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そもそも……サステナビリティってなんなん? 多くの人が持っている疑問を、武蔵野大学サステナビリティ学科准教授・明石修と考える。

武蔵野大学工学部に、2023年4月に新設されるサステナビリティ学科。日本では前例のない名称がついたこの学科には、NPOグリーンズ代表の鈴木菜央も教員として参加し、世界をつながりの中でとらえ、統合的な視点で持続可能な社会をデザインし形にするための学びの機会が提供されます。

合言葉は、「あしたじゃない、ずっとをつくる」。長期的な視点で、学生たちひとりひとりが独自の目的・関心ごとをもとに学んでいくのですが、ここでひとつの疑問が浮かびます。

それは、「(そもそも)サステナビリティってなんだっけ?」ということ。

新聞やニュース番組、greenz.jpのようなウェブメディアで、この言葉を頻繁に耳にするようになったけれど、「なんとなく分かっている」ぐらいの理解度の方も多いのではないでしょうか?

サステナビリティとは何なのか。
何が根底にあり、私たちは何を大切にすればいいのだろうか。

武蔵野大学ではサステナビリティ学科を新設するにあたって、受験生・在校生・卒業生・社会人が垣根を超えて共に考えるオンラインイベント「オープンラボ」を始めることにしました。

「オープンラボ」には、さまざまな環境問題・社会問題に取り組む人びとがゲストとして登壇する予定ですが、初回7月末と8月の回を務めたのは来春からサステナビリティ学科の准教授をつとめる明石修さんです。

明石修(あかし・おさむ)

明石修(あかし・おさむ)

武蔵野大学工学部環境システム学科准教授
京都大学大学院地球環境学舎修了、博士(地球環境学)。国立環境研究所特別研究員を経て、2012年に武蔵野大学環境学部に着任。2015年より現職。気候変動をはじめとする環境問題は現在の社会や経済の仕組みが生み出しているという問題意識から、サステナブルな社会や人の暮らしの在り方について研究を行っている。近年は、パーマカルチャーという手法を用いて、都会において人と人、人と自然がつながるコミュニティづくりの実践を学生と共に行っている。

「あ、これ生きているんだ」が始まりだった

ここからは、「オープンラボ」で語られた明石修さんの言葉をお届けします!

サステナビリティって実は歴史が長い言葉なんです。でも、一般的によく知られるようになったのは最近ですし、人によっていろいろな捉え方がある言葉だと思うんですよね。

持続可能性。
地球や人への思いやり。
みんながありのままで生きられること。
永続的に環境保全に取り組むこと。
循環。

そして、2015年に国連で採択されたSDGsの文脈で、世界全体で達成しようというゴールとしてサステナビリティという言葉を聞く場面が多いかなと思います。

まずは、僕にとってのサステナビリティってどんなことなのか、ということをお話させてください。それをもとに、今日はみなさんと深めていきたいと思います。

僕がサステナビリティをなぜ考えたいと思ったか。過去の経験から振り返っていくと、小さい頃の経験が関連してるんですね。その経験は何かというと、小学生のときに食べたアボカドの種が芽吹いたことです。「あ、これ生きているんだ」と気がついたというか、原点の気づきだったと思います。

via Unsplash

アボカドが生きているんだということ。
それを食べる僕自身も生きていること。
この世界は命というか生き物でつながっている世界なんだということが実感として得られた瞬間でした。

via 2015 Permaculture Calendar

その頃の僕には、まだサステナビリティという言葉はなかったのですが、この世界があらゆる形でつながっていて、生かされている。その状態には循環というイメージがありました。

僕が取り組んでいるのは、生活を、社会を営むことで自然を再生してプラスにしていこうというものです。そういったリジェネラティブ(※)な社会をどうつくっていくか。それが僕のテーマなのですが、探究していくうえで、パーマカルチャーという考え方を使っています。それは、パーマカルチャーがまさにリジェネラティブで、人と自然の関係をつなぎ直すデザイン手法だからです。

(※)環境再生の意。自然環境をより良い状態に戻すことを念頭に、事業・社会活動に取り組む考え方で、農業や小売業などさまざまな業界で取り入れられている。

これは、僕が武蔵野大学有明キャンパスの屋上で、学生や教職員と実践するコミュニティガーデンの写真です。雨水を利用したりコンポストをしてみたり、野菜を育ててみたり。都会にもある資源や、生態系を使って循環型のガーデンを目指しています。

はじめは芝生だった場所に、蝶や鳥が来たり、鳥が糞を落として、その糞に種が入っていって木が生える。自然が再生していく姿が都会の中でも見えてきて、そこに学生や教職員、いろいろな人が集まってコミュニティもできました。

このコミュニティに参加しているひとりが「ここに来ると、すごく生きている感じがする」って言ったんです。いろいろな生き物と一緒にいると、自分自身も生きているんだって感じられる空間になっていました。

都会の中にある自然やいきものを活用して、人も自然も豊かになっていく。そんな場をつくっていきたいんです。

僕のサステナビリティの実践とは、都市の街中にこういう場所をつくって、人間性を回復して、自然が回復していく場をつくっていくこと。まだ答えはないけれど、こういう社会をつくっていくための探究と実践をしています。

思考実験「この自然の循環のなかでどう生きるか」

ここからは、僕らが住むこの社会が、どんなふうにできているのか。思考実験をしてみましょう。

思考実験[箱の中の小人]
巨大な箱の中に住む小人の私たち。
中には、私たちが普段生活している環境・設備・自然などの全てが揃っています。
ある日、その箱のフタが突然しまってしまいました。
そのフタは光を通さず、断熱されているため、光が届かず熱も放出されない環境です。
小人になったつもりで生活を維持する対策を考えてください

幸せに暮らしていたんですけども、ある日、その箱がパタンと蓋が閉じられてしまいました。 その箱のフタはめちゃくちゃ重くて開かないんですね。ドリルで穴を開けることもできません。

困っちゃいますよね。いままでの暮らしが急にそんな状態になってしまって。では、どう生き延びていけばいいかと考えたいと思います。

「暖を取るために、石油ストーブを使いましょう」

石油を使えば二酸化炭素が出ます。二酸化炭素は植物がある程度吸収してくれて酸素に変えてくれますよね。でも光がないので光合成ができず酸欠状態になってしまう。そうすると、石油・石炭はあまり使わない方が良さそうですね。

「では、木を切ってきて燃やしてみましょうか」

木を燃やすと二酸化炭素もでるけど、木は光がないと育たないので、ある程度とってしまったら、それ以降はできなくなっちゃいますよね。

「次は電気。自転車をこいで電気をつくります」

自転車をこぐためには人間のエネルギーが必要ですよね。ということは、人間が食べていくための食料が必要。米や野菜や芋を育てたり。でも光がない世界だと、それは難しそうです。

こうなってくると、もう八方ふさがり。

人間って食べ物や工場や発電所など、いろいろなものをつくって暮らしているけれど、そもそもこの自然の循環が止まると本当に生きていけないんだなということが分かってくると思います。

via Grönt Grepp

自然の循環っていうのは、光が降り注いで、植物が育って、それを動物が食べて分解されて、栄養の循環があって、その中から一部をいただいてきて、僕らがここで生きているという感じ。

都会で暮らしていると、科学技術があればなんでもできる、自然なんてなくても生きていけるって思ってしまいます。でもそれは錯覚というか思い込みで、人間は自然に完全に依存して生きているということが、この思考実験で見えてきますよね。

サステナビリティを考えるということは、「この自然の循環のなかでどう生きるか」ということだと思っています。

(トークここまで)

「どこか遠く」じゃ打開できない

ここからは、「オープンラボ」で語られた明石修さんの言葉をお届けします!

参加者 子どもたちが持続可能性に対して考える機会が少ないと感じました。学校で持続可能な社会について考える機会をどうしたらつくれますか。

明石さん そう考え始めるきっかけは何かあったんですか?

参加者 英語の授業で、ファストファッションについて学んで、私たちの”当たり前の生活”の裏側には、過酷な労働環境や搾取や環境問題があると知って、すごく衝撃的でした。

明石さん 小学校でも中学校でも高校でも、学ぶ機会はあると思うんですよね。でも、たとえば地球温暖化のことを学んでも、なかなか自分とつながらない、どう自分が関連して起きている問題なのかを学ぶことが不足しているかもしれません。

菜央 そうそう、環境問題が「どこか遠くの問題」のような教え方がありますよね。南極にいる白熊の写真を見て心を打たれることも大事だけれど、「僕らの話」になりにくい。

明石さん いま話してくれたファストファッションはいい例で、自分が普段着ている服をつくり運ぶ裏側で、どんな環境・社会・格差の問題を起こしているのか、実感を持って感じられる機会がすごく大事じゃないかな。

頭だけで学ぶには足りないというか、心で感じたり、体験してみること。それがサステナビリティの分野では特に大事だなと感じます。

菜央 環境問題の悪化を望んでいないのに、知らぬ間にそれを助長している。自分のライフスタイルや行為が、地球環境の今後や未来世代の暮らしに悪影響を与えている。そう知ると、「どこか遠くの問題」ではなくなって、自分たちの暮らしをどう変えていけるかと考えられる。

解決思考の先には「やってみる」がある

参加者 「強い持続可能な社会」をきちんとつくるためには、環境保全や環境に配慮するだけで十分な貢献になるのでしょうか? 排出しないだけじゃ、過去に排出した事実があるので、マイナスをなくすだけ。それでは「強い持続可能な社会」にならないと思うんです。

明石さん まさに最初に話したリジェネラティブ、環境再生っていうことですよね。マイナスをゼロでなくプラスまでつくっていく。

菜央 そうだね。

明石さん 僕は「何か問題を解決する」というマインドから離れられないかなと思うんですけど。

何か問題があって、マイナス面があって、それを解決していくという考え方だとゼロまでにしかいかないんですよ。

参加者 なるほど、そうですね。

明石さん モグラ叩きをずっと続けるようになっちゃう。むしろ、そのモグラを上にあげる土台を、新しいものに変える・つくることができないかという方向が必要じゃないかな。

参加者 社会をつくる、ということですか?

明石さん はい。持続可能で命がつながっている社会を思い描いたときに、いまある社会の中で人びとはどのように生きているかを考えて行動していく。「(自分自身が)変化になる」という言い方もありますけど、個々の問題に対処していくよりは、全体を見て改善する。

いま、「武蔵野大学サステナブルキャンパスプロジェクト」が動いていて、「サステナブルな大学って、どんな大学なのか?」を考えて、自分たちで何ができるか試してみる、つくってみることをしてます。

菜央 なるほど。大学の問題点を叩いて潰すんじゃなくて、大学があるべき形を考えて、それを目指してつくっていくんですね。

(Q&Aここまで)

日々、新聞やニュースを通じて知る、環境や社会の深刻な事態。それらの課題を乗り越えるためにサステナビリティやリジェネラティブがあり、SDGsがある。

それは間違いではないですが、「解決しよう」と孤軍奮闘し問題を潰すだけじゃなくて、私たち人間が自然の生態系の中にいて、この循環の中でどう生きるかと考えることが大事。そしてそれを体感する機会を得たら、試してみる、つくってみる。

明石さんの話を聞いて、より多面的に「サステナビリティ」を捉えることができるようになった気がします。

解決思考、実践、探究・・・。武蔵野大学サステナビリティ学科は、その多面性がいかされたスリリングな学びの場になりそう! ぜひ次回のオープンラボに参加してみてください。

(Text: 塩澤僚子、中鶴果林、スズキコウタ)
(編集: スズキコウタ)
(編集協力: 古瀬絵里、福井尚子、鈴木菜央)
(撮影: 秋山まどか)

[partnered with 武蔵野大学]

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