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地域プロジェクトマネージャーは、どうしたら採用できる? 長野県小布施町に学ぶ、いかしあう社会のための採用術

グリーンズジョブは、人・自然・組織や地域がいい関係をつくることが持続可能な社会につながると考え、企業や自治体の採用支援に取り組んでいます。

連載「いい採用ってなんだろう?」では、そんな取り組みを通して学んだ「いかしあう社会のための採用術」を、みなさんにおすそわけします。

今回のテーマは、自治体による「地域プロジェクトマネージャー」の採用。総務省が令和3年度から、プロジェクトマネージャーとして地域の重要プロジェクトを推進する人材を行政が雇用することを後押しする「地域プロジェクトマネージャー制度」をはじめたこともあり、「地域プロジェクトマネージャー」の採用に取り組む地域は増えています。

では、「地域プロジェクトマネージャー」を採用する際に、どのようなことを考えて取り組むことが必要なのでしょうか。今回は、プロジェクトマネージャー的人材が数多く移住している長野県小布施町の事例から考えていきましょう。

※今回の記事では「地域プロジェクトマネージャー」を、「地域プロジェクトマネージャー制度」を通じて着任した人ではなく、「地域でプロジェクトマネジメントに取り組む人」という広い意味で使っています。

長野県小布施町とは

小布施町は、長野県北部に位置し、県内最小の約19㎢の面積の中に人口約1万1千人が暮らす小さな町。40年ほど前から、民官協働によるハード・ソフト両面からのまちづくりが進められてきた、まちづくりの先進地域です。

greenz.jpではこれまでも「小布施若者会議」「小布施エネルギー会議」「ソーシャルデザインキャンプ」、「農商工連携プロデューサー(任期付の小布施町役場職員)」と「農商工連携コーディネーター(地域おこし協力隊)」の求人記事などで紹介してきました。

自然豊かな小布施町。(写真:小布施町提供)

地域プロマネの事例

そんな小布施町は、地域プロジェクトマネージャー的な役割を担う人が集まる地域でもあります。まるでスタートアップのように、挑戦できる課題とユニークな人たちがいる環境に惹かれてか、プロジェクトマネジメントの経験がある人が「都市のスタートアップへの転職か、移住か迷って、結局活躍の舞台を求めて小布施町に移住した」という事例が少なくないのです。

たとえば、総務課長/総合政策推進室室長を務める大宮透(おおみや・とおる)総務課長は、学生時代に日米学生会議の一員として小布施町に滞在したことをきっかけに小布施を知り、「小布施若者会議」の立ち上げと運営に関わった2012年の年末に小布施に移住。慶應SDM・小布施町ソーシャルデザインセンター研究員として活動したのち、2020年4月に小布施町役場に入庁し、防災まちづくりや環境政策の推進、組織改革に従事しています。

また、大宮さんとともに「総合政策推進室」の中心メンバーを務める林志洋(はやし・しょう)さんは、大学在学中に起業家教育に取り組む「NPO法人Bizjapan」を創設。日本と中国にて大学院を修了後、戦略コンサルティング企業、海外ベンチャー企業の日本展開等を経て、2020年6月に長野県小布施町に移住し、地方を舞台にした持続可能な街づくりや事業創造に取り組んでいます。

大宮さんや林さんだけでなく、コワーキングスペース「ハウスホクサイ」を運営し、町民とクリエイターがつながるきっかけづくりに取り組んでいる塩澤耕平(しおざわ・こうへい)さんや、小布施町を舞台にしたサステナブルな観光について考えるチームのプロジェクトマネージャーとして活躍する宮田湧太(みやた・ゆうた)さんなど、それまでもプロジェクトマネジメントの経験を積んできた人たちが小布施町に移住し、地域プロジェクトマネージャーとして活躍しているのです。

一番左が大宮さん。右から二番目が林さん。(写真:小布施町提供)

なぜ小布施町に地域プロマネが集まるのか

いったいなぜ、小布施町に地域プロジェクトマネージャー的な人が集まるのか。現在地域プロジェクトマネージャーの採用にも関わっている大宮さん、林さんに聞いてみました。

見えてきたのは、「内発的動機付けの連鎖」が起きているということです。

林さん 僕は小布施若者会議をきっかけに小布施町に関わるようになったんですけど、小布施町で感じたのは、「こんなことをやりたい!」っていう声が町民のみなさんからどんどん出てくるということ。そんな声に接していると、「じゃあ自分は、こんなことをやりたい!」という想いが自分にも湧いてくる。それを伝えると、「そしたら、町でこんなことをやってみないか」というふうに応えてくれるので、活動につながっていくんです。

お金や名誉といった外的報酬ではなく、「こんなことをやりたい!」という、町民の内発的な動機付けからくる声に触発されたのは、大宮さんも同じだそう。

大宮さん 移住の決め手になったのは、人に惹かれたことです。まちづくりでは、外から来た人だけで地域がおもしろくなるわけではなくて、地域にいる人が主体性にまちに関わっているかが大事だと思っています。その点、小布施町では町民のみなさんがとても主体的で。特に移住の決め手になったのは、市村良三前町長に出会ったことですね。前町長は、柔軟な発想で、まちづくりに取り組んでいて、その生き方がとてもかっこよかった。「ああ、あんな大人になりたいな」と思ったんですよね。

地域プロジェクトマネージャーは「人」と向き合う仕事。そうであればこそ、その地域に「こんなことをやりたい!」という想いを語る人がいる、ということは、地域プロジェクトマネージャーになりたい方を惹きつけるのかもしれません。

そうだとすると、40年ほど前から民官協働によるまちづくりが進められてきた小布施町に、地域プロジェクトマネージャー的な人が集まるのもうなずけます。地域でプロジェクトマネージャーを採用する際は、その地域で意欲的に活動している方の想いを記事やSNSで伝えること、そしてなるべくそうした方と移住を検討している方が話す機会をつくることが有効かもしれません。

(写真:小布施町提供)

採用のポイント:関係人口と出口戦略

とはいえ、小布施町といえどはじめから地域プロジェクトマネージャー的な人が集まってきていたわけではありません。大宮さんが移住した当初は、同じように移住してプロジェクトマネジメントに取り組む人はおろか、同年代の移住者があまりおらず、「移住して2,3年は、孤独感があった」と振り返ります。

そんな状態から、どのように地域プロジェクトマネージャー的な人が集まる状態にしていったのか。その経緯を、大宮さんと林さんは「種まき」に例えます。

大宮さん 突然たくさんの方が移住してくれたわけじゃなくて、何年も種まきをしてきたという感覚です。実は今小布施町に移住してまちづくりに関わってる人は、何かしらのご縁で小布施町とつながりを持ってくれていた人。なにかすでに小布施のプロジェクトに関わってきていたり、参加していたことがあった人なんです。

林さん もともとつながりがある人が移住した、といっても、そのつながりは大宮さんが「小布施若者会議」などを通して意識してつくっていましたよね。そうやって町に関わりを持った人が、2,3年通うなかで顔見知りになって、「この人たちとだったら面白いことをやっていけるんじゃないか」と思う、みたいな流れがある気がします。

言うなれば、「移住は1日にしてならず」。では、その種まきとして、具体的にどういうことに取り組んだのでしょう。キーワードは、「関係人口づくりと、出口戦略づくり」です。

大宮さん 地域に4,5人、まちづくりに主体的に関わるような人が移住すると、その次の人の移住のハードルが低くなると思っていたんです。だから、なんとか自分以外に3人くらい、まちづくりに取り組む移住者が生まれたらと思いながら続けてきたのが「小布施若者会議」でした。小布施若者会議は、全国から35歳以下の若者を小布施町に集め、2泊3日の日程で、地域や日本のあり方や、地域ビジネスのアイデアを考案するインキュベーションプログラムです。

小布施町が旗印として掲げる「協働と交流のまちづくり」を象徴するようなこのプログラムは、2012年にスタートして以来、2018年度に行政主催のプログラムとして一区切りを迎えるまで、毎年50〜100人の若者を小布施に集めてきました。ある意味、関係人口づくりの成功事例ともいえそう。しかし、それだけでは十分でなかったと大宮さんは語ります。

大宮さん これは反省点でもあるんですが、関係人口をつくるのと同時に、出口戦略も必要なんですよね。つまり、小布施町を好きになってくれる方が「町に関わりたい」となった時に、提案できる仕事やプロジェクトを用意しておく、ということ。最初はそれができていなかったので、「関わりしろ」を見つけられなくて違う地域に移住してしまう方や、その後の活動につながらない方も多かった。関係人口づくりと出口戦略づくりを両輪でまわすことが、採用のために必要だなと感じています。

実際に「小布施若者会議」に参加したことをきっかけに小布施町に移住した林さんは、現在の小布施町では「関わりしろ」を増やすことを意識していると言います。

林さん それぞれの人が関わりやすいかたちで町に関わればいいんです。移住だからといって、この町に骨を埋めてほしいなんて、小布施町の人は思ってない。企業に転職するときだって、「転職したからには骨を埋める」なんて思わないですよね? 小布施町への移住は、「自分の今のライフステージなら、この町で働き、暮らしたい」といったような、転職と近い感覚なんじゃないかな。

(写真:小布施町提供)

小布施にとっての「いい採用」とは

採用において、なにを成功と定義するかは企業や自治体によって異なるはず。大宮さんや林さんは、どういったときに「いい採用ができた」と実感するのでしょうか。

大宮さん むずかしいですね…。僕は、移住してきた方が町の人から頼られて、嬉々として活動している姿を見たら、いい採用ができたって思いますね。なぜなら、町のいいところも課題も、安心してさらけ出し、受け入れてもらったうえで採用ができたんだな、と感じるからです。

林さん 好奇心が旺盛な人なら、課題も含めて楽しめると思うんですよね。言い換えると、自分ごと化力が強い人は、課題がたくさんあってもお祭り感覚でできるんだろうなと。逆に言えば、やりたいことが明確にありすぎて「それは自分の業務じゃないんで」みたいになると、もったいないと感じます。楽しいことは、自分が想定していること以外にもたくさんありますからね。

小布施町はまちづくりの成功事例として語られることが多い自治体。ですが、移住を検討する方にはいいところだけでなく課題も知ってほしいそう。そのため、なるべく採用のときは課題もきちんと伝えるようにしているのだとか。町の人から頼られて、それを楽しめているのは、そうした課題も含めて受け入れてくれて活動していることのあらわれだと捉えているようです。

まとめ

「地域プロジェクトマネージャー」といっても、その役割も求める人物像も、地域によって異なるはず。そのため、採用のための唯一の正解はありませんが、小布施町の取り組みはそれぞれの地域が地域プロジェクトマネージャーの採用に取り組む上で、何かヒントになるのではないでしょうか。

グリーンズジョブはこれまでに、小布施町や福岡県赤村の地域プロジェクトマネージャーの採用にご一緒してきました。今後もそうした採用支援の経験をいかし、「地域プロジェクトマネージャー」の採用に伴走していきます。もし興味を持ったら、ぜひグリーンズジョブにお問い合わせください。

– INFORMATION –

長野県小布施町は「農商工連携プロデューサー(任期付の小布施町役場職員)」と「農商工連携コーディネーター(地域おこし協力隊)」を募集中。募集期間は令和4年2月10日(木)〜2月24日(木)です。興味がある方は、こちらの記事もぜひご覧ください。