2022年2月24日に始まった、ロシアによるウクライナ侵攻。21世紀になっても世界では紛争が絶えることはありませんでした。しかし、ヨーロッパでこれほど大規模な軍事侵攻が起きたことは、世界に大きな衝撃をもたらしたと言えるでしょう。
圧倒的な国力の差により無惨に破壊される街、逃げまどう人びと…。ニュースで繰り返し報道される惨状に多くの人が心を痛め、ウクライナにはさまざまな支援の手が差し伸べられました。
「1日も早く、平和が戻ってきてほしい」。
そんな願いを踏みにじるように、軍事侵攻は長期化。戦火が続くことで、支援を必要とする人びとが増え続けています。一方で、他国では侵攻のニュースに慣れて関心が薄れてしまう人が増えたり、支援疲れも起きたりするように。その結果、ウクライナの人びとへの支援が減り続けることが懸念されています。
そんな状況をひっくり返すアクションが、ポルトガルで行われました。人権団体のアムネスティ・インターナショナルとポルトガル最大の通信会社であるMEOがパートナーシップを締結。MEOはテレビやラジオ、映画館などに大量の広告を出稿する広告主でもあります。アムネスティとMEOがメディアに仕掛けたのは、いわば、CM枠のジャック。
テレビやラジオ、映画館でまず、日常のリビングを舞台にしたCMが流れます。いつものようにリラックスしてCMを視聴していると、何の前触れもなく映像と音声が断ち切られます。
そして突然鳴り響く、空襲警報のようなサイレンの音。あっけにとられていると、こんなメッセージが…。
”ほんの一瞬で、私たちは日常に戻ります。
でも、ウクライナでは違います。”
メッセージの後には、寄付の呼びかけとともにアムネスティのロゴが表示され、やがて、何もなかったように、リビングを舞台にしたCMが再開。
何も知らずにCMを視聴していた人たちは、予想外の衝撃に固まってしまったのではないでしょうか。
このCMは、サッカーワールドカップ予選のポルトガル対マケドニアが行われたスタジアムでも流れ、大観衆のスタジアムに警報サイレンが鳴り響き、ポルトガルの人びとに大きなインパクトをもたらしました。
何気ない日常を引き裂くような恐怖のサイレン。その音は、ウクライナでは何百人もの人びとが不安と恐怖の中で暮らしているということを、鮮明に思い起こさせます。
CMは230万人にリーチ。アムネスティのウェブサイトへの訪問数は、前年同時期のキャンペーンと比べて790%増、60,000アクセスを超える結果に。
MEOは、自らを”Cause(※)”ブランドと位置づけ、それまでもDVや海洋汚染といった、意見が対立する様々な問題に対して世論を喚起する取り組みを行なってきました。今回のアクションも、より公正、公平、かつバランスのとれた社会の実現に向けた企業としての取り組みの一環と言えます。
(※)理念・信念・要因などを意味する
理念を掲げる企業は世の中にたくさんあります。しかし、大切なのは、その理念を実現するために行動すること。資本主義の社会においては、企業の動きは大きな役割を担っています。商品を買ったり、サービスを使ったりするときに、投票をするような気持ちで選択をする。そんな積み重ねが、実は大きな変化につながります。
遠くの国で起きていることに対しても、私たちにできることは、きっとある。そんな意識を持ち続けながらアンテナを張り、心を寄せていきたいと思います。
(翻訳協力:片岡麻衣子)