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「パワフルなストーリーを共有できれば、世界は変わるかもしれない」映画『Re-member』監督・古波津陽さんが、共生革命家・ソーヤー海との対話から得たヒント【後編】

「地球上のすべての生命体と根っこでつながる」といった「地球コクリ!」の考え方を広げ、世界中の仲間たちとつながるためにつくられた映画『Re-member』の監督・古波津陽(こはつ・よう/以下、陽)さんは、制作を進めていく過程で、「地球と人間との関わり方をどう描くか」「人間は“悪者”としてしか描けないのか」という疑問にぶつかりました。

パーマカルチャーの考え方にヒントをもらおうと、地球コクリ!のメンバーでソーヤー海さんの元へ。

前回、人間と自然との関係や、“人間の役割”を考えていくなかで、

「人間は本来”自然”であり、ただ在るだけでよい」

という話になりました。陽さんの疑問も少しずつほぐれ、映像のイメージがしやすくなってきた様子。

しかし同時に、その場にいた地球コクリ!のメンバーからは、こんな疑問も出てきたのです。「そうしたら、コ・クリエーションの概念もなくなっちゃうってこと? 」

今回の記事では、この疑問からスタートしていきましょう。

そもそも、コ・クリエーション(共創)ってどういうことなのでしょうか。そして、「地球コクリ!」はこれから、どんな役割を果たしていくのでしょう。

前編はこちら

地球と生命はコ・クリエーションしてきた!?

愛さん 私が「地球コクリ!」で一番大事にしているのは、すべての存在がそれぞれ一番純度の高いエネルギーをもって、本領を発揮していること。そうすると、調和が生まれて、奇跡のようなコ・クリエーションを起こすと考えているんだよね。だから、地球上のみんながちゃんとつながり合って、それぞれが本来の姿であれば、調和が起こって、奇跡のようなことがずっと起こり続ける。

菜央 生態系の中ではコ・クリエーションは起きているって言えるのかな?

愛さん 生態系の中でも起きているだろうね。それぞれが生かされ合って、奇跡のような形で続いているってことなんだと思う。

菜央 僕たちが生きていくうえで欠かせない「酸素」は、実は今から約27億年前に地球に登場したシアノバクテリアっていう微生物の働きによって、大気中に生まれたものなんだ。彼らは太陽の光を使って光合成を行い、その過程で酸素を副産物として排出した。長い時間をかけてその酸素が海や大気に蓄積されて、やがて地球全体の環境を大きく変えていったんだよ。

それだけじゃない。地球に大量の水が存在し、それが安定して循環するようになった背景にも、生物の関与があると考えられているんだよね。火山活動や隕石によってもたらされた水を、生命が取り込み、循環させ、保持し、気候とともに調整してきたことで、今のような「水の惑星」としての地球が維持されてきたんだ。

つまり、地球がまだ原始的だったころに現れたシアノバクテリアや他の微生物のような生命体が、地球そのものの環境を大きくつくり変えたということ。そしてその変化が、のちに酸素を使う生命や多細胞生物の進化、さらには生命の爆発的な多様化につながっていった。まさに彼らの営みが、生命の繁栄の「舞台づくり」をしてくれたわけだね。

こうして見てみると、人類が誕生するはるか以前、地球がまだ「生きもののいない星」だった頃から、すでに生命は環境と対話しながら、今の地球の姿をつくり上げてきたことがわかる。だからこそ、何千万種ともいわれる現在の生き物たちが存在できているのは、地球と生命の共創(コ・クリエーション)の歴史の賜物なんだって、そんなふうに捉えることができるんじゃないかな。

愛さん そうだね。その中で今、人間だけが調和を乱している状態だけど、私たちが本来の役割を果たすようになれば、地球のエネルギーのオーケストラはうまくいくのかな。

人間の役割は「暮らすことで自然を再生していくこと」

海さん 「人間が暮らすことでどんどん自然が豊かになる」ということが、パーマカルチャーの文脈では最初のポイントなんだけど、それを踏まえると、人間の役割は「暮らすことで自然を再生していくこと」と言えるかもしれない。

破壊的な暮らしをしながら自然を再生しようとするんじゃなくて、自然を再生することと自分の暮らしとを統合していくこと。

暮らすだけでどんどん自然が豊かになっていくというのは、ほとんどの動植物がやっていることで、人間もその技術や知恵や知識を持って暮らしてきたはずなんだよね。

海さん、愛さん、菜央が生活してきた、いすみの風景。稲作では山に降った雨がミネラルを受け取り、水田の養分をほどよく得て、川を経て海へ流れ込み海の環境を豊かにする

海さん パーマカルチャーでは、人間と自然の関係を「人間が自然とダンスをするようになる」って表現するんだけど、それは人間が自然の一部に戻るっていうこと。

たとえば、畑をやるときのことを考えると、種を植えたり水やりをしたりして畑をデザインしているのは僕だけど、育つ作物は僕以外の存在である太陽や微生物などの働きかけもいっぱい受けている。

そう考えると、本来自然の一部である人間は、常にコ・クリエーションしてるっていうことになんじゃないかな。その認識があるかないか、どのくらい調和の中にあるかっていう度合いがそれぞれ違うだけで。

パーマカルチャー安房(千葉県南房総市)にあるパーマカルチャーガーデンの様子

いすみ薪ネットワーク。いすみでの暮らしは、人間も自然の一部であることが実感される

海さん でも、循環の中にないと、分離した存在になってしまって、たとえクリエーションしても“コ”の要素はない。つまり、コラボレイティブな要素が減ってしまう。

だから、循環の中にいる状態こそがコ・クリエーションなんじゃないかなと僕は思ってる。

愛さん 今は、分断した状態で人間だけが回っているから、自分たちだけで回さないといけないっていう感じになっていて、結果的に自然環境にも悪い影響を与えている場合もある。「共存」と「コ・クリエーション(共創)」の違いを考えたときに、後者は人間の暮らし方や生き方、仕事の仕方がコ・クリエイティブになるってことだよね。

そのために、“つながり”を意識した中で暮らしや仕事をすれば、つながりの中で回るやり方をデザインすることになって、自分もみんなとつながっていると感じるし、一番無駄なく回る感じもある。それは、結果的に生態系全体にもいいはずだよね。

海さん コラボレーションすることで力みが減って楽になるということもあるね。

人間は経済の話をするときに「経済を“回す”」っていう表現をよく使うけど、ギフトエコノミーとかエコロジー生態系は回さなくても“回ってる”のね。その中に、ただ自分の身を置くだけでいい。

それに対して、自然からかけ離れた活動は回さないと回らない。常にどこかから自分の身の丈以上のエネルギーを取ってきて、エネルギーをかけて回す必要があるから、回そうとするのをやめた瞬間に、すべて止まっちゃう。

ひとつが変われば全部が変わる

愛さん 今、自然から切り離された人間がつくっている社会を、人間みんながつながりを取り戻して、無駄なく循環が起こせるような状態にできたら、歴史が変わるような変化が起こるんじゃないかな。

それは、単に一人ひとりがつながりを取り戻して気持ちよく生きられるっていうだけじゃなくて、みんながつながりあったときに、権力が集まっているようなところも変わっていけば、社会全体の構造的な変化も起こると思う。

海さん 人も地球の一部だから、人が変われば周りも変わる。つながりの世界だと、ひとつが変わると全部が変わるっていうことは大事なポイントだよね。

でも、うちらは自然から切り離された教育をずっと受けてきて、「人間と自然」っていう言い方を当たり前に使っている。その切り離された世界観の中で、「地球コクリ!」はつながりの世界観を生み出そうとしている。めちゃめちゃ難しいことをやってるんだよね。

本当に自分が求めている変化を生き始めること

海さん 社会を変えていくときにまず必要なのは、ジョアンナ・メイシーの言う「待ったをかける」ということで、仕組みの中で起きている破壊的な行為を止めないといけない。

その上で、自分が理想と思っている現実を体現するとリアリティが出る。

だから、“本当に自分が求めている変化”を生き始めることだよね。言葉で人を説得しようとするんじゃなくて

海さんの話は、実際にジャングルでお金を使わずに暮らしたという話をはじめとする実体験にもとづいているのでリアリティがある

海さん それと、うちらは子どものころから概念をいっぱい植えつけられてるから、そのことに気づいてちょっとずつ変えていかないといけない。たとえば、「この世の中は弱肉強食だ」って信じている限り、社会の制度をいくら変えたところで元に戻っちゃう。

意識を変えるだけでは世の中は変わらない。生活だけ変えても、社会だけ変えても、やっぱり世の中は変わらない。だから、いろんなレイヤーであれこれやる必要があるんだけど、その根源に必要なのはパワフルなストーリーだよね。

「経済成長をし続けないといけない」っていうのは結構強いストーリーだったから、それをみんな信じてきたけど、それよりもっとみんなが信じられるようなパワフルなストーリーを、うまく広げていく必要性があるんだと思う。

3.5%の人が新しいストーリーを信じれば社会は変わる

海さん 今回、陽さんがつくる映像を観た人に動いてほしいわけだよね。

陽さん そうですね。ただ「ああ、いい映像だ」って感想を持って終わるんじゃなくて、その新しいストーリーを自分のものとして動き始めてほしいな

海さん 実は、“社会を変える”ということを考えたとき、必ずしも全員が動き出す必要はないらしい。というのは、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスの研究に、「その社会の3.5%の人が新しいストーリーや変化を信じて活発に働きかけると、社会は変わる」っていうものがあるんだよね。

巨大すぎるグローバル経済を変えられないって思うのは当たり前だけど、たった3.5%の人が変われば社会は変わるんだよ。まさに今、新型コロナウイルスが世界的に流行したことをきっかけに、おそらく多くの人たちは、これまで自分たちが信じてきた「経済成長をし続けないといけない」というストーリーに疑問を抱き始めて、変わろうとしている。そういう人たちが、新たなストーリーを生き始めたら社会は変わるよね。それが僕にとっては今、希望になってる。

愛さん もう動き始めている人は3.5%いるかもね。

海さん うん。おそらく3.5%以上いると思うんだけど、まだ“共通のストーリー”が足りない。反対しているものは共通にあって、何が嫌なのかはわりと明確になっているけど、「何がいいのか」っていう具体的な共通のビジョンがまだないんだよね。

反対することは大事だけど、それは新たな世界をつくるパワーにはならない

まだ、みんなが求めるパワフルなストーリーを具体的に描けてないから、持続可能な社会とかSDGsぐらいまでは目指せるけど、それが成り立った美しい社会で、どんな暮らしが営まれ、どんな政治や経済が成り立つのかっていうところまで共有できていないんじゃないかな。

だから、もしかしたら地球コクリ!の存在は、パワフルなストーリーをいろんなところから編んでいって、「こんなに美しい世界が可能なんだよ」っていうのを提示するものかもしれないね。

(対談ここまで)

『Re-member』をつくるにあたり、人間と自然の関係をどう描くか、について悩んでいた陽さん。この対話を通じ、「“人 対 自然”ではなくて、“人も自然”」という、最終的にこの映画の大事なメッセージにつながる、大きなインスピレーションを得られたといいます。

『Re-member』を観た人が、新しい世界をつくるために一歩ずつ動き始めるかもしれない。地球コクリ!は、そんな希望を胸に、世界へと視野を広げています。

デンマークでは、ヨーロッパ諸国、ジンバブエ、アメリカ、オーストラリア、アジア諸国など、世界中のsocial changeのファシリテーターたちが集まる場で上映会を開催。「この映画を作ってくれてありがとう」と感謝され、「自国の言語に翻訳したい」という声も挙がった

インドネシアでは、Design For Change(DFC)のパートナースクールSDIT AI-Hidayahにて全学年200人に試聴会が開かれました。試聴後は、荒れた学校の庭を綺麗にする(2年生)、野菜を育てる(4年生)、環境問題に関するアート展示を行う(6年生)などのアクションが行われた

多言語版、幼児向け・児童向け・学生向けのナレーション版、映像・音楽のみなど、さまざまな年代、環境の方にご覧いただけます。まずはぜひ公式サイトをご覧いただき、8分間の『Re-member』の世界をじっくり味わってください。

– INFORMATION –

「地球コクリ!」サイトリニューアル!
8分間の短編アニメーション『Re-member』を無料公開中

『Re-member』は日本中、世界中のさまざまな国・世代の人たちと、この世界観をわかちあい、共に動き、すべてのいのちがいかされあった社会をみんなで創っていきたい!という願いのもと、さまざまなバージョンを制作し、映画を無料公開しています。

現在は日本語、英語、スペイン語、フランス語の4カ国語で展開していますが、日本、そして世界で『Re-member』を広めていくなかで、デンマーク、スウェーデン、ジンバブエなど、さまざまな国で自国語に翻訳して広めたいという声が挙がっています。インドネシア語も完成しました!

また、幼児向け・児童向け・学生向けのナレーション版、映像・音楽のみなど、さまざまな年代、環境の方にご覧いただけるようにしています。上映・活用したい方がいらっしゃいましたら、公式サイトをご覧ください。

Re-member公式サイトはこちらから!

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(画像提供:地球コクリ!)
(編集:村崎恭子、廣畑七絵)