とある日の昼下がり、ニューヨーク・マンハッタンの広場に突如出現した、このマーク。
日本の街でもよく目にする「距離を保ってください」と書かれた、ソーシャルディスタンスのマークにそっくりです。
でも、何か様子が違う・・・?
書かれているのは、
“STAND HERE FOR DANCE PARTY”
「ダンスパーティーのために、ここへ立ってください」
という言葉。
さて、このマークを見つけたら、あなたは立ってみますか?
見なかったふりをしますか?
それとも、いつもよく見るマークだと見過ごしてしまうでしょうか?
通行人の多くは、気づかずに通り過ぎていきます。
でも、中には近づいて文字をのぞき込む人や、マークの写真を撮る人も。
そして、思わず上に立ってみたら…
その様子はこちらの動画をぜひご覧ください。
突然、年代物のラジカセを担いだ男性が音楽を流しながら登場。
サインに立った人の前で踊りだし、さらに、広場のあちこちで踊りだす人が出現して、屋外ダンスパーティーが始まります。
誰でもこのサインの上に立つ人がいると、音楽が流れだし、広場で踊る人たちが現れて、ダンスパーティーが始まる仕掛け。
広場でくつろいでいた人や通りすがりの人たちを巻き込んで、大規模なダンスパーティーが繰り広げられました。
距離を取るのは、もう終わり。踊ろう! つながろう!
これを仕掛けたのは、ニューヨークを拠点に公共の場所でユニークなパフォーマンスを展開するグループ「Improv Everywhere」。
greenz.jpでも何度か取り上げたことがありますが、過去には「Say Something Nice(何か素敵なことを言おう)」と路上でパフォーマンスをしたり、ニューヨークの川に孤立したリモートオフィス「Socially Distanced Office」をつくるなどして話題になりました。
今回は、ソーシャルディスタンスがばっちりのオフィスとは真逆の、人を集めた大掛かりなパフォーマンスですが、実はこれこそが「Improv Everywhere」の真骨頂。
新型コロナウイルスの感染拡大により、長らくこういった活動はできませんでしたが、新規感染者数が減少しワクチン接種率が増加したことを受けて、念願の再開。このパフォーマンスは「ニューヨーク市立博物館(Museum of the City of New York)」で開催中の「New York, New Music: 1980–1986」とのコラボレーションとして行われました。
1980年代前半にニューヨークの地域コミュニティで生まれた音楽を回顧する企画展の内容に合わせて、「Improv Everywhere」は街中で人びとが共に音楽を楽しみダンスをする場をゲリラでつくったのです。仕掛け人は100人を超え、プロのブレイクダンサー集団「Dynamic Rockers」のメンバーが主要なキャストを演じました。
最初にマークを貼ったこの方は「Improv Everywhere」創設者のCharlie Toddさん。彼は、こう話します。
またこうして人が集まって楽しめる場がつくれて最高の気分だった。関わった人たちも、参加してくれた人たちもポジティブなエネルギーであふれていたよ。
音楽が終わると、人々はそれぞれの方向に進んで、街並みに溶け込んでいった。目撃した人たちは「今のはいったい何だったんだろう」って思っていただろうね!
ここ数年ですっかり日常に溶け込んだソーシャルディスタンスのマークを、楽しい仕掛けにしてしまうこのアイデア。人との距離を保つ時間が長く続いた分、今この瞬間を楽しもうという人々の熱気が伝わってきて、見ているだけで心が躍りました。
ただの“フラッシュモブ”のようなサプライズではなく、マークに立つ人がいてパフォーマンスがスタートする仕組みや、踊る人と見る人を隔てないオープンさも、コロナ禍で多くの人が味わった“断絶”からの解放を象徴しているようです。
[via Improv everywhere, good news network,Museum of the City of New York]
(Text: 片岡麻衣子)
(編集・企画: スズキコウタ、greenz challengers community)