募集の詳細については記事末をご覧ください。
日本の水産業は、漁業生産量の減少、漁業従事者の高齢化や後継者不足など、さまざまな問題を抱えています。こうした水産業が抱える問題を本質的に解決するには、新たな視点がとても重要です。
そんななか、水産業の現場に若者を集め、従来の3K「きつい、汚い、危険」というイメージを新しい3K「カッコよく、稼げて、革新的」に変える活動に取り組む「フィッシャーマン・ジャパン」が2014年7月に誕生するなど、水産業に新しい風を吹かせる取り組みが各地で生まれています。
そしていま、夏には太平洋からの「やませ(偏東風)」が吹きぬける村から、日本の水産業に希望を運ぶ新しい風が生まれようとしています。
今回の求人の舞台となるその村とは、本州最北端にある青森県東通村(ひがしどおりむら)。水産業が主要産業のひとつであり、「共育型インターンシップ」という独自のインターンシップ事業が非常に活発なこの村で、「水産業×共育型インターンシップ」という、全国でも例を見ない活動が動き出しています。
今回募集するのは、そんな「水産業×共育型インターンシップ」のコーディネートに取り組む「漁業インターンコーディネーター(地域おこし協力隊)」。はたしてどんな仕事なのでしょうか。
興味ある方はぜひご参加ください。
水産業に新しい風を
本州最北端の地・青森県下北半島の北東部にある東通村。人口はおよそ5,800人(2023年4月現在)。面積の大部分が山林や原野で占められ、全体的になだらかな地形がひろがります。
下北半島の東側に位置することから、夏には太平洋から吹く「やませ(偏東風)」の影響を強く受け、年間の平均気温は約10度前後。津軽海峡と太平洋とを隔てる本州最北東端の岬「尻屋崎」で見ることができる、青森県の天然記念物である「寒立馬(かんだちめ)」も村の名物です。
そんな東通村は、広大な土地と海の恵みをいかした漁業や農業が主要産業となっています。一次産業の就業人数の7割以上が水産業で、サケやイカ、ヒラメのほか、アワビやウニなどの貝類、昆布やフノリなどの海藻類などの漁場として知られ、他の地域の魚屋さんいわく「東通の魚はすごく状態がいい!」のだとか。筒状の網に魚を追い込む底建網という手法で根魚を獲るため傷が少なく、サイズもいいのだそうです。
そんな東通村の水産業ですが、他の地域と同様の課題を抱えています。気候変動などの影響によって漁獲高が減り、漁師の収入が減少。また、人口減少の影響で担い手も不足しているのです。
尻労(しつかり)漁業協同組合・代表理事組合長の向井祐樹(むかい・ゆうき)さんは、東通村の水産業の現状を次のように語ります。
向井さん 一言で言うと、大変です。漁業は代々続く産業なので、昔からの古い体質が東通村でも残っています。昔はそのままでも良かったと思いますが、その体質がこれからも続くと、漁獲高の減少や担い手不足といった課題に対応できずに、東通村の水産業はどんどん衰退してしまう。
漁業を続けていくためにも、新しい風が必要だと感じています。よその地域や、水産業以外の視点を持った方と関わることが良い刺激となって、東通村の水産業が変わるきっかけになるのではないかな、と。
村では水産業に新しい風を吹かせるために、 2022年に「東通漁師円卓会議」を開催。水産業の担い手確保と育成を目的に開催されたこの会議は、若手漁師など漁業関係者が集まり、販路拡大や漁師の担い手確保について意見交換をすることで、東通村の水産業について共に考える場となりました。
この会議を皮切りに、村では現場に任せきりだった水産業の問題を、役場や漁師以外の村民などを含め、村全体の課題として解決していこうという機運が高まっているそう。しかし、まだまだ漁師たちからは「これからなにをしたらいいかわからない」という声も。そこでいま動き出しているのが、「漁業インターン」なのです。
学生と企業が学び合う「共育型インターン」
漁業従事者は「東通村の水産業を良くしたい」と思っても、普段の仕事で精一杯で、なかなか他のことに注力する時間がとれないのが現状。そこで鍵となるのが、大学生インターンの存在です。
実は東通村を含めたむつ下北地域は、この7年で130人以上の学生を受け入れてきたインターンシップ先進地。大学生が地域の課題解決や、新規事業立案に挑戦する「共育型インターンシップ事業」に地域をあげて取り組んできました。
特筆すべきは村をあげたバックアップ体制や受け入れ人数だけではなく、事業名にもなっている「共育型インターンシップ」というユニークな理念です。
村でインターンシップのコーディネート事業を立ち上げ、その中心となって取り組んできた「一般社団法人tsumugu」の代表理事・小寺将太(こでら・しょうた)さんは、自らが提唱・実践してきた「共育型インターンシップ」について次のように語ります。
小寺さん 「共育型インターンシップ」では、一か月間、主に下北地域の企業や地域団体でインターンシップを実施し、若者が新規事業の立ち上げや課題解決に取り組みます。
その大きな特徴は、「共育型」という名前にもあらわれているように、「若者・企業がお互いに学び合うこと」。インターンを通じて、若者も成長するし、企業も成長する。それこそが、東通村におけるインターンシップの特徴なんです。
「お互いに学び合うこと」を大切にしているからこそ、従来のインターンシップでありがちであるような、インターン生を労働力として扱うことは決してありません。東通村での「共育型インターンシップ」では、学生や企業がどのように成長するかということに正面から向き合っています。
コーディネーターとしてその過程で大切にしているのは、「壁に当たらせる」ということだそう。
小寺さん 人間誰しも、失敗を人に見せたくないと思うのですが、私たちのインターンでは「失敗を見せてもいいんだよ」という環境をつくっています。いつか自分が辛くなったときに、失敗した経験は必ずいきてくるはずです。
インターンシップでは、受け入れ先も同じように悩みます。立ち上げたプロジェクトが思ったように進まないと、「自分たちのせいかもしれない」と同じように壁にぶつかるんです。その壁をインターン生と一緒に乗り越えていく過程こそが、共に学ぶということだと思っています。
一緒に乗り越えることで、若者と企業が共に成長していくことができる「共育型インターンシップ」。結果として、若者と地域の人々との信頼関係が構築され、東通村へ移住する方も増えているのだそうです。
こうした「共育型インターンシップ」を通じて、地元企業で若者の意見が柔軟に受け入れられ、新規の事業が次々に立ち上がるなど、インターン生の力によって村全体に変化が起きつつあります。こうしたポジティブな変化を受けて、行政も村の広報誌に毎回インターンのインタビューを掲載するなど、インターン事業を後押ししています。
漁業の本質を突き詰める「漁業インターン」
このように、「水産業が抱える課題」と、「インターンシップ事業の豊かな土壌」という地域資源をかけあわせ、村で始まったのが「漁業インターン」。 その名の通り、学生が漁業の現場でインターンをすることで、学生・漁師の双方が学び合うというプログラムです。
「漁業インターン」が持つ可能性について、小寺さんは次のように語ります。
小寺さん 東通村には、若い漁師の方で、東通村を良くしたいと思いながらも「何をしたらいいのかわからない」という人がいます。「漁業インターン」を実施することで学生の新しい視点が取り入れられたり、漁師のやる気が高まったりする可能性は大いにある。僕はきっかけさえあれば、東通村の水産業はかならず良くなると確信しているんです。「漁業インターン」はそのきっかけになるはずです。
ただ、これまでのインターンシップ事業をそのまま漁業に落とし込むだけではうまくいかないと小寺さんは考えているそう。たとえば漁業インターンのプログラムをつくる際には、「漁業の本質と向き合うこと」が特に大事だといいます。
小寺さん 例えば尻屋(しりや)地区では、岩から剥がれて浜辺に打ちせられた昆布を拾う「拾い昆布漁」が盛んなのですが、この漁は必ずその家の長男が後を継ぐというルールが江戸時代から続いています。長男の奥さんも一緒に働くという決まりもある。つまり、漁があったからこそ、尻屋地区という集落ができたという歴史があるんです。
漁業インターンのプログラムを設計する前に、こうした歴史が尻屋地区のベースであることを踏まえて、丁寧なヒアリングをすることが大切です。受け入れ側の漁業関係者との関係構築、さらにはインターンシップ事業への理解を深めてもらうといったコミュニケーションも必要となりますね。
また、民間企業でのインターンは、新規事業の立ち上げを主として取り組んでいるので1ヶ月の成果目標を明確に設定できますが、漁業インターンの場合は地域全体に関わる事業なので、短期的な成果を追い求めるのではなく、5年ほどの長期スパンで地域が良い方向に進んでいるかという視点を持つことが大事だとも語ります。
こうした漁業インターンのモデル化が実現できれば、他市町村への展開も可能だと考えているそう。東通村で生まれた漁業インターンのモデルが、課題が山積している日本の水産業に新しい風を吹かせるという未来も、夢物語ではありません。
「漁業インターンコーディネーター」の仕事
では、漁業インターンのコーディネートを担う「漁業インターンコーディネーター」の仕事とはどういったものなのでしょうか。
具体的に取り組むことになるのは、以下の8つの活動です。
このようにコーディネーターが取り組む業務は多岐にわたるため、一つの分野を極めたいという方より、さまざまなことを学ぶ意欲のあるジェネラリスト的な方が向いているそうです。
こうしたインターンシップのコーディネート業務のやりがいは、どんなところにあるのでしょうか。
小寺さん コーディネーターは、インターンシップに参加した学生が何か目標を達成できたときの喜ぶ姿や、企業側(漁業でいえば漁師)がやりたかったことを実現できたときの姿、その両方を間近で見れます。
コーディネーターは黒子なので、どうしても板挟みにはなりやすいですが、両者の笑顔を見れたとき、それを糧にしてまた新しい挑戦をバックアップできます。また、多くの知識をつけないといけないので、さまざまな物事や事業を多角的な視点で見られるようになるのもやりがいの一つだと思います。
また、東通村でインターンシップのコーディネーターをする意義についても小寺さんは次のように語ります。
小寺さん この村には、すでにインターンシップを受け入れる土壌があります。地域の方も協力的で、インターン生を温かく迎え入れてくれる。こうした環境は、他ではあまり見られないと思います。インターンシップをただ実施するだけではなく、若者のその先の人生についても一緒に考えてくれる人が多いのもこの村ならではの特徴ですね。
「漁業インターンコーディネーター」の3年間のイメージ
地域おこし協力隊は、最大任期が3年。3年間で地域との関係性や仕事をつくり、その後の進路は自分自身で選択していくことになります。
想定される3年間の流れは次のようなものです。
まず1年目は、漁協の組合長や漁師の現場をまわり、東通村の水産業の課題を洗い出します。水産業に関わる人たちとの信頼関係を構築しながら、課題のヒアリングをすることが大切です。課題が見えてきたら、長期的な視点で課題を解決することを目標に、先輩からインターンシッププログラムの設計方法を学んでいきます。
2年目は、1年目の経験をもとに、実際に自分でプログラムを設計して実施。3年目は、プログラムを設計しながらも、若手漁師を巻き込んだ新しいプログラムを立ち上げてみるという挑戦をしてもいいそう。
また、3年の任期の後については、東通村に残って一般社団法人tsumuguのメンバーとして漁業インターン事業に取り組み続けるのが理想でありながらも、「定住ありきにはしたくない。たとえばここで得たスキルをもとに、別の地域で漁業インターン事業に取り組むという選択肢もある」と小寺さんは語ります。
漁業インターンコーディネーターとして東通村に着任する協力隊を、小寺さんが代表理事を務める一般社団法人tsumuguをはじめ、村内で同じく共育型インターンシップを手掛ける「一般社団法人東通東通塾(やませじゅく)」、広報的な立場から支援する東通村役場(企画課・水産課)、この事業のサポートに入っている「一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン」など、さまざまな立場の人が支援します。移住者にとって、手厚いサポートや相談しやすい環境は、とてもありがたいものになりそうです。
協力隊を柔軟に受け入れる土壌がある
そんな環境の中で、すでに東通村の地域おこし協力隊として活動しているのは、亀尾喬(かめお・たかし)さんと桑原杏奈(くわはら・あんな)さん。
最後に、お二人に現在の活動内容や東通村の印象などについて話を聞きました。二人が取り組む業務は「漁業インターンコーディネーター」とは異なりますが、その働き方や暮らしは今回採用される方の参考になるはずです。
東通村での地域おこし協力隊第一号で「買い物支援コーディネーター」として地域活性化に取り組むのは、亀尾さん。2023年1月に協力隊として着任する以前から、東通村とは縁があったのだそう。
亀尾さん 僕は青森県弘前市の出身です。県内の大学に通っていた大学時代にインターン生として小寺さんにお世話になっていて、そのときから「東通村っていいな」と思っていました。
ただ、大学時代は一般企業に就職するイメージがわかなくて。就職はせず、大学院に進学しました。漠然としたもやもやが続いていたとき、小寺さんに「東通村に来てみないか」と声をかけていただいたんです。小寺さんや東通村の方々と再び縁ができたことがきっかけで、東通村の地域おこし協力隊として着任しました。
そんな亀尾さんは「買い物支援コーディネーター」として、高齢者の独居世帯や車を持っていない方など買い物に不便を抱える方を対象に、買い物支援車「わんつCAR」に乗って曜日ごとに村内の各集落を巡回。買い物の機会を届けています。
また、買い物支援という本来の目的以外にも、「わんつCAR」がコミュニケーションの場になっていることを実感しているそう。
亀尾さん 僕と話すこともそうですが、「わんつCAR」の利用者同士で話すこともたくさんあるんですよね。いつ来るか分かっているので、時間に合わせてみんなで集まって話をしていることもあります。「わんつCAR」を通して、住民のみなさんのなかでそういったコミュニケーションが生まれるのは嬉しいですね。
亀尾さんは協力隊の任期終了後のことも見据え、経営についても学んでいるそう。「経営者としての知識も身につけて、任期終了後も『わんつCAR』を運営できるよう取り組んでいきたいですね」と語ってくれました。
もう一人の地域おこし協力隊で、「空き家コーディネーター」として活動するのは桑原さん。青森県内でゲストハウスを開業することを夢見て、偶然にも東通村と出会ったそうです。
桑原さん もともと転勤族の家庭で育ち、東通村へ移住する前は北海道八雲町という町で暮らしながら、ゲストハウスのスタッフとして働いていました。
働く中でずっと心にあったのは、空き家を改修して、自分のゲストハウスを運営するという夢。ゲストハウスを通じて場づくりがしたいとずっと思っていたんです。どこでゲストハウスを運営するかと考えたとき、すぐ思い浮かんだのは、青森でした。
東通村に訪れたことはなかったものの、八戸市での生活が一番長かったこともあり、青森県への想いは強かったそう。ただ、ゲストハウスのスタッフとして働きながら暮らした北海道もやっぱり好きで、北海道と青森県、どちらも手放したくなかったといいます。
桑原さん 知り合いもたくさんいる北海道に通いながら青森県でゲストハウスをするにはどうしたらいいのかと悩んでいたときに、移住関係のサイトで東通村の協力隊募集を見つけました。その後は実際に東通村へ足を運んで、皆さんと関係性を築いていく中で、ご縁もあり「空き家コーディネーター」として着任しました。
東通村で協力隊になったばかりの桑原さん。今後は一人で活動することが多くなるとのことですが、すでに周りの人の温かさに触れ、「一人だけど一人ではないような安心感」を感じているとのこと。協力隊としての3年間の活動にも期待が高まっています。
桑原さん 1年目は東通村がどんな場所なのか、地域の皆さんと交流しながら知っていきたいです。その中でゲストハウス開業に向けて、具体的なイメージを膨らませながら空き家を探して、2年目以降は、開業に向けて本格的に動いていく予定です。
ゲストハウスもそうですが、カフェのような飲食スペースもあるといいなと思っています。地域の方や東通村を訪れた方の居場所となるような場所をつくっていきたいですね。
東通村で、自身の活動に前向きに取り組む2人。それぞれの活動をもちながらも、住民参加型イベントの実行委員会にも手をあげ、イベントの企画・運営にも関わるなど、地域と積極的に関わっています。
学生インターンを数多く受け入れてきたこともあってか、地域おこし協力隊の活動についても柔軟に受け入れる土壌があるのも、東通村の特徴だと言えそうです。
「漁業インターンコーディネーター」が、水産業に新しい風をおこす
取材を通して、東通村には若者を受け入れる温かい姿勢と、本気で村の課題を解決しようという熱量があることが感じられました。
今回募集する「漁業インターンコーディネーター」は、とてもやりがいのある仕事である一方、長期スパンで地域の課題を解決していくため、簡単に成果が出るようなものではないはず。時には、壁にぶつかり、失敗するかもしれません。ですが、人の成長と正面から向き合う人たちがいる東通村であれば、コーディネーター自身もその失敗を糧に成長できるでしょう。
そうした特徴は、村を訪れ、村の方々とコミュニケーションを取ることで感じられるもの。もしこの求人に興味を持ったら、ぜひ実際に東通村を訪れてみてください。
東通村で見たこと、聞いたこと、感じたこと。全てを吸収しながら、「やませ」のように日本の水産業に新しい風を吹かせる「漁業インターンコーディネーター」。その風をおこすのは、あなたかもしれません。
(撮影・編集:山中散歩)
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