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個人と組織に「共鳴」を起こす。豊かな自然を愛する人たちが語る、北海道厚真町の「テロワール型ワーケーション」の魅力とは

あなたの暮らすまちや地元の魅力を伝えるとき、もしくは地方への旅行を考える際、「豊かな自然」を魅力にあげる方は多いのではないでしょうか。たしかに、日本は国土を海に囲まれた島国であり、森林率は約67%(林野庁)を誇るなど、豊富な自然資本に恵まれています。

しかしながら、「豊かな自然」がもたらす個人や組織への価値を紐解く機会は、そう多くはありません。

そんな中、まちのその豊かな自然に着目し、「テロワール型ワーケーション」と聞きなれないネーミングで都市部の個人や組織の受け入れを進めるのが、北海道厚真町です。

“テロワール”とは、ワイン好きの人ならご存知かもしれません。その土地の土壌、地勢、気候…そのような要素(テロワール)が揃ってこそ、美味しいワインができるのです。そんな意味をなぞらえて、この名を掲げている「テロワール型ワーケーション」。“厚真町”という土地は、どのような豊潤な“味”がするのでしょうか?

厚真町が提案する「テロワール型ワーケーション」のコンセプトは、「あつまのじかんと向き合う」。地域がもっている自然豊かな環境で過ごしながら、じっくりと自分と未来に向き合う時間をつくるところが特徴です。

2021年10月に実施されたモニターツアーには、株式会社フェリシモと人材開発事業を展開するウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社の選抜メンバーが参加。1泊2日のワーケーションプログラムを体験しました。

1日目のテーマは「自然との調和」。厚真の自然を巡り、地域の事業者に出会い話をしながら、ゆっくりと自分のスイッチを入れていきます。

2日目は「厚真の可能性を探る」がテーマです。自然と触れ合い弛んだ心身の状態で、厚真町の事業者や役場のみなさんと共に、「厚真町の魅力」を考えるワークに取り組みました。

ワークの様子

北海道厚真町のテロワール型ワーケーションの魅力を深掘りするシリーズ記事では、厚真町が提案するワーケーションについてご紹介しています。

第二回は「豊かな自然」の視点から、ワーケーションがもたらす個人と組織の変容について探っていきます。

お話いただくのは、2021年10月に実施された「テロワール型ワーケーション」のモニターツアーに参加した桜井肖典(さくらい・ゆきのり)さんと藤本靖(ふじもと・やすし)
さん。そして、厚真町の受け入れ側として関わった野々宮秀樹(ののみや・ひでき)さんと三浦卓也(みうら・たくや)さんです。

藤本靖(ふじもと・やすし)
環境神経学研究所代表、上智大学非常勤講師(ボディワーク・神経生理学)
東京大学大学院身体教育学研究科修了。大学では途上国の開発について学び、卒業後は政府系国際金融機関にて東南アジア、アフリカにおける政府開発援助(ODA)の業務に関わる。その日々の中で、人間の「心と身体の関係」という個人のテーマに出会い、大学院に戻り「神経系の自己調整力」について研究、ボディワークの専門家として「快適で自由な心と身体になるためのメソッド」を開発。現在は、自律神経系測定の機器開発に注力し、 ヘルスツーリズム、ワーケーションなどビジネスマンのセルフマネジメントに関する新時代のプログラム構築にとり組む。環境神経学研究所 https://www.neural-intelligence.company/
桜井肖典(さくらい・ゆきのり)
一般社団法人RELEASE; 共同代表、環境神経学研究所株式会社 取締役
2000年よりデザインコンサルティング会社を経営、様々な分野でデザインプロジェクトの企画監修を重ねる。2012年より持続可能性と事業性を両立する「未来が歓迎するビジネス」のデザイン組織としてRELEASE;を始動。「藝術と社会変革のあいだ」で経済活動をプロデュースする構想家として、社会の大きな物語を編み直す人文学的なアプローチと共創によるビジネスデザイン手法を軸に、大企業や自治体からスタートアップや非営利団体まで領域横断的なプランニングとディレクションを実践する。『Community Based Economy』呼びかけ、代表、京都市ソーシャルイノベーション研究所コミュニティ・オーガナイザー、京都経済センターオープンイノベーションカフェ『KOIN』ディレクター、長野県立大学ソーシャル・イノベーション創出センターアドバイザリー・メンバー。共著に『青虫は一度溶けて蝶になる』(春秋社)がある。
野々宮秀樹(ののみや・ひでき)
GOODGOOD株式会社 創業者
元配当受益権組成&流動化の専門家で、現在は畜産とお肉の価値流動化の専門家。 牧場経営とお肉の事業を開始。金融資本主義の世界に、文化資本主義のエッセンスを。GOODGOOD株式会社とは、事業開発&事業配当受益権流動化を専門にしていた野々宮が、資本の在り方の一部を、金融資本から文化資本へ変換してするために始めた事業会社。長期保有株主らと共に、物事を”Slow”に捉え、”最先端テクノロジー”を駆使して、”SocialGood”に取り組み直すことでイノベーションの余地が大きく生まれる事業領域に取り組んでいる。

三浦卓也(みうら・たくや)
株式会社フェリシモ 執行役員/ 株式会社hope for取締役
1976年生まれ 大阪府出身。株式会社フェリシモにて新規事業開発を担当する傍ら、総務省の「地域おこし企業人(現:地域活性化企業人)」プログラムを活用し2017年4月より3年間北海道厚真町に出向。地域資源と人材を活用した企業コラボレーションや商品開発に取り組む。北海道胆振東部地震発災から3ヶ月後の2018年12月6日、地域発で日本の希望を生み出す事業を支援するフェリシモの100%子会社「株式会社hope for」を現地に設立。ベンチャー企業への投資や地域の事業支援を行う。

「自分の軸」を取り戻し、価値創造するプログラム

野々宮さん 私は、20年ほど東京で投資の仕事に携わり、さまざまな事業開発を行ってきました。しかし都市は情報量が多いので、勝手に自分に情報の入力がある分、ついつい感度を高めることをさぼっちゃうんですよね。すると、本質的なクリエイティブ(創造的、独創的であること)は生まれにくいと感じています。

一方、厚真町は何にもないわけです。都市と同じだけの情報の入力欲求を満たそうと思うと、自分の感度を高めるしかない。そうした経験をしていただけるのが、厚真町のワーケーションです。太陽の日差しや土の匂いを感じるといった自然との触れ合いが、参加者に影響するんじゃないかと思います。

逆に僕たちは感度の高いものはつくれるんですけど、厚真町のような、都会と比べれてしまえば何もない場所で仕事をしていると、審美性やマーケット感覚がどうしてもおそろかになります。都市部の人が訪れてくれることで、磨き上げられた審美性を目の当たりにし、僕らのクリエイティブにも活かしていけると感じました。

野々宮さん

三浦さん たしかに。都市部から参加されたお二人はどうでしょうか?

藤本さん 1日目に訪れた浜厚真は、水平線と地平線が同時に見えるスポットです。「心と身体のバランス感覚をとり戻す」には絶好の場所ですね。平衡感覚は、人間にとってもっとも原初的な感覚の一つだと言われています。自分がこの世界に存在していることを実感するために必要な感覚です。「世界」と「自分」の出会いを感じられる体験ができる場所は、数少ないのではないでしょうか。

三浦さん 浜厚真には何度も行っているんですが、藤本さんに言われて初めて気づきました。

藤本さん 浜厚真でもう一つ重要なポイントになるのは、「自分の軸」を取り戻せることです。「自分軸」って、実は自分一人では感じられないんですよ。水平に拡がる感覚があるから、それに対する縦軸、つまり自分軸を確認することができるのです。

自分が真っ直ぐだと思い込んでいる中心軸は、実はだいたいずれているんです。軸がずれるから身体も歪む。都市部に居ると、自然の中にある水平線に出会うことがないので、自分の中にあるまっすぐな軸を確認しづらくなるのです。

身体の軸がずれると自分の中に迷いが生じやすくなり、不安になります。すると、本当にやりたいことや食べたいものを知る感覚が失われてしまい、野々宮さんがおっしゃっていたような本質的な価値創造は出てきづらくなります。

結果、感覚ではなく、頭で考えた「正しさ」が中心になり、自分の内側から湧き上がってくるものが希薄になってしまうんです。

三浦さん さて、プログラム内容でポイントになる出来事はありましたか?

藤本さん 野々宮さんに牧場を案内いただいた時に、トラックの荷台に載る体験をさせてもらいました。それがきっかけで、参加者のみなさんの心身の状態がすごく良くなったんです。意図したものではなかったと思いますが、結果として平衡感覚が絶妙に刺激されるアクティビティになっていました。

この体験のあと、まずみなさんの立ち姿勢が変わりました。しっかり地に足ついた感じ。立ち方が変わることで呼吸が変わり、参加者同士のコミュニケーションも活発になりました。

藤本さん

野々宮さん 今度からトラックの荷台に載せるたびにお金をいただこうかな(笑)

藤本さん なぜコミュニケーションが活発になったかというと、身構えが溶けるからです。

二足歩行の人間にとって一番の恐怖は転倒すること、つまり頭が地面に落ちることです。だからいつも身構えているんですけども、平衡感覚が活性化すると、安心して居られるようになる。かつ、その体験をみんなで共有することで、身構えが溶けたのだと思います。初対面同士が多かったこともあり最初は遠慮がちだったのが、いっきに距離が縮まりプライベートのことを話すようになりました。自分は子どもの時はこんなだったんだというような話がどんどん出てきました。

トラックの荷台に乗った参加者たち

桜井さん みんなで焚き火を囲んだこともポイントなのではないでしょうか。1日目の夜に、BBQをしたんですね。北海道の寒空のもとでみんなで火を囲んで。野々宮さんは意図していたと思うんですけど、焚き火が数カ所に分かれてあったんです。だから各々が好きなところに自分の居場所をつくれていたことも、コミュニケーションを活発にした一つの要因だと思いました。

野々宮さん バレちゃっていますね(笑)

ポイントは“共通体験”を得ること

ーーーここまで厚真町の美しい広葉樹、太陽の眼差し、土の匂い、浜厚真の水平線…そんな豊かな自然を中心に話が進んできましたが、話はだんだんと、「自然資本は個人と組織にどのような変容をもたらすか」に広がっていきます。

桜井さん 僕は、日頃からさまざまな企業や自治体のワークショップや研修に携わっています。その上で厚真町じゃないとできないことを考えた時、思い浮かんだのは、長いスパンで物事をデザインしていることと、野々宮さんをはじめとするチャレンジする事業者さんの存在です。

厚真町は、「自然資本」を意図的に育てられてきましたよね。ツアーの初めに連れて行ってもらった美しい広葉樹が広がる町有の環境保全林を、町民の方々も一緒になって整備していたり、炭焼きの文化が続いていたりと、長いスパンで考えられている取り組みの数々から伝わっています。

ーーーモニターツアーの参加者からも、厚真町の環境に身を置くことで、「長い時間軸で物事を見るようになった」と言う声がたくさん届いています。林業は100年先を見据えて行う、と言われますが、そんな保安林見学もその実感に奏功しているのではないでしょうか。せわしない時間の中に身を置く、現代人の悩みの一面が垣間見られた気がします。

ワークショップの様子

桜井さん また、かねてから「今だけ」「ここだけ」をつくり込もうとしてきた町だと受け取っています。

インターネットによって「いつでも」「どこでも」があふれたからこそ、その逆の価値も高まる一方です。野々宮さんの事業ももちろんですし、町そのものが、ここでしかできないことをつくろうとしている姿勢があります。さらに2018年に「北海道胆振東部地震」が起こったこともあり、他の自治体よりもゼロからつくる気概や行動を感じることができます。

一般的な会社はしがらみなどにより新しいことを始めにくい環境であることも多々ありますが、厚真町には自由にチャレンジしている人がいます。町の森林資源を活かすビジネスのほか、地域の教育、動画制作などのクリエイティブな分野など、都市部よりも最先端な方や挑戦者があちこちにいる。そうした出会いは、まさに厚真町でしか体験できないことだなと感じています。

桜井さん

三浦さん ありがとうございます。

桜井さん 「サステナビリティ」や「インベーション」が大事であると口で言っても、本当のところは伝わりませんよね。それは実際に経験したことがないから。

でも厚真町に実際に行けば、厚真の雄大な自然を前に「長いスパンで考えるとはどういうことか」を、チャレンジする事業者さんを前に「アイデアを行動に移すとはどういうことか」を、言葉じゃなくて共有できます。その共通体験は、ワーケーション後のチームのコミュニケーションスピードを格段に上げてくれます。言葉やアイデア、計画など概念的なものでも、チームみんなが「それじゃない」と感覚的にわかるようになるんです。

会議室では起こりづらい、貴重な体験だと思います。

藤本さん 桜井さんがおっしゃっているのは、例えば自然環境の問題を、厚真町ならチームの共通体験を通して自分事とすることができるということです。

大事なのは人との関わり方に変化が起こることです。都市生活の人間は、「私」と「あなた」という二者関係です。だけど、厚真町に来ると、「私」と「みんな」になるんです。一対一の延長にいろんな人がいるのではなく、みんなが一つの仲間っていう感覚になるんです。

厚真町には馬搬をされている方がいますが、馬は特殊な動物で、人間一人ひとりの違いを判別しません。だから人間や動物をみんな同じ一つの仲間として、つまり他者関係的なものとしてつなげる力があると感じています。馬との触れ合いから、人間の深いところにある生命や神経の仕組みが活性化することで、身体性を取り戻し、サステナビリティの大事さに気づいていくのかなと、僕は考えています。

都市と厚真町のあいだに立つ媒介者が、個人と組織に「共鳴」を起こす

ーーーモニターツアーは1泊2日でしたが、2022年度以降にリリース予定の正式プログラムは2泊3日を予定しています。参加された方々は「テロワール型ワーケーション」にどのような可能性を感じているのでしょうか?

桜井さん 今まで話したような魅力が伝わって行けば、新千歳空港に降り立ったら、空港から至近距離の厚真町に寄ってみよう、という人々が増えるような可能性を感じてきました。

サステナビリティを体感できる場所として、厚真町は北海道のゲートウェイになれる可能性を秘めているので、まずは厚真町に行って感受性を開いて、そこから北海道の各地へ遊びに行く。そのような関係人口のつくり方があっても面白いですよね。

藤本さん そうした可能性も感じつつ、僕がさらに厚真町に期待するのは、「共鳴」を起こす媒介者をプログラムに組み込むことです。なぜなら、都市の人がいきなり海を見に行っても、海を本当に体験できるだけの感受性がないからです。

感受性が高まっていないない人ならば、海の近くで生活して、海のバイブレーションを体現化しているような地元の人と触れ合った方が、都市の人の自律神経には響きます。これは、隣の人のあくびがうつるのと同じ原理です。

ーーーコンピューターとしか向き合っていない時間が多い現代人。コロナ禍では、おそらくこの状況を余儀なくさせられるでしょう。そこで、自然への感受性が鈍くなっている分、媒介者を通じての自然との出会いが貴重で、その実感を存分に得た人がリピーターとなるのでは、と藤本さんは続けます。

藤本さん 自然ガイドさんの重要な役割は、自然の持つバイブレーションをその人のあり方を通して伝えてくれること。それは自然の「共鳴」を起こす存在であるともいえます。草木の名前を教えるというような、頭を働かせる情報伝達よりもむしろそちらの役割が大事と考えています。プログラムに「共鳴」を起こす媒介者を加えることで、都市の人と自然をつなぐ重要な役割を果たしてくれると思います。

三浦さん

三浦さん 「共鳴」と「媒介」は、可能性を感じるキーワードですね。厚真町には、ほぼ森と呼んでもいいような森の妖精みたいな人もいます(笑) 

森と一緒に暮らしている彼と触れ合っていると、僕も森から受け取るものがあるし、何かお手伝いしたいと思う気持ちが湧いてくるんですね。実際、森の妖精である彼の元には、仲間が集っていて、今はセルフビルドで家を建てています。自然資本と「共鳴」している媒介者になれる人を増やしていくというだけでも、厚真町ならではの関係人口をつくれそうです。

野々宮さん 今回は厚真町がテーマだから、みなさん厚真町のことを褒めてくださいましたけど、日本各地に魅力的な地域はたくさんあります。その中で厚真町に行く理由になる部分は、もっと磨いていきたいですね。

地域おこし協力隊の人たちと談笑している様子。このようななにげない関わりが、都会人の感受性を高めていくのかもしれない。

野々宮さん まずは企業研修の受け入れからはじめることになると思いますが、最終的には生き方を提案する場所になったら面白いんじゃないかな。

厚真町の自然と共に生きている地元の人の存在が「媒介」になり、都市部の人にも豊かな自然と自分が溶け合う感覚が広がっていく。自分が生きている姿を見せるだけで、エコシステムが回るって最高じゃないですか? 

そうした仕組みを、桜井さんや藤本さんにもご協力いただきながら、厚真町のみなさんとつくっていきたいです。

三浦さん そうですね。今日いただいたアドバイスを参考にしながら、2022年度以降に提供する正式なプログラムもつくってきたいと思います。「自然資本の媒介者が集う厚真町」が北海道のゲートウェイになれるような道筋を描いていきたいと、夢が広がりました。みなさんありがとうございました。

(座談会ここまで)

ーーーモニターツアーの振り返りから未来の展望まで、盛りだくさんだった今回の取材。それぞれの専門性から見た厚真町の魅力を出し合ってもらうことで、「自然資本の媒介者が集う厚真町」という一つの方向性が見えてきました。

自然資本の媒介者を増やしていくためには、厚真町に暮らす人たち自身がまちにある豊かな自然の価値に気づいていないとなりません。しかし、当たり前に存在するものに自ら価値を見出すことは難しいもの。そこで活躍するのが、今回お話いただいた4名のように外から厚真町を訪れ、当たり前を特別なものに意味づけしてくれる方々なのでしょう。

「豊かな自然」に惹かれて訪れた都市の人が関係人口として関わりながら、地元の人と共に、遠い未来に“テロワール”と呼ばれる一助になるような関わりをしていける余地があるところも「テロワール型ワーケーション」の醍醐味の一つになりそうです。

次回、本連載の最終回は、組織開発の視点から、ワーケーションによって個人と組織が変容するために必要なことを紐解いていきます。

– INFORMATION –

厚真町ワーケーションの情報サイト「厚真ワーケーションスタイルあつまじかん」が公開しました。

本記事をご覧になって、もっと厚真町ワーケーションのことが知りたくなった方はこちらをご覧ください。
https://atsumaworkcation.jp/

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