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産地消滅の危機は回避した。あとは、どう自分が食べていくか。和歌山県・有田川町のUターン就農者が、地域資源をいかした「+ X」ビジネスに取り組む姿。

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地方で進む過疎化。そこに住む人の減少とともに、産地消滅が目前に迫っている特産物もあるのではないでしょうか。

紀伊半島の中部にある和歌山県有田川町も、産地消滅の危機にある特産物「ぶどう山椒」を抱えるまちです。ぶどう山椒は、大粒の実がぶどうの房のように実ることからその名がついた山椒の一種。江戸時代後期に遠井村(現在の有田川町遠井)で見出され、高地でのみ生育可能だったものを、先人の試行錯誤によって環境変化に強い「冬山椒」を台木として接ぎ、同町で広く産地が形成された歴史をもっています。

ですが、過疎地域で新規就農者が少ないことや既存ルートに卸しているだけでは生計が立てられないこともあって、生産者の平均年齢は80歳を超え、高齢者の離農も相次ぎ、産地は危機的な状況を迎えています。

ぶどう山椒の発祥地である遠井区 空海が高野山開創前に密教の聖地に定めようとしたとの伝説があり、数多くの空海伝説が残っています。

東京からUターンをして就農した若手農家

そんな現状を打破しようと奮闘しているのが、きとら農園の代表を務める新田清信(しんだ・きよのぶ)さん。新田さんは有田川町出身ですが、愛知県の大学へと進学し、社会人になってからは東京でしばらく生活したのち、結婚などを機に2011年に和歌山へUターン。ぶどう山椒農家として就農しました。

東京で暮らしていたころ、山椒農家をしていた親戚から、ぶどう山椒の需要が高まっている一方で、生産者が減少していることを聞きました。いつかは和歌山に戻りたいと考えていたので、本気でやれば儲かる、生計が立てられるだろうとUターン後の仕事を山椒農家に決めたんです。実家が農家ではなかったので、園地の購入や整備、苗植えなど、家族と協力しながら数年かけて準備を進め、就農しました。

きとら農園代表の新田さん。屋号の「きとら」は山椒畑のある場所の地名で、空海が祈祷をして田を拓いたという「祈祷田」がなまったものだそうです。

就農し、いよいよ収益が出ると思っていた矢先、需要の高まりを知った地域の農家が生産量を増やし、供給過多が発生。山椒の市場価格は大暴落しました。

年金と併せて生活している周りの農家とは違い、私はこれで家族を養わないといけない身です。当時、新規就農者への給付金を受給していたからよかったものの、それがなければ生活が立ち行かなくなるところでした。山椒を作れば作るほど儲かると思っていたのに、うまくいかないものですね。

山椒+Xで道を切り開く

山椒農家は5~6月に佃煮などで使う実山椒の収穫、7~8月に粉山椒にすることが多い乾燥山椒の収穫と二度繁忙期がありますが、秋から冬にかけてはオフシーズンです。そこで、新田さんは新たな収入源を確保しようと、山椒農家のつながりで正月前の冬に需要が高まる庭師の仕事を始めました。

さらに、秋の仕事として、園地に自生していた桑に着目。お茶にできないかと独学で研究を重ね、葉の洗浄には伏流水を、蒸らす工程では間伐材を使い里山の資源を生かした「桑の葉茶」の商品化にも成功しました。桑の葉茶は年間を通して道の駅や通販サイトで販売し、オフシーズンの安定した収入源となっています。

遠井区はかつて養蚕業が盛んな地域でした。その名残りで園地の周りには大きな桑の木がたくさん植わっていたんです。これを使わない手はないと、地元の人に利用方法を聞いてみるとお茶にしてよく飲んだと聞きました。独学でお茶にしてみたところ、おいしかったので、思い切って商品化しました。葉を乾燥する際にはぶどう山椒の乾燥機が使えますし、今ではきとら農園に欠かせない商品です。

桑の葉の収穫作業 天然の桑のため樹が高く、大きなはしごを使って収穫することもあります。桑の葉茶はカフェインやタンニンを含まないことから妊婦でも飲めると好評だそうです。

直販と加工でぶどう山椒に付加価値を

さらに、本業であるぶどう山椒にも付加価値をつけようと考えた新田さん。品質を損なわない加工方法やパッケージデザインにもこだわり、自社で「粉山椒」の販売を開始します。さらに、2020年からは希少部位の花山椒や実山椒のネット販売にも乗り出しました。その結果、山椒の高い品質と鮮度から評判を呼び、一般家庭はもちろん、京都の3つ星の料亭や東京の2つ星のフレンチからも受注があるそうです。

今では山椒の生産量の約9割を直販しています。直販は値段設定を自分でできるので、こだわった分を価格に反映できるのが魅力ですね。また、「山椒はこんなに鮮やかな色なのか」「今まで食べた山椒の味と全然違う」など、食べてくださった方の反応を直接聞けることもうれしいです。

香りを損なわないよう石臼で挽く粉山椒 ウナギ料理店や焼肉店からも引き合いが増えているそうです。

こうして新田さんは、山椒以外の「+X」といえる生業で収入が安定するとともに、販路開拓により山椒の収益が上がり、家族を養うのに十分な生計を得ることができています。この新田さんの「+X」をキーワードにした働き方は、一般社団法人at will workの主催する「ワークストーリーアワード」で審査員特別賞を受賞し、ぶどう山椒の有機栽培や桑の葉茶の環境負荷の少ない加工法なども低炭素型農業であるとして、和歌山県の環境表彰で最優秀賞を受賞するなど、多方面から評価されています。

第21回わかやま環境賞表彰式

ぶどう山椒を未来につなぐために

山椒農家の平均年齢が80歳超と高齢化が進んでおり、未来の産地づくりのためには、若年層の就農が欠かせません。それには山椒農家の収益向上が必要だと新田さんはおっしゃいます。

ぶどう山椒の認知度が高まり、需要が拡大すれば価格も上がる。食べていけるということになれば、就農者も増えると思うんです。そのために、自分がこれから就農を考える人のモデルになれればと思っています。就農者を増やすために、県や町と連携して移住希望者の現地体験や就農インターンシップの受け入れも行っています。

これらの活動を通じて、メディアに紹介されることも増え、ぶどう山椒や就農の魅力を伝えることができ、実際に就農者も生まれたといいます。

きとら農園が受け入れを行った就農インターンシップ

オフシーズンを利用して多様な働き方を実現できる山椒農家は、若い人に魅力的なのではないかと思います。自分の持っているスキルを活かして活動することや、清水地域であれば林業との兼業も可能だと思います。里山の暮らしを自身のアイデアでデザインしながら、ともに産地を発展させてもらえればうれしいですね。

「山椒+X」。この新田さんのスタイルは、これから山椒就農を考える人の道しるべになり、ひいては様々な産地を未来につなぐカギになるのではないでしょうか。

(Text:上野山友之)