「人間って地球にとって本当に”悪者”なんでしょうか?」
これは、映画監督・古波津陽(こはつ・よう/以下、陽)さんの言葉です。
三田愛さんを中心に展開する、「すべての生命体と根っこでつながる」といった「地球コクリ!」の考え方を世界中に広げ、仲間とつながるためにつくった映画『Re-member』。その監督を務めた陽さんは、映画をつくる過程でこんな疑問を抱きました。絵コンテを描いて内容を詰めていく中で、地球と人間の関わりというところに疑問が生まれたのだといいます。
この問いへのヒントとして、「パーマカルチャーの考え方が役に立つのでは」と考えた愛さんは、陽さんやグリーンズ共同代表の鈴木菜央など、地球コクリ!を考える仲間と一緒に、「東京アーバンパーマカルチャー」創始者のソーヤー海さんにお話を聞きにいくことにしました。
時間は映画の公開前に遡りますが、今回は、映画『Re-member』の製作に影響を与えたソーヤー海さんと陽さんたちとの対話をお届けします。もしかすると多くの人が抱いているかもしれないこの問いに、どんな答えを出せるのでしょうか。

右から、ソーヤー海さん、三田愛さん、鈴木菜央
共生革命家。東京アーバンパーマカルチャー創始者 1983年東京生まれ、新潟、ハワイ、大阪、カリフォルニア育ち。カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校で心理学、有機農法を実践的に学ぶ。2004年よりサステナビリティーの研究と活動を始め、同大学で「持続可能な生活の教育法」のコースを主催、講師を務める。元東京大学大学院生。パーマカルチャー、非暴力コミュニケーション、禅、ファシリテーションのワークショップを行ったり、気候変動活動x若者のエンパワーメントを海外からの依頼・支援を受けながら楽しく活動している。自称活動オタク。より愛と平和のある社会を自分の生活で実践しながら、社会に広めている。
1973年、東京生まれ。グラフィックデザイナー、ショートフィルム製作を経て、2009年に段ボールで25mの城を建てる戦国武将の物語『築城せよ!』(主演:片岡愛之助)で長編デビュー。
密室スリラーの『JUDGE』から、『beポンキッキーズ』などの子ども番組、福島を記録し続ける「1/10 Fukushimaをきいてみる」シリーズ10部作など、ジャンルを超えて作品を生み出している。
自然界には“正しい”とか“間違っている”という概念はない
陽さん 今回の映像をつくることになって、まず、心の底で感じていることと、今自分がやっていることとの間にすごい距離があるんだって気がついて。
自然の中で暮らすことの気持ちよさは、僕も子どもの頃から感じてきました。でも、今の自分はどう生きているかというと、映画を制作するのに莫大な電力を使っていたり、1回きりしか使えない映画のセットを作っては廃棄処分することを繰り返していたりしている現実があって。
映画の現場では、そういった制作のあり方に疑問を持つ人も少ないし、自分自身も解決策がまったく見えずにいます。その現実と向き合ったときに、次に浮かんだ考えが「何か解決方法あるんだったら知りたい」ということでした。
今つくっている映像は、こんな流れです。
生態系から外れてしまったところで、暴走している人間。困っている生きものたち。その生きものたちの会議に人間も加わりたい。だけど、加わるためには、人間の特技が生きものたちと歯車のようにかみ合って、何か素敵なもの、新しいものを生み出さないといけない。それをやり始めるところまでが、この物語で描きたいなと思っているところなんですね。

絵コンテ。人間が地球環境を破壊する悪役として登場する
陽さん 僕がこの絵コンテを書きながら悩んでるのは、人間は本当に悪役としてしか登場できないんだろうか?ということなんです。人間を悪役として登場させて、ほかの生きものと喧嘩して仲直りするっていうのは、物語としてすごくやりやすい構図なんですけど、どういう仲直りの姿があるのかもまだ見えなくて。
あるいは、「“悪者である人間”と“人間以外の生きもの”」っていう構図以外の可能性はないのかなと。
人間から見ると、「自然を愛でる」って言うけれども、逆に自然が人間を愛でる瞬間ってどんなときなんだろう。
それがわかれば、生きものと人間の仲直りと、その先にある生きものと人間が一緒になって物事を進めて生み出していく図を描けるんじゃないかなと思うんです。
「地球にやさしい」ってどういうことなのか、どうやったら人間が地球に認めてもらえて、人の存在を素敵だと他の生きものたちに思ってもらえるんでしょうか。
海さん 僕は娘が生まれて気づいたことがたくさんあって、そのうちのひとつが「娘は“動物”なんだな」ってことだったんだよね。娘は僕らみたいに“知識”と“概念”の世界で生きていない。他の動物と同じような状態で生まれてきて、まずは「とにかく食べ物!」みたいなさ。
さらに、屋外で遊ばせていると、土を食べたりもする。大人はそんなことしないんだけど、自然育児の世界観だと、その行為は微生物を体に取り入れてるっていうことらしいんだよね。
生まれたばかりの子には、“正しい”とか“間違っている”っていう概念もまだない。それは大人になるまでに社会とか親から教わるもので、人間界にしかないものだよね。自然界には“正しい”も“間違っている”もない。ただ在る、みたいなことだけで。
自然界には「命が循環する」ということ以外に意図がない
陽さん そうすると、人間がほかの動物たちと同じテーブルについたとき、担う役割ってあるんでしょうか。あるとしたら、どんなことになるんでしょう。

『Re-member』より、いろんな生きものが集まり対話をするシーン
海さん 人間の役割ってなんだろうね。そこはまだわからないけど、人間界から見たときと自然界から見たときで、全然違う景色がある気がしていて、そもそも、その問い自体が人間界の問いだなっていう感じがする。
自然界には、「命が循環する」っていうこと以外に意図がないんじゃないかな。
「地球を救わなきゃ」ってよく言われるし、自分もそう思ってたけど、別に地球は人間が“救う”必要はないんじゃないかな。破壊が終わったらまた再生するから「地球は大丈夫」っていうね。
菜央 地球は、人間に傷つけられていることに、怒ってさえもいないんじゃないかな。
すごく不思議なのは、人間だってほかの動物みたいに、そのままでいるっていう道もあったと思うんだけど、そうはならなかったわけだよね。そもそも人間に認知革命が起きて、目に見えない概念の世界を持つようになったことも不思議だし、その結果として、自然から生まれた人間が、自然自体を脅かす状態にまでなるっていうことも不思議。
それってなんでだろうと考えてみると、人間が認知革命に至ったことすらも“自然からのギフト”なんじゃないかなって思ったりもする。今、地球がぶっ壊れるほどの力を持つに至ったことも、本当は地球からは赦されているじゃないかなって。
最終的には、人間が地球の限界を目の当たりにして、制限があるからこそ創造的に次のあり方に進化していく必要があるんだと思う。それを地球に「やってみなさい」って言われているような感じなんじゃないかなっていうのが僕の解釈なんだよね。
自然界の中で人間は中学生のような存在
菜央 僕は、人間って地球にとって中学生みたいな感じなのかなと思っていて。
子どもの頃って、親に全力でぶつかっていっても、親の方が断然強いじゃん。でもあるとき、自分が全力でぶつかったときに、お母さんが怪我をしちゃったりするんだよね。で、僕の力を使ったらこうなるんだっていう気づきを得る。地球環境と人間って、なんかそういう感じなんじゃないかな。
すごいパワーを手にして、いろんなことができるようになったんだけど、その状況をととのえてくれた親を傷つけるほどの力、つまり、自分を支えているシステムに対して影響を与えるほどの力を持ってしまったのが今の人間なんだと思う。無限にあると思っていたものが、本当はそうじゃなかったことに気づいて、「じゃあ、どうやって生きていったらいいんだろう」と模索しているような段階なんじゃないかな。
陽さん 「どこまでやれるか、行き着くとこまで行ってごらん。そうしないとわからないだろうから」って、人間は今、地球に試されてるみたいな感じってことかな。
菜央 そういう解釈もあるんじゃないかな。
海さん うん、地球は優しく見守ってくれてるって感じだよね。
新型コロナウイルスとか気候変動とか、日本の場合は自然災害が多いことについても、いろいろ捉え方があると思うんだけど、僕の中では地球の思いやりというか、好意的な感じがしてる。
「このままだと大変なことになるよ」って優しく伝えても、経済成長とか、テクノロジーの発達に心を奪われた人間には伝わらないからさ。スペイン風邪や、最近だと新型コロナウイルスみたいに、世界的な感染症の脅威や大規模な自然災害で歩みを止めざるをえなくなったときに、人間はやっと「今のまま走り続けたら、子どもたちの未来はないかもしれない」っていう気づきを得るんじゃないかなって僕は思ってるのね。
菜央 今、人類全体の構造としては、「自分たちの行いが地球を破壊している」ということに気づいて学んでいくプロセスにあるんだと思う。だから、そのことに先に気づいた人から、事例研究を進めておいて、どうすればいいのかがわかっている状態になっておければいいのかなって思ったりもしているんだよね。
自分は大きな海の波のひとつ、というつながりの感覚
海さん うちらはさ、SNSとかのつながりはあるけど、もっと根源的な「自分は大きな海の波のひとつなんだ」っていう、つながりの感覚を失っていて、その穴埋めを必死にしようとしているんだと思う。どうやってつながりを取り戻すかっていうのを、人間は探してるんじゃないかな。
“僕”っていう波は海の一部であって、海から現れて海に還る存在だから、隣の波と競っても意味がない。そういう感覚を僕は持っている。
菜央 ちょっと違う話かもしれないけど、太陽は膨張していて、最終的に何億年後かに地球は飲み込まれるらしいんだよね。そのときに、地球上のあらゆる命のつながりっていうのも、まとめて同時に終わりが来ることになる。
人間の一生に終わりがあるように、地球という家を共有している生物種の大いなるつながり全体にも終わりがある。
それを知ったときに初めて、何かこの大きなつながりの中に自分がいるし、いろんな生きものに対して、仲間なんだって感じた。
人間って、終わりを意識すると今をどう生きるかについて真剣に考えるよね。だから終わりがあることは素晴らしいことだなと思う。
生があるから死がある、死があるから生がある。
海さん そうだね。自然の中で暮らしたり農業をしたりしていると、目の前で常に生と死が起きてる。だから死ぬことは自然っていうか。僕も死んだら、いずれは微生物の餌になるわけじゃん。そう考えると、自分はどこから始まってどこで終わるんだろうっていう境界線が曖昧になっていく。
人体には細胞の数より微生物の数が多いっていう研究があるんだけど、体にはいろんな微生物がいて、それらを切り離したらもう僕じゃないし、結局死んだら違うものの栄養になる。僕のエネルギー、物質のエネルギーが微生物とかにいっぱい入って、その微生物を虫が食べてその虫を鳥が食べて…と、始まりも終わりもない。
人間は常に呼吸して生きているけど、この酸素を供給してくれているのは森と海にいるプランクトンだよね。だから、実は呼吸をするだけで森と海と常につながってるんだよ。それは東京の地下にあるオフィスで、自然のかけらもみえないような環境で一日中働いていたとしても同じ。
そして、呼吸を通して“今ここ”に戻ってくることができる。未来とか過去とかっていう概念の世界じゃなくて、“今ここ”に。
こうやって、言葉にして概念を扱うように話すと不思議な感じがするんだけど、自然の中にいると当たり前すぎて、ただみんなそれぞれの営みをして、形が変わるだけみたいなさ。その視点で物事を見ると、何が起きても安心感がある。
陽さん なるほど。ここまでのお話を聞いていて、物語をつくるときに自然を擬人化して描くっていう発想はすごく人間的だったと思った。
人も自然で、その大きな営みの中に入っているし、“入る資格”なんて考えるまでもないんだね。役割を果たさなきゃいけないっていうプレッシャーを感じる必要もない。だって、自然はそれを求めていないし、あとは、そこに自分が戻るかどうかだけだから。
人も自然の一員であること、“人間の役割”にこだわる必要はないことーー。対話の中で、陽さんの疑問も少しずつほぐれてきたようです。では、この映画は人びとにどんなメッセージを伝えていけばいいのだろう?対話の後編で、陽さんはさらに映画づくりのヒントを掴んでいきます。

三田愛(さんだ・あい)
「コクリ!プロジェクト」創始者/株式会社リクルートじゃらんリサーチセンター研究員 兼 サステナビリティ推進室/英治出版株式会社フェロー
集合的ひらめきにより社会変容を起こす「コ・クリエーション(共創)」の研究者。現在は自然と人間の分断を超えた共創をテーマに「地球生態系全体のコ・クリエーション(地球コクリ!)」の研究に取り組む。田んぼに囲まれた千葉いすみでの暮らしを経て、現在は東京と千葉鴨川の二拠点生活。書道家(師範)として世界遺産花の窟神社(熊野)や日本遺産出羽三山神社にて書道奉納や、世界中でパフォーマンス書道を行う。華道・古流松麗会師範。米国CTI認定プロフェッショナル・コーチ(CPCC)。内閣官房、国土交通省、経済産業省など官公庁での各種委員を歴任。
– INFORMATION –
8分間の短編アニメーション『Re-member』を無料公開中

『Re-member』は日本中、世界中のさまざまな国・世代の人たちと、この世界観をわかちあい、共に動き、すべてのいのちがいかされあった社会をみんなで創っていきたい!という願いのもと、さまざまなバージョンを制作し、映画を無料公開しています。
現在は日本語、英語、スペイン語、フランス語の4カ国語で展開していますが、日本、そして世界で『Re-member』を広めていくなかで、デンマーク、スウェーデン、ジンバブエなど、さまざまな国で自国語に翻訳して広めたいという声が挙がっています。インドネシア語も完成しました!
また、幼児向け・児童向け・学生向けのナレーション版、映像・音楽のみなど、さまざまな年代、環境の方にご覧いただけるようにしています。上映・活用したい方がいらっしゃいましたら、公式サイトをご覧ください。
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(画像提供:地球コクリ!)
(編集:村崎恭子、廣畑七絵)