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50年後の大学は「さとのば方式」がスタンダードに!? 鈴木寛さんに聞く、時代の変わり目に必要なこととは(前編)

greenz.jpの取材では、「○○の」という肩書きを一言では言い表せない人に多く出会います。鈴木寛さんもその一人です。

公式サイトのプロフィールを眺めてみただけでも、東京大学教授であり、慶應義塾大学教授でもあり、元・文部科学副大臣で、前・文部科学大臣補佐官で、さらに日本サッカー協会理事でもあり……と、錚々たる経歴が並んでいます。

実際にお会いしたらどんな方なのだろう、難解な話になったらついていけるだろうか、とやや身構えながら対談に同席した私たちgreenz.jpスタッフでしたが、その緊張はあっという間に解けていきました。

というのも、日本の教育についてざっくばらんに語っていただいた言葉の端々に、未来を担う子どもたちへの期待と熱意と慈愛が満ち溢れていたからです。

この連載の案内役である、さとのば大学の信岡良亮さんとの対談という形で、話題は日本の教育のこれまでと今、そして未来へと幅広く展開していきました。新型コロナウイルスの流行もあって先行きの見えない中、自分の進むべき方向を見失っていたところに、私たちも希望の光を見せていただいた思いがしました。

というわけで、この記事では勝手ながら敬意と親しみをこめて「すずかんさん」と呼ばせていただくことにします。

そんなすずかんさんがここ数年の間に主に取り組んでこられたのは、学習指導要領の改訂や大学入試改革です。

これらの改革については、「センター試験が共通テストに」とか、「小学校で英語やプログラミングの授業がはじまる」とか、そんな話題がメディアでは大きく取り上げられてきました。でも、それらの報道は改革の表層しか伝えていません。

実は、これらの改革は私たちの目につかないところで日本の教育に大きな変化をもたらしているのです。その効果が形になっていくさまを、私たちは今後、実際に目にしていくことになるでしょう。

そのあたりの詳細は本編の中でじっくり紹介していきます。

今、学びの現場で起こっていることとは?
未来の学びはどこに向かうのでしょう。
そして、先行きの見えない時代を生きる私たちに、今、必要なこととは?

長年、教育の現場に軸足を置きつつも、政治の中枢からシステムを変えるというダイナミックな仕事をしてこられたすずかんさんと、「さとのば大学」という新しい大学のあり方を形にした信岡さんに、たっぷり語っていただきました。

鈴木寛(すずき・かん)

鈴木寛(すずき・かん)

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾に何度も通い、若者の無限の可能性を実感し、人材育成の大切さに目覚める。1995年夏から、通産省勤務の傍ら、大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰し、今なお、25年間続いている。この塾から、日本を代表する多数のベンチャー起業家、社会起業家、アーティストを数多く輩出。慶應義塾大学SFC助教授を経て2001年参議院議員初当選(東京都)。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化、科学技術イノベーション、IT政策を中心に活動。2014年10月より文部科学省参与、2015年2月より2018年10月まで、文部科学大臣補佐官を四期務め、日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。2020年度から始まる次期学習指導要領の改訂、40年ぶりの大学入学制度改革に尽力した。現在は、東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長、OECD教育2030理事、Teach for All Global Board Member、日本サッカー協会理事などを兼務。

信岡良亮(のぶおか・りょうすけ)

信岡良亮(のぶおか・りょうすけ)

1982年生まれ。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。 Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に起業(現在は非常勤取締役)。6年半の島生活を経て、地域活性化というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全てのつながりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、東京に活動拠点を移し、2015年5月に株式会社アスノオトを創業。さとのば大学の発起人。

今、高校で”学びの地殻変動”が起きている

信岡さん これまで、すずかんさんは日本の教育を政治の中枢の方からシステムを変えることを目指して動いてこられたと思うんですけど、すずかんさんの目からみて、今の日本の教育はどうですか。

鈴木さん ここ数年で、高校生の一部で”学び”が、かなり変わってきているという実感がありますね。

典型的な事例を挙げると、「高校生マイプロジェクトアワード」というものがあります。

「マイプロジェクト」とは実践型探究学習プログラムのこと。身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、主体的に実行することを通して学んでいく。正解のない問題に向き合い探究することで、未来への想像力を引き出すことを目指している。

「マイプロジェクトアワード」では、取り組んできたマイプロジェクトを発表・表彰することで、自身の活動を振り返ったり、他の地域や学校で活動してきた参加者同士で学びを得たりする機会となっている。

2020年2月に開催された関東サミットだけでも200名以上が一堂に会した。その後は、新型コロナウイルスの流行によりオンラインでの開催に移行したが、第8回マイプロジェクトアワードには全国から約1万3000人もの高校生が参加した(会場: 桜美林大学新宿キャンパス)

鈴木さん 僕が実行委員長で、カタリバの今村久美さんが副実行委員長として実務を担ってくれているんですが、8年前に始めたときは、参加者18人、プロジェクトは2つでした。それが、先日終了した第8回では参加者が約1万3743人、プロジェクト数は4905になっています。

信岡さん この8年の間に、参加者もプロジェクト数もすごく増えていますね!

鈴木さん 第7回の参加者が約7000人だったのが第8回には約1万3000人と、指数関数的に伸びています。高校生全体に占める割合でいうと、高校は1学年が100万人弱なので、3学年で約300万人。そのうちの約1万3000人がマイプロジェクトを始めているということになります。

8年前には18名だったのが、今では1万人を超える高校生たちが創発をしているということに僕は感動しています。

国立大学で総合型選抜が3割増! 入試改革が高校生の学びを変える

信岡さん なぜ参加者がこんなに急激に増えているんでしょうか。

鈴木さん ひとつには、現場の地道な努力があるでしょう。回を重ねるごとにマイプロジェクトが徐々に知られるようになってきたということがあります。

加えて、増加の大きな要因となっているのは大学入試改革です。

信岡さん すずかんさんが関わった改革ですね。

2020年の入試改革では、センター試験が廃止されて「大学入学共通テスト」が導入された。各大学が行う個別試験では、学力の3要素である「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」が総合的に評価されることになったり、AO(アドミッションオフィス)入試が「総合型選抜」に、推薦入試が「学校推薦型選抜」へと改められたりしている。

鈴木さん 今まで、マイプロジェクトに取り組んでも、大学入試に有利にはたらくこともなく、むしろ勉強のじゃまだとさえ思われてきました。しかも、それで成果をあげた高校生の受け入れ先となるのは、SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)くらいしかなかったんです。

今回の改革によって、今までの、知識重視や正解主義一辺倒だった入試に、総合型入試の枠が3割増というボリュームで導入されたということが、明らかにこの流れを加速させていると思います。

「総合型選抜」では、推薦入試とは異なり学校長の推薦は基本的に不要。大学でどんなことを学びたいかという入学後の目標や意欲が重視され、選考方法や内容は大学によってさまざまな形をとっている。小論文やプレゼンテーション、資格・検定試験の成績、大学入学共通テストを課すなど多様になっている。

信岡さん 一方ではマイプロジェクトの実践を広めるという活動をし、もう一方でそれを抑制する要因となっていた入試制度を改革するという“両側からアプローチ”した結果が、今、出ているというわけですね。

鈴木さん そうです。それが僕のやり方なんです。

物ごとというのは現場からの創発が重要なんですけど、創発はだいたい抑圧される。だから、その抑圧を外すということがまず大事で、さらに創発に対する共鳴がうまくいくと世の中がうまく回っていくんです。

ただ、創発をやりつつ共鳴体の方を直すのは、時間がかかるしエネルギーも必要です。

両側から変えていくという方法で、これまでに多くのことを成し遂げてきたすずかんさん。たった一つだけずっと変わらないのは1995年からはじめたすずかんゼミで、「その塾長が僕の本業で、参議院議員や文部科学大臣補佐官は副業(笑)」と思っているのだとか

私たち一人ひとりは微力だけれど、無力ではない

鈴木さん 僕たちは微力なんですよ。総理大臣ですら微力なんです。総理大臣がやりたいと言ったとしても、世の中は変わらない。それを僕は痛感してきました。

ただ、私たち一人ひとりは微力だけれど、無力ではない。

一人ひとりの微力がシンクロナイズしたときには、ときどき相転移が起こるんですよね。

たとえば、私が『コミュニティ・スクール構想』という本を書いた2000年の頃は、PTAの人と教育実習の学生以外は学校に立ち入れませんでした。外部の人が不用意に入ろうものなら、不審者扱いされていたんです。

コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)とは、「地域とともにある学校」への転換を図るための有効な仕組みで、学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組む。学校運営に地域の声をいかすことで、地域と一体となって特色ある学校づくりを進めていく。

鈴木さん コミュニティ・スクールでは、公立学校の運営に地域の人たちが意見を積極的に言うのですが、それは先生の批判をするということじゃなくて、よりよい学校運営のために先生をサポートし、コラボレーションして一緒にやっていくということです。公立の学校では定期的に教員の異動があります。だから、校長先生が代わったときには、地域の人が自分たちの学校について説明をすることもあり得ます。

先日、文部科学省に聞いたら、こういったコミュニティ・スクールが2022年に1万校を超える見込みだそうです。今、全国に小学校が約2万校、中学校が約1万校あるので、コミュニティ・スクールが全体の3分の1を超えるということになります。今やボランティアなくして学校が成り立たないというところまできたわけです。

信岡さん こうやって、微力の積み重ねで相転移が起きるわけですね。

鈴木さん そうです。僕は日本の状況を「遅々として進んでいる」と捉えています。少しずつだけれど、進んではいる。ただ、それがなかなか加速しないというのが課題ですね。