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政治に社会変革のすべては期待できない。でも声を上げることは無駄じゃない。民衆の声に包まれるポップアップ投票所「Boards of Change」に学ぶ

人種や性などの差別。
新型コロナウイルスのパンデミック。
ロシアによるウクライナ侵攻。

この数年に私たちが目にし、体験してきた社会課題は数多くあります。

もちろん、このような世界規模の大きなトピックだけではありません。

日々の暮らしのなかで感じる残念なこと、改善したいこと、より良くしたいと感じることも社会課題ではないでしょうか。それらひとつひとつを解決していくことが、多くの人びとが穏やかに健康的に暮らせる世の中の実現につながると思うのです。

その解決のために、私たちができることはさまざまありますが、社会の変化を願い、政治や経済の中枢にいる人びとへ声を届ける「投票」は、とても重要な社会変革のアプローチのひとつといえましょう。

しかし、総務省の調査によると、2021年の衆議院総選挙の投票率は55.93%。第二次世界大戦後の投票率を振り返ると、1958年の76.99%をピークに、特に平成以降の低下が顕著になっています。

選挙だけが社会を変える機会ではありませんが、私たちの願いを届けるチャンスをうまく活用できていない歯がゆさを感じるのは私だけでしょうか。

モヤモヤを感じていた私が出会ったひとつの事例があります。それが「Boards of Change」という、アメリカ中部の大都市、シカゴで行われたキャンペーン。

街中に登場するのは、多彩な木製ボードでつくられたポップアップ投票所です。各ブースに設置されたQRコードを読み取ってウェブサイトにアクセスするだけで、スマートフォンから簡単に選挙に参加することができます。

アメリカでは人種に限らず投票権が与えられていますが、投票所に足を運んで自分の声を社会に届けることに積極的になれない人も多い様子。政治が自分ごとに感じられなかったり、政治家に社会変革を期待していないことが背景にあるようです。

とはいえ、社会課題の当事者たちによる変化への願いは、あちこちで可視化されてきました。記憶に新しいのは、2020年、George Floyd氏殺害をきっかけとした#blacklivesmatterや#blackouttuesday運動です。

これらのデモが行われたとき、人びとが正義と団結を訴えるメッセージを書き込み掲げるために、そして店舗をバリケード封鎖するために、多くの木製ボードが用いられました。それを利活用して製作された簡易投票所を、アートインスタレーションとして、そして社会活動の一環としてシカゴの街なかに設置したのが「Boards of Change」なのです。

「変化のためのボード」と訳されるわけですが、“Boards”という言葉にはデモ当時の「木製ボード」という意味だけでなく、「変化をここから共に始めよう」という団結のメッセージも込められているのだそう。

社会に対する不満や怒りや痛烈なメッセージを含んだ作品として表現し発信する。

何かに異を唱えるプロテスト活動に使われたエネルギーをいかして、未来をつくる現場へ若者やマイノリティを招き入れる。

このふたつをゴールに設定した「Boards of Change」は、街なかに設置されたインスタレーションのインパクトもあって、SNSでの投票喚起が広がり、シカゴ圏内に住むマイノリティたちの投票のための登録、および投票の増加をもたらしたそう。

「投票してもどうせ変わらない」という諦念を抱きがちな人びとに、「選挙で何か変化が生まれるかもしれない!」とマインドシフトを起こすことができたようです。

ボードの再利用によりつくられたので、各ブースに書かれているメッセージも多種多様に。この写真に写っているのは「LOVE EACH OTHER(お互いを愛し合おう)」だとか「JUSTICE AND UNITY(正義と団結が大事だよね!)」といったポジティブなものが目立ちますね

このキャンペーンのクリエイティブ・ディレクターをつとめたJustin Enderstein氏は

Black Lives Matterが盛んだった当時、人びとの訴えや願いが捨てられてしまったわけです。なにかに反対するというネガティブな感情を大事にしつつも、それをいかに変革に翻訳するか。そのための道具や仕組みが必要なのだと思い、このキャンペーンを行いました。

と話します。

人種差別や暴力を「なんとかしたい!」という強い願いが捨てられるのでなく、アートとして、未来づくりの現場、投票所で活用される。人びとのエネルギーやパッションが受け継がれた空間で投票することで、国の今後を決める選挙に対する意識も大きく変容しそうですね。

政治だけで、劇的な社会変革を起こすことは難しいかもしれません。「Boards of Change」が気づかせてくれるのは、私たちが違和感や願いについて声を上げるのは無駄ではないということ、そしてそれをあらゆる場で訴え続けることの大切さです。

それらを人びとに感じてもらうために、アーティストたちが自分のできる創作で、民衆の声を伝承し投票を喚起したという貢献に、私は感銘を受けました。

アメリカでは手続きを的確にすませば、登録されたあらゆる店舗や施設で投票できます。実際、私がカリフォルニアに住んでいたとき、行きつけだったレコード店が投票所になり、店内では音楽談義を入り口にしつつ、誰に投票すればいいのだろうと話し込む人びとの様子を見かけました。

もし日本でも「ポップアップ投票所」がOKになったら、あなたはどんな場をつくりますか?

(企画: 丸原孝紀)
(編集・校正: greenz challengers community、廣畑七絵)

[via chicagotribune]

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