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自分ごと、ビレッジごと、地域ごと。俵山ビレッジで育まれるのは、関係性を軸としたコミュニティで生きる「バランス感覚」

個人の自由が過剰に尊重される時代。増えていく選択肢のなかで、自分が好きなように生きていることには満足している。けれども、「わたしの幸せは自由の中にあるのだろうか」と考えたり、自由すぎる関係性に頼りなさを感じる人も増えているのではないでしょうか。

「同じ地域にずっと住む、ずっと付き合っていく」という地域の暮らしの不自由さの中に、これからの豊かさを考えるヒントが隠れているのかもしれない。私がそう思えたのは、「俵山ビレッジ」の人々と出会ったからでした。

山口県長門市俵山温泉地域にある、人・社会・自然すべてにやさしい暮らしを目指すコミュニティ「俵山ビレッジ」。わずか350世帯ほどの地区に、たった3年で15名もの人たちが移り住みました。ここには、「本当の豊かさを見つめ、自分で暮らしをつくりたい」という一風変わった理由で移り住む若者が増えています。

コロナ禍で大学を辞めて移住した10代の女の子、世界を旅したのちエコビレッジで家を一棟建てた20代の男の子…。俵山ビレッジでは、来たる「自律分散型コミュニティの時代」に向けて、地域の中で幸せに暮らす人が生まれ、地域のコミュニティリーダーが育つ取り組みが始まっていました。

2020年12月開村。コミュニティを通じて、人をつくる「俵山ビレッジ」

俵山ビレッジが位置するのは、山口県長門市、日本海にほど近い中山間地域に位置する俵山温泉。1100年以上の歴史があり「西の横綱」と呼ばれるほどの効能をもつ日本有数の湯治場として知られる地域で、現在も環境省から「国民保養温泉地」として指定されています。

そんな地域にご縁が生まれ、2020年から始まったのが「俵山ビレッジ」です。発起人の吉武大輔(よしたけ・だいすけ)さんは、大学卒業後23歳で起業し、7社の法人を創業してきた事業家。2020年は東京で新たな事業を始めようとしていたタイミングでしたが、そこに新型コロナウイルスが流行。事態が長引くことを直観した吉武さんは、「東京以外で、どこか住みよい場所を探そう」と考えて全国を周遊しました。たまたま知人の縁で訪れた俵山で、極上の温泉と脈々と流れる地域の歴史、地元の素晴らしい方たちと出会ったことから、この地を次なる居場所に決めました。

吉武さんがこの地域で始めたのが、新しいカタチのコミュニティづくりと人材育成です。

吉武さん 自分自身で事業を行う中で、「共に生き、生かし合うこと。その響き合いから生まれる新しい未来。人と人との出逢いや繋がりがあるからこそ実現できる社会がある。」ということを実感しました。そして、本当に大切なことは、一代でつくられるものではなく、脈々と受け継がれながら、磨かれていくものだと思っています。諸先輩方が大切にしてきたものを継承し、次の未来へと繋いでいくため、コミュニティを通じて次世代のリーダー育成に挑戦しようと決めました。

開村から3年目になる現在、当初は吉武さんを含めて3名から始まった俵山ビレッジも、住民は13名、埼玉と俵山との多拠点生活をしているご夫婦を加えると、15名のコミュニティになっています。これまで11棟の物件を買い取り、長らく空き家となっていた物件をリノベーション。湯治としての歴史を受け継ぎ、「健康のディズニーランド」というコンセプトを掲げて、民泊施設やシェアハウス、コミュニティスペースのほか、マッサージサロン、養生施設「meguri」、ナノミストサウナなど健康に関する施設や事業を展開しています。

トラブルから生まれる対話。他者とつながる「家族会議」

俵山ビレッジのメンバーは日常の中で、自分のこと、俵山ビレッジのこと、地域のこと、大きくこの3つを担っています。

「自分のこと」とは、自身のやりたい仕事や、読書、散歩などそれぞれの思い思いの時間。
「俵山ビレッジのこと」とは、来訪者向けのイベント企画や、住民のための炊事や洗濯。
「地域のこと」は、地域のお祭りの運営や、旅館のお手伝い、清掃活動。

俵山ビレッジで共に暮らすメンバーは、同じ屋根の下で暮らす家族でもあり、事業を共につくっていく仲間でもあります。また、俵山の地域住民からすると「シェアハウスの子たち」という一つの団体。そんな複数の関係性を共有する間柄で磨かれる、一人ひとりの共同体意識や人間的成長は、他では得られない、俵山ビレッジの一番の特徴です。

シェアハウスに集まり週1回の定例ミーティングをする様子

毎週月曜日朝7時から俵山ビレッジのメンバー全員で実施している、定例ミーティング。ここでは、俵山温泉地域の催事や人間関係をはじめとして、来訪者向けイベントの進捗共有や相談事項、そのほか暮らしに関わるあらゆることが話し合われます。

吉武さん 俵山ビレッジには掃除当番や買い出し、ご飯の準備など、ルールや役割分担が存在しません。なぜなら俵山ビレッジの住民同士と「家族」のような関係をつくっていきたいからです。ただし、定例ミーティングに必ず参加するというのは1人目の移住者の時から決めていました。それぞれのペースを尊重しながらも、全体の状況を共有し、互いに助け合い、応援し合うためです。近い住民同士の交流の中で、住民同士が磨かれています。

俵山ビレッジはシステム化された組織ではなく、生身の人間が集まり対話を通して有機的にコミュニティをつくっています。その中には、見たくない自分と出会い、相手に優しくできなくなったり、優先順位を間違えることで地域からの信頼を損なったり、さまざまなトラブルが起きます。

そのトラブルが起きたときこそ、人としての成長が試される。俵山ビレッジでは、信頼関係を通して得られる経験を通じて、自分の意識を広げるような身体感覚が育まれます。そして、成長を下支えする土壌には、俵山温泉地域の懐の深さや、人が育っていくことを何よりも大切にする吉武さんの想いがあります。

「なぜ、無償で清掃をしないといけないの?」

例えば、俵山ビレッジが所有している物件のひとつで、リノベーションした宿泊施設の「清掃」を通して起きたこと。宿泊者が帰ったあと、住民が交代で清掃することにしていたものの、リノベ費用が回収できるまでは金銭的な報酬は発生しない約束でした。一方で、時間的な拘束は長い。

正直、なぜ、自分がやらないといけないのか、腑に落ちていない。

そんな不満が1人から湧いてきたとき、対話が始まります。

この宿泊施設があるからこそ、俵山に訪れることができる人がいる。

この施設があるからこそ、自分がやってみたいことに挑戦できているメンバーがいる。

俵山ビレッジ住民みんなでおこなう家業のようなものだから、みんなで手伝うのは当たり前だと思う。

「なぜ、俵山ビレッジの住民全員で宿泊施設の清掃を担当しているのか?」という問いから、住民がそれぞれ「清掃」への意味付けを共有し合います。そうすると、「自分が気づかずに与えてもらっていたこと」や「コミュニティとして最善の振る舞いは何か」など、他のメンバーの視点も借りて補いながら、一つひとつ、コミュニティとしての営みを腹落ちさせていきます。

そうすると、いろいろなつながりが見えてきます。個人で生活していては見えなかった、誰かが代わりにしてくれていること、自分の行動が影響する先のこと。普段は見えていなかったつながりに、思いを馳せる。このような対話を、俵山ビレッジでは日々丁寧におこなっています。

関係性が積み重なった「仕事」をする

俵山ビレッジのもうひとつの特徴は、住民ひとり一人が人生のビジョンを持っている、もしくは見つけようとしていることです。さらに、その個々のビジョンが俵山ビレッジのビジョンと重なっています。

地域で生きていくには、生業も必要です。俵山ビレッジでは、パソコンひとつでリモートワークできる人もいれば、俵山温泉が位置する長門市の職員として働いている人もいます。発起人の吉武さんが事業家であることから、事業創造を学びながら地域に根付いた仕事をつくり出そうとしている人もいます。

リノベーションした民泊施設

3人目の移住者・かずまさんは、俵山ビレッジに移住してきてからはカメラマン・廃材クリエイターの二軸で仕事をしています。彼が中心となってボランティアと一緒にDIYでつくり上げた施設は、今では民泊施設として活用され、Airbnbで貸し出し、たくさんのお客様に利用いただいています。

彼自身、移住当時は「自分のやりたいことをやってみよう!」という気持ちではじめたリノベーションでしたが、今や映像クリエイターや廃材を活用したクリエイターとして活躍するまで変化しました。はじめは、見える範囲の人からの「こんなものがあったらいいな」という相談が持ち込まれたり、応援したいと思ってくれる人が仕事を依頼してくれたことで、少しずつ仕事が広がっていったのだそう。

かずまさん 地域での仕事は、その作業ができる人なら誰でもいい訳ではありません。相手と過ごした時間や、仕事に関係なく提供したいろんな行動が重なって、「信頼の証」となり、仕事になっていく。だからこそ仕事への対価はわかりやすくはつけられませんが、関係性を育み続けることで、機械的に仕事を受けるよりも明らかに価値がつくときがくると実感しています。

かずまさんは移住して2年が経ちました。以前より、仕事の状況は安定してきましたが、まだまだ試行錯誤中だと言います。彼が今、地域で仕事をするうえで心がけているのは「相手を大切にする」こと。掃除や地域イベントの手伝いなど、地域ごとも、コミュニティごとも、自分ごとも、回り回って返ってくることを信じて懸命に取り組むことで、地域での仕事づくりに挑戦しています。

来るべきコミュニティの時代に備えて

わたし自身、何度も俵山ビレッジに通うなかで、こうした関係性を軸に育まれたコミュニティの中で生きるには、想像力を働かせることや、信頼関係のバランスを感じる身体知が必要だと実感しました。一方で、そのことを体感できる機会が減ってきていることもまた事実です。

コミュニティでの暮らしを豊かにするには、「個」を中心とした価値観とは違った意識が必要だと、俵山ビレッジのあり方は教えてくれます。自然があり、地域があり、地域を守ってきた人がいて、その上で助け合いながら生かしていただいている。そこに自分のビジョン、仲間のビジョンも重ねることで、他者と溶け合った豊かな関係性が築かれています。

俵山ビレッジは、そんなコミュニティを中心となって育むことができる次世代のコミュニティリーダーを育成するための実践場です。日々変化を遂げる俵山ビレッジ、数日からの滞在も大歓迎とのことなので、まずは極上の温泉を楽しみに、足を運んでみませんか?

– INFORMATION –

MURABITOのご案内

俵山ビレッジでは、2023年からオンラインでも俵山ビレッジの暮らしに参加できるメンバーシップ「MURABITO」を開始しました。
MURABITOに入ると、月に1回の住民との交流会や、MURABITO参加者や住民が参加するオープンチャットで日々の暮らしの様子の閲覧、俵山ビレッジのプロジェクトにオンラインでの参加など、離れていても俵山ビレッジを体感できるコンテンツが満載。

さらに、俵山ビレッジ内のコワーキングスペース「Tana」では、登記利用できるバーチャルオフィスのプランあり。通常は月額5,000円のところ、MURABITO参加者なら月額4,000円でご利用できます。
https://murabito.studio.site/

いのちのあそび場「meguri」クラウドファンディング挑戦中

2023年11月31日までの期間で、10棟目の建物のクラウドファンディングを実施中しています!
https://daisuke199.wixsite.com/meguri

俵山ビレッジの日常や地域との関わりの様子、イベントなどはInstagramで発信中。
https://www.instagram.com/tawarayama_village/

Text:ななこ

Text:ななこ

豊かに生きられているとはどういうことか、さまざまな考え方や事業、暮らしを学びながら考え中の会社員。京都に住みながら、山口県を拠点とする俵山ビレッジの暮らしの中にある豊かさに可能性を感じている。