら、一方で、問題が切実に表面化されてきたからこそ、基本姿勢を伝える必要性も感じているようだった。

坂田さん 環境を良くしたいという気持ちと行動はすごく大切だし、ありがたいです。しかし、環境がどんな状態なら良くて、どうなったらダメなのか、という基準は曖昧なことも多いんですね。なんとなく木が弱ってきたような気がするから……といった理由では、自然からの声を正しく読み解けていないこともあります。

例えば、水を含んだ土がグチャっとしてると、何とかその場をすっきりさせたくなって、良かれと思って乾くような手入れをしがち。もちろんそこが駐車場や、人がよく通る場所などのこともあるので一様には言えませんが、生き物の視点で考えると少し違ってくると思います。

坂田さん 生き物の中には、乾燥した場所が好きな生き物もいれば、グチャっとしたところが好きな生き物も、半日影が必要な生き物もいるんですね。いろんな状態の場所があることで生き物が増えて、豊かな場所になる。自分たちが改善と呼んでいる方法が、果たして本当に生き物の視点でも良い方法なんだろうか、と見直してみることが大切です。

また、生物多様性=種類が多ければいい、と思われがちですが、重要なことは、関係が多様であること。例えば、1本のエノキの木があれば、オオムラサキやゴマダラチョウなどの虫、あるいはヒヨドリが実を食べに来ます。エノキを植えることで他の生物との関係がどう複雑に結ばれていくのかが大事で、ただエノキを植えれば良いわけではありません。

それと種類の多さだけでなく、遺伝子の多様性も重要です。同じ遺伝子だけ、つまりクローンの世界では、新しいウィルスなどの環境圧力によって絶滅の危機に陥りやすいからです。例えばカマキリは、色で蝶の柄を見分けるんですが、少しでも違う色が混じった蝶は食べません。多様な遺伝子によって蝶は絶滅しないでいられるわけです。

植物も同じで、自然にタネが落ちて芽吹いた実生(みしょう)の木(※)と、挿し木の苗では、根を張る強さは全然変わってきます。

(※)木からのこぼれ種や、鳥の糞に混じって落ちた種が自然に発芽して育った木のこと。

坂田さん 生物多様性は、いわば「食い食われる」関係性です。生きものがみんな平等で仲良く共存したい、なんていうのは人間の傲慢さですね。私たち人間だって、死んだら獣に手足を取られ、わいたウジを鳥がついばみ、骨だけになって土に還るのが生き物としての在り方ですから。まずは、食い食われる関係に意識を向けることは、とても大切です。

難しく考える必要はなくて、例えばこうして歩いていても、目線の高さにクモの巣が多いと、この辺はチョウが多いのかな、と考える。地面を走るクモが増えたら、この辺は違う虫が多いんだな、とかね。別に学者や研究者になるわけではないので、植物や虫の種類を覚えなくてもいいんです。ただ観察しながら、それぞれの関係性に気づいていくこと。それがとても大事だし、気づくと名前も自然に覚えられるんですよ。

伐採した木を積み上げてできた森のステージ。適度な隙間に昆虫や微生物が住み着き、外側をコケが覆う。「コケ類は、安定した場所に生えてくるんです。木や石を安定して積めている証拠ですね」と坂田さん。「倒木には、分解者であるキノコが生えてきます。木の内側を分解してどんどん土に戻し、外側はそのままになっているのを見たことありませんか。分解者であるキノコに対して、コケは分解を止める調整者。キノコによって土ができた場所に、コケが現れて水分を保ってくれる。つまり植物にとっては天国ができます。ここにタネが落ちて、草が育つんですね」

“虫の目”になって触れる
土の起源

それにしても坂田さんと歩く森は楽しい。ほんの数メートル歩くのに何十分も掛かるので、全然前に進まないが、それが楽しい。

では歩きましょうと踏み出した直後、足元にたくさん出ている小さな笹を指して立ち止まる。「笹はね、土を留める名人です。崩れやすい尾根なんかによく生えてくれる。ここの場合は、植林された高木ばかりで低木がないから、雨の打撃が強くなって、地面を固めようとして増えてるんでしょうね」。

坂田さんという通訳者を介して得る新たな知識が、目の前の景色をより鮮やかにする。その瞬間が楽しいのだ。

坂田さん 他の植物たちが元気な場所だと、笹は出なくなります。勝手に撤退してくれるの。背が高くならないチヂミザサなんかは特に、グランドカバーにもなってくれますね。紫のかわいい花がつくヤブランや、リュウノヒゲも同じくグランドカバーの役をしてくれる。

草たちはみんな、根っこから大地の水分を吸い上げて、大気に放っています。朝早いと葉っぱが濡れてるでしょう。こうして低い位置で水分を蒸散することで、土を保湿してくれているんです。

すでに参加者たちはみんな、夢中で足元を見てる。続いて坂田さんは、ある木の前で立ち止まり「これは地衣(ちい)類ですね」と、樹皮が白くなった部分を指差した。「地衣類は、土の元になった生きものです」の声に、参加者たちも一様に顔を上げる。

坂田さん ウメノキゴケ。昔の人はコケだと思って名前に付けちゃいましたが、地衣類はコケではなく、菌類と藻類(そうるい)の共生体です。

地球が誕生して46億年、生命が誕生して35億年、土が生まれたのは5億年前です。もともと岩である地球に、いろんなものが死んで積み重なって層ができました。バクテリアが死んでできたのが石油、分解者であるキノコが誕生する前に、倒れた木々が炭化したのが石炭層。同じように土は、この地衣類とコケの有機物が、砂とか粘土などと混ざり合って、腐食してどんどん広がり、土になっていったんです。

坂田さん 地衣類はむき出しのため大気汚染に弱く、日本では排気ガス規制ができる前の1970年代、都市部から消え去ってしまいました。その後、光化学スモッグがなくなったり公害問題が解決された90年代以降、こうして戻ってきましたが、地衣類を見たことがない人たちに「木が病気だ」と思われてしまうこともありました。今でも勘違いされやすいですね。

彼らはこうして木などにへばりついて生きていくんですが、木にとっては全く何のダメージもありません。むしろ、ゆっくり成長する地衣類がいるということは、長く生きている木、という証拠。そのため、地衣類は長寿で縁起がいいもの、とされていた時代もありました。昔の日本画や能舞台の松の木にも、地衣類が描かれてるんですよ。

「生き物の世界には3つの共生がある」という坂田さん。「お互いに利がある相利共生、片方だけに利がある片利共生、それから寄生も、居場所を借りながらお互いを生かす共生関係のひとつです」

坂田さんが20倍のルーペを貸し出してくれたことで、さらに加速度的に植物の世界に入り込んでいく参加者たち。「花粉が見える」「草の繊維がすごい」「タネから毛がたくさん出てる」など、新鮮な気づきが思わず口から飛び出す。

坂田さん ルーペで見える世界は、虫たちが見ている世界だと思ってください。大きい哺乳類で、かつ二足歩行の私たち人間は、土からとても遠いんです。だから見逃してることが山ほどあるんですね。植物を観察するときは、人間の目ではなく、虫たちがどんなふうに世界を見ているのかを感じてもらえるといいと思います。

ルーペは「頬骨にくっつけるくらい近づけて、焦点を合わせて見る」のがポイント

外来種は敵にあらず
セイタカアワダチソウの例

歩きながら、参加者から「セイタカアワダチソウは、どうしたらいいですか?」と質問があった。外来種植物の管理についての質問だ。

坂田さんは「状況によって対処の仕方はさまざま」と前置きをした上で、「外来種がいけないわけじゃない」と言い切った。

地下茎でも種子でも増える性質のセイタカアワダチソウ。黄色いフワフワの花はとても可愛いが、畑をしている人などの中には強く嫌う人も少なくない植物

坂田さん 外来種はみんなそうですけど、生態系の状態が良くないところで増えていきます。セイタカアワダチソウも、2メートル超えに成長して一面に広がっているところがたくさんあります。

でも、セイタカアワダチソウが日本に入ってきたのは明治よりも前の時代。外来種であることが広がる理由なのだとしたら、もうとっくに大爆発してるはずですが、しなかった。なぜなら、かつての日本の生態系が強かったから、大きくなれなかったんです。

植物の世界はわりと、それぞれのテリトリーがはっきりしています。外来種は基本的に、すき間を見つけて、つつましく生きるもの。他の植物たちが元気にしている場所では、周りと共生しておとなしくしています。ここの場合も、周りのススキやヨモギと揃ってこのくらいの背丈でいてくれるなら、無理に刈る必要はないでしょう。

悪いのは外来種だからではなく、生態系が崩れたことにあった。対処が必要となった場合も、「刈ることで余計に広がることもあるし、永遠に刈り続けるのは解決策とはいえない」と、環境に合わせた改善を強調した。

坂田さん 例えばコンクリートで固められて、水の循環がわるくなってるところでは、セイタカアワダチソウが一面、林みたいに広がってしまうことも。そういうところはしっかり手入れが必要ですね。でもそれは外来種に限ったことではなく、植物が何か一種類だけになってしまうこと自体、かなり要注意なサインだと思ってください。

植物の種類が偏ると、やって来る虫の種類も偏り、本来その場で育つはずの植物が受粉の機会を失う。結果的に、命を繋げられない植物が出てきてしまう。日向の森では養蜂をしていることもあり、栗原さんたちも「セイタカアワダチソウは越冬前の貴重な蜜源ともなるので、むやみに切らない」そうだ。

海に囲まれた日本は、古来から外来種が入りやすかった。稲だって麦だって、外来種だ。外来種だから悪いなんて、浅慮な判断は下さないようにしたい。

落ち葉が変える、
水の流れと生態系

この日のメインイベントは、坂田さんの指導による「しがら」づくり。しがらとは、漢字で書くと「柵」。さく、とも読むし、しがらみ、とも読む。人間関係における「しがらみ」は、何かを妨げる、良くない関係性を表す時に使われるが、自然界では、縦方向に打ち込んだ杭と、横方向に渡した竹や枝で、土の崩れを安定させる役割を意味する。

しがらによって水は土中にゆっくりと染み込み、植物が育ちやすくなり、菌も育まれ、土を固めて安定させる。日向の森にはすでに、栗原さんたちが木々でつくったしがらがあったが、坂田さん曰く、「しがらで大事なのは、葉っぱ」とのこと。そこで一旦解体して、みんなでつくり直す作業が始まった。

以前、栗原さんたちがつくったしがらは、一箇所だけそのままに残し、比較対象にすることに

元のしがらを解体し、みんなで資材を運び出す。栗原さんたちはこの森を、人体に見立てて整備している。ルーペで観察した入り口周辺は「顔」、広く草原のようなセイタカアワダチソウあたりが「肺」、このスギ林は「腸」。みんながバケツリレーで役割分担しながら進める作業は、さながら腸内フローラといった風景

坂田さんは、てきぱきと指示を出す。杭となる太く長い木を切り出す担当や、杭の形をチェーンソーで揃える担当。必要な本数を適切な場所に刺す作業。かけや(木槌)で打ち込む時は、「力がいるけど女性も交代してやってね。道具はいろいろ使い慣れたほうがいいから」と声を掛けるなど、無駄がなく、時にユーモアも交えた頼もしいリード。これまでに何十回、そして何十人の人たちとこの作業をしてきたのだろうか。

坂田さん 杭はしがらを留める役割と、もうひとつ、水を動かす役割をします。公園などで、擬木であっても杭の周りにだけ草が生えてるのを見たことはありませんか。

水に動いてもらうためにも、杭はぐらつかないようしっかり深く打ち込んでください。斜めにならないように、横から確認する人と協力して、まっすぐ打ち込こんでくださいね。

杭を打つ位置は、上部に育つ木の根を見ながら判断する。「何メートル間隔で均一に、とは言いにくい。植物の様子をみたり、水を欲している場所を見極めること」と、坂田さん。今回は表面を焼いて炭化した杉を杭に使う。焼くことでキノコに食べられないので長持ちしやすく、多孔質になるためバクテリアも集いやすい。「カラマツとかニセアカシア、クリの木などを使う場合は焼かなくても大丈夫です。特にクリの木は、丈夫なので長持ちしてくれます」

坂田さん 杭が打てたら、枝を使ってしがらを編んでいきましょう。雨が降ると、斜面が泥になって流れてしまいますね。現代土木ではコンクリートで固めたり、丸太や枝で土留めめ(どどめ)をしますが、それでは泥が詰まってしまいます。しがらにしておけば、流れ出る水の動きを変えられるんです。

まずは作業しやすいように、杭に対して太めの木を渡して。次に、自然界は均一を嫌うので、枝は大中小、いろんな太さのものを使ってください。

「視界が狭くなると困るし、土の感覚がわかるように」と、坂田さんは通常、帽子を被らないし、手袋も使わず素手で作業する

坂田さん 最初は横の枝がないので土に突き刺して。次の枝は後ろを通したり、枝先を組ませたり。斜面に出てる木の根っこに絡ませたり、丸くたゆむ枝を使ったりして、ていねいに編み込んでいきます。枝の先の処理をきちんとしてあげるようにするとうまくつくれます。

しっかり組めたしがらは、持ち上げてもポロポロ取れず、動きません。そうしてできた隙間に、落ち葉をびっしり詰めていきます。とにかく落ち葉をたくさん、びっくりするくらい大量に使ってください。イメージ的には縦に詰める感じ。落ち葉同士は、ぴったりとくっつかないので、しがらに細かな葉っぱの小部屋がたくさんできていきます。

笹や竹の葉は使わないほうがいい、と坂田さん。「笹の葉同士はぴたーっとくっついて、まるでラップを巻いたようになってしまうし、分解も遅いんです。水の多い現場では使うけど、ここでは使いません」

坂田さん とにかく落ち葉をギュウギュウに詰めてください。最後は、しがらの上に乗っても枝がパキパキいわないくらいに、しっかりと詰める。そうすると、雨が降っても水がゆっくりゆっくり染み込んでいくようになります。ザーッと流れ出てすぐ乾く、ゆえに崩れやすいという状態から、じっくりじっくり染み込んで、乾きにくくなり、斜面を守り安定させてくれます。

しがらのつくり方をマスターすると、斜面以外に、木を植える時にも活かせますよ。昔のおじいさん、おばあさんたちは普通にできた人も多かったそうです。そうやって小さく、日常的に手入れをした場所がたくさんあることが大事なんですね。

完成したしがらに乗って見せる坂田さん。この日、1トン容量の袋いっぱい集められた落ち葉が足りなくなるほどたくさんの落ち葉が使われた

巨木も生かす
菌のはたらきを知る

使われた落ち葉の量もさることながら、落ち葉が果たす役割の大きさに驚いた。

坂田さん これを見て。白いところは、葉の色が抜けてるんじゃなくて、菌糸がコロニーになっている状態です。菌糸の大きさは約1/1000ミリなので、人間の目では見られませんが、コロニーになって認識できるんですね。この菌糸が葉っぱの上ではたらくことで、しがらの中に泥がつまらなくなるんです。

この菌は不朽菌(ふきゅうきん)といって、キノコです。キノコは、胞子を飛ばしたくなるとキノコの姿になって現れますが、普段はこうして菌糸の状態で存在しています。キノコの菌は大きく分けて二種類。不朽菌ともうひとつ、菌根菌(きんこんきん)があって、地球上の植物の80%は菌根菌と共生することで生きています。大きな木も、根っこの先にいる菌根菌と栄養交換をして、生きているんです。

木を生かす、小さな落ち葉の大切な役目。だからこそ、落ち葉を集める時は「森からは取らないで」と少し語気を強くした。昔と違い、杉が多く紅葉落葉樹が少なくなった山では、土に還る葉っぱが貴重な存在になったからだ。普段、資材にする落ち葉は、道路、公園、お寺などで集めているという。またコナラなどに付く寄生虫の種類も考慮して、西日本から東日本へ落ち葉を移動することもしない。自然を良く知るからこその細やかな配慮。

「人が施したことの答えをくれるのは、人じゃなくて自然」と言う坂田さんは、「来年の春頃、このしがらがどんなふうになっているか、楽しみだね」と笑顔を見せた。日向の森のしがらはこの先、どのように生きていくのだろう。

1日では時間が足りない。さっそく第二弾のワークショップも告知された。12月11日、今度は谷地(やつ)と呼ばれる森の湿地がフィールドになる予定。詳細はPeatixから

(撮影:ベン・マツナガ)
(編集:増村江利子)

– INFORMATION –

3/17開講!リジェネラティブデザインカレッジ
〜自然環境を再生して、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す〜
(2/15までのお申し込み、先着30名は早割!)


本カレッジは「環境再生」を学ぶ人のためのラーニングコミュニティ。第一線で挑戦する実践者から学びながら、自らのビジネスや暮らしを通じて「再生の担い手」になるための場です。グリーンズが考える「リジェネラティブデザイン」とは『自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻すような画期的な仕組みをつくること』です。プログラムを通じて様々なアプローチが生まれるように、共に学び、実践していきましょう。

詳細はこちら