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夜の川にもぐったら真のサステナビリティが見えてきた。岐阜・郡上市の「源流遊行」から学ぶ、命が喜ぶ暮らし方

大型台風の襲来、猛暑日の増加など相次ぐ異常気象……。近年暮らしの中でも気候変動の影響を如実に感じるようになりました。

IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は2021年8月、「産業革命前と比べた世界の気温上昇が2021〜40年に1.5度に達する」と公表。また、人間の活動が温暖化に影響を与えたことは「疑う余地はない」と断定し、二酸化炭素の排出を実質ゼロにする必要性を訴えています。

※参照:IPCC第6次評価報告書 第1作業(AR6 Climate Change 2021:The Physical Science Basis

こうして数字を羅列してみると、日頃「自らの行動一つひとつから世界は変わっていく」と信じていたとしても、その問題の大きさに途方もなさを感じてしまうかもしれません。私もそんな一人です。

「サステナビリティ」が重視される昨今。脱炭素やサーキュラーエコノミーに注目が集まりますが、こうした取組みは真のサステナビリティに向けて歩めているのでしょうか?

そんな時、一般社団法人長良川カンパニー岡野春樹(おかの・はるき)さんが声をかけてくれました。

真のサステナビリティは、人間が自然や地球をコントロールしようとする考えを抜け出さないと実現しないと思います。郡上の『源流遊行』を体験しに来ませんか?

素晴らしいタイミングでのお誘いに「ぜひ!」と即答。いざ岐阜県・郡上市へ向かいました。(※取材は2021年夏に実施しました。)

水と共に生きるまち、岐阜県・郡上市

名古屋駅から高速バスで1時間45分。岐阜県・郡上市は、本州の真ん中にある岐阜県の、そのまた真ん中にある山に囲まれたまちです。南は濃尾平野から北は白山連峰まで、海抜100mから1800mと起伏に富んだ地形が特徴的。面積のうち約9割が森林を占めています。

また郡上市は長良川の上流に位置し、奥美濃の山々から流れ出た吉田川、小駄良川などが流れ、古くから人々の生活と共に清流の文化が育まれてきた土地でもあります。

まちを散策すると、郡上の人々が水と共に生きていることがわかる暮らしの一部を垣間見ることができました。その一つが、水舟です。

水舟は湧水や山水を引き込んだ二槽または三槽からなる水槽で、上段から飲用水、食べ物を洗う水、食器を洗う水と用途に分けて使われています。食べかすなどはそのまま池に流れ、飼われている鯉や魚のエサになる仕組みだそう。

上下水道が発達した現代においても、郡上の暮らしの中に水舟が当たり前のように存在し、循環のサイクルが守られていることに、まず驚きました。

「源流案内人」と共に、川で遊ぶ

今回案内してくれるのは、お誘いしてくれた一般社団法人長良川カンパニー岡野春樹さんと、河童の異名を持つ由留木正之(ゆるき・まさゆき)さん。二人は、2020年に立ち上げた長良川カンパニーで活動しており、特に由留木さんは、長良川源流域の風土を愉しみ、いのちよろこぶ出逢いを提供する「源流案内人」として活動しています。

左:由留木正之さん、右:岡野春樹さん(撮影:tomoyuki shimoda)

「源流域の遊びをいろいろご案内しますね!」と岡野さんに言われるがまま車に乗り込み到着したのは長良川最大の支流、吉田川。「まずは川に慣れましょう」と誘われ、ウェットスーツに着替えて、淵に向かいます。

仰向けになって上流から流れてみると気持ちいい!

シュノーケリングをつけて川の中を覗いてみると、驚きと発見に満ちた世界が広がっていました。川底まで見通せる透明度の高い川には、鮎やチチコ(カワヨシノボリ)などの魚が住み、水草や苔がゆらめいています。

川の外側から見ているだけではわからない、豊かな世界が広がっていることに大興奮。

川に馴染み、川遊びの楽しさに気づきはじめたところで、魚を捕る体験に移りました。川底や岩に止まっている魚を狙って、上から小さな網をかぶせて捕まえるのですが、これがけっこう難しい。流れに負けないよううまく身体を使いながら、何匹がゲットすることができました。

魚を捕れた喜びを噛み締めていると、遠くから「捕った〜!」と興奮した声が聞こえてきました。なんと由留木さん、鮎をゲット。さすが、河童の異名を持つだけあります。

捕まえた鮎を見せてくれる由留木さん。

由留木さんが使っているのは「イカリ」という道具。4本のイカリを鮎にひっかけて捕まえるので、「モリ」で突くよりも傷の少ない状態で捕れるそう。

2時間ほど川遊びを楽しんだあとは河原で焚き火をして、チチコは天ぷらに、鮎は串焼きに。楽しくて、おいしい川遊び。郡上に到着してまだ数時間ですが、川に入る文化の残る郡上の暮らしがとても豊かに思えてきました。

伏せ網で捕ったチチコをその場で天ぷらに。さっきまで目の前の川を泳いでいた魚をいただきます。命の循環に感謝する気持ちが湧いて、自然と「いただきます」と言葉が出ました。

真っ暗闇の中で魚を捕る!?はじめての「夜イカリ」

夕飯を食べたあと、今回のメインとなる「夜イカリ」を体験するため再び川に向かいます。あたりは真っ暗。その中で鮎を捕るというのです。

イカリは昼間もできるのですが、魚が眠っている夜の方が捕りやすいことから、漁に出るのは夜が中心。郡上では「夜イカリ」と呼ばれ昔から親しまれてきました。

夜イカリの様子。懐中電灯で鮎の位置を確認したら、逃げられないようそっと近づきます。(撮影:玉利康延)

昼間とはまったく異なる川の表情。底の見えない川に恐る恐る足を踏み入れ、懐中電灯で水面を照らしながら、岩陰に隠れた鮎を狙います。

川に入ると、郡上のみなさんは瞬く間に鮎を捕っていきます。すごい!

夜イカリ初体験の私がいるからといって、手取り足取り教えるわけでもなく、側についているわけでもなく。でも、しっかりと安全を確保しながら見守ってくれている心地よい距離感。何より、郡上のみなさんが心から「夜イカリ」を楽しんでいること伝わってきて、「私も川の中で自由に動きたいし、あんな風に鮎を捕れるようになりたい」と憧れを抱きました。

イカリを使って捕った鮎。金色に輝く姿から、良質な川の水と藻を食べて育ったことがわかります。

焚き火を囲んでみんなで談笑。ついさっきまで川で泳いでいた鮎をじっくり焼いていただきます。あまりに贅沢な体験で、これ以上美味しい鮎を食べることは一生ないと思いながら、一口一口噛み締めました。

「懐中電灯で照らすと、鮎のお腹がキラッと光るからね」と鮎の見つけ方を教えてもらったものの、この日は鮎の姿を見ることすらできず……。翌日再チャレンジしてようやく鮎の姿を確認、鮎をゲットすることができました!

2日目の夜は、鮎を捕まえるために3時間も川に入りつづけました。だってどうしても、郡上のみなさんの気持ちに少しでも近づきたかったから。

こうしてはじめての「夜イカリ」は終了。川に潜る楽しさや自然と溶け合う感覚を存分に味わせてもらいました。

本当のサステナビリティの一歩は、“今ここ”にある風景に溶け合うこと

郡上の生活文化として根づく「夜イカリ」をはじめ、長良川源流域の遊びを自らも楽しみながら、郡上を訪れた人にも門戸をひらく活動をしているのが、前述した「長良川カンパニー」です。

ここからは岡野さんと由留木さんのお話も交えながら、サステナブルな生き方・暮らし方のヒントを探っていきます。

岡野さん 環境問題を考えたとき、あまりに大きな規模感に「自分に何ができるのだろう?」と絶望してしまうことも多いですよね。では僕たちはどうしていけばいいのか。一つの答えが、短い人生においても自分の命が喜ぶ感じをたしかにつなげていくことな気がしています。

雨音、川のせせらぎ、木の葉が擦れる音、鳥の声。たくさんの音に包まれてのインタビュー。(撮影:tomoyuki shimoda)

岡野さん 僕は命が喜ぶ感じは、自分が見ている景色の中からしか立ち上げられないと思っています。そのために大切なことは、委ねること。自分だけでなんとかしようとしないことです。

委ねる、とはどういうことでしょうか?

岡野さん 例えば、北川さん(筆者)に「夜イカリ」を体験してもらった日は、雨が上がってから数日経った後で、鮎が集まって川にいる状態がありました。はじめてなのでわからないと思いますが、絶好の漁場ができていて僕らはとても興奮していたんです(笑) また、9月下旬にもかかわらず例年よりも暖かくて川に入りやすい気候でしたよね。

そういうのって人間がコントロールすることはできない。スケジュールを立てたとしても、その通りになるかはわからない。自然の圧倒的なエネルギーがあります。

命が喜ぶ感じは日常の中にもある、と岡野さんはつづけます。

岡野さん ご近所におしゃべり好きのおじいちゃんがいて、ふらっと家に寄ってくれることがあります。しかも仕事で忙しい時に限って来てくれる(笑) そんな時、僕は「うぐぐ」と苦しみながらも、やっていた作業を終了し、おじいちゃんにコーヒーを出して話を聞いたりします。

話を聞いて気づいたのは、その時々の景色や時間帯でしか受け取れない話があるってこと。

ある日、おじいちゃんが僕の家から見える広葉樹の山を見て思い出した話をしてくれたんですが、広葉樹の山でも50年に一度くらいは間伐をしていたというんですね。これは集落の山を守っていく上で、とても大切な情報です。そのときおじいちゃんは、ただ思い出話をしているのではなくて、今一緒に見ている風景から立ち上がってきた記憶を、身体を通して伝えようとしてくれているんだなと。その神々しさたるや。今これを受け取らずして、何ができんねんって思いましたね。仕事は進まなかったですが(笑)

岡野さんの家の近くの風景。黄金に輝く稲穂と山々が美しい。

岡野さん サステナブルは命の喜びの連続の延長線上にあることを、僕は郡上の暮らしで学びました。

だから今日は鮎がたくさんいるとか、おじいちゃんが来たとか、そうした突発的なことに対して、いかに俊敏でいられるか、いい感じで力を抜いていられるかっていうのが大事だなと。

一瞬一瞬の喜びにどれだけパッと溶けられるか。

それができる状態を保っておくことが、サステナブルってことだと思うんです。これがまた難しいんですけどね(笑)

そうした経験を踏まえて、岡野さんは「サステナブルという言葉は人間が自然や地球をコントロールしようとしている」と指摘し、「リジェネラティブ(再生型)」の考え方に賛同しているといいます。

岡野さん リジェネラティブは、互いの命が響き合う、喜び合う状態を今よりもさらに増やしていくこと。今この瞬間、誰の命が喜んでいるかを考えて行動することが大事な気がしています。

「夜イカリ」はまさに命の喜び感じを得られるアクティビティ

岡野さんの話を受けて、「僕らが伝えたいことを最も含んだアクティビティが夜イカリである」と由留木さんはつづけます。

源流遊行のみなさんの秘密基地にて。

由留木さん 地元の子ども達が小さい頃から川で遊んで、最後に獲得するのが「夜イカリ」の能力です。川に慣れて力が抜けると、川の水と自分の体内の水がシンクロしはじめるっていうのかな。視野が広がり、魚が見えて、体の使い方がわかるようになるんです。

言語化されていないけど、そうした共通言語を郡上の人は持っていて、生活文化として当たり前のようにあります。「今日飲みに行こう」ってレベルで「今日捕りに行こう」って(笑) 宝なんだよな、この文化は。

「夜イカリの文化は宝だ」と言う由留木さんですが、実はたまたま流れ着いた移住者。川原でソロキャンプをするうちに、地元の人と仲良くなり、気づけば郡上の自然の虜になってしまったそう。

由留木さん 郡上に住んで30年が経ちますが、いまだに楽しいこと・面白いことがどんどん出てくる。でっかい玩具箱をね、子どもがひっくり返している感じなんです。奥から奥から、新しいおもちゃがどんどん出てくる。

由留木さんが吉田川の下流から上流へ辿って見つけた、吉田川のはじまりの地。長い時間をかけて大地から滲み出てきた水が集まって、川になっています。

自然の遊びの楽しさを由留木さんに教えたのは、川や森に精通した師匠たちでした。師匠の教えは、いわゆるアウトドアとはひと味違った世界に、由留木さんを連れていきます。

由留木さん 「夜イカリ」って遊びだけど、ひょっとしたら帰ってこられなくなる可能性もある。そうした一面を持ちながら魚と対峙するんです。安全に守られていて、ただ楽しさだけを抽出した遊びではない。人間もリスクを背負った自然と対等な遊びです。深度のある遊びをしていたら本当の自然の姿が見えてくる。そんな遊び方がいいと思うんですよ。

由留木さんは「夜イカリ」を入り口に川や森にも関心をもち、今ではキコリとしての活動や狩猟も行います。それぞれに師匠がいて、多様な視点から物事を見ることができるようになったそう。

師匠に出会うことともう一つ、由留木さんが大切だと考えるのが時間スパンです。「夜イカリ」も、漁法やタイミング、時期など脈々と受け継がれてきた知恵があり、今を生きる私たちは意識せずともその恩恵を享受しています。同時に、時を積み重ね、多くの情報を知っているからこその楽しみ方が自然にはあると。

由留木さん 毎年川に潜っていると、「今年の鮎は細いな」と気づくことがあります。川を見渡すと例年より砂が多くて、鮎が苔を食べる時に砂を被ってしまい餌を食べられないのかもしれない……と推測することもできるんです。

鮎を通して川の変化に気づく、遊びで自然全体が変わっていることに気づく。郡上の暮らしには、そうした遊びが織り込まれているから面白いんです。

師匠に出会い、風土と一体となる入り口「源流遊行」

岡野さんと由留木さんの話から、命の喜ぶ瞬間を大事にすることがサステナブルな世界をつくる第一歩であること、そして自然と対等に関わる遊びは、命の喜ぶ感覚を共通言語として得やすいことがわかってきました。そのためには、どうやら師匠との出会いが欠かせないことも。

とはいえ、「たまに郡上に来るだけでは師匠に出会えないですよね」とつぶやくと、「そういう人こそ郡上に来てほしい」とすかさず答えが返ってきました。

由留木さん 僕らがこれから取り組む「源流遊行」はまさに師匠に出会える仕組みです。

(撮影:tomoyuki shimoda)

岡野さん 「源流遊行」とは、源流での命が喜ぶ遊びを僕ら自身も地元の人から学びながら、外から来る人と一緒にする活動の総称です。「夜イカリ」もそうですし、キノコや山菜を採ってピザをつくったり完熟堆肥をつくったり。僕らと外から来てくれた人と風土、それぞれの命が三者関係で喜び合うような活動にしていきたいと考えています。

今まで岡野さんのつながりで郡上を訪れた人の中には、「自分の源流感を取り戻す機会になった」と語る人も多いそうです。

岡野さん 仕事に息詰まったときに郡上を訪れ、風土に抱きとめてもらえたと言ってくれた人。
生きづらくてしんどかったけど、自分から湧き出てくる源流感を大事にしていいんだと気づいて涙を流した人。
彼らの姿から、僕らも源流域の役割を教えてもらいました。

僕は都市部の人とのつながりが強いので、由留木さんのような地元の人とのネットワークの結節点になって、命が喜ぶ機会を増やしてつなげていきたいんです。

由留木さん 僕は「源流遊行」をね、遊びながら自分の大好きな場所を守っていく、革命的な方法だと思っているんよ。外から来た人と遊べば遊ぶほど、郡上が、源流域が、きちんとお宝として次の世代に渡っていく仕組みなんやろなとワクワクしています。

「目の前にある『命の喜び』と溶け合うことが真のサステナビリティにつながるのではないか?」

岡野さんの提案は、途方もなく大きな問題に立ち向かう私たちにとって、大きなヒントとなるとともに、目の前にある日常を慈しむ素晴らしさを教えてくれるものだと思います。

生態系の中で人間が命を喜ぶ感覚を取り戻し、互いの命が喜び合う状態を生み出すことができたなら、「真のサステナブル」つまり「リジェネラティブ」な地球を保つことができるかもしれません。

そうした体験や学びを得られるのが、今回ご紹介した郡上の「源流遊行」です。いよいよ2022年も春の足音が聞こえてきました。「源流遊行2022 オンラインジャーニー」を皮切りに、自分自身の源流感や命を喜ぶ感覚を取り戻す本質的な旅に誘うプログラムが始まるので、ぜひ皆さんも郡上を訪れてみてください。

(撮影:haruki okano)

[sponsored by 一般社団法人長良川カンパニー]

– INFORMATION –

3/18〜20日Youtube Live配信!
源流遊行2022 オンラインジャーニー

記事に登場した由留木さんをはじめ、この源流域の水が肌に合い、住みついた案内人たちが、「遊行人」たちをいのちよろこぶ源流遊行にいざないます。

今回の旅は「代参」の旅です。感性・知恵・身体技を携えた個性豊かな8人が、皆さんを代表して源流域に参じます。彼らの旅の様子を通して、風土の愉しみかたを学ぶことができるでしょう。旅の様子はオンラインでリアルタイム配信するので、ぜひのぞき見してみてください。

●開催期間 「源流遊行」の旅 2022年3月18日〜20日(Youtube Live配信)
      オンライントークセッション 4月18日〜21日(zoom参加)
●参加費   無料
●会場    オンライン配信

3月18日〜20日に行われる旅は、申込みなしでのぞき見することができます(リアルタイムでオンライン配信)。
4月18-21日に4夜連続で行われるオンライントークイベントは、事前申込制となります。

詳細・申し込みはこちら

岐阜県の郡上市では、いのちのゆらぎを取り戻す「源流ワーケーション」を推進しております。詳細はこちらから