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ビジネスの真ん中で地球と共創する。地球コクリ!三田愛さんと華道家・山崎繭加さん対談 [Re-member Journey 001]

コ・クリエーションのプロセスを使って、社会をごろっと変容する。

そうして地域や社会の土壌づくりを行ってきた「コクリ!プロジェクト(以下、コクリ!※)」の活動は、黒川温泉のプロジェクト安宅和人さんの「風の谷を創る」プロジェクトで紹介してきました。

そのコクリ!を創始した三田愛さんが、2020年から「地球中心・生態系全体のコ・クリエーション研究(地球コクリ!)」として、人間中心から地球中心へと人の視点を変えるための研究・活動を開始。これまで地域・日本で培ってきたネットワークやそこでの学びをいかしながら、未知の領域を手探りで歩いてきました(その探究の様子は、連載「Re-member 人間中心から地球中心へ」をご覧ください)。

今回から始まるコラム連載「Re-member Journey」では、コクリ!の提唱者・リーダーであるリクルートの三田愛さんと、いけばなの叡智をビジネス界につなげる活動をしている華道家の山崎繭加さんの友人同士の話を通じて、「地球コクリ!」で今まさに起きていることを描き、それが社会やビジネスにどのような意味合いがあるのかを考えていきます。

(※)コクリ!プロジェクト
コ・クリエーション(共創)プロセスを使って、地域や社会に大転換を起こそうとする研究コミュニティ。予想だにしない未来を今ここから創り、100年後に「歴史が変わった」と言われるような社会実験を次々に立ち上げて、長期的・全体的に地域・社会システム変容を起こすことを目指す。

山崎繭加(やまざき・まゆか)

山崎繭加(やまざき・まゆか)

華道家。マッキンゼー、東京大学助手を経て、2006年から10年間、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチ・センターへ勤務。2017年、華道家として独立し「いけばなの叡智をビジネスに伝える」を理念としたIKERUを立ち上げ。同時に、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員、上場企業2社の社外取締役を務めるなど、経営・経営学の分野にも身を置き続けながら、東洋的叡智と経営の統合を模索している。2020年より軽井沢在住。
東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。

三田愛(さんだ・あい)

三田愛(さんだ・あい)

「コクリ!プロジェクト」創始者/株式会社リクルートじゃらんリサーチセンター研究員 兼 サステナビリティ推進室/英治出版株式会社フェロー
集合的ひらめきにより社会変容を起こす「コ・クリエーション(共創)」の研究者。地域イノベーター、首長、企業経営者、官僚、農家、クリエイター、大学教授、社会起業家など、約300名のコミュニティメンバーと共に実証研究を行う「コクリ!プロジェクト」創始者。現在は自然と人間の分断を超えた共創をテーマに「地球生態系全体のコ・クリエーション(地球コクリ!)」の研究に取り組む。米国CTI認定プロフェッショナル・コーチ(CPCC)。内閣官房、国土交通省、経済産業省など官公庁での各種委員を歴任。

地域、日本、そして地球となったコクリ!

繭加 コクリ!は、個別の地域から始まって、それが日本全体に広がり、今では「地球コクリ!」へと、どんどん目線が上がってきています。コクリ!が今「地球コクリ!」となっている経緯を改めて教えてもらえますか。

 私自身の想いは「世の中に純度の高いエネルギーのハーモナイズを起こしたい」ということで一貫しますが、そのやり方が変わってきたということなんだと思っています。

これまでは、社会をごろっと変えるために、その変容の起点になりうる人を見極め、私が個別に声をかけてコクリ!に参加してもらっていました。まるで精密に動く時計を作るかのように場を設計していたんです。

3年ほど前から、これまでのやり方でできることと、その限界がわかってきたので、次のやり方を考えるようになりました。数百人ではなく何万人・何十万人という規模で、かつ偶発性高く参加者を巻き込みながら、多中心な渦を起こしたいな、と。

そこで、これまで培ってきたやり方だけに閉じないように、何かしらの兆しが見えるまで、3年ぐらいはコミュニティをつくらずにあえて待ってみました。そこから立ち現れてきたのが「地球コクリ!」です。

それまでのコクリ!では、人間がどう地域・社会を変えるか、がテーマでした。人間が中心だった。それを「地球中心」の社会にできないかと思うようになり、地球生態系全体のコ・クリエーション研究を始めた、それが「地球コクリ!」ということになります。

繭加 地球となるとすごく大きな話になって足がすくんでしまいそうだけれど、具体的なはじめの一歩は何だったのでしょうか?

 人間も、あらゆる生きとし生けるもの、全生命体と同じように地球をつくる一部。それを思い出すことが大切なのではと思い、そういった世界観を表現した「Re-member」という、動く絵本のようなアニメーションを制作しました。

地球コクリ!で制作したショートムービー 『Re-member』。人間が地球の他の生き物や存在の仲間であったことを思い出す物語が描かれている

 それを仲間にシェアするうちに、その先に新たに仲間入りしてくれる人が出てきたんです。そうやって共感して自発的に動いてくれるみんなを「もりびと」と呼ぶようになって、一緒に何をしたらいいかを考えていきました。

まずそれぞれの想いを出し合うワークショップをやって、そこから「人間が地球の仲間であると思い出せるような体験ができる場所(Re-member体験)」をつくってみたい、それを企画サイドが全部企画するのではなく、参加者がアイディアを持ち寄るポットラック形式でやりたい、という構想が生まれました。

そうして、もりびと経由で巻き込みたい人に声を掛け合って、2021年9月に「はじまりの日」、そして2022年2月にオンラインで「Re-memberビレッジ」を開催しました。地球とのつながりを感じる儀式から始まり、瞑想・祈り・音・声などの参加者主宰のRe-member体験の様々なプログラム、他の生き物や存在に自分を重ねるワークショップを経て、最後にその日感じたことを共有する、という1日になりました。

地球コクリ!Re-memberビレッジ〜お祭りの1日〜 当日のグラフィックレコーディング(作:玉有朋子)

繭加 どんな可能性が見えましたか?

 事前にRe-memberビレッジの日にやってみたいことを募集して、それに手を挙げてくれた仲間と作戦会議をしたんですが、これがすごくよかった。地球コクリ!では「社会がごろっと変わるツボは何か」について探索していて、まさにこれについてのアイデアを参加者からシェアしてもらえました。

Re-memberビレッジに参加した特定の人だけでなく、そこから先の、参加した人たちのまわりにも気づきと行動のフィードバックが広がっていくような仕掛けができそうだ感じました。

今後のチャレンジとしては、普段こうしたワークショップに来ない人たちを、どうやったら呼び込めるかということ。コクリ!では私が個別に声がけして丁寧にフォローすることで、地域や組織の重鎮の方々に来てもらっていたけれど、それをゆるやかな多中心の場でどう実現するか。オルタナティブとメインストリームをつなぐためにどんなやり方ができるか、考えていきたいと思っています。

地球コクリ!が持つ世界的意味

繭加 地球コクリ!は、前例がない、前に道がないものをつくろうとしてるので、愛ちゃんの感覚がすべて、というところがあるよね。愛ちゃんが自分の感覚をコンパスにして試行錯誤で進む中で、自然と道ができてくる。もちろん、あらゆる人の人生もプロジェクトも本当はそうなのだけれど、「地球コクリ!」は、その様子がとても鮮やかに見えます。

 振り返ると運営のフォーカスも変わっていますね。以前はいかにコクリ!というコミュニティをつくりその密度を濃くしていくかに注力していたけれど、現在はコミュニティづくりというより、地球コクリ!の考え方と純粋に共鳴する人、そして地域に根ざして活動している人と協働していく方向になっていますね。

繭加 そして、その先に企業が入ってきますね。そうするとますます世界的にも価値がある取り組みになっていくように思います。

少し前まで、「本当に気候変動が起きているのか」ということすら議論になっていたけれど、この2年ぐらいで大きく動いて、企業も地球・環境問題に真剣にコミットせざるをえない時代になっています。でも、地球を守るためにやるべきことは大体見えてきているけれど、企業や個人が実際にそういう行動をとるようになっているかというと、そこはまだ大きなギャップがあるのが現実です。これは私自身も含めて。

どうやったら実社会の行動変容につなげられるかについては、まだ誰も答えを持っていない。コクリ!はここに一つの答えを提示する可能性があると思っています。

ショートムービー “Re-member”の1シーン

繭加 Re-memberは、昔から語られてきた真実の物語の現代版なんだと思います。そうした物語を語っている人はこれまでも今も世界にたくさんいる。でも、地球コクリ!の価値は、物語と現実との懸け橋を実際につくっているところにあるし、これまで地域や日本で行動変容を起こしてきたノウハウとそのネットワークがあるから。そんなところ、たぶん世界でもあんまりないんじゃないかな、と思います。

 コクリ!は、世界をごろっと変える、ということでやってきたから、何かアクションを取った時に、より波及力がある、影響力の掛け算が起きやすい要素を入れようとしてきた、というのはありますね。

ビジネスの真ん中で地球コクリ!をやる

繭加 今後、企業が地球コクリ!を通じて、地域や社会とこれまでとは違う深い関係性を築き、ひいてはビジネスのやり方そのものを変える、ということが起きる可能性があると思っています。

日本には古来からの様々なRe-member的叡智があるのだけど、経済・人間優先でやってきたこの1世紀の間に、そうした叡智が忘れられたり埋もれたりしてしまっています。これから、その深く埋もれている実践知を取り出していく、まさにRe-memberしていく過程で、自分たち自身が変わっていけるかもしれないし、苦労しながら変わっていく過程を世界に伝えることにも意味があるかもしれない。

これは、いけばなの叡智をビジネスにつなげることでビジネスのあり方が変わっていけばという願いでやっている私自身の活動ともつながります。

(写真:本永創太)

繭加 私は全くもってエコな人ではなくて、地球・環境という言葉を聞くと「生き方が雑でごめんなさい」という罪悪感が出てくるタイプ。地球コクリ!についても、自分にはちょっと遠いなあ、地球まで自分の想像が届かないなあ、と正直思っていたのだけれど、今日愛ちゃんと話しているうちに、自分の活動や願いもRe-memberなんだ、という気づきがありました。私も、地球コクリ!なんですね(笑)

 ビジネスの分野の真ん中でコクリ!的価値観を育み、企業の人たちがRe-memberする場を広げていくということを、繭加ちゃんと一緒にやっていけたらいいなあ。

(対談ここまで)

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(企画・文章:梶川奈津子)

ライター:梶川奈津子(かじかわ・なつこ)

ライター:梶川奈津子(かじかわ・なつこ)

ビジネス・スポーツ領域において、主に人材育成・キャリアをテーマに取材記事やケースの執筆を行う。平日はメディア事業会社の会社員としてHRを担当し、2017年より個人事業として執筆業を展開。早稲田大学文学部卒。