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とにかくずっと内省してる。テクノポップの神様・細野晴臣が、自然と多様性あふれる文化を愛でながら、社会とつながる様子を綴った『アンビエント・ドライヴァー』

「いかしあうつながりがあふれるしあわせな社会」ってどんな感じ? ヒントになる本・映画をレビューします。

選んだ人:スズキコウタ

選んだ人:スズキコウタ

greenz.jp副編集長。1985年生まれ。
greenz.jpの記事企画・マネージメントの責任者をつとめる一方、ライターインターンの育成や作文力〜編集力を鍛えるゼミクラス「作文の教室」「メディアの教室」などを展開。「作文の教室」は地方開催、オンライン開催も数多く実施。2020年、greenz.jp第2編集部として「greenz challengers community」を結成。

日本のテクノポップの仕掛け人として有名な細野晴臣(ほその・はるおみ)さんが、最近世界的に人気なんですよ。思えば10年ぐらい前から、アメリカ人の友だちが来日すると、みんな口を揃えて「ホソノやイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)のレコードが買えるところに連れて行ってくれ」と頼んできていたので、「おやおや」とは思っていました。

はっぴいえんど、民族音楽、アンビエント、エレクトロニカ、カントリーなど、テクノポップに留まらないさまざまなジャンルを網羅したホソノ・ミュージックが全体的に再評価され、認知のされ方も変容していますね。

細野晴臣=音楽人。それは真っ当な認識のされ方だと思いますが、彼はアンビエント=環境音楽という、自己と深海に潜り込むように深く向き合うことで創作できる作品を多く発信してきたこともあり、民俗文化・宗教・スピリチュアリティなどの造詣が深い。そして、それらの体験やエピソードを綴った書籍を数多く出版しています。

アンビエント・ドライヴァー』と題されたこの本は、2000年代に細野さんが「エスクァイア日本版」や「ソトコト」で連載をしていたころのコラムをまとめた一冊。数年前にはテイ・トウワの装丁・解説により安価な文庫本になったので、手に取りやすいと思います。

(余談ですが、最近、辻信一さんと取材に出掛けた、モバイルハウスメーカー「SAMPO inc」さんの拠点にも、この本が並べてあって、本記事を書いたあとだったので「必然性のある偶然」と思いました。)

民俗文化との出会い、旅先での珍事件、過去のトラウマなど、さまざまな事象について言及されているんですが、細野晴臣がどのようにそれらを体験しインプットとしてきたかというエピソードが盛り込まれています。時には自身の音楽や暮らしが根本的に変わってしまうことも。

難しい言葉は噛み砕かれているし、難易度はあまり感じず、読みやすい仕上がりです。

ひとつ印象深かったのは、テクノロジーをフル活用して大成功した音楽家が、雨という自然現象に強い敬意を持っていて、そのきっかけがネイティブ・アメリカンのメディシンマン(※)が放った言葉「すべては尊敬から始まる」だったこと。

(※)メディシンマン:病気の治療や邪気を追い払うなど、特別な力を持っていると信じられている人。

つまり、僕には「テクノロジーと同期した音楽家」と認識されている印象が強いんですけれど、実は細野さん、自然や社会や人とのつながりをかなり強く持っている。自然への畏怖を表現するのに、テクノロジーは道具・手法であり、目的や主軸にはないんだと僕らは気づかされるんです。

アーティストとして、自分の周りにどんな資源があるかを可視化し、見つめ、そのプロセスで何を生むかというレンズの持ち方が学べる。そして、自然や社会とのつながり・観察が、人の感性を大きく刺激することも。

多様性に富んだ豊かな文化に敬意を表し、味わい、次々に学んでいく。
自然や人とのつながりの中から、自身の哲学を都度アップデートしていく。
やがてそれらの経験と学びを音楽作品に昇華し、マス〜サブカルチャーとつながっていく。

日本大衆音楽史の重鎮のインプット→アウトプットが、どのようなプロセスで行われているのかを垣間見れる点でも貴重な一冊ですね。

そして、豊かな人・もの・ことに接して、それをどう分かち合っていけばいいだろうか。この社会・地球の循環の一部として役立つ存在になるには、何ができるだろうか。そんな思索の旅に出かける際のお供におすすめします。

特に思索の先ですね、文章でも音楽でも絵画でも、自分の感じたことを形に残すことを見据えている方には、日本の稀代の名音楽家の思考にふれるのは贅沢な時間でしょう、きっと。

『アンビエント・ドライヴァー』
細野晴臣 著
ちくま文庫

(編集: 櫻井杜音)