「共生と調和」は、どうしたら実現できるのか?
そんな問いをたずさえて、グリーンズと株式会社サニーサイドは「共生と調和をめぐる旅」に出ることにしました。
今回訪れたのは、「クルックフィールズ」。千葉県木更津市に2019年にオープンした複合施設で、約9万坪という広大な敷地に、自由に遊べる広場や畑、養鶏場、酪農場、チーズ工房、ダイニングレストランなどがあり、サステナブルな未来の生き方・暮らし方を体験することができます。
「共生と調和」というテーマは聞こえがいいぶん、そのビジョンや魅力といった情報が伝えられがち。しかし「SUNNYSIDE FIELDS」をオープン予定のサニーサイドをはじめ、実際に「共生と調和」を実践していく人たちにとって必要なのは、「実際のところどうなの?」という、一歩踏み込んだ知恵です。
つまり、
「共生と調和を実現するために、どのような工夫がなされているか」「実現するために、壁となることは何か」
「その壁を乗り越えるために必要なことはなにか」
などなど。
そうした知りたいことをたくさん携えて、グリーンズとサニーサイドのメンバーは、クルックフィールズを訪れました。
サステナブルな生き方の気持ちよさを体感できる場所
都心を出発し、東京と千葉を結ぶアクアラインを通って車で70分。木更津といえば、東京湾に面する工業地帯の風景のイメージがあった私は、木更津北インターチェンジで降りてしばらく進むと緑豊かな風景が広がっていることに驚きました。
海沿いから内陸へと車を走らせ、森の中にある細い道を進んでいくと、目の前に開放感のある場所があらわれます。
ここが、クルックフィールズ。丘にかこまれた場所に、農場やアート作品、建築物などがあり、それらのあいだを風が気持ちよく通り抜けるような空間。おもわず、スーッと深呼吸をしたくなります。
「ようこそ! 雨が上がってきましたね!」と笑顔で迎えてくれたのは、小林真理さん。真理さんはここクルックフィールズで飼育しているブラウンスイス牛のミルクと平飼い卵をつかったシフォンケーキを焼いています。
さっそく真理さんに、クルックフィールズの敷地を案内してもらいました。
真理さん クルックフィールズは約9万坪の敷地があって、「FARM」「EAT」「ART」「PLAY&STAY」「NATURE」「ENERGY」という6つのカテゴリーに分かれているんですよ。
「FARM」としては、有機農業がおこなわれている約2万坪の広大な畑や、“食べられる庭”を意味する「エディブルガーデン」があり、ハーブや野菜、エディブルフラワーなど約50種類を育てており、種まきや収穫の体験もできるんだとか。
また、酪農場やチーズ工房、平飼いの養鶏場もあります。
「FARM」で育まれた自然の恵みをいただけるのが「EAT」。農場の恵みを使用した料理を提供するダイニング、酪農場で搾乳されたミルクや養鶏場の平飼い卵を使ったふわふわのシフォンケーキを楽しめる「シフォン」、自家製天然酵母を使用したパンを楽しめる「ベーカリー」、近隣でやむなく駆除された猪や鹿などをジビエとして精肉にし、ソーセージやベーコンなどの加工品にしている施設「シャルキュトリー」があります。
「ART」としては、敷地内でひときわ目を引く草間彌生の作品の他にも、カミーユ・アンロ、ファブリス・イベールなど、名だたるアーティストの作品が展示されています。
また、「PLAY&STAY」で季節ごとのアクティビティやワークショップを体験できるのも、クルックフィールズの特徴。「クリエイティブパーク」では、走り回ってもよし、寝っころがってもよし。最大3000人を収容できる「ミュージックベース」を中心としたこのエリアでは、音楽イベントが開催されることもあります。
さらに、宿泊が可能な「タイニーハウスビレッジ」ではBBQも楽しめる他、校外学習や企業研修など大規模な研修も受け入れているのだそうです。
そして、クルックフィールズを語る上で欠かせないのが「NATURE」。敷地を歩き回れば、クルックフィールズに存在するいのちの循環を象徴する場所として、“母なる池”を意味する名前をつけられた調整池「マザーポンド」や、1500本を植樹した「野生の森」など、豊かな生態系の存在を感じることができます。
最後に「ENERGY」。クルックフィールズで使われる電力を発電する「ソーラーファーム」や、酪農場や養鶏場から出た排泄物を堆肥化する「堆肥舎」、排水を浄化するシステム「バイオジオフィルター」など、エネルギーをはじめ、様々な資源を循環させる仕組みがあります。
クルックフィールズの敷地を歩きながら、「サステナブルな生き方・暮らし方って、こんなに気持ち良いものなのか! 」と感動していました。できることなら、ずっとこの場にいたい……。そんな気持ちになってきます。
サステナブルな生き方を伝える「約9万坪のメディア」
クルックフィールズは、サステナブルな生き方を体感できるコンテンツがたくさんあるにもかかわらず、現在はまだ開発途中の第1期オープンという事で、入場料はかからないというから驚き。
「間口は広く、いろんな人に来てほしいから、今のところ無料にしているんです」と真理さんは語ります。これだけの敷地を運営するにはそれなりのコストもかかるはず。それでも無料にしているのは、クルックフィールズに込められた想いがあるようです。
真理さん 私たちが大事にしているミッションのひとつに、「⼈間も⾃然の⼀部であることの真の価値を様々な魅⼒に変え、多くの⼈々にサステナブルな生き方を選択してもらうことを⽬指す」ということがあるんです。
この場所に来て、「空気がきれい」とか「ケーキが美味しい」とか「緑がゆたか」って感じてもらう。そしてその心地よさをきっかけに、サステナブルな生き方・暮らし方に興味を持って、行動をしてくれる人が増えたらいいな、って思っています。
なるほど、クルックフィールズを単なる「レジャー施設」だととらえると、その本質をみのがしてしまいそうです。しかし、ここで感じた「心地よさ」の向こうには、「サステナブルな生き方・暮らし方を提案する」という、クルックフィールズのミッションがあるのです。その意味では、クルックフィールズは「約9万坪のメディア」という見方もできるかもしれません。
「サステナブルな生き方・暮らし方を提案する」というミッションは、クルックフィールズの総合プロデューサーである音楽家、小林武史さんの想いに端を発します。ここで、クルックフィールズのなりたちを簡単に紹介しておきましょう。
音楽プロデューサーとして活躍していた小林武史さんは、2001年の同時多発テロをきっかけに、「持続可能な社会を自らの手で選んでいくために、なにができるだろうか」という問いを持ったといいます。
その問いへの解答として、自然エネルギーや環境保全プロジェクトへのマイクロ・ファイナンス事業を展開する非営利団体「ap bank」を2003年に立ち上げ、2005年に音楽フェス「ap bank fes」を始めたことは、ご存知の方も多いはず。
「ap bank fes」は、サステナビリティの重要性をひろく伝える取り組みでした。活動を重ねるなかで、小林さんは「快適で環境に良い未来に向けた暮らし」へのシフトを提案する「kurkku(クルック)」を立ち上げ、食のプロジェクトを始動。自然と農業へも関心が広がり、自ら実践したいという思いで、2010年に木更津で有機農業をはじめます。そして実践のなかで、「サステナブルな生き方・暮らし方を体験でき、その大切さを知ってもらえるような場所をつくりたい」と考えるようになったそう。
サステナブルな生き方・暮らし方を、理想で終わらせず、手触りのある実践にまで落とし込む。そして、その実践を一部の人のもので終わらせず、多くの人に広げていく……
小林さんや仲間のそうした思いがこめられた場所として、2019年にオープンしたのがクルックフィールズでした。
(こうした経緯については、くわしくはクルックフィールズのサイトで紹介されています)
真理さん 私たちがやっていることの一つひとつを見れば、すごく小さなことかもしれない。だれど、それがさざなみのようにだんだん広がっていて、いずれ大きなうねりになって世の中を変えていく……。そうやってつくられる未来が必ずあると信じて、私たちはここで活動してるんです。
資源を循環させる「堆肥舎」や「バイオジオフィルター」の仕組み
うんうん、素敵な取り組みだな……と、あまりの心地よさについひたすらうなずいてばかりになっていたのですが、いかんいかん。僕らは「共生と調和を探る旅」にきていたのでした。さらに深掘りしなければ!
そういえば、真理さんが話していたクルックフィールズのミッションのなかにある「⼈間も⾃然の⼀部であることの真の価値」という言葉。“真の”と強調されているところが気になります。一般的に言われているような、「⼈間も⾃然の⼀部であることの価値」とは、ちょっと違うのかも?
「そうですね。そのヒントはこの敷地にある、資源を循環させる仕組みのなかにあります」
そう教えてくれたのは、クルックフィールズの吉田和哉さん。吉田さんの案内で、「資源を循環させる仕組み」をみせてもらうことにしました。
吉田さん 「資源を循環させる仕組み」として、たとえばクルックフィールズでは家畜の排泄物を堆肥化する「堆肥舎」、微生物や植物の浄化作用を活かした循環型濾過措置「バイオジオフィルター」があります。
堆肥舎では、敷地内の動物の排泄物を発酵させ、堆肥にしています。また、刈り取った雑草や生ゴミを集めたコンポストも、堆肥づくりに一役かっているそう。
堆肥を使ってつくられた豊かな土壌によって育てられた野菜が、ダイニングで人々のもとへとどきます。私たち旅のメンバーもランチでいただきましたが、そのみずみずしさといったら! クルックフィールズでいただける美味しい食の裏には、資源を循環させる仕組みがあるのです。
「こうした循環を繰り返すことで、微生物の多様性が増え、土壌が豊かになっていくんですよ」と、吉田さんは語ります。
また、「バイオジオフィルター」も、クルックフィールズで生まれている循環に欠かせない役割を果たしています。「クルックフィールズは、公共の上下水道とつながっていないんです」と吉田さん。その裏には、次のような仕組みがあるようです。
ダイニングなどで出た排水は、浄化槽を通って一次処理を行います。しかし、それだけでは水がまだ富栄養な状態であるため、排水は「バイオジオフィルター」へと送られます。
「バイオジオフィルター」とは、自然の仕組みを応用し、排水を浄化するシステム。クルックフィールズにある「バイオジオフィルター」では、小川に多孔質の石が敷かれており、微生物が棲みやすい環境がつくられています。そこで微生物が水の汚れの原因となる有機物などの養分を分解し、さらに植物が根から養分を吸収することで水を浄化していくのだそう。
「バイオジオフィルター」で浄化された水は、「マザーポンド」へ。「マザーポンド」に溜まった水は、太陽光発電を利用した電動ポンプで敷地の丘の上まで汲み上げられて、場内の小川に流され、敷地全体の豊かな生態系を育む……そんな循環が、クルックフィールズではつくられているのです。
吉田さん クルックフィールズでは、人が生活することで出る排水が、生き物たちにとって必要な水や養分としていかされる仕組みになっているんです。
クルックフィールズで感じる「心地よさ」の理由のひとつは、「私たち人間のいとなみを否定することがない」ということからきているのかもしれません。言いかえれば、自らも大きな循環のなかの一部となっている「心地よさ」……。
それこそ、「⼈間も⾃然の⼀部であることの“真の”価値」なのでしょう。吉田さんの話を聞いたあとだと、目に入る景色やかおりが、なんだか身近なものに感じられてきました。
自然との共生は、人間のいとなみを否定するものではない
堆肥づくりや「バイオジオフィルター」など、クルックフィールズにある、資源を循環させる仕組み。その背景にあるのが、「パーマカルチャー」という考え方です。
greenz.jpの読者にはお馴染みかもしれませんが、簡単に説明を。パーマカルチャーとは「パーマネント(永続性)」と「アグリカルチャー(農業)」と「カルチャー(文化)」を組み合わせた造語で、「永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法」のこと。いいかえれば、人と自然が共生する関係を築いていくための方法のことです。
オーストラリアのビル・モリソンとデビット・ホルムグレンがつくったこのデザイン体系は、日本をはじめ世界でひろがりを見せています。ここクルックフィールズも、パーマカルチャーデザイナーである四井真治さんの監修のもと、パーマーカルチャーの考えが取り入れられているそう。
真理さんや吉田さんの言葉のはしばしから感じることができるのは、クルックフィールズでは、パーマカルチャーが提唱する「人も自然の一部」だという考え方を、とても大切にしているということです。
真理さん 人って、自然と人間を切り離して考えがちじゃないですか。「人間がいると、自然に悪い影響を及ぼす」みたいな。でも、そうじゃないよね、と思います。
たとえばバイオジオフィルターって、人間が生活することで出る栄養や水を活用して、生き物が育ち、生態系が豊かになる仕組みですよね。そんな仕組みが身近にあるから、クルックフィールズにいると「自然が人間の魅力を引き出すように、人間も自然の魅力を引き出すんだ」っていう感覚を持てるんです。
真理さんの話を聞きながら、「どこかで聞いた話と似てるな……」と思いました。そう、前回の取材でサニーサイドの多田さんが話していた、「共生モデル」という考え方です。
一般的に就労弱者と呼ばれる方を多く雇用しているサニーサイドでは、障害などその人の特性に合った仕事を割り当てる「区別モデル」や、一般社会に適応するための職業訓練や仕事紹介を行う「橋渡しモデル」ではなく、「いろんな個性を持った人たちが同じ職場で働き、ハンディのありなしにかかわらずその人に合った仕事に取り組む」という「共生モデル」を目指している……ということを前回の記事で紹介しました。
この「区別モデル・橋渡しモデル・共生モデル」の考え方は、人と自然の関係においてもあてはまりそうです。
つまり、環境保護区域をつくるなど人と自然に明確に線を引く「区別モデル」、人のいとなみのために自然を管理・利用する「橋渡しモデル」、そして人と自然、それぞれがその特性を発揮しあう「共生モデル」がある、と。
サニーサイドの多田さんと秋吉さんも、クルックフィールズの実践に触れて、自らの取り組みと重なる部分を感じたようです。
多田さん 僕らがやっている、一般的に就労弱者と呼ばれる人と働く取り組みをするうえでも、どちらかが上とか下とかいうふうに主従関係をつくるような考え方のもとでは「共生と調和」は生まれないんですよね。そういう意味では、「人と自然はともにいかしあう存在なんだ」っていうクルックフィールズさんの考え方には、とても共感します。
秋吉さん そうですね。僕らがつくろうとしている「SUNNYSIDE FIELDS」でも、人と自然が共生する環境をつくっていきたいって考えていて。だから、クルックフィールズで大事にされている「人と自然の共生」の考え方はとても参考になりそうです。
価値観が異なる人に、どう伝えるかが課題
ただ、ここで気になることがひとつ。クルックフィールズのミッションのひとつは、「⼈間も⾃然の⼀部であることの真の価値を、様々な魅⼒に変え、多くの⼈々に選択してもらう」こと。「⼈間も⾃然の⼀部であることの真の価値を様々な魅⼒に変える」……で終わりではないのです。
目指しているのは、「多くの⼈々に選択してもらう」こと。そして、それこそがオープン2年目を迎えるクルックフィールズが、これからチャレンジしようとしていることです。
真理さん クルックフィールズがオープンしたのが2019年の11月。それから約1年半で、「こんなに気持ちがいい場所があるんだ」って知ってもらえるようになってきた気がします。
次のフェーズで目指したいのは、「知ってもらう」より深いところ。つまり、サステナブルな生き方・暮らし方を提案していくことだと思ってるんです。できることなら、お客さんがクルックフィールズの敷地を出るころには、私たちと同じ未来に向かって行動する仲間になってくれたらいいな、っていう気持ちでいます。
しかし、「この場所を楽しむこと」と「行動すること」のあいだに大きなギャップがあることは、想像にかたくありません。
真理さん そうなんですよね。今は入場料も無料にしているし、テレビなどのメディアで取り上げられることもあるので、「とりあえず行ってみよう」といった気持ちで来てくれる方がたくさんいるんです。
もちろん、そういう方が来てくれるのも嬉しいこと。でも、なかには外部から持ち込んだ食品のゴミを捨てていく方がいたり、「ぜんぜんモノが売ってない」、「これだけ広い敷地なのになにもない」という感想を持って帰られる方もいたりして、私たちが感じて欲しいことがうまく伝わっていないことも多いんです。
だから、もうちょっと私たちの思いを感じてほしいなって。わざわざ足を運んでくださった方に、「⼈間も⾃然の⼀部であることの真の価値」を、どうしたら「上から目線」にならずに伝えることができるかが、今の課題ですね。
これまで、人と自然の共生の仕組みを整えてきたクルックフィールズ。今直面しているのは、「異なる価値観を持つ人との共生」をどう実現するのかという、新しい課題のようです。しかしそんな課題を前にしても、真理さんたちスタッフは前を向いています。
真理さん クルックフィールズのプロデューサーである小林武史が、ポップミュージックの世界で多くの人にメッセージを届けてきたように、クルックフィールズもたくさんの人に「⼈間も⾃然の⼀部であることの真の価値」をひろげていく可能性を持っていると信じています。
それはきっと、一足飛びにはいかないこと。だから、じわじわとやっていきたいって思ってるんです。
「語り」が、共生の可能性をひらく
それまでとは異なる価値観や新しい生き方を提案し、行動を変えることは、簡単なことではありません。しかしその可能性の種は、既にクルックフィールズで芽生え始めているのかもしれない、と取材を通じて感じました。
その芽とは、人の「語り」。真理さんのこんな言葉からも、「語り」という芽の存在が垣間見えます。
真理さん 私たちの大切にしていることが伝わったな、って思うときって、スタッフと話してもらったときなんです。
例えば「シャルキュトリー」のシェフの奥さんが接客大好きな方で。「このお肉、美味しいでしょう? このあたりは獣害がひどくて、それで畑を辞めてしまう人もいるから、猪を獲って捌いてるんです。でも殺された猪も命あるものだから、せめてここでおいしくいただくことで、いのちのてざわりを感じていただくきっかけになったら…」みたいな話を、お客さんにしてるんです。食べ物の背景を知ると、お客さんもソーセージを食べるときの意識が違ってきますよね。
そんなふうに、どのスタッフもそれぞれがサステナブルな生き方・暮らし方の先にある未来のことを信じていて。そんな思いに触れたとき、来た方にとっても気づきが生まれて、行動も変わるんじゃないかな。だから、スタッフがお客さんにとって気づきになるような会話を、1日にどれだけできたかが、一番大事なんじゃないかって私は思っているんですよ。
バイオジオフィルターでは微生物が媒介の役割を担っているように、「共生」には異なる存在の関係をとりもつ「媒介」が欠かせません。
「異なる価値観の人どうしの共生」ということを考えたときに、その「媒介」となるのは、思いを持った人の「語り」なのかもしれない。そう、真理さんの話は気づかせてくれます。
仲間を増やしてコミュニティをつくり、社会を変えていく手法である「コミュニティーオーガナイジング」では、人に行動をうながすうえで「パブリックナラティブ」が鍵を持つとされています。
なぜ自分が行動を起こしたか、自身のストーリーを語って聞き手の共感を呼ぶこと(=Story of Self)。聞き手と自分自身が共有する価値観や経験といった“私たち”のストーリーを語り、コミュニティとしての一体感を創り出すこと(=Story of Us)。いま行動を起こすことについてのストーリーを語ることで、共に行動する仲間を増やすこと(=Story of Now)。
これらが有機的に組み合わされた、人の心を動かす物語を、パブリック・ナラティブ(公で語る物語)と呼んでいます。
(引用: 「コミュニティ・オーガナイジングとは | Community Organizing JAPAN コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン」)
取材を通して聞くことができた、真理さんや吉田さんたちクルックフィールズのスタッフの皆さんの話は、こうした「パブリックナラティブ」の要素をふくんでいたように思います。そしてそうした「語り」が、日々この場所で行われていくとしたら、「異なる価値観の人同士の共生」という困難な理想に、一歩ずつ近づいていくんじゃないか。そんな希望を感じました。
一つひとつの「語り」は、種のように小さなものかもしれない。けれども、それが集まり、あちこちにちらばり、芽吹き、育まれていけば、やがて価値観が異なる人も同じ未来を目指す存在となった「共生と調和」が、ここクルックフィールズを起点に生まれるかもしれません。
そうして実現できた社会は、きっと私たちにとって心地のよいものになるはずです。クルックフィールズにある豊かな生態系が、私たちにやさしく包みこみ、心地よさを感じさせてくれたように。
サニーサイドが唱える「共生モデル」との共通点と、その可能性に気づくことができたクルックフィールズへの旅。場所も役割も違えど、目指している世界は近く、仲間を見つけたような気持ちになった一向は、後ろ髪を引かれながらクルックフィールズをあとにしました。この日の気づきはきっと、「SUNNYSIDE FIELDS」にいかされるはずです。
「共生と調和」を目指す仲間は、まだまだ全国にいるはず。そんな仲間との出会いを求めて、私たちの「共生と調和をめぐる旅」は続きます。